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ひろの東本西走!?

読書、音楽、映画、建築、まち歩き、ランニング、山歩き、サッカー、グルメ? など好きなことがいっぱい!

葦と百合(奥泉光)

2008-07-23 22:40:52 | 10:あ行の作家

Ashitoyuri1 葦と百合(集英社文庫)
★★★☆:70点

「グランド・ミステリー」「鳥類学者のファンタジア」といった問題作・超絶作(?)の作者であり、時空を超えた物語のつむぎ手である奥泉光の作品です。

シンプルorストレートなタイムトラベル、タイムスリップものではなく、ひとひねりもふたひねりも、いや5ひねりくらいあります。最近、時空を超えた物語では梶尾真治の作品をよく読んでいるのですが、味わいは全く異なります。梶尾作品をストレートとすると、奥泉作品はスクリューボール、いや、大リーグ・ボール第2号”消える魔球”かもです。

本作に登場する人物はさほど多くないのですが、途中から誰が誰だか、何が何だか訳が分からなくなります。誰が実在の人物なのか架空の人物なのか、誰が死んだのか、誰が殺したのか、そもそも死んだ人間がいるのかどうかすら分からなくなり、私の頭の中はパニックに。真実、虚構、夢・幻想・幻視、伝説・言い伝え、噂、小説・・・。これらが渾然一体となって読者を混沌と迷走の世界へと誘うその手腕が凄いです。

小説なので何が真実であるかは作者が決める/提示する、あるいは作者が明示しなければ読者が判断すれば良いのでしょうが、判断すらできなくなって放り出されたような不思議な小説でした。作中に”ささいな事実から偉大な結論を導くのがわれわれ哲学者の役割”との一文がありましたが、ささいな事実からとんでもない推論を導き出したりも。これに引っかかったかな?また、解説にあった一文だったでしょうか、”何が真実か。n人の探偵とn人の真実がある”との表現に、おー、それもありかなと思ってしまいました。

しかし、やはり作者の手で何が真実なのかを提示してほしかった気はします。このフラストレーションのたまり方が面白いですね。

奥泉作品には独特のムードがあるのですが、式根や時宗の内省的・思索的な描写がかなり長く続き、ここは正直言って読むのがしんどかったです。普通の描写が出てくるとホッとしたのも事実で、特に中山氏・佐川氏の明るいキャラはgood.

「鳥類学者のファンタジア」は、日本・ドイツを舞台に繰り広げられる壮大なホラ話といったスケール感があり、一方で軽みもあって読みやすかったのですが、本作はそれに比べると小粒でやや難解な気もして70点としました。

【注意:以下、ネタバレあり】

作中、抜群の存在感と魅力を発揮した衛藤有紀子だが・・・タクシー運転手によると、衛藤有紀子は(死んだはずの)岩館小夜子のペンネームで、小夜子は体調を崩したが、今はかなり加減がよくなり、一人で外出もしているという。

有紀子のような人物は私好みやなあと思っていたのですが、えーっ!あれは小夜子だったの?何が真実なのか分からない作品なのですが、これにはぶっ飛びました。うーむ、見事に作者の術中にはまったか。

ラストに出てくる式根のフィアンセの野中百合子という名も絶妙でした。

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現代文明を捨て、自然との共生をめざしたコミューンの運動「葦の会」。学生時代に参加し、15年ぶりに再訪した医師・式根を待っていたのは、ブナの森深く、荒廃した無人の入植地だった・・・。理想社会を夢見て残ったはずの恋人と友人はどこに消えたのか?そこで起こった怪死事件は果たして事故か。それとも森に潜む「誰か」が殺したのか?ミステリーとメタフィクションの完全なる融合。


情報は1冊のノートにまとめなさい(奥野宣之)

2008-06-26 22:22:14 | 10:あ行の作家

Jouhou1 情報は1冊のノートにまとめなさい
(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)
★★★★:(75~)80点

面白かったです。世間での評価は色々分かれているようですが、他の類書とはちょっと違ったアプローチが良いです。自分の業務スタイルには適さない、当たり前のことしか書かれていない、新しい手法や考えなどがないといった感想も見受けられますが、筆者の実践に裏付けられた信念は素晴らしいと思います。それをどう評価するかの違いですね。

