孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  和平協議は崩壊の瀬戸際 ロシアはクルド人勢力との連携も強化 難民問題でメルケル首相の苦悩

2016-04-24 22:19:16 | 中東情勢

【4月24日 AFP】

反体制派が交渉ボイコット 停戦は崩壊の危機に直面 最終的には米ロの判断か
シリア内戦をめぐる一連の和平協議は1月下旬に始まり、2月27日にアサド政権と反体制派との間で一時停戦が発効して以降、戦闘は一定程度、抑制されてきました。

3月24日に2度目の中断に入った後、国連のデミストラ特使は今月13日、およそ3週間ぶりにスイスのジュネーブにある国連ヨーロッパ本部で協議を再開し、27日まで協議が行われることになっています。

しかし、反体制派の主要団体「高等交渉委員会(HNC)」代表団はシリアでの戦闘再燃と人道支援の停滞に抗議し、公式の和平協議をボイコットしており、事実上は協議は始まっていない状況が続いています。

ただ、HNC代表団はジュネーブにとどまっており、デミストラ特使との話し合いには引き続き応じる姿勢も見せています。

HNC代表団が交渉への正式参加保留を発表した後も、政府軍による一部反政府勢力への攻撃は激しさを増しています。

この間、メディアで報じられるシリア関連のニュースでは、“停戦破綻に現実味”“和平協議離脱を表明”“「和平」瀬戸際に”“停戦崩壊に警鐘”“停戦形骸化進む”といった、和平協議と停戦の破綻に限りなく近づいている現状を示す文言が並んでいます。

****シリア市場空爆で市民44人死亡 反体制派、和平協議離脱を表明****
内戦が続くシリアの北西部で19日、2か所の市場が政府軍によるものとみられる空爆を受け、市民少なくとも44人が死亡した。和平協議のためにスイス・ジュネーブ入りしている反体制派の代表者らは、このような攻撃が相次いでいることを受け、協議から離脱すると表明した。(中略)
 
(空爆があった)イドリブ県は、国際テロ組織アルカイダ系武装組織「アルヌスラ戦線」が掌握している。
アルヌスラ戦線はイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」同様、停戦の適用対象からは除外されており、政府軍は同組織の支配域に対する攻撃は継続している。

シリア反体制主流派の最大組織「高等交渉委員会(HNC)」は、マーレトヌーマンでの空爆は「大虐殺」であり、明らかな停戦違反だと非難した。
 
HNCは18日、シリア国内で戦闘が激化し人道支援が阻害されていることに抗議し、和平交渉への正式な参加を保留すると発表していた。

HNCの報道官は、今回の空爆はこの決断に対する「(バッシャール・)アサド大統領による報復」だったという見方を示している。

シリアの5年に及ぶ内戦を終結させるために長く続けられてきた一連の和平交渉における最新の協議は、停戦が希望をもたらしているにもかかわらず、今週もまだ始まっていない。

米露が仲介したこの部分停戦により、シリア全土で暴力行為が激減したものの、最近特に同国第2の都市アレッポ(Aleppo)の周辺で戦闘が急増しており、和平協議の完全決裂を危惧する声も上がっている。
 
HNCの調整担当者リヤド・ヒジャブ氏は19日、「シリア人たちが日々、包囲作戦や飢餓、空爆、毒ガスやたる爆弾で死亡している状況で、(和平)交渉に参加することは、道徳的にも人道的にも適切ではない」と述べ、自身を含むHNCの代表団が22日までにジュネーブを去る意向であることを明らかにした。

ただ、協議を仲介する国連(UN)は、協議はまだ頓挫していないと強調。スタファン・デミストゥラ(Staffan de Mistura)特使は、国連の仲介者を通じた間接協議が今週いっぱい続けられる見込みだと述べている。【4月20日 AFP】
*****************

3月にプーチン大統領が主要部隊の撤収を表明したロシアも、相当程度の部隊が残存しており、政府軍の攻撃を支援しているようです。

****<シリア>政府軍、アレッポ南郊攻撃準備・・・・「和平」瀬戸際に****
内戦下のシリアでアサド政権が週内にも、北部の激戦地アレッポ周辺の反体制派に対して大規模な軍事作戦を始める準備をしていることが19日、政府軍当局者への取材で分かった。

