さて、以前ハマフエフキのときにちょっとばかりふれていたものを。フエフキダイ科・フエフキダイ属のフエフキダイ。フエフキダイはハマフエフキと異なり、太平洋岸ではあまり見られないが、標準和名で「無印」的なフエフキダイといえば本種である。タイプ産地は南方系のフエフキダイ属では珍しく日本である(ファウナヤポニカより)。ハマフエフキやイトフエフキも日本でよく見られるフエフキダイ属ではあるが、それらはそれぞれ紅海とインドネシア?である。ほかに日本産のものをタイプ標本とするフエフキダイ属の魚で、現在有効な学名を付されているのは沖縄をタイプ産地とするホオアカクチビくらいだろうか。英語名Chinese emperorで「中国皇帝」と格好いい。分布域は狭く日本の主に新潟県・神奈川県三崎以南(青森県などでも漁獲される)、東シナ海沿岸にすむ。琉球列島では少ないと思われ、下瀬 環氏の「沖縄さかな図鑑」にも載っていない。一応「魚類写真資料データベース」では沖縄島産(とされる)個体も掲載されるが、沖縄の市場では九州からの便もあるらしくその産地についてはどうだろうか。海外では台湾、韓国、中国、香港、東沙、南沙なので、東アジア大陸棚の固有種といえよう。
フエフキダイのこのぶろぐ登場も随分ご無沙汰であった。以前にも長崎県産のものを食しているがそれはちょうど10年も前のことであった。前回ぶろぐで紹介した個体は体側に目立つ模様がなかったが、今回の個体には薄い暗色斑が見られる。実は前回2個体我が家にやってきており、もう1個体には暗色斑があった。もっともこの模様は明瞭なものではなく、薄く消えてしまいやすい。魚類写真資料データベースの中にもこの暗色斑があるものとないものが見られる。幼魚にもこの暗色斑がでることがある。福岡県津屋崎の海では夏の終わり~秋にかけて、スズメダイ科の死滅回遊魚などとともに採集された。
胸鰭の上方は白色で、ハマフエフキとは異なっている。生きているときはさえない色をしている。ただし標本によっては白くないものもいるようである。また胸鰭基部内側にはやはり鱗がない。この件については前回も記述したので今回はパス。
頭部の模様もハマフエフキと異なり、青い模様は入っておらず、シンプルな褐色である。フエフキダイ属の魚類は前鰓蓋骨よりも前方に鱗がない。
一方こちらはオキフエダイ(フエダイ科・フエダイ属)。オキフエダイなどフエダイ属魚類は名前こそフエフキダイ類に似ているのだ前鰓蓋骨より前方にも鱗があるので、フエフキダイ属魚類と見分けることができる。ただしフエフキダイ科であっても、メイチダイなどには前鰓蓋骨より前方にも鱗があるので注意が必要である。
フエフキダイは東シナ海では多く見られるが、黒潮流域には少ないイメージがある。おそらくそういうところではハマフエフキやホオアカクチビ、あるいはイソフエフキなどのライバルも多いのだろうと思われる。長崎ではライバルが少なく本種も強い勢力を維持できているのだろう。日本海・東シナ海では釣りや各種網によって漁獲されており、今回の個体は五島列島の定置網でメイチダイの混じりで入手したものである。底曳網漁業でも漁獲され、以西底曳網によって漁獲された個体も入手したことがある。
今回のフエフキダイは刺身で美味しくいただいた。石田拓治さんより。いつもありがとうございます。