電脳筆写『 心超臨界 』

人生は良いカードを手にすることではない
手持ちのカードで良いプレーをすることにあるのだ
ジョッシュ・ビリングス

宮沢賢治の愛に基づいた高い志は、世界に通じる哲学だと思う――西澤潤一さん

2009-07-29 | 03-自己・信念・努力
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「こころの玉手箱」西澤潤一・東北大学名誉教授

  [1] モネ「睡蓮」
  [2] 杜の都・仙台
  [3] バッハ「マタイ受難曲」
  [4] 宮沢賢治「銀河鉄道の夜」
  [5] 剣持勇の籐のイス


[4] 宮沢賢治「銀河鉄道の夜」――世界に通じる愛の哲学
【「こころの玉手箱」09.05.21日経新聞(夕刊)】

崇拝する作家に宮沢賢治がいる。身を慎み、すべての人のためのことを思いやる、日本を代表するヒューマニストだと感じる。私たち研究者のロマンもそれと同じだと思う。

多感な旧制高校時代、読書を通じて私の関心はどんどん広がっていった。戦時中なので、読みたい本はそう簡単に手に入らない。古本屋で探して買い、読み終えたらすぐ売って、また次の本を探した。

キルケゴールの「死に至る病」やニーチェの「ツァラツストラはかく語りき」は繰り返し読んだ。二人の偉大な哲学者は、虚無主義者と位置付けられているようだが、私はそう感じなかった。

権威や組織の価値を否定する「死に至る病」では、愛を否定できないものとしてとらえている。ニーチェも、最終的に信じられるものとして愛にたどり着いているのではないか。迷いが生じたとき、これらの作品を思い返し、人間の愛情の大切さを再認識する。

宮沢賢治の作品は、高校の先輩が「日本でノーベル文学賞をもらえるのは彼しかいない」と薦めるので、それほどならと読み始めた。高校の図書館にも宮沢賢治の作品は置いてなく、町で童話を買った。そして、読みふけることになった。

平易な文体の中に、一人でも不幸な人がいてはいけないという純粋な気持ちを見つけ、大変な感動を覚えたからだ。その最たる作品が「銀河鉄道の夜」だ。

言いつけを守らなかった幼い弟が川に落ち、助けようと飛び込んだ姉と共におぼれてしまう。天に向かって旅立つ銀河鉄道に乗り、弟をひざに抱き姉は、自分の短い命に対してではなく、二人の子を一緒に失ってしまった両親をおもんばかって涙を流す。

宮沢賢治は、凶作の年に身売りさせられる農家の娘たちを悲しみ、農業指導者となり、冷害に強い品種や栽培法の開発に挑んだ。その純粋な気持ちは、作品に投影されている。愛に基づいた高い志は、世界に通じる哲学だと思う。

戦後、全集が新たに編さんされるたびに購入してきた。彼の精神を軽んじる最近の風潮はとても残念だ。

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