反体制派は、政権が本格的な攻撃を始めればジュネーブで開催中の和平協議を離脱する構えを見せており、協議が暗礁に乗り上げる恐れが高まった。
 
シリアでは2月27日、ロシアや米国の提唱で、政権と反体制派との間で一時停戦が発効した。双方が市街地を二分して激戦を続けてきたアレッポ周辺でも一時的に、戦闘が小康状態になっていた。
 
だが、4月に入って反体制派の一部が停戦対象外の国際テロ組織アルカイダ系勢力「ヌスラ戦線」と連携し、政権側への攻撃を強化。アサド政権も空爆を再び激化させるなど緊張が高まっている。
 
シリア北部での作戦に関わる軍将官は取材に「攻撃準備は最終段階だ」と説明。政府軍や政権側民兵組織はアレッポ南郊に攻撃部隊を集結させ、反体制派の攻撃対象の絞り込みも進めているという。
 
政権側は今年2月、トルコからアレッポ北方に至る反体制派の主要補給路を断っていた。今回の作戦では、南や西からもアレッポの反体制派支配地域への圧力を強める方針だ。
 
また軍当局者は、政権を支援するために空軍や特殊部隊、軍事顧問を派遣しているロシア軍について、3月にプーチン大統領が主要部隊の撤収を表明した後も「撤収は一部だけで、作戦遂行能力は維持している」と証言。アレッポ攻撃でも協力を得られるとの見通しを示した。
 
ロシア軍は、政権側が3月下旬に過激派組織「イスラム国」(IS)から中部パルミラを奪還した際も、空爆や作戦指揮などに関与していた。
 
約2年ぶりとなる今回の本格的な和平協議は今年1月に始まり、2度の中断を経て今月13日から再開。アレッポでの攻防激化によって和平協議への悪影響が懸念されるが、軍当局者は政治的解決は困難との見方を示した。【4月20日 毎日】
******************

****シリア関係国会合の開催必要=停戦崩壊に警鐘―国連特使****
シリア内戦の和平仲介役、デミストゥラ国連特使は22日、アサド政権側と反体制派の和平協議が続けられているジュネーブで記者会見し、停戦崩壊の恐れを指摘した上で、事態悪化を食い止めるため、関係国の閣僚会合を開く必要があるとの認識を示した。

特使は「停戦はまだ保たれているが、速やかに行動を起こさなければ、窮地に陥る」と述べた。反体制派の主要団体「高等交渉委員会(HNC)」代表団はシリアでの戦闘再燃と人道支援の停滞に抗議し、公式の和平協議をボイコットしている。【4月23日 時事】
******************

23日にも政府軍は反体制派支配地域に相次いで空爆を加え、民間人少なくとも30人が死亡したとも報じられています。空爆・戦闘は北部の大都市アレッポの他、首都ダマスカス東方の反体制派が掌握する都市ドゥマ、中部ホムス県の都市タルビセなどで行われているようです。

****空爆で30人死亡、停戦は事実上崩壊か シリア****
シリア各地で23日、同国政府軍と反体制派による大規模な戦闘が発生し、少なくとも30人の一般市民が死亡した。スイス・ジュネーブでの和平交渉が停滞する中、過去8週間続いた停戦協定が危機に瀕している。
 
在英の非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」の代表は、戦闘がエスカレートしたことにより、シリア政府軍とイスラム過激派組織以外の反体制派間で合意された停戦協定は事実上崩壊したとみられると述べた。(中略)
 
政府軍によるアレッポ空爆は2日目を迎え、22日には25人の一般市民が死亡、40人が負傷していた。【4月24日 AFP】
******************

反体制主流派の最大組織「高等交渉委員会(HNC)」は政府軍のアレッポ近郊などでの攻撃を停戦違反と非難してボイコットの理由としていますが、当初からアルカイダ系ヌスラ戦線は停戦の適用対象からは除外されており、ヌスラ戦線と共闘するイスラム主義反政府勢力も攻撃対象となることについては予想されていたことです。

軍事的には、ロシアの支援で戦況を立て直した政府軍ペースで進んでおり、和平交渉を頓挫させることで反体制派が得られるものはあまりないようにも思えます。
アサド政権側は、交渉が決裂すなら「それはそれで構わない。一気に攻勢を強めよう」といったところではないでしょうか。

