孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  自爆テロで高まる報復空爆の懸念 パレスチナ人の生活を分断する「壁」

2016-04-22 21:56:01 | パレスチナ

(「壁」によって分断された街 パレスチナ自治区で生きる若者たちの無情な現実を描くパレスチナ映画「オマールの壁」【映画.com】)

ガザ地区でIS支持者が増加
パレスチナ自治政府ガザ地区をめぐっては、ガザ地区からイスラエルへのロケット弾攻撃と、イスラエル軍による報復空爆という何度も繰り返されています。

3月12日早朝にも、11日に行われたロケット弾攻撃に対する報復としてイスラエルの戦闘機がイスラム原理主義組織ハマスの拠点を空爆し、近くに住む兄妹3人が死傷した件は、3月13日ブログ「イスラエル ガザ地区ハマスのIS接近を警戒 更なる混乱の可能性も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160313でも取り上げたところです。

3月13日ブログでは、タイトルにあるように“ハマスのIS接近”について触れましたが、ガザ地区ではハマス以上に過激でISに近い組織も生まれているようです。

****ガザ地区ではISが台頭****
・・・・ところが、ここへきてガザ情勢をめぐる構図を大きく変えかねない動きが出てきた。ガザ地区で過激組織「イスラム国」(IS)の支持者が増えているというのだ。

15年に入り、ガザではハマスとは別のイスラム原理主義武装勢力がIS支持を表明。「パレスチナにイスラム国家を建設する」と主張し、ハマスを「世俗派」扱いして攻撃する。活動の詳細は明らかでないが、ISがガザでイスラエルを狙うミサイルを製造し始めているとの報道も目立つ。

対テロ国際研究所のボアズ・ガノル本部長は「テロの世界では、新たに出現した組織がより過激で破滅的な主張を打ち出し、『われわれこそ本物だ』と訴えて勢力を広げていく」とし、ガザでISが台頭する恐れがあると警告した。

「武力闘争」を掲げてきたハマスを上回る過激組織の出現で、ガザ情勢は従来の「イスラエル対パレスチナ」の枠組みを超え、世界的な「対IS戦争」の一環として対処していくことを迫られつつある。【4月22日 産経】
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膠着した現状への不満から、より過激な動きが生まれるというのは、ある意味自然な流れでしょう。
そうした一部の過激行動によってもたらされる悲劇は甚大なものがありますが。

イスラエル軍兵士による負傷パレスチナ人容疑者の「処刑」】
前回ブログ以降のパレスチナ・イスラエル関連の事件としては、イスラエル軍兵士によるパレスチナ人容疑者「処刑」の様子をとらえた動画が拡散して非難を浴びています。

****イスラエル兵、負傷パレスチナ人を「処刑」 動画公開で物議****
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸で24日、イスラエル兵が、兵士襲撃事件の容疑者とされる負傷したパレスチナ人の男(21)の頭部を撃ち射殺する出来事があった。射殺場面を捉えた動画はインターネット上で拡散し、非難の声を集めている。
 
イスラエル人とパレスチナ人との間では昨年10月以降、暴力事件が相次いでおり、この動画によって状況がさらに悪化する恐れがある。
 
動画には、ヨルダン川西岸ヘブロンで、負傷し路上に横たわるパレスチナ人の男が写されている。男は別の男と共にイスラエル兵を刃物で刺したとされ、兵士に撃たれたとみられる。その後、問題のイスラエル兵が理由なく男の頭部を撃ち抜き、射殺した。
 
動画をネットに投稿したイスラエルの人権団体「ベツェレム」の広報担当者はAFPに対し、イスラエル兵の発砲は「処刑」に当たると非難。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルも、兵士の行為を正当化する理由はなく、戦争犯罪の可能性を念頭に捜査すべきだと主張した。
 
イスラエル軍は、この兵士の身柄を拘束し、調査を開始したと発表。モシェ・ヤアロン国防相は「最大限の厳格さ」で対処すると言明した。【3月25日 AFP】
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パレスチナ自治政府のジャワド・アウワド保健相は「戦争犯罪」の行為と指弾し、イスラエル軍がパレスチナの民間人に対して行う現場での処刑を物語る非常に明白な証拠と主張しています。

