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1990年代日本の大改革を整理しその成果を検証する

2020-09-24 09:39:50 | 読書ノート
待鳥聡史『政治改革再考:変貌を遂げた国家の軌跡』(新潮選書), 新潮社、2020.

  1990年代に日本では多方面で政治改革が行われてきた。本書は、それら改革の当初の目的や理念、それが政治過程を経ることで実際どのようになったか、さらに改革後にもたらされた現状について検証してみようという試みである。この著者についてはこのブログで過去に『代議制民主主義』と『民主主義にとって政党とは何か』を取り上げたことがある。

  選挙制度改革では、衆議院で小選挙区比例代表並立制が導入された。国家として統一した政策を行うために、以前の中選挙区制で力を持っていた派閥の力を弱め、首相権限を強化するためだったが、この狙いは実現した。省庁再編を行った行政改革もまた同様に中央集権化を目的としたが、世論に押されて大蔵省から日銀を分離したことはその方向と逆行していた。結果、政府と日銀の政策的連携が上手く行かない時期もあり、日銀が批判を受けることにもなった。地方分権化もまた中央集権化と逆行する改革となっており、結果として国と地方自治体の関係を弱めた。その際、国と地方の役割分担について十分整理されなかったため、混乱も残ったという。さらに、司法改革は法学大学院の失敗や裁判員制度の不浸透などの点で司法を国民に近づきやすいものにするという目論みは果たされていないとする。一方で、地方議会や参議院の選挙制度は旧態依然のままとなっており、国の政策に微妙な影響を与えている。

  改革は全体として、1980年代までのまだまだ前近代的な日本(あるいは日本人)を、合理的かつ主体的である近代人に(あるいはそのような仕組みに)にリニュアルしようという試みだった、というのが著者の見立てである。現在そう見なされているような「新自由主義」的な改革がその全貌だとは言えない(部分的にそのような志向を含んでいるとしても、そうでない志向も含まれていた)。1990年代のこれらの改革には革新政党だけでなく保守政党も参加し、なおかつ国民の支持を受けた。歴史的にみれば憲法改正に匹敵するような大改革であり、成果も失敗もあった。今日の日本は改革の結果がもたらした利益や不便も享受しているという。

  以上、バランスの取れた視点で書かれており優れた内容である。著者は「近代化」という改革の目的自体への評価を行っていないけれども、その目的自体は間違ってはいないのではないだろうか。その目的をきちんと機能する制度として形に変える作業に困難があり、果たされなかった部分も残されることになった。この部分を認識して改善を試みるというのが、令和の日本の課題なのだろう。
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