一旦交渉から正式離脱してしまうと、状況が悪化しても交渉復帰はハードルが高くなり困難となります。

なんだかんだ言っても、停戦が継続した方が民間人犠牲ははるかに少なくてすみます。
停戦が崩壊の危機に直面しているのは事実ですが、まだ崩壊した訳でもありませんので、最後の一線でなんとか立て直してもらいたいものです。

“アサド政権関係者は朝日新聞の取材に対し「和平協議が崩壊する可能性は50%。最後は米国とロシアがどう判断するかだ」と語った。”【4月20日 朝日】

ロシアは長期戦の泥沼に引きずり込まれるのは望んでいないでしょうし、アメリカはアサド政権の残存云々よりIS対応に関心は移っていると言われていますので、両国ともこのまま和平協議の枠組みが崩壊することは避けたいところではないでしょうか。

クルド人勢力をめぐるロシア、アメリカ、トルコ、シリア政府の微妙な関係
こうした情勢にあって、最近目を引いた記事が2件

ひとつは、ロシアが北部クルド人勢力との連携を強めていることを報じたものです。
トルコとの関係で躊躇するアメリカを後目に、ロシアがクルド人勢力と接近していることは従前から言われていることで、ロシアは和平協議へのクルド人勢力参加も支持していますが、ロシアが武器支援等の対象としているのはクルド人民兵組織「クルド人民防衛隊(YPG)」ではないそうです。

****ロシア、クルド人と連携を強化-シリアとイラクで****
ロシア政府は、シリア北西部でクルド人部隊と共同で戦うために派兵を行ったほか、イラク内のクルド人に武器を提供していると述べた。

これは、独自の国家を持たない少数民族集団であるクルド人と長い間連携している米国を出し抜き、この地域でロシアの影響力を拡大しようとする戦術の一環だ。

ロシアとクルドの当局者によれば、クレムリンは一部のクルド人グループとの関係を促進することで、この地域でロシアの足場を維持しようと意図している。

これは武器・弾薬の提供や石油取引を通じてクルド人との関係を強化しようとするものだ。それはまた、シリアのアサド政権との関係を通じて確立したロシアのプレゼンスを土台にしている。
 
米国防当局者によれば、ロシアの支援はシリア西部のクルド人グループの一つである「アフリン・クルド」(シリアの都市アフリンに住むクルド人)に集中しているようだ。
 
アフリン・クルドはこれまで米国から支援を受けてこなかった。米国が支援してきたのは、シリアのクルド人民兵組織「クルド人民防衛隊(YPG)」だった。
 
米国は、過激組織「イスラム国(IS)」に対する戦いでシリアのクルド人戦闘員に頼り、最も効率的な同盟部隊の一つとして評価している。

米国によるクルド人支援に対して、トルコは怒っている。トルコ政府と敵対するクルド人の非合法武装組織、クルド労働者党(PKK)と緊密な関係を持っているとの理由でYPGを脅威とみているからだ。米国、トルコ、欧州連合(EU)はPKKをテロリスト集団とみなしている。
 
米国は、ロシアがシリア国内で部隊と武器を再配備しようとしており、それはロシアが全面的な戦闘に近く復帰する準備のためではないかと懸念している。シリアのクルド人へのクレムリンの接近策は、こうしたなかで浮上してきた。
 
ロシアのプーチン大統領は先週、ロシア軍の兵士たちがシリアの戦略的要衝であるアレッポ周辺でシリアのクルド人とともに戦っていると述べた。ただし米情報当局者は、こうした兵士が前線にいるのかどうかを疑問視している。
米当局者は、プーチン大統領の発表は米国とトルコに対する挑発である公算が大きいと述べた。
 
ロシアはシリアに2つの基地と、兵士と航空機(その数は知られていない)を維持している。当局者によれば、ロシア軍は依然、シリアにいる同盟者に対して空からの支援と地上の攻撃標的に関する情報を提供している。(後略)【4月22日 WSJ】
*********************

