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大学に対する費用負担をどの程度政府がすべきかについて

2013-10-02 10:46:15 | 読書ノート
上山隆大ほか『大学とコスト:誰がどう支えるのか』(大学シリーズ ; 3), 岩波書店, 2013.

  大学に対する支出・負担の公正さについて6人の論者が考察した論集。「受益者負担」という考え方は論者に共有されており、教育・研究の利益が私的なものに留まるならば私的に費用負担されるべきで、加えて社会への波及効果があるならばその程度に応じて公的負担がなされるべきだというものである。後者は、市場の失敗における正の外部効果論である。

  ただ外部効果の計測は難しい。これは本書全体を通じて指摘される事実であり、それぞれの論者は政府の財政赤字を視野に入れつつも、公平性や外国との比較から公的負担の程度を求めようとしている。冒頭の坂本崇の論文は、大学の活動は人的資本に依存しており、技術的な効率化が難しいため、効率を優先する改革は大学の生産性を落とすだけであると指摘する。そこで、計測の難しい外部効果とは無関係に、他分野の生産性を改善する構造への投資と位置付けて大学への負担を考えるべきだという。最後の矢野眞和による論文は、外部効果の代りに「社会的収益率」(外部効果より狭い概念)と「私的収益率」を用いて分析する。結果は日本でも大学教育の社会的収益率が高いことが示されており、もっと公的負担するべきだとしている。

  大学人としてはいちいち首肯したくなるところだが、無関係な人が説得されるかどうかはよくわからない。外部効果が存在することを認めても、公的負担の「程度」の問題は残るだろう。良いものだからといっても、無制限に支出することはできない。負担の程度は、本書のような大学の効果の検証からだけでなく、他の政策と優先順位を争う議論によっても決まることになる。しかし、日本ではそうした議論はあまり見かけない気がするが。
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