電脳筆写『 心超臨界 』

人があきらめないと決心すれば
後は努力のみがその報酬を約束する
( ナポレオン・ヒル )

かけがえのない家族 《 親にありがとうといえる人間になれ――紀野一義 》

2024-07-23 | 06-愛・家族・幸福
電脳筆写『心超臨界』へようこそ!
日本の歴史、伝統、文化を正しく学び次世代へつなぎたいと願っています。
20年間で約9千の記事を収めたブログは私の「人生ノート」になりました。
そのノートから少しずつ反芻学習することを日課にしています。
生涯学習にお付き合いいただき、ありがとうございます。

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東京裁判史観の虚妄を打ち砕き誇りある日本を取り戻そう!
そう願う心が臨界質量を超えるとき、思いは実現する
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◆村上春樹著『騎士団長殺し』の〈南京城内民間人の死者数40万人は間違いで「34人」だった〉
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■超拡散『移民受入れを推進した安倍晋三総理の妄言』
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  世の中でいちばん大切なものは家族と愛
  ( ジョン・ウッドン )
  The most important thing in the world is family and love.
  ( John Wooden )


◆お父さんとお母さんにありがとうといえる人間になれ

『生きるのが下手な人たちへ』 
( 紀野一義、PHP文庫、p107 )

私の古い教え子の弟にT君という青年がいる。某大学を卒業し、まもなく自衛隊に入隊した男である。この男が私の家に来るのは大体において夜中である。しかも大体において酔っている。しかし礼節を忘れたことはない。直立不動の姿勢で「私は酔っておりません」という。どうして酒を飲むかというと、素面(しらふ)では先生はおっかなくていけねえというのである。豪傑で気が弱く、バンカラで細心、歩くときはオランウータンのごとくに歩く。

この男を、私の教え子が恋し、数年間頑張り通してついに結婚した。ある日彼女が私の家に来て、「先生、私、好きな人がいるんです」といった。日本舞踊をたしなみ、楚々(そそ)としたこの子に好きな人の一人や二人いても不思議はない。「ふうん、それで」「その人、先生もご存知の人」「なに、誰だ」「Tさんです」「なんだ、熊みたいな男じゃないか」「そうなんです、熊みたいなあの人です。でもみんな反対するんです。このままじゃだめになります。先生、味方になってください」。へ、あの熊のごときTにねえ、と私はあきれたが、この子は縁談という縁談を片っ端から刎(は)ねつけ、それから何年もの間、志を変えず、ついに結婚にこぎつけた。(中略)

その結婚式は全く異例であった。なにしろ式半ばにして長兄が立ち上がり、この弟のためにいかに兄たちが悩まされたか、その罪状?の数々を逐一披露する。新郎はいちいち、大声で「そんなことはない」と否定する。満場爆笑のうちにとうとう新郎は客人に背を向けて金屏風(きんびょうぶ)と睨(にら)めっこする始末であった。

その中の客の一人が、「おう、新郎、お色直しの嫁さんがぼつぼつ帰ってくるぞ、迎えに行けえ」と怒鳴った。すると新郎は「おう」といって出ていった。しばらくすると新郎が、骨の折れたこうもり傘をさし、花嫁がその腕にすがりついて入場してくるではないか。満場騒然。二人のうしろには如水会館のボーイやらメイドさんやら群集して口あんぐりである。もう私は笑い通しで腹がいたくなった。

騒ぎがひとしきり納まると司会者が言った。「まことに異例ではありますが、これから新郎が一言ご挨拶したいと言っております」。一同また騒然。新郎はやおら立ち上がり、末席にいる両親のほうをにらむようにして大声で言った。

「おやじさん、こんな飲んだくれの、出来の悪い息子を、今までやさしく見守ってくださって、ありがとうございました。おやじさん、おれはゆうべもおやじさんにありがとうと言おうと思って言えなかった。今朝言おうと思ったが言えなかった。今言わないと一生言えないから、この席で今言わしてもらいます。おやじさん、ありがとうございました」

部屋がしいんとなった。かすかにすすり泣きの声が聞こえてきた。彼はまた言った。

「おっ母さん、おれは、おっ母さんのことを思うと、世の中に怖(こわ)いものがなくなった。おっ母さん、ありがとうございました」

すすり泣きがあっちでも、こっちでも起こった。最後に彼は私のほうをまっすぐ向いてこう言った。

「紀野先生、先生は忘れたかもしれないが、おれは餓鬼(がき)の時に姉に連れられて先生のとこへ行った。姉は、先生この子は両親のいうことをちっともききません。何か言ってやってくださいと言った。そしたら先生は“おまえ、親のいうことをきけんような奴は人間じゃないぞ。お父さんとお母さんにありがとうといえる人間になれ”と言った。おれはそれ以来、ありがとうと言えるようになろうと思っていたけどなれなかった。昨日の夜も、今朝も言えなかった。しかし先生、おれは今はじめて、おやじとおふくろに心からありがとうって言えました。先生、ありがとうございました」

私は思わず涙をこぼしそうになった。この熊のごとき無骨(ぶこつ)一遍の男は、なんと十数年ものあいだ、私の言ったことを考えていてくれたのである。少年ながら骨身にこたえて聞いてくれたのであろう。ありがたいことであった。
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