クルド人勢力関連では、政府軍とクルド人勢力が衝突したとの報道も。

****シリア北東部で政権側とクルド人が衝突、数十人死亡 停戦で合意***
シリア北東部カーミシュリーで3日間にわたり政権側部隊とクルド人部隊が交戦し、クルド側によると双方で計数十人が死亡した。シリア政府とクルド人勢力は22日、無期限の停戦で合意した。
 
戦闘は20日、クルド人が多数を占めるカーミシュリーの検問所で起きた小競り合いを発端に発生。カーミシュリーがあるハサカ県はカーミシュリー空港や同市の一部などを政権側が支配しているが、それ以外の大半はクルド人勢力が掌握している。ただ、双方が衝突することはまれだった。
 
クルド系治安組織の声明によると、カーミシュリーの空港で行われた協議の結果、双方は無期限の停戦で合意した。永続的な解決策を探るため、協議を続けていくという。戦闘では一般市民に17人、クルド人戦闘員に10人、政府側に31人の死者が出たとしている。【4月22日 AFP】
******************

この「クルド人勢力」が「クルド人民防衛隊(YPG)」なのか、ロシアが武器支援する「アフリン・クルド」なのかは知りませんが、“シリア北東部”とのことですから、恐らくYPGでしょう。

まさに誰が敵で誰が味方かわからないシリア内戦を表していますが、“双方は無期限の停戦で合意した”とのことですから、あくまでも局地的な衝突であり、今後政府軍とクルド人勢力が大きく対立することはないのでしょう。
(クルド人勢力が自治権の拡大、あるいは事実上の独立を求めるという話になると、また別問題ですが)

メルケル首相 「安全地帯」でトルコ主張に同意
もうひとつの注目記事は、かねてよりトルコが主張していたシリア領内での「安全地帯」について、ドイツ・メルケル首相が賛同したというものです。

****独首相「シリアに安全地帯」案を支持****
ドイツのメルケル首相は、内戦が続くシリアの人たちが国外に逃れなくても済むよう、シリア国内に住民を保護する「安全地帯」を設ける案を支持する考えを示し、今後、関係国の議論が活発になりそうです。

ドイツのメルケル首相は23日、シリア難民への対応などを話し合うためトルコを訪れ、シリアとの国境近くにある難民キャンプを視察しました。

その後、トルコのダウトオール首相とともに記者会見したメルケル首相は、「戦闘が行われず、相当な程度の安全が確保された地域が必要だ」と述べ、シリアの人たちが国外に逃れなくても済むよう、シリア国内に住民を保護する「安全地帯」を設ける案を支持する考えを示しました。

この案は、これ以上の難民の受け入れを避けたいトルコが、過激派組織IS=イスラミックステートの脅威からシリアの人たちを守るという名目で主張してきましたが、EU=ヨーロッパ連合は、シリアの主権に関わるとして慎重な姿勢を示しています。

しかし、メルケル首相としては、去年1年間でドイツにたどり着いた難民や移民が100万人を超え、受け入れに寛容な政策が国内で強い批判も浴びるなか、トルコの主張を支持して難民の流入を抑えるねらいがあるとみられます。

「安全地帯」の設置は、具体化すればシリアのアサド政権の反発を招くのは必至とみられますが、ドイツが支持を表明したことで今後、関係国の議論が活発になりそうです。【4月24日 NHK】
**********************

シリア政府が主権侵害として反対している「安全地帯」を維持するためには空軍力を含めた強固な軍事力が必要になります。政府軍を支援するロシア軍と衝突することもあり得ます。


国境地帯で勢力を拡大するクルド人勢力との関係もあります。(トルコの狙いは難民対策よりクルド人勢力抑制かも)


そうしたことから、アメリカもEUもこれまでトルコの主張には耳を貸してきませんでしたが、難民問題でトルコの協力を必要不可欠としているメルケル首相としては、この際そんなことも言ってはいられない・・・・ということでしょう。

4月17日ブログでも取り上げた、トルコのエルドアン大統領を過激な表現で風刺したコメディアン・作家のヤン・ベーマーマン氏に対するトルコ政府の告訴に関し、メルケル首相が“司法に判断をゆだねる”として司法手続き続行を容認した件といい、最近のメルケル首相はトルコからのどんな無理難題でものむ腹づもりのようです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする