懸造(かけづくり)・・・・斜面に建てる

2007-01-30 12:42:46 | 建物づくり一般

 阪神・淡路地震の後の改訂で、建築法令は、ますます「設計仕様書」の如き様相を呈するようになった。
 たとえば、基礎については、地盤の強さ:地耐力に応じて基礎形式を杭打ち基礎、べた基礎、布基礎のいずれかとし、さらに各所の寸法まで細かく規定されている。
 構造計算をした場合はこの限りではない、との但し書きはあるものの、ほとんど設計者の出る幕はないと言ってもよいほどだ。

 では、京都・清水寺のような場合は、今ではどうしたらよいのか?規定は書かれていない。かと言って、布基礎、ベタ基礎ができるわけはない。
 おそらく、法令の世界では、斜面に建物を建てるなどということは想定外、多分、斜面は平地化して建てることを前提にしているのかもしれない。
 けれども、斜面の平地化ほど危険なものはない。特に、清水寺ほどではないにしても、急傾斜:勾配3/10を越えるような斜面では、平地化するには城郭の石垣でもつくる気にならないと、多分、平地化した地面の安定は保てないだろう。

 日本は平地はむしろ少なく、山地の方が多いことは、日本地図全図を見れば明らか。そこで建物をつくるにあたり、常に平地化をするなど、とんでもない。
 そのような場合、日本の建物で使われたのが、清水寺に代表される束石の上に柱を立て、束柱相互を貫で縫うつくりかたである。床下が弾力性のあるラーメン状の架構となり、きわめて強固である。通常「懸造(かけづくり)」「懸崖造」などと呼ばれる。
 日本各地にあり、茨城には石岡の筑波山系の東面の中腹に建つ「西光院」があり、足元まで近寄って懸造の詳細を見ることができる。
 清水寺の場合、すでに350年以上経過しているが、今なお健在である。もっとも、束柱の点検・修理は年中行われ、舞台床も頻繁に替えられている。
 実は、点検・修理が容易に行え、部材の取替えも可能なこと、これがかつての日本の木造技術の特筆すべき特徴だったのだが、残念ながら、現在の法令規定の木造建築は、点検、修理、部材取替えがほとんど不可能になってしまった。
 
 上掲の図と写真は、清水寺の断面実測図および模型(再建時に使われた検討用の模型)と、この方式を利用して設計した事例二つ。 

コメント (3)    この記事についてブログを書く
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3 コメント

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おー ()
2011-05-30 14:11:14
すごいです。

役にたちました。
ありがとう。
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東日本大震災の復興計画に懸造りを取り入れたら? (なおみん)
2012-04-01 17:32:37
津波被災地の高台移転計画が、あまりに大量の切り盛土を行う必要があって高額なので、頓挫しているところが多いという。
被災しない高さまでの谷底平野が未発達な場所では、尾根に道をつけて、懸造りで家を建てる方法を、建築基準法上の特区として認めて、検討してみるのもよいかも。
懸造りは、昨年水害に遭った奈良の奥吉野ばかりでなく、全国各地の神社仏閣にあるし、東京都内にも昭和初期に懸造りで作られ今も使われている茶室もあるとか。
ただ、山の上から、崩壊が置きにくい場所を選んで家を建てる必要はあります。奈良の水害は山崩れが河道にまで達したものでしたが、地質の先生によると、尾根が少しくぼんでいる箇所が、何百年間隔で崩壊しているそうです。測量や地質調査の技術も、懸造りの神社仏閣の作られた頃より進んでいるので、工法を習得すれば、どこでも作れると思います。
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歴史的事実を認めない「理論」 (筆者)
2012-04-02 10:29:37
懸崖造は、地山が安定していれば、どこでも可能な方法なのですが、建築基準法がネックになっています。
既存の懸崖づくりは(当然木造です)、斜面に据えた礎石に載っているだけなのですが、現行法令では、基礎は布基礎で、柱等を基礎に緊結すること、と規定しているからです。
この記事で紹介した事例は、地盤が良好であること、独立基礎で荷重を支えられることを示し、柱を礎石に羽子板ボルトで結ぶことで確認がおりた例です(実際には、羽子板ボルトは遊んでいるのですが・・)。
最近、鉄骨造でできないか、構造の専門家に検討を依頼したのですが、現行法令の諸規定に合致させることができず、ダメでした・・・。

この現状は、法令の礎になっている現在の構造理論が、歴史的に長期にわたり健全な事例が多数あるにも拘わらず、懸崖造の強さを(柱を貫で縫う工法の強さを)、「数値化できていない」からなのです。
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