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表参道スワマエ商店街会長のひとり愚痴

貸本屋の時代③水木しげる

2024年08月24日 | レモン色の町

高野慎三 著 「貸本屋とマンガの棚」ちくま文庫 より

昭和9年の成子坂商店街

新宿から青梅街道を西へ、嘗て“成子坂商店街”として下町の風情が残る商店街があった。高野氏は、その商店街の中央、五差路の処にあった貸本屋を訪れ、水木しげるの貸本屋時代のデビュー作“ロケットマン”を買い求めている。昭和33年2月25日兎月書房 発刊。128ページ立て巻頭の16ページはカラーとなっている。

ロケットマン 水木しげる 絵

スーパーマンもどきが登場し、空飛ぶ円盤が現われたりして皮肉とユーモアのSF作品である。ある日、夜空に月が二個出現する。上津戸(ウエット)博士は、その原因を究明するべく乗り出すが、世界征服をたくらむ怒雷(ドライ)博士に妨害され、海底に沈められてしまう。

一方、クラゲ状の怪物が海の中から登場。怒雷博士は、アメリカに怪物グラヤ退治を依頼するが、手ごわい相手に苦戦、そこへスーパーマンそっくりのロケットマンが登場、事件の解決にあたる。

さて、当時の雑誌には、巻末に“読者欄”があった。住所と氏名を実名で書いてあって、作者との交流の場であった。「そう云われれば、そんなのがあったなぁ」と記憶に残る方もあるだろう。

水木しげる氏は、貸本の巻末に“読者コーナー”を設け、真摯に読者からの対応にあったっている。

「河童の三平にルドンの絵がありましたが・・・」の私大生の質問に「小生の好きな画家は、シュール系の画家なら皆好きです」と答え「先生は、小松左京をどう思いますか?」の問いに「小松左京は、悪くはありませんが、タイムマシンを意味もなく使う作品は好きではありません」と書いている。また、4人の子供を持つ同世代の読者には「私はあなたのようなオトッアンに読んでいただきたいのです。小生も戦争に行って片手を無くしたオトッアンです。これからバリバリ描きますのでよろしく」(『猫姫様』)。

「流行に左右されないということは売れないということで、お化けばかりを描いていくには並大抵のことではありません。あなたのように努力を認めてくれる人もあるのですが、たいていの人は、アレ少し頭が変じゃないかくらいで通り過ぎるのです」(『ゴマスリ二等兵』)。「小生は子供の時から、絵とストーリーを描くのが好きでしたから大人になったらこんなもんやってみたいと思っていました。初一念を貫いたわけで、よく言えば筋金入りです。スジません」(『墓場鬼太郎 アホな男』)貸本業界にあって、水木しげるは傑出した存在であった。