まずは、大学ノート風の表紙が凄いインパクトあり。最初に書店で見たとき、”おっ?この本は一体何!?”と思いましたから。

この本に書かれていることは、ある程度自分がやっていることとの共通点もあって余計に面白く感じたのかもしれません。

 ・会社用の小さな手帳に仕事関係のこと、プライベートを含む行事、
  本や映画の採点、読みたい本リストなど様々なことを書き込み
 ・予定表でもあり、記録でもあり、備忘メモでもある

などなど、かなりの情報を1つのものに集約しています。仕事関係の作成・収集資料や情報は膨大ですので、これは完全に別にしていますけれど。

また、全ての情報を手帳に集約しているわけではなく、他に「ランニング日誌」「本・映画・CD・コンサートなどの感想」を別冊で作っていますが、デジカメ写真データも含めて全て時系列方式です。その点では本書でもふれられている「超整理法」の考え方はシンプルだが凄いと思います。

本書のどこかにブログの将来性について若干疑問があるように書かれていたと思うのですが、今のところ、ブログこそありとあらゆる情報を時系列で記載していき、それに”カテゴリ”という識別ラベルさえつければ、ほぼ完璧なプライベート情報データベースになり得るのでは?

ただ、私は最近、自分のブログ記事を調べるのに”カテゴリ”を用いるのではなく、Googleで一発検索することの方が多いです。特に”カテゴリ”や”ラベル”などをつけなくても、ブログタイトルの一部である”ひろの東”に”駅伝”、”バラ”、”宮部みゆき”、”昭和町”、”マジョリカハウス”といったようなキーワード的なものを組み合わせてアンド検索を行うと、ほぼ一発秘中で目的の記事が引っかかってきます。これは小気味良いですね。

本書に書かれていた”人が考えた方法は結局ダメ。自分で工夫してきた方法でないとフィットしないし続かない”という主張はうなずけます。また、”情報そのものよりも「メタ情報」(ある情報がどこに書いているか、何で調べることができるか、誰に聞けば分かるかといった情報のアクセス経路のこと)が重要”ということは、最近仕事でひしひしと感じています。

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◆分類・整理しても使えなければ意味がない。
  実際に情報を使うための「一元化」管理術。

◆誰でも今すぐ100円で実現!
  ローテク「知的生産術」

情報整理というと、分類・整理しなければならないと思っている人が多いかもしれませんが、実はその分類・整理こそが「続かない」「使えない」原因となっています。情報を実際に活用するには、情報を一箇所にまとめ、分けずに時系列に書き込んでいけばいいのです。

そうすることで、すべての情報は必ずノートの中に「ある」ことになります。そして、パソコンを使った検索術を活用することで、情報は一発検索することができるようになります。

情報は複雑に管理しても続かない、使えない。ちまたの情報整理術、手帳術、知的生産術の本を試してもうまくいかなかった人、ノウハウを学んでも実際には活用できていない人のために、「簡単に」「誰でも」「使える」「ローテク」の情報整理術を紹介します。

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私塾のすすめ(齋藤孝、梅田望夫)

2008-05-19 22:36:35 | 10:あ行の作家

Shijuku1 私塾のすすめ-ここから創造が生まれる(ちくま新書)
★★★★☆:90点

齋藤孝、梅田望夫という共に1960年生まれで時代の最先端を行くお二人の共著(対談集)です。非常に面白くて一日で一気読みでした。採点の90点にあまり意味はなく、とにかく面白く読めたということを表しています。

私は最近、共感した部分や特に面白いと感じた部分には付箋(メモパッド)を貼ることが多いのですが、あまりにも貼り付け箇所が多くなりそうで、これは途中であきらめました。「自分探しへの違和感」「志向性の共同体」「空気を作るのがリーダーの役目」「あこがれと習熟」「数あたる、量をこなすことの重要性」「好きな仕事でないとサバイバルできない」「心で読む読書」・・・などなど、全く新しい概念は少ないのかもしれませんが、お二人の経験に裏打ちされた考え方などがとても印象に残りました。特にウェブやブログなどが「志向性の共同体」づくりに大いに役立っており、新たな創造と生き甲斐発見のようなものに結びついているということは、梅田氏の前の著作でも書かれていたのですが、私の回りのごくごく狭い世界でも十分に実感しています。二人とも一見柔らかそうな感じなのですが、実は硬派でホットだということもよく分かりました。齋藤氏の方がより舌鋒鋭い感じでしょうか。

