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友達を選ぶのは重要、でも親は何もできない

2012-01-13 12:08:00 | 読書ノート
ジュディス・リッチ・ハリス『子育ての大誤解:子どもの性格を決定するものは何か』石田理恵訳, 早川書房, 2000.

  一般向けの育児書のようなタイトルだが、行動遺伝学や進化学の成果を踏まえたかなりアカデミックなものである。四六版上下二段の502ページで、分量も多い。原著は1998年だが、もはや古典と言っていいだろう。子どもを持つ前に読んでおくといい本である。

  その主要な主張は、家庭における親のしつけや教育方針は、子どもの人格や能力形成に対して大した影響を持たない、ということである。そして、子どもの人格や能力は、遺伝と「非共有環境」でほとんどが決まる、と論証している。ただし、これは条件付きであり、虐待をするような異常な養育者と暮していれば、影響は出るかもしれないとのことだ。しかし、実子だろうと養子だろうと、離婚家庭だろうと、ストレスの高すぎない家庭においては、親の影響は小さいものであることを強調している。

  進化心理学関係の書籍を読んだことがあるならば、こうした主張にどこかで接したことがあるかもしれない。面白いのは、著者が非共有環境を子どもが所属する仲間集団として考えていることである。非共有環境というのは、一卵性双生児の心理について測定する行動遺伝学の概念だが、簡単に言えば、測定された値のうちの遺伝影響分と家庭環境影響分を引いた部分である(かなり誤解を招く表現なのでできれば書籍をあたってほしい)。この非共有環境の多くを、心理学の成果などから「仲間集団の影響」として著者は解釈している。友人関係におけるポジションによって、性格が形成されてゆくというのである。

  つきあう友達によって子どもが良い子にも悪い子にもなる。ならば、親は子どもが付き合う相手をコントロールしたほうが良いのだろうか? しかし著者はこの点に懐疑的なようで、親の意図がどうだろうと、子どもは付き合いたい相手と友人関係となる。なので、結局親はうまく介入できないという。(ただし、居住地を変えて子どもを以前と異なる環境に放り込む、というコストのかかる方法には効果があるという)。そんなにも、親は何もできないのだろうか。他に、兄弟など、出生順位は性格には関係ないというトピックもある。

  以上、極端なように見える主張が押し出されているが、論理には説得力がある。この「親の影響は小さいので、育児にそれほど血眼にならなくてよい」というメッセージは有益なものである。しかし、つきつめると、親の介入が難しいならば、良い子を持つには遺伝的に優れた配偶者を選べという、ちょっと納得しがたい示唆に辿りついてしまい、暗澹たる気分にもなる。
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