ネット上で動画が拡散するという事態に、さすがにイスラエル側も当該兵士を拘束のうえ、故殺容疑で起訴していますが、国内には兵士の行為を擁護する声も少なくないとか。

****負傷のパレスチナ人頭部を銃撃、兵士を起訴 イスラエル****
イスラエルの軍事裁判所は18日、負傷したパレスチナ人の容疑者の頭部を銃で撃って死なせたとして、軍の兵士を故殺(謀略のない殺人)の罪で起訴した。地元メディアなどが報じた。

容疑者の男性は3月24日、ヨルダン川西岸ヘブロンで兵士を襲撃した際に負傷し、無抵抗の状態で頭部を撃たれて死亡した。この様子をとらえた映像を人権団体が公表し、パレスチナ側が反発。

イスラエル側でも国防相らが問題を認める一方、右派系の政治家らが擁護するなど大きな議論となった。

昨年10月以降、エルサレムやヨルダン川西岸などでパレスチナ人がイスラエル人を襲撃したり、イスラエル当局と衝突したりする事件が相次ぎ、死者は双方で200人を超えている。【4月19日 朝日】
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カザ地区境界に暮らすイスラエル住民の恐怖と怒り
占領地の現状、圧倒的軍事力によるバランスを失した報復攻撃等から、(私個人を含め)国際世論はイスラエルに対し厳しい目を向けていますが、パレスチナ側からの攻撃にさらされているイスラエル住民の恐怖も大きなものがあります。

****境界線付近の住民にとって「戦争」は日常だ****
パレスチナ自治区ガザ地区との境界線から歩いて数分にあるイスラエルの小さな村、ネティブアサ。民家の前では子供たちが屈託のない笑顔で走り回る。

近くのバス停には、壁に色とりどりの絵などが描かれたコンクリート製の箱形施設があった。ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが撃ち込んでくるロケット弾から身を守るための防空壕だ。村の至るところに設置されている。
 
「これまで何千発ものロケット弾を受けてきた。威力はより強力で、精度も高くなってきた」。1982年から村に住み、農業を営むイラ・フェンロンさん(38)が嘆いた。数年前までは砲撃を知らせる警報が1日に20回も鳴り、住民らを不安に陥れた。
 
フェンロンさんは息子(15)と娘(11)を育てる母親だ。ガザとの境界は高さ数メートルのコンクリート壁やフェンスで仕切られているが、「私が子供のころは壁はなく、ガザの市場に行っていた。今の子供たちは防空壕を必要としない普通の生活を知らない」と訴える。
 
イスラエル軍は2005年にガザから撤退以降も封じ込めを続け、14年夏にはハマスとの間で過去最大規模の軍事衝突に発展した。停戦合意後も双方が砲撃を繰り返し、境界線付近の住民にとって「戦争」は日常だ。
 
境界に近い南部地域の民間防衛を担当するキース・アイジクサンさんは「毎日、軍担当者と10〜15回は連絡を取る」と話す。

イスラエル軍が誇る防空システム「アイアンドーム」は「小型ミサイル(やロケット弾)を撃墜する技術は十分でない」(アイジクサンさん)とされ、境界線近くの村には配備されていない。住民は防空壕に逃げるしかなく、政府は境界から7キロ範囲の7千〜8千世帯の壕建設費用を負担した。
 
14年のガザ衝突での死者は、パレスチナ側が約2200人で、多数は民間人だ。対するイスラエルは兵士を中心に約70人。イスラエルは「正当な攻撃」とするが、容赦ない軍事作戦に対しては国連人権理事会が非難決議を採択するなど、国際社会の視線は厳しい。
 
フェンロンさんは「伝えられるのはパレスチナの言い分ばかり。われわれがどんな目にあっているかは全く報じられない」と憤る。(後略)【4月22日 産経】
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ハマスメンバーによるバス自爆テロ 懸念されるイスラエル軍の報復空爆
イスラエル国内では都市部でも、常にテロの脅威にさらされています。