実は齋藤氏の著作は過去1冊しか読んでいません。梅田氏についても、その著作を全部読んだ訳ではないのですが(「ウェブ進化論」「ウェブ人間論」「ウェブ時代をゆく」に続いて4冊目)、自分にとってとても信頼のおける人物と言えます。私淑する等もおこがましくて言えないのですが、考え方・生き方などがとてもしっくりと自分の中に入ってきます。

本書でお二方の「私のロールモデル」「私の座右の書」というコラムがあり、これも興味深く読みました。私の場合、それに該当するものがすっとは出てこないのですが、次のようなことを考えました。

これまで、小説以外の本の書き手として常に信頼できる人物として、近代建築史の藤森照信氏、クラシック音楽評論家の宇野功芳氏、文藝評論家の北上次郎氏が挙げられるのですが、梅田氏もウェブ界のそれに当たると言えます。これらの方々の特徴として、直感を信じる、好きなことに没頭する、軸がぶれない、故に回りの言動や評価に左右されない、言いたいことを分かりやすく表現できる能力に優れている、ユーモア感があるといったことがあります。もちろん、その専門分野が私の好きなことや趣味と一致しているため、しっくりきやすいということがあるのですが、「私の信頼する人物」として紹介しておきます。まあ、これらの方には熱烈な信奉者やファンが多いのですけれど。

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レールのない時代である現代をサバイバルするには、一生学びつづけることが必要だ。では、自分の志向性に合った学びの場をどこに見つけていったらいいのか? 本書は、志ある若者が集った幕末維新期の「私塾」を手がかりに、人を育て、伸ばしていくにはどうしたらいいのかを徹底討論する。過去の偉大な人への「私淑」を可能にするものとして、「本」の役割をとらえなおし、「ブログ空間」を、時空を超えて集うことのできる現代の私塾と位置づける。ウェブ技術を駆使した、数万人が共に学べる近未来の私塾にも言及し、新しい学びの可能性を提示する。


椿山課長の七日間(淺田次郎)

2008-05-15 22:09:38 | 10:あ行の作家

Tsubakiyama1_2 椿山課長の七日間(朝日新聞社)
★★★★:80点(~85点)

久々の淺田次郎作品です。建築探訪でしょっちゅう出歩いている中でも本は次から次へと読んではいるのですが、感想そのものも久しぶりとなりました。

さて、本書です。最初は天国に行く前という設定や雰囲気的に”うーん、どうかな・・・”とも思っていたのですが、最終的には良かった!です。生前には分からなかった・知らなかった秘密が次第に明らかになってきたりもするのですが、感謝やお礼の言葉を言えなかった人への想いが実に切なかった。。。

死んだ人やそれらを題材にした物語(「鉄道員」「地下鉄に乗って」など)を書かせたら抜群の淺田次郎さんですが、やはり実にうまく味わいがありました。重松清の「流星ワゴン」ともちょっと似た感じだと思いましたが、こちらの方がより軽みやユーモア感があります。

【注:以下、ネタバレあり】

生前とは似ても似つかぬ人物となって7日間(実質はたったの3日)だけ元の世界へ戻る設定が絶妙でした。デパート勤務の課長・椿山和昭→美人のキャリア・ウーマン(スタイリスト)和山椿、テキヤの親分・武田勇→弁護士風の紳士、不運な交通事故で死んだ良家の男の子・根岸雄太→美しく可愛らしい女の子・蓮子ちゃん。それぞれの家族が実は元々関係があったり、3日の間に知り合ったり・・・はよくある設定でしょうが、淺田さんはその描き方が絶妙で、物語に深い余韻を与えていたと思います。椿山の息子・陽介もいい子でした。

椿山の父親。正論を堂々と述べて、約束を破ってしまい地獄に墜ちる運命となる少年に替わって地獄行きのエスカレータに乗る。とにかく人を助けようとするその生き方&死にざまの立派さ!その父親となら地獄行きも怖くないと言う武田。彼も信念を持って確信犯的に約束を破り、地獄行きを決める。愛する人や子供を救おう、守ろうとする男気。これには涙。

椿山と同期入社の女性・佐伯知子。精一杯みえと虚勢を張ってしまい・・・一途だけれども不器用な愛も切なかったです。今まで誰にも言えなかった本当の想いを椿だけに話すシーンは秀逸でした。

