一昨年の暮れ。
「胃ガンですねえ」
女医のAさんがこともなげに言った。
「胃ガンですって?」
私は聞き返した。聞き返す必要もないのに聞き返した。
「ええ、胃ガンです」
A医師は淡々と答えた。
(そうか、やっぱりなあ)
動揺しなかったと言えば嘘になるかもしれない。と言って、胸が騒ぎまくったわけでもない。
お袋が胃ガンで死んだのは、50年前だ。享年48歳だった。
(死ぬときは胃ガンだな)
私はそんな風に思っていた。まして、お袋より25年も長く生きている。
そんな経緯の後、一昨年の12月に胃ガンを除去した。
年末ギリギリに退院の運びとなった。
(年内に帰れたのはラッキー!)
そう思っていた私を、2発目のショックが襲ってきた。
退院前日、念のために行った検査で、腎臓ガンが見つかったのだ。
「幸運ですよ、早期ガンです。年明け早々に手術しましょう」
泌尿器科の医師は一方的に言った。
「胃ガンが転移していたのですか」
私は恐るおそる聞いた。転移ガンだとすれば、ほかにもあるかもしれない。
「違うと思います。まあ、正直な話、取って見なければ分かりません」
年が改まった昨年の1月に、腎臓ガンを除去した。
年末年始を挟んで、二つのガン。いい気分はしなかったが、落ち込みもしなかった。ここまでくれば、医師に生命を預けるしかない。自分自身ではやりようがない。
「来るべきものが来たんだな」という思いはあったが、同時に、「まだ死ねないぞ!」という気持ちも強かった。
幸いにも、転移ガンではなかったとのこと。
経過観察をしながら、もう1年余が経過した。まだ再発はしていない。
これからのことは分からないが、「いのち」に関して、謙虚になった自分を感じている。
柿若葉死に脅えたは夢語り 鵯 一平
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