面白かったですが、90点といったような感銘度というかインパクトはなかったです。ただ、作者自身も元々そういったところを狙ったりはしていないし、ささやかな生活の中のささやかな秘密、ささやかな事件の描き方は印象的で、静かな余韻が残りました。
インパクトに欠ける分、印象に残りにくい作品であるとは思いますが、全編を通じて心の動き、揺れ、迷いなどが実によく描かれていたと思います。これは宮部さんの手腕の確かさですね。
妻が席を動いたのは、隣に座ってほしいという意味なのだ。
だから私はそうした。
妻はにっこりして、リモコンをフロアテーブルの上に置いた。
「実はね、あなたにちょっと相談したいことがあるの」
私はとっさに、離婚を切り出されるのだと思った。
信じられないような幸運のなかにあって、それがいつ自分から取り上げ
られてしまうかとビクビクせずにいられるには、どのくらいの度量が必要
なのだろう。
ここのザワザワ、ゾクゾクッとする感じが見事。
自分には不釣り合いと思える幸せの中にいるそこはかとない不安感、いつも何となく感じている違和感や疎外感。もちろん、妻が主人公を愛しているのは間違いないのですが、これらの感覚・気持ちが無くなることはない。
さすがは宮部みゆきさんです。
聡美と梨子の姉妹。
二人は亡くなった父についての本作りでもしばしば対立する。性格が異なるゆえのちょっとした喧嘩・対立のように見えていたが・・・。
「わたしにもわたしの意地があります」
姉妹はたった二人の家族なのに、そのねじれた関係は哀しい。
~ノベルスカバーより作者の言葉~
人生に不足がない、あるいは、幸せな人生をおくっている探偵役というのは、
ミステリーの世界ではなかなか珍しいような気がする----と、常々考えていました。
平凡でこれと言う取り得もなく、でも日常生活は安定していて、ほのぼのと幸せ。
この作品はそういう人物が主人公です。その結果、彼が追いかける事件は、
とてもささやかなものになりました。そのささやかさのなかに、読者の皆様の心に
残るものがあればいいなと願っています。
ささやかな秘密とは・・・それは結構ディープなものでした。
さすがにここまでは想像できませんでしたが、とある2人の関係は薄々感じていました。このあたりの微妙な描き方も宮部さんならではでしたね。
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著者からの内容紹介
財閥会長の運転手・梶田が事故死した。遺された娘の相談役に指名され、彼の過去を探ることになった会長の婿・三郎は、梶田の人生をたどり直し、真相を探るが……!? 著者会心の現代ミステリー。
内容(「BOOK」データベースより)
事故死した運転手には、二人の愛する娘と、ささやかな秘密があった。今多コンツェルンの広報室に勤める杉村三郎は、義父でありコンツェルンの会長でもある今多義親からある依頼を受けた。それは、会長の専属運転手だった梶田信夫の娘たちが、父についての本を書きたいらしいから、相談にのってほしいというものだった。梶田は、石川町のマンション前で自転車に撥ねられ、頭を強く打って亡くなった。犯人はまだ捕まっていない。依頼を受けて、梶田の過去を辿りはじめた杉村が知った事実とは…。