29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

報告書からエッセイまでターゲットの広い文章読本

2012-04-20 11:16:22 | 読書ノート
野内良三『日本語作文術:伝わる文章を書くために』中公新書, 中央公論, 2010.

  誤読されない、意味が正確に読者に伝わる文章を書くための指南書。一応、「はじめに」では実用文について取り上げるとことわってはいる。だが、「伝わる文章」ならばジャンルを問わず、論文・報告書だけでなく、軽いエッセイや小説における描写もその範囲に含まれている。良く言えば応用範囲の広い文章読本である。

  日本語に関する興味深い指摘もある。日本語は、特にことわりが無い場合、自動的に「私」が見たこと聞いたことを述べることになる主観的言語であるという。続けて“評判の悪い「読み書き」の外国語教育は日本語力養成の役割を陰ながら果たしていた(中略)。いや、日本語力だけでなく、思考力養成の役割も果たしていたのである”(p.85)と指摘する。抽象的な概念が主語に来ることが多いヨーロッパ語の訳読は日本語表現を豊かにしていたのである。

  ただし、「はじめに」で実用文志向を標榜しながら、事例に文学者の文章が多いのが気になるところである。また、オノマトペや慣用句など定型表現の使用を勧めているのだが、それらは観察したことの描写には優れていても、抽象的な内容を伝える文章には向いていないと言える。仕事や学業で執筆するような報告書や論文にはやや主観的すぎるかまたは冗長なのである。この点で、著者の言う「実用文」の範囲が広すぎ、大学や仕事の文書で苦労している人には必要十分な内容ではないという印象である。

  とはいえ、文レベルだけでなく、段落や論証のための構成に気が配られており、大学生が最初に読む文章読本としては良いかもしれない。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 筋肉質の変拍子暗黒ファンク... | トップ | 日本版・英国版・米国版、そ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読書ノート」カテゴリの最新記事