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ニーズを政治哲学的に肯定し、相対主義を退ける

2015-07-29 10:52:44 | 読書ノート
L.ドイヨル, I.ゴフ『必要の理論』馬嶋裕, 山森亮監訳 ; 遠藤環, 神島裕子訳, 勁草書房, 2014.

  福祉国家による給付は「必要(Need)」によって正当化される。では「必要」はどのように定義されるのか。これを政治哲学的に検討してみようというのが本書の内容である。原書はA Theory of human need (Mcmillan, 1991)で、全四部構成のうち前半二部のみを訳出したのがこの邦訳である。

  第一部は「客観的に測定可能な必要概念など存在せず、それは個人や文化によってバラバラなのだ」などという「必要」を相対化してしまう思想──経済学からマルクス主義、文化帝国主義など──の批判的検討である。批判者の言うとおりならば、必要への対応とは国家による弱者への特定の価値の押しつけとなる。これに対し、「必要」が社会的構築物であるとしても、それは普遍的に合意可能な目標であるとして肯定できるものだと著者らは言う。

  第二部は、必要概念を理論的構築するという試みである。まず身体的生存と人格的自律という基礎的な必要が存在することを確認し、残りでどのような理論が必要充足を最適化するかが論じられる。肯定的に採りあげられるのはハーバマスとロールズである。

  以上。難解な本であるため、第一部は納得の議論だったが、第二部は正直に言ってうまくいっているのかどうかよくわからなかった。必要を満たす基本財(ロールズ)がある、ということは第一部に反発を覚えない人ならばそれほど異論はないんじゃないだろうか。それよりも、基本財に何が含まれるのか、また給付のかたち──現金か現物か──といったところで意見が割れそうなので、そこを論じてほしいと感じた。訳されなかった後半はどうなっているのだろうか。
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