孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イエメン  和平協議再開 当事者にはラストチャンスの危機感も イスラム過激派掃討でも効果

2016-04-25 23:13:34 | 中東情勢

(銃を手に戦闘に参加する子供たち【4月13日 NHK】 
子供は洗脳が容易なことから、少年兵の問題はイエメンだけでなく、アフリカの内戦・紛争地域でも多く見られます)

停戦発効、21日から和平協議再開
中東最貧国イエメンの国民生活を更に苦境に追いやりながら続くイランとサウジアラビアの代理戦争」とも呼ばれる内戦について、休戦の動きが出ていることは3月19日ブログ“イエメン 「忘れられた紛争」も内戦休止の動き? 新たな南北分断か 楽観視できない今後”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160319で取り上げたところです。

イエメンの混乱を簡単にまとめると、以下のとおりです。

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2011年1月 、「アラブの春」の影響を受けて市民による反政府デモが発生してサレハ大統領は退陣し、ハディ副大統領が翌2012年2月の暫定大統領選挙で当選。

2015年2月、サウジアラビア国境に近い北部を地盤とするイスラム教シーア派系武装組織「フーシ派」が事実上のクーデターで首都サヌアを掌握。

ハディ暫定大統領は南部アデンに逃れましたが、翌3月には「フーシ派」の勢力がそのアデンにも迫り、後ろ盾のサウジアラビアへ逃れました。

「フーシ派」をシーア派の地域大国イランが後押ししていると言われ、イラン及びシーア派の影響力拡大を嫌うスンニ派の地域大国サウジアラビアは他の湾岸諸国と共同でイエメンに軍事介入、空爆を継続しています。

なお、失脚したサレハ前大統領は「フーシ派」と共闘しており、イランが支持するシーア派の「フーシ派」とサレハ前大統領の連合勢力と、サウジアラビアが空爆支援するハディ暫定大統領・政府軍という内戦構図となっています。
【20015年10月3日ブログ「イエメン内戦 イランはサウジの「誤爆」批判 サウジはイランの武器供与批判 戦況は「泥沼」化も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151003)より再録】
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産油国でもない最貧国の内戦ということでサウジアラビアやイラン以外の国際社会ではあまり関心も高くありませんが、戦闘が激しくなった去年3月以降、およそ6400人が死亡していますので、なんとか決着させる必要があります。

死傷者だけでなく、子供たちが教育を受ける機会を奪われ、戦闘に駆り出されるということもあって、このことはイエメンの将来への大きな傷となります。

****イエメン 子どもたちが戦闘に ユニセフが危機感****
内戦状態が続いているイエメンで任務に当たっていた、ユニセフ=国連児童基金の日本人職員は、子どもたちが戦闘に駆り出されていると危機感を示すとともに、中立的な立場の教員のもとで、子どもたちに教育を受けさせる必要があると訴えました。

イエメンでは去年3月以降、政権側と反体制派が衝突し、政権側を支援する隣国サウジアラビアが空爆を行うなど、内戦状態が続いていて、今月中旬から停戦に入り、18日の和平協議に向けて調整が行われています。
停戦の直前まで首都サヌアで任務に当たっていた、ユニセフイエメン事務所の職員、大平健二教育専門官は13日、都内でNHKのインタビューに応じました。

この中で大平専門官は、「検問所では子どもが自動小銃を持ち、軍服を着ている姿を見かける」と述べて、子どもたちが戦闘に駆り出され、その数は確認できただけで、およそ850人に上ると説明しました。

さらに、学校で教員などが、子どもたちに敵対心をあおるような話をするケースがあると指摘したうえで、「教育を受けていないと自分で判断ができず、上の立場の人が正しいと言えばそれが殺人であっても、いいことだと考えてしまう」と述べ、危機感を示しました。

大平専門官は、停戦を維持させて、子どもたちをできるだけ早く教育の場に戻したうえで、一方の勢力に偏らない中立的な立場の教員を育成するための支援の必要性を強調しました。【4月13日 NHK】
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3月19日ブログで取り上げた休戦の動きは、4月10日からの停戦として現実のものとなりました。
なお、停戦発効が10日深夜(日本時間11日朝)という関係でしょうか、報道によって開始日を4月10日とするものと4月11日とするものがあります。

****<イエメン内戦>一時停戦発効 戦闘収束は不透明****
内戦が続くイエメンで11日、ハディ政権とイスラム教シーア派武装組織フーシの間で一時停戦が発効した。

18日から予定される和平協議に向けた信頼醸成措置の一環だが、昨年3月に内戦が激化して以降に一時停戦が持続した例はなく、戦闘収束につながるかどうかは不透明だ。

現地からの報道によると、首都サヌア郊外などでは停戦発効直前の10日夜まで激しい戦闘が続いた。一時停戦に期限は設けられていない。【4月11日 毎日】
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イエメンではこれまでも何回か停戦の試みはありましたが、最終的な和平には至っていません。(前回和平協議は昨年12月に中断しました。)

今回も、停戦発効後の戦闘が発生しており、停戦の実効性を危ぶむ声も出ていました。

****イエメンで武力衝突、停戦崩壊の危機 南部では自爆テロも****
イエメンで国連の仲介による停戦発効から2日目を迎えた12日、アブドラボ・マンスール・ハディ暫定大統領派と、イランの支援を受けるイスラム教シーア派系の反政府武装勢力「フーシ派」の衝突が複数の箇所で起きた。当局者らが明らかにした。反政府側は停戦が危機に瀕していると警告している。
 
当局者らによると、衝突が起きたのは東部のマーリブ県や、フーシ派が掌握する首都サヌアの北東に位置するニームなど。マーリブ県のサルワー地区では、フーシ派および同派と連携するアリ・アブドラ・サレハ前大統領派の勢力が2か所の丘陵の奪取を試みているという。
 
一方、イエメン当局者によると南部アデンでは同日、国際テロ組織アルカイダの構成員とみられる男が軍の新兵が集まっていた場所で自爆し、イエメン兵5人が死亡した。男は基地に向かっていた新兵の集団の中に紛れ込んでいたという。
 
イエメン南部では大統領派と反政府派の戦闘による混乱に乗じて、アルカイダやイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が勢力を伸ばそうとしている。【4月12日 AFP】
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更に、18日再開予定だった和平協議も延期され、今回もまたか・・・という感も漂いました。

****イエメン和平協議再開できず 国連の仲介難航****
内戦状態が続く中東イエメンの和平協議は、18日に再開される予定でしたが、反体制派が参加を拒んだため開かれず、国連が仲介する戦闘終結へのプロセスは難航が予想されています。

イエメンではハディ政権と反体制派との間で激しい戦闘が続いていましたが、国連が仲介して、去年12月に中断した和平協議を再開するため、今月10日から双方が停戦に入りました。

ところが、18日にクウェートで行われる予定の協議について、反体制派が「政権側が停戦を守らなければ協議に参加しない」と主張して出席を拒んだため、協議が始まる見通しは立っていません。

政権側と反体制派の間では、停戦に入ったあとも一部の地域で戦闘が続き、双方が相手が停戦を守っていないと主張しています。

国連によりますと、イエメンでは戦闘が激しくなった去年3月以降、およそ6400人が死亡し、混乱に乗じて過激派組織が活動を活発化させていて、こうした動きに対抗するためにも戦闘の終結が求められています。

しかし、協議を再開できないなか、国連が仲介する戦闘終結を目指すためのプロセスは早くも難航が予想されています。【4月19日 NHK】
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上記のような停戦後の戦闘行為、和平協議再開の延期などもありましたが、戦闘状態は一定に収まっており、和平協議も21日から再開されています。

****イエメン内戦、和平協議始まる 当事者クウェート入り****
中東イエメンの内戦終結に向けた国連の仲介による和平協議が21日、クウェートで始まった。18日に現地入りしたハディ暫定大統領派に続き、首都サヌアなどを占拠する反政府組織「フーシ」の代表団も21日までにクウェートに到着した。
 
フーシは2014年に首都サヌアを占拠するなど勢力を伸長。南部アデンに逃れてフーシに対抗するハディ氏を支えるため、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などが15年3月にイエメンでの空爆を始めた。その後、両陣営はたびたび停戦に合意したが長続きせず、戦闘を再開して双方を非難する状態が続いてきた。
 
今回の和平協議に先立ち両陣営は停戦に合意、4月11日午前0時に発効している。ただ南部タイズなどで散発的な戦闘が続いている模様だ。
 
和平の条件としてハディ政権側が「フーシの首都からの撤退、武装解除」を掲げる一方、フーシ側は新たなイエメン政府への参加などを先に議論するよう求めている。(後略)【4月23日 朝日】
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今回は本気?】
和平協議の今後の見通しについては、何とも言い難いものがあり、これまでも進展してこなかったという事実もありますが、当事者の本気度及び仲介役の国連の力の入れようはこれまでにないものがあるとも。

****イエメン情勢(和平協議等****
シリアの方では和平協議は反政府派が出席を凍結したままですが、イエメンの方は、hothy-サーレハ連合の出席が(確か3日)遅れ、開始が遅れたものの、今のところ順調に進みだした模様です。

al qods al arabi net は、会議関係者の話として、最初の会合では双方とも、今回の協議が下手をすると最後の協議になるかもしれない、との危機感もあり、柔軟性を示し、まずますの始まりであったとしていると報じています。

その危機感は国連にも強く、会議の準備に当たっては、これまでとは比べ物にならないくらい、関係者と密接な打ち合わせを行い、種々のシナリオを検討した由。

他方イエメンの民衆等の間では、協議が失敗した場合には、双方とも決定的な軍事的勝利を求め、これまで以上の戦闘が起きるだろうとの懸念が強まっている由。

他方、現地情勢としては、若干の停戦違反を除いては、非常に静かであるが、報道によれば、特にhothy連合が、停戦崩壊後、または協議の後の自己の立場を強くするための停戦違反を繰り返しているが、更にその軍事力が弱体化し他地域、または強化したい地域に大量の増援部隊を送っているとのことで、具体的には、タエズ、イッブ、ダリア、ハッジャ及び一部のマアレブ地域等に送り込んでいる由。
これらの地域では、停戦前、政府軍の激しい攻撃で、hothy連合の軍事的立場が弱体化し、崩壊に瀕していたところもあった由

なお、サウディ等アラブ連合軍の報道官が、停戦崩壊の場合は、政府軍とともに決定的軍事的な勝利を求めると発言したことは先に報告済み(後略)【4月24日 野口雅昭氏 「中東の窓」http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/archives/5040951.html
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当事者が“危機感”を持って協議に臨んでいるとのことですので、なんとかそこに期待したいものです。

【アルカイダ系イスラム過激派掃討も進展
なお、これまでイエメンでは内戦の混乱に乗じる形でアルカイダ系の武装組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」が勢力を拡大して、「テロの温床」となることが懸念されていましたが、停戦によって余裕ができたせいか、政府軍・アラブ連合軍はAQAPの拠点を制圧しています。

****イエメン南部でアルカイダ800人超殺害、州都を奪還 連合軍発表****
サウジアラビア主導のアラブ連合軍は25日、中東イエメン南東部で同軍の空爆支援を受けたイエメン軍が国際テロ組織アルカイダ系武装組織の拠点を攻撃し、戦闘員800人以上を殺害したと発表した。
 
連合軍の司令部が国営サウジ通信(SPA)を通じて発表した声明によると、今回の作戦は、イエメンを拠点とする武装組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」に昨年4月から1年にわたって占拠されていた南東部ハドラマウト州の州都ムカラで行われた。殺害した中には複数のAQAP指導者も含まれているとしている。
 
一方、ムカラからAFPの電話取材に応じた匿名の軍情報筋は、アブドラボ・マンスール・ハディ暫定大統領を支持するイエメン部隊がムカラ市内と原油ターミナルを奪還したと語った。AQAPは抵抗することなく西の方角へ撤退したという。【4月25日 AFP】
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“AQAPは港の関税収入を活動資金にしていたとされ、支配権を失ったことは大きな打撃となりそうだ”【4月25日 時事】とも。

前出「中東の窓」によれば、アデンなどでも掃討作戦が行われているようです。
「テロの温床」となることを防止できれば、それも停戦の大きな成果でしょう。
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