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迫りくる生涯現役社会、回避できないので働き続けよ、と。

2020-10-18 20:43:22 | 読書ノート
坂本貴志『統計で考える働き方の未来:高齢者が働き続ける国へ』(ちくま新書), 筑摩書房, 2020.

  日本の労働市場について概観して、高齢労働力となることが避けられない未来を予想し、ではどのような働き方が適切かを論じる新書である。副題が暗示する「高齢者就労」の方にアクセントがあって、「統計」の部分は記述統計中心であり煩わしいほどの量ではない。著者は1985年生まれの若手エコノミストで、厚生労働省を経て現在はリクルートワークス経済研究所所属とのこと。

  前半では賃金の変化と非正規雇用問題、2010年代の経済が検証される。平均賃金は下がっているけれども賃金総額は増えており、その理由はこれまで働いていなかった女性や高齢者が労働市場に参入したからであるという。また、非正規雇用者の待遇は00年代に比べれば改善されているものの、単身者が一定の割合を占めていて少子化のトレンドに拍車をかけている。2010年代は景気回復基調にあったものの、円安の結果としての輸入品の物価上昇(特にエネルギー)や、消費税増税や徴収される社会保障費の増加がああったため、豊かさは実感されていない。かつてより働きやすくはなっているが、昭和のサラリーマンのような資産形成は難しくなっている、と。

  上のような状況を鑑みると、年金の給付金水準は下がり、その支給開始年齢が上がるのは確実である。したがって、将来、好むと好まざるにかかわらず高齢者となっても働き続けざるを得ない。しかし、高齢となってからこれまで働いてきた会社に残り続けることは(日本の会社組織の都合を考えれば)難しく、また新たな会社で責任ある立場で活躍する機会を持つこともそれほど容易なことではないという。実際に多いのは、清掃員や建物管理などの現場労働者でかつパートタイム労働である。こうした現実を受け入れて、年金月額10万円と労働収入10万円があればそこそこの暮らしが維持できる、と。

  以上。70歳になっても働かざるをえないという将来が予想されているのだが、悲惨さが強調されるわけでもなく、かといって無理やり明るく描かれることもなく、極めてニュートラルに描かれている。アベノミクスの成果として、よく言われるリフレ政策ではなく(これには著者は否定的だ)、高齢者の労働力化を挙げているのも目新しいかもしれない。読むほうにも覚悟が促されるところがあって、僕も退職後は交通整理員でもやろうと思った次第。
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