ひろの東本西走!?

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獣の奏者・王獣編(上橋菜穂子)

2007-08-23 23:25:09 | 10:あ行の作家

Souja2_1 獣の奏者・王獣編(講談社)
★★★★’:75点

闘蛇編を読み終えたときに、”王獣編への期待絶大”としたのですが、その点ではちょっと物足りなかったです。残りページ数が少なくなってきて、果たしてきちんと終わるのか多少心配しながら読んだのですが・・・。最後にリランがとった行動はとても感動的だったのですが、物語は終盤に向かうに連れて次第に駆け足になり、ラストは唐突に終わった感じが否めません。

かつて王国で何が起こったのか、王獣規範が定められた理由、野生の王獣と飼育された王獣の違いなど最大の謎に対する答えは終盤、きちんと示されたのですが、物語としてはやや深みに欠けたような気がします。

題材・素材、着想は素晴らしかっただけに惜しいなあというのが正直な感想です。当初から闘蛇編と王獣編で終わる予定だったのでしょうか。更に続編はないのでしょうか。続編を念頭に置いて書く場合と、いったん終わりとした作品の続きを改めて書く場合では、全く異なるとは思いますが。

闘蛇編と合わせた総合評価は80点かなあ。
王獣編では王獣保護場のシーンが多く、エリンと身も心も傷ついていた幼い王獣・リランとの心のふれ合い、音による会話、初めての飛翔などのシーンは非常に素晴らしく興味深かったのですが、闘蛇編に見られた緊迫感・謎めいた雰囲気が薄れてしまったのは残念な気もしました。私としては、波瀾万丈の異世界ファンタジー、壮大な冒険ファンタジーを期待しており、描き方によってはもっと奥深く壮大な物語になったのではとも思うのですが、上橋さんが描こうとされたものはちょっと違うのでしょうね。ただ、闘蛇編でのエリンとジョウンが暮らすほのぼのシーンは私も大好きでした。

エリンの優しく純粋で、愚直で不器用だけれど正義感に満ちた考え方・生き方は良かったです。孤独感(他方で家族的なものへの憧れ)・焦燥感、王獣を政争の道具にしたくない気持ちなどは丁寧に良く描かれていました。リランと会話ができたときの高揚感なども素晴らしかったです。

王獣編で他に惜しいと感じたのは、ユーヤン、トムラ、イアル、シュナンといった印象的な人物が登場していただけに、それを完全には生かし切れていなかったことです。そして、あのジョウンが・・・。ここだけは納得できません。

黒幕の人物は十分に予想がついたので、このあたりはもう少しひねりが欲しかったようにも思います。ただし、この人物はなかなかに魅力的ではありましたね。

◎参考ブログ   

  ともおさん:会社ともおの読書日記
  エビノートさん:まったり読書日記(2008-3-25追加)

******************************** Amazonより ******************************** 

出版社/著者からの内容紹介上橋菜穂子渾身の長編ファンタジー王国の陰謀に果敢に立ち向かう少女・エリン。獣を操る技を身につけた彼女が選んだ未来とは?「王獣は、けっして人に馴れることはない。甘い幻想を抱いて近づきすぎれば、爪で引き裂かれて死ぬことになる」師匠にそう言われても、エリンは、王獣を恐怖で支配することを拒む。はたして人と獣がともに生きる道はあるのか? 傷ついた王獣の子、リランを救いたい一心で、王獣を操る術を見つけてしまったエリンに、学舎の人々は驚愕する。しかし、王獣は「けっして馴らしてはいけない獣」であった。その理由を、エリンはやがて、身をもって知ることになる……。王国の命運をかけた争いに巻きこまれていくエリン。人と獣との間にかけられた橋が導く、絶望と希望とは?