ひろの東本西走!?

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デッドライン(建倉圭介)

2007-10-25 23:30:00 | 13:た行の作家

Deadline1 デッドライン(角川書店)
★★★★:80点

上下2段組・482ページの大作ですが、通勤時間などを利用して3日で読了。読書中、大作の割にはもうひとつ(70点レベルかなあ・・・)とも思いましたが、終盤が非常に面白く見事でした。

サンタフェ→シアトル→アンカレジ→アリューシャン列島→千島列島→樺太という大脱出行が1ケ月足らずのものだったのは何となく意外でした。北の海は、こういった脱出行に雰囲気がぴったりなのですが、夏(7月)ということもあってか、荒れ狂う波、休息することすらままならない暴風雨や猛吹雪・・・といった厳しい自然描写が無かったor少な目だったのが物足りなかったです。全体的に物語・題材のスケールに比べて描き込み不足という気がしました。惜しいなあ。。。

また、もう少し文体に味わいというか香りがあれば良かったとも思います。例えば、J・ヒギンス、D・バグリィ、志水辰夫とか・・・。いやいや、そういった巨人と比べるのは酷ですね。他のブログなどでも書かれていたのですが、ミノルとエリイの情愛なども割と淡泊でした。もう少し濃厚(?)でも良かったなあ。いやこれは独り言。

と、色々と注文をつけましたが、コンピューターや原爆の開発史・開発秘話などの歴史的な側面は非常に興味深かったです。

コンピューターの開発(真空管方式、プログラム配線方式:ENIAC → プログラム内蔵方式:EDVAC)、エッカート&モークリー、フォン・ノイマン。原爆の開発(米:オッペンハイマー、フェルミ。一方、日本でも京大と理化学研究所で)と投下へ至る経緯(アメリカは戦争が終わる前に何とか原爆を実戦で試したかった。それには日本に降伏されては困る・・・)など、一部推定は混じっているのかもしれませんが、これらのことがよく分かり抜群の面白さでした。ジャンルとしては冒険小説に属するのだとは思いますが、私は技術史・戦争史的な側面を高く評価します。

また、白人vs日本人をはじめとする黄色人種・インディアン・エスキモー。一方で日本人vs混血児・アイヌ。これらの人種(民族)差別、マイノリティ差別も丁寧に描かれていましたね。

【 注)以下、かなりのネタバレあり】

ミノルを敵対視し、米国側の刺客として彼を追っていたやはり日系二世のホソカワ。彼は(ミノルに命を救われ)日本にたどり着いて一般の人々の優しさに触れ、焦土と化した東京を見て原爆がもたらすであろう大被害と恐ろしさを実感してからは協力に転じる。まあ予想できる展開でしたが、一般の人々とその生活との対比で戦争の愚かさ・おぞましさを表現したこの描き方は良かったです。

歴然としていた日米の国力の差。米内海軍大臣は十分にそれを認識していたが、一人では陸軍を中心とする他の閣僚たちの愚論をくつがえすことはできなかった。ミノルの話を聞き、彼はある決意をした。凄い人物ですね。阿川弘之の「米内光政」も読まなくっちゃ!

エリイ、トオル(エリイの息子)、ケイ(ミノルのいもうと)を広島から脱出させたミノルだが、広島市民に放送で避難を促そうとの最後の仕事に取り組み、それが功を奏しそうに思われた寸前・・・。これもある程度予想はしていましたが、あれほど必死になって奔走したミノルの命がほんのちょっとの差で失われた悲しみは大きいです。途中、いくつもの小さな幸せが一瞬にして失われてしまった長崎原爆を描いた秀作映画「TOMORROW 明日」(黒木和雄)のことを思い出しました。

戦後、電子工学の道に進んだ息子たちの作った日本製のコンピュータがIBMなどのアメリカ製コンピュータの前に大きな壁として立ちはだかったというエピローグは痛快でした。

******************************** Amazonより ********************************

出版社/著者からの内容紹介
原爆投下を阻止せよ!科学者とダンサーの決死行。
日系二世部隊に所属し欧州を転戦後、米国に帰国していたミノルは、ノイマンとのやりとりから日本への投下を目的とした原爆開発計画が進行中であることを察知する。ミノルはアラスカ経由で日本への入国を試みるが

内容(「BOOK」データベースより)
日系人部隊で欧州戦線に参加し、負傷して米本国に帰還したミノル・タガワは、ペンシルベニア大学に復学し、世界初のコンピューター開発計画に加わる。このプロジェクトの顧問、フォン・ノイマンとの交流をきっかけにして、ミノルは、日本への原爆投下が間近であることを突きとめる。もはや日本に残された道は「降伏」の二文字のみ。一刻も早く政府高官を説得し、日本政府を動かさなければならない。ミノルは、幼い息子を義父母によって日本に連れ去られたナイトクラブの踊り子、エリイと共に日本への密航を決意する。北米大陸を横断し、アラスカを経由して千島列島へ―。冒険小説の新たな傑作、誕生。


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