漢方薬剤師の日々・自然の恵みと共に

漢方家ファインエンドー薬局(千葉県)
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高野和明著「K.Nの悲劇」妊娠中絶に母性が狂う

2012-06-14 | 
高野和明と言えば「ジェノサイド」 あの作品のインパクトは強烈でした。

というわけで迷わず購入したこの作品、妊娠中絶問題から始まって驚いた。

妊娠中絶や不妊に伴う女性の激しいストレス。
その症状は婦人科だけに納まらず、精神神経科の医師をも翻弄する。
多重人格(憑依)、うつ病、その先は自殺や他人を傷つける事件へつながることも。



K.Nとは患者の頭文字。夏樹果波という妊娠が判明した若い女性。

しかし妻の収入さえもあてにする生活なにの豪華なマンションを購入したばかりの夫は中絶を決める。マンションを選択した夫に強い不満を感じたはずなのに、果波は言い返さない・・・
そんな彼女は、中絶手続きをしたころから、自分の中に誰かがいるといい始める。

「私が誰だかわかる?」
扉の向こうにそう声がする。扉を開けても誰の姿もない。夫は震撼する。

憑依現象の描写がすごくこわい
寝際に読む私は、部屋の灯りを消した途端、中村久美の亡霊が現れそうでドキドキした。

そしてその答えは、物語のずっと後にでてくる
「私はこのおなかの中にいる赤ちゃんの母親なの」
泣けた

女性のサガともいえる強い母性本能は、
大量の医学知識をもってしても分析しきれず、
男は頭で愛していると解釈しながら結局は性欲だけで、女にすべての負担を負わせているというようなことを書いた著者は、きっと男の想像域を超える母性本能を畏れる気持ちだったのだろうと思う。

それにしても、この物語に出てきた中絶の数字、年間34万人。
保健所で処分される犬猫よりも多く、中絶胎児を人間と認められれば、日本人の死亡原因のトップは人工妊娠中絶になるという。
それだけたくさんの激しい母性の苦しみが存在しているということになる・・・

高野和明 1964年10月生まれ 小説『13階段』を第四十七回江戸川乱歩賞