****バス爆発で21人負傷=テロか、衝突激化の恐れ―エルサレム****
エルサレム南部で18日、路線バスが爆発し、少なくとも21人が負傷した。イスラエル紙ハーレツによると、2人が重体。爆発は爆弾によるもので、イスラエルの国内治安機関シャバクは「テロ攻撃」と主張した。

パレスチナ人の犯行であれば、昨秋以降続くイスラエルとパレスチナの衝突が激化する恐れもある。ネタニヤフ首相は「犯人や支援者を探し出し、報復する」と述べた。

バスは爆発後、全焼し、別のバスや車にも炎が燃え移った。爆弾はバス後部に仕掛けられていたという。

AFP通信によれば、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスは「(イスラエルへの)当然の報い」と爆発を称賛するコメントを発表したが、犯行声明は出していない。【4月19日 時事】 
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ハマスは組織としての犯行かどうかについては触れていませんが、実行犯はハマスメンバーではあるようです。

“報道によれば、彼は西岸のハマス・メンバーの19歳の青年でベツレヘム出身のabd al hamid abu surur とのことで、ハマスは彼がそのメンバーであることを確認したが、ハマスの組織としての犯行か否かは明言せずに、問題はイスラエルの占領の継続で、誰でも個人的にであれ、組織としてであれ、このような形で抵抗することは当然だとして、犯行を正当化した由。”【4月22日 野口雅昭氏 「中東の窓」】

イスラエル当局も、ハマスメンバーによる犯行と断定しています。

****バス爆発は自爆テロ=ハマスのメンバーが実行―イスラエル当局****
イスラエル治安当局は21日、エルサレム南部で18日に発生したバス爆発事件は、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスのメンバーによる自爆テロだったと断定した。また、事件に関与したとして、別のメンバー数人を拘束したことを明らかにした。

2000年代初頭の第2次インティファーダ(対イスラエル民衆蜂起)以降、イスラエルでは自爆テロはほとんど起きていない。今回の自爆テロを受け、イスラエルがハマスに報復する可能性もある。【4月22日 時事】
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ロケット弾攻撃と報復空爆というこれまでのパターン、ネタニヤフ首相の「犯人や支援者を探し出し、報復する」との発言からして、またガザ地区への報復空爆が行われ、そしてまた民間人犠牲者が出ることが強く懸念されています。

【「この壁のせいで生きづらい。俺たちに自由はない」「形は違っても『占領』はそこにある」】
前出の、ガザ地区との境界付近に暮らすイスラエル住民、フェンロンさんの怒りはもっともではありますが、一方で、ガザ地区はイスラエルの封鎖によって「天井のない監獄」と化し、ヨルダン川西岸地区は「壁」によって侵略・分断され、イスラエル国内あってはパレスチナ人が「アラブ系イスラエル人」として差別を受けるという現実もあります。

東京地区などでは、パレスチナ映画「オマールの壁」が公開されているようです。

*****オマールの壁****
「パラダイス・ナウ」のハニ・アブ・アサド監督が、緊張下にあるパレスチナの今を生き抜く若者たちの現実を、サスペンスフルに描く。第66回カンヌ映画祭ある視点部門審査員賞を受賞し、第86回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた。

長きに渡る占領状態により、自由のない日々を送っているパレスチナの若者たち。パン職人のオマールは、監視塔からの銃弾を避けながら、分離壁の向こう側に住む恋人のもとへと通っていた。

そんな日常を変えるため、オマールは仲間ともに立ち上がるが、イスラエル兵殺害容疑で捕えられ、秘密警察より拷問を受けることとなる。

そこでオマールは、囚人として一生を終えるか、仲間を裏切りスパイになるかという究極ともいえる選択を迫られる。

100%パレスチナの資本によって製作され、スタッフは全てパレスチナ人、撮影も全てパレスチナで行われた。【映画.com】
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*****パレスチナの壁、映す「占領」 イスラエルが築いた450キロ****
 ■乗り越え仕事へ 「自由ない
撮影があった高さ約8メートルのコンクリート壁は、エルサレム郊外のパレスチナ人の村アブディスにある。「パレスチナに自由を」といった落書きがあった。

