尾鷲では定置網漁業も盛んで、何か所かの定置網が陸に魚を上げて選別する様子は圧巻です。その中に定置網ではあまり見ない種類の魚がいました。ヒメジ科・ウミヒゴイ属のオジサンParupeneus multifasciatus (Quoy and Gaimard, 1825)です。
オジサンといえば、ユニークな名前の魚として各種媒体に取り上げられていますが、その名の由来は勿論下あごに髭があるからでしょうか。英語名の一つであるゴートフィッシュも、ここからきているでしょう。一方でウミヒゴイ、ヒメジという和名はどうやらこのひげと関係なく、鮮やかな赤い色彩から「姫魚」「緋女魚」「海緋鯉」なんだそうです。英名でもう一つのMulletはボラの意味。なるほど、背鰭が二基に分かれているところはボラに似てますね。
オジサンの特徴は、体側に縦帯がなく、体側後方に2本の黒色横帯があること。フタスジヒメジや、フタオビミナミヒメジも体側に黒色の縦帯がありますが、これらの種では黒色縦帯の位置が違います。さらに言えば、フタオビミナミヒメジは、国内では小笠原周辺でしか知られてないとか・・・。
●定置網のヒメジの仲間
定置網でもヒメジの仲間はいくつかの種類を見ることができます。ここでは尾鷲の定置網に入ったほかのヒメジの仲間をご紹介。
オキナヒメジParupeneus spilurus (Bleeker, 1854)。ウミヒゴイ属の種類です。写真の個体は真っ赤っ赤ですが、頭部には白っぽい縦線が入っています。尾柄に大きな黒色斑があるのも特徴です。本種にそっくりなものに「ホウライヒメジ」がおり、これは写真には撮れませんでしたが、オジサンと一緒に網に入っていたのでした。どちらも大きいのでは40cmくらいになります。
タカサゴヒメジParupeneus heptacanthus (Lacepède, 1802)。これは全長25cmを超えるヒメジですが、今回遭遇した2匹はやや小さ目。写真の個体は全長13.9cm、まだまだ若魚といったとこでしょうか。全身赤みを帯びて横帯も縦帯もないのですが、第1背鰭の下の赤色斑が目立ち、鱗にも青っぽい斑点があります。
ヒメジUpeneus japonicus (Houttuyn, 1782)。ヒメジはウミヒゴイ属ではなく、ヒメジ属になります。ヒメジ属の魚はやや体高が低く、尾鰭には縞模様が入った種類が多いです。ヒメジの尾鰭下葉には縞模様がなく赤くなっているのが特徴的。ひげは黄色っぽいです。全長15cmほどになります。ウミヒゴイ属と比べると鱗がはがれやすいでしょうか。体側の鱗がなくなってるようです。
このほか定置網ではアカヒメジ、キスジヒメジ、ヨメヒメジ、などが入り、場所によってはコバンヒメジやウミヒゴイなども入るようですが、入るヒメジの種類は大体決まっているようで、定置網で漁獲されたオジサンを見たのは今回が初めてでした。ほかに本州から九州の太平洋岸にみられるウミヒゴイ属のうち、インドヒメジ、オオスジヒメジ、フタスジヒメジなども見たことがありません。いずれの種類も浅い場所からやや深い岩礁周辺の砂地にみられるもので、よく入るオキナヒメジと同じような環境に出現するのですが、網にかからないです。奇妙なものです。
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