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クラシック音楽の末裔の20世紀の展開

2021-02-03 07:42:38 | 読書ノート
沼野雄司『現代音楽史:闘争しつづける芸術のゆくえ』(中公新書), 中央公論, 2021.

  現代音楽史。クラシックすなわち西洋芸術音楽の20世紀音楽史である。シェーンベルクから始まって、無調音楽、ストラヴィンスキーなどによる各種音楽様式のハイブリッド、新古典主義、ファシズムあるいは共産主義体制下の音楽、十二音技法とセリエリズム、電子音楽、ミニマリズムや新ロマン主義など1960年代以降の様々な潮流、最後に21世紀の動向を紹介して終わる。著者は桐朋学園大学の先生。

  楽譜が出てこないわけではないけれどもそこに焦点を合わせるわけではなく、時代背景や社会状況を織り込みながら作曲家のコンセプトを解説してゆくという記述スタイルとなっている。関連情報を総動員して言葉で変化を説明するわけだが、僕のような素人にもわかりやすくなっており成功していると思う。社会主義リアリズムを強要されながらもそうした制限を超えてゆくショスタコーヴィチの個性の強さ、ミュージック・コンクレートがレジスタンス運動の流れにあるとか、バーンスタインによる抗議イベントを手塚治虫がマンガ化していたとか、個人的に興味を引く指摘が多かった。さりげなく日本人作曲家を紹介してくれるところもいいと思う。

  1990年代半ばには現代音楽にもCD化の波が押し寄せてきていて、大手輸入盤店でコーナーが出来たりCDカタログ集が出版されたりして盛り上がったこともあった。一方で、現代音楽の動向をバランスよく通覧できる良書はあまりなくて、僕が大学生のころ教科書として使われていたポール・グリフィス『現代音楽小史』(音楽之友社, 1984)が思い出されるぐらい(一方で個別の作曲家を扱った本やインタビュー集はよく出版されている)。そういうわけで、新書で読める現代音楽通史として本書は貴重だろう。音源はYouTubeとかNaxos Music Libraryで探せるので、1990年代よりずっと実際の音にアクセスしやすくなっているぞ。
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