この本で唯一疑問が残ったのが、ラストのラストに、なぜ”ニセ・伝説のヒットマン”五郎を持ってきたのかということです。これは妻も同感だと言ってました。五郎と父親のエピソードは内容的に悪くはないのですが、何故これをラストのラストにしたのかなあ。。。

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激務がたたり脳溢血で突然死したデパートの中年課長が、たった7日間の期限つきで現世に舞い戻ってくる。ただしみずからの正体を明かすことは許されず、39歳の独身美女の姿を借りているため、行く先々で珍騒動が巻き起こる。家族に、仕事に、やり残したことをやり遂げ、主人公は無事成仏できるのか。行動をともにするやくざの組長と小学生のストーリーをからめつつ描かれる、ハートウォーミングな「死者の自分探し」の物語である。

   もともと新聞連載小説だけに、随所に泣き笑いのつぼが設定されており、著者独特の歯切れのいい文体ともあいまってたちまち引き込まれる。脇役の一人ひとりまで丁寧にキャラクター設定された「優しい人」「いい人」たちによるファンタジーは、まさに浅田節の真骨頂だ。おまけに中年の純情恋愛までが織り込まれ、山あり谷ありで読者を飽きさせない。やや意外なラストシーンはほろ苦くも温かい味わいを残す。

   美しい女性の肢体をわがものにした主人公の行動のおかしみ、間抜けな死に方をしたやくざのべらんめえ口調の説教節など、著者ならではのディテール描写、懐かしくも美しい日本語の世界などは、本筋をはなれても楽しめる。死をめぐり、家族間、世代間で感想を述べ合うきっかけとしても好適のエンターテイメントといえよう。(松田尚之)

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◎参考ブログ ※いつも参考にさせて頂いているお三方ですが、
                              評価・感想は様々なようです。

  苗坊さんの”苗坊の読書日記”
  そらさんの”日だまりで読書”
  エビノートさんの”まったり読書日記”


晩夏のプレイボール(あさのあつこ)

2007-12-09 17:23:15 | 10:あ行の作家

Bankano1 晩夏のプレイボール(毎日新聞社)
★★★★’:75点

あさのあつこさんが描く野球を題材にした短編集です。野球の素晴らしさ、野球を好きになることの(好きになったことの)素晴らしさ・・・。高校野球部を舞台・題材にしたものが殆どで、公立あり、私立あり。中には甲子園常連の強豪校ではないけれど、そこそこ強い学校も混じっています。しかし、都会の学校とは違って町を出る出ないが大きな問題となったり、それ故に才能がありながらも強豪校からの誘いを断って地元の県立校に進んだりといった悩みやジレンマなどもあります。

夏の匂い、草の匂い、ややさびれた(ひなびた?)町の匂い、夏の終わりのそして青春の1ページが終わる寂しさと最後の輝きがよく描かれていました。大人が主人公の話よりも、やはり高校生達が主役の話の方が面白かったです。ほのかな恋心も良し。地元の中学校から進学した子が殆どっていうのもいいですね。

全10編の中では、肩を壊した元エース(鴻山真郷)と友人で気弱な軟投派の現エース(麓水律)が主人公の「練習球」「練習球Ⅱ」が良かったです。山あいの公立高校野球部が快進撃を続け、ベスト4へ一番に名乗りをあげた。町民の声援を受け高まる期待。しかし、準決勝の相手は県内随一の強豪で劣勢に立たされ、もはや後がないところまで追い込まれたが・・・。2つの物語を最初と最後に配置した構成が絶妙。

親友・真郷の最後まであきらめない姿を見た律。温厚で普段は大きな声など出さない律だが、

  律の大声に上市は一瞬、目を見開いた。すぐに「おう」と一声吼える。

「練習球Ⅱ」の終盤は素晴らしいです。

~単行本の帯より~

  九回裏、二死ランナー無し、4点差。
  追いつくのは奇跡だ。だけど、それがどうした。
  おれはまだ打席に立てる。

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名作『バッテリー』の著者が贈る、野球を愛する者をめぐる10話の短編小説。

互いの抱えるトラウマや家庭環境を乗り越え高校野球に熱中するエースと友人。
「女の子はグラウンドに立てない」と一度は野球を棄てた少女の”再生“。
亡きわが子の姿を偶然甲子園に見た、老夫婦の感慨……。
グラウンドにこぼれている物語を丁寧にすくい上げた、限りなくいとしく、そして懐かしい味わい。野球小説の新たな傑作。