「仕事や学校に行くため、恋人に会うため壁を乗り越え、警察に捕まる人は今もいるし、撃たれることもある」。村で育ったアブドラ・アヤドさん(22)は壁を見上げて言った。「この壁のせいで生きづらい。俺たちに自由はない」

《パン職人のオマールは分離壁をよじのぼっては、壁の向こうに住む恋人ナディアのもとに通っていた》

壁の向こう側は、イスラエル発行の身分証を与えられたパレスチナ人が多く住む東エルサレムの街。行くためにはイスラエルの検問を通らねばならず、車でたどり着くには10キロ以上の遠回りを強いられる。

イスラエルは壁の建設を「テロリストの侵入阻止のため」としてきたが、実際には1967年の第3次中東戦争の休戦ラインを越えて、パレスチナ側に大きく食い込んでいる。パレスチナの村は分断され農地や病院、学校に行けなくなり、家を追われた人もいる。

《オマールはこんな毎日を変えようと仲間と共に立ち上がったが、イスラエル兵殺害容疑で捕らえられ、一生とらわれの身になるか仲間を裏切ってスパイになるかの選択を迫られる》

撮影はイスラエル北部ナザレでもあった。「アラブ系イスラエル人」が多く住む街だ。48年のイスラエル建国後、その領内となった郷里から離れたアラブ人とその子孫を一般にパレスチナ人と呼ぶが、残った人たちはアラブ系イスラエル人と呼ばれ、イスラエル人口の約2割を占める。

映画の監督、主演男優・女優もアラブ系イスラエル人。ナディア役のリーム・ルバニーさん(19)は出身地ナザレで日常的に差別を感じているといい、「形は違っても『占領』はそこにある。私は100%、パレスチナ人」と言い切った。

《苦渋の末、イスラエルに協力したオマールは恋に破れ、壁にのぼれず、崩れ落ちてしまう。通りがかりの老人に励まされ、再びのぼろうとする》

ルバニーさんは言う。「壁はあまりにも高く、厚い。けれども信じるものがあれば、のぼることができるのです」

占領の長期化に絶望した若者がイスラエル人を襲撃する事件も後を絶たず、イスラエル人の多くが壁の建設を支持しているという過去の調査結果もある。パレスチナ人は「壁」をどう乗り越えられるのか。映画はそれを自問しているように感じた。
 
 ■分断が狙い、わなには落ちぬ 壁テーマの映画を撮った監督
「オマールの壁」のハニ・アブ・アサド監督(54)が、滞在先の米国で電話インタビューに応じた。

――分離壁に囲まれた人々の暮らしとは。
壁はイスラエルとの間ではなく、パレスチナ人同士の社会を分断する。ほとんどの壁は、パレスチナ人が住むヨルダン川西岸の中にある。2人の恋人を引き離す壁は占領の象徴だ。イスラエルはユダヤ国家を守るため、パレスチナ人を支配し、土地から離れざるを得ないようにしている。

――あなたはイスラエル国籍を持つ「アラブ系イスラエル人」でもあります。
私はパレスチナ人だ。パレスチナ人には、境界を封鎖されて身動きが取れないガザ地区、ある程度は移動が出来る東エルサレムやヨルダン川西岸の住民、海外のパレスチナ難民に加えてイスラエル側の地域に住む「アラブ系イスラエル人」もいる。

私たちは旅行はできるが、より深刻なことはアイデンティティーを失ったことだ。パレスチナ人はみんな占領下で、二級市民のように暮らしている。

――この映画で訴えたいことは。
イスラエルの狙いはパレスチナ人の社会を分断し、一つの国家にさせないことだ。映画監督としての私の仕事はこのわなに陥ることなく、弱者の声を届けることだ。【4月14日 朝日】
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イスラエル住民のロケット弾攻撃やテロへの恐怖・怒りは分かりますが、パレスチナ人が置かれた圧倒的な現実を改善しない限り、いくら壁を高くしても、何度報復空爆を行っても、その恐怖・不安・怒りを鎮めることはできないでしょう。
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