孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロヒンギャ難民 「不干渉」では済まされない東南アジア諸国の対応 豪・日など含めた全体の問題

2015-05-26 22:25:43 | 難民・移民

【5月21日 AFP】

欧州:「割当制」 密航船破壊作戦
国家機能が崩壊状態のリビアなどからイタリアなど欧州を目指すアフリカ難民の増大、そして地中海を「巨大な墓場」とするような犠牲者の増大に苦慮する欧州は、5月16日ブログ“漂流するロヒンギャ難民 アンダマン海で繰り広げられる「人間ピンポン」ゲーム”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150516)でも触れたように「割当制」を提唱しています。

****EU、難民「割当制」 各国に義務づけ指針 英など拒否****
地中海で密航船の事故が相次ぐ中、欧州連合(EU)の行政を担う欧州委員会は13日、移民に関する指針を発表した。紛争や迫害を逃れた難民を毎年2万人受け入れるほか、欧州に入った難民申請者の一時受け入れのため、各国への割り当ての義務づけを目指す。

だが移民規制の強化を求める英国などは「割当制」への拒否を示している。

指針では、緊急措置として、イタリアなど不法越境者が多く来る国々の負担を軽減するため、難民認定の申請者を、各国に自動的、義務的に割り振る制度の創設を目指す。またシリア難民のキャンプなどから毎年2万人を受け入れる移住計画の策定をすすめる。

いずれも各国の経済力や人口、失業率を考慮して、受け入れ人数を決める方針だ。

欧州への移住を検討する人々に、密航の危険性などを知らせるため、今年末までに西アフリカのニジェールに広報施設を設けることも打ち出した。

EUへの不法越境者は一昨年の10万人が昨年は28万人に急増。今年は50万~100万人といわれる。密航で命を落とす人もあとを絶たず、昨年は3500人が死亡したとの推計もある。

EUは4月中旬にリビア沖で密航船の転覆事故が起きた後、緊急の首脳会議を開き、早急に対策に取り組むことを表明していた。

ティマーマンス第1副委員長は会見で「地中海での悲劇的な死は、欧州全体に衝撃を与えた。市民は加盟国やEUに、悲劇の再発を防ぐために行動するよう期待している」と述べた。

だが、欧州では移民規制を求める勢力が支持を広げている。英国のメイ内相は13日、「割当制のようなやり方は、犯罪集団の邪悪な(密航)取引を助長するだけだ」と批判した。【5月14日 朝日】
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更に、EUは密航船が欧州に向かうのを阻止するため、密航船の捜索、押収、破壊をリビア沿岸まで拡大して行う作戦計画を了承しました。

****<密航船>EU軍が押収、破壊をリビア沿岸まで拡大する作戦****
北アフリカから難民を乗せた密航船が地中海で転覆、多くの犠牲が出ている問題で、欧州連合(EU)は18日、外相、国防相の合同会議を開き、共同防衛政策で軍を投入し、密航船の捜索、押収、破壊をリビア沿岸まで拡大して行う作戦計画を了承した。

情報収集を即時に始め、6月末に作戦開始を目指す。ただ国連安保理決議や無政府状態のリビアの了承を得ることが必要で、どこまで実現できるかは不透明だ。

EUの発表や外交筋によると、作戦計画は3段階。
第1段階では軍艦で難民を救出しながら情報収集を実施。ローマに作戦本部を設置する。
第2段階で公海に加え、リビア領海と公海の境界領域で、密航船の捜索やブローカーの摘発などを行う。
第3段階では、リビア沿岸まで作戦区域を拡大、密航船を破壊する。
2カ月の準備期間の後、1年間作戦を行う予定で、1182万ユーロ(約16億円)を投入する。

会議にオブザーバーとして参加した北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は18日、EUの作戦への協力を表明した。情報提供が主な役割になりそうだ。

独仏英ベルギーなどは先月末、難民救出のため地中海への軍艦派遣を表明。ドイツのフリゲート艦と補給船計2隻は既に地中海で難民700人を救出しており、第1段階は事実上始まっている。

第2、3段階は来月22日の外相会議で了承を得てから開始する。第3段階の軍事作戦については、上陸してブローカーの拠点を破壊する必要性も一部で主張されているが、「船の破壊は問題の解決にならない」(EU外交筋)との意見もある。北アフリカ諸国への開発援助や、合法的な移民受け入れの拡大など包括的対策を主張する国もあり、対立は解けていない。

また作戦は他国の領海を侵犯することになるため、国連安保理決議が必要で、英国が決議案をまとめる。
ウクライナへの軍事介入を巡りEUから制裁を受けているロシアは「建設的な対応」(加盟国外交筋)を取っているとされるが、制裁緩和などの取引条件を出す可能性もあり、可決されるかどうか予断を許さない。内戦状態のリビアから承諾を得るのも困難だ。

さらに、密航者の背後にイスラム過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)の関与も取りざたされている。EU軍とISが戦闘に陥る恐れもあり、第3段階の作戦を港や沿岸に拡大することには慎重論も強い。【5月19日 毎日】
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【「不干渉」という真意の曖昧な信条を共有するASEANは、議論だけで行動を伴わない組織になっている
一方、欧州同様にミャンマー・バングラデシュからのロヒンギ難民問題を抱える東南アジア諸国は、難民を自国領海外へ追い返す「人間ピンポン」ゲームとの批判を浴びていましたが、一応、インドネシア・マレーシアが漂流難民を一時的に収容施設に保護することにし、29日に関係国の会議が開催されることとなっています。
(5月20日ブログ“ロヒンギャ難民の海上漂流問題で一定の前進 抜本的な対策は望めないながらも、注目される29日の会合”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150520

難民・不法移民の扱いは各国とも負担が重い問題であり、そうそう“きれいごと”ばかりは言っていられない、甘い対応をすれば今後ますますの難民増加を招く・・・等々の話はありますが、現に漂流している数千人を見殺しにしていい理由とはなりません。

欧州でも大規模救助作戦を行うことがかえって難民増加を招くという判断から、救助作戦が中断されたこともあります。ただ、「人間ピンポン」ゲームのような露骨な行為は見られていません。

また、アフリカ難民が欧州側では短期的には制御できないのに対し、ロヒンギャ難民の発生の根源はASEAN加盟国であるミャンマーにあります。

更に、難民の人身売買を黙認してきたと言われるタイはASEANの中心メンバーです。

****ロヒンギャ族ボート難民:東南アジア全体の不名誉****
東南アジアのボート難民は、地域全体の名誉を傷つけている。
(中略)
東南アジア諸国は、この問題の原因と唯一の恒久的解決策はミャンマーにあると主張している。その点は間違っていない。

ミャンマーは長年、国内に住む少数民族のロヒンギャ族を迫害してきた。ミャンマー政府は――判断できるかぎりでは、国民のほぼ全員も――ロヒンギャ族をベンガル人の不法移民と見なしている。

政府は、彼らがほかの民族から暴力を受けていることを言い訳に、およそ14万人のロヒンギャ族を悪臭のする難民キャンプに押しこめている。

最近では、そうした恐ろしい境遇からロヒンギャ族を逃がすために生まれた不法移民ネットワークが、隣国のバングラデシュの沿岸部に住む、ロヒンギャ族よりはましな暮らしを送る人々にも狙いをつけ、彼らの密出国も手助けするようになっている。

ミャンマーだけの責任ではない
とはいえ、ミャンマーに隣接する国々にも、この緊急事態に対する相当の責任がある。この地域で、「受け入れ拒否」を禁じる国連の難民条約に署名しているのは、カンボジア、フィリピン、東ティモールだけだ。

隣接国の政治家たちも、倫理上、難民船に物資を補給し、船が転覆した場合に救助する義務を自分たち負っていることは認めている。だが、彼らは5月下旬になるまで、航行できる状態の難民船の接岸を認めれば、さらなる渡航の試みを助長するだけだと主張していた。

その論法は、それぞれの国の有権者には概ね受け入れられた。ただし、その主張には欠陥がある。地中海で移民が命を落とすケースが増えても、アフリカから欧州へ渡ろうとする人の数は減っていないのだ。

アジアのボート難民の中には、陸地が見えた途端に海へ飛びこむ人もいた。命にかかわる切迫した危険にさらされている人を見れば、沿岸警備隊も普通は岸へ引き上げてくれるものだと信じているからだ(そう信じるのは正しい)。

東南アジア諸国の中には、そうした密入国を非難しながらも、大目に見ていた――さらにはそこから利益を得ていた――国もある。

タイの役人は長年、マレーシアへ向かう難民を国内で発見しても、黙認しているとされてきた。

そうした対応は、密入国ネットワークが繁栄する余地を生み、一部の腐敗した地元民を富ませてきた(タイの漁業やシーフード関連の企業の多くは、難民を利用し、奴隷同然の立場に追いこんでいる)。

一方のマレーシアも、時として難民の流入を見逃すことがあった。安価な非熟練労働力の不足を埋め合わせるのに、ロヒンギャ族が役に立ったからだ。

ASEANの悲惨なまでの力不足
今回の難民危機により露呈したのは、東南アジアの地域統治と、その主な実行機関である東南アジア諸国連合(ASEAN)の悲惨なほどの力不足だ。財源や人材が乏しく、「不干渉」という真意の曖昧な信条を共有するASEANは、議論だけで行動を伴わない組織になっている。

この地域の指導者たちは、互いの国内問題には口を挟まないと約束している。そうした姿勢は、ミャンマー(昨年ASEANの議長国を務めた)がロヒンギャ族の扱いに対する全面的な非難を免れるのに役立ち、ASEAN加盟国の指導者たちが、隣国に実際の責任を追及される心配をせずに、2012年のASEAN人権宣言などの華々しい宣言に署名するのを許してきた。

ASEANの指導者たちは、声高には言わないものの、静かな外交の方がおおっぴらに怒鳴りつけるよりも改革につながる可能性が高いのだと言い訳をする。それは時に正しいが、多くの場合は間違っている。

今年の初めから、ASEANの指導者たちは、ASEAN経済共同体(AEC)の発足により、この地域の結びつきがどれほど強固なものになるかをしきりに口にしている。AECは一群の地域貿易協定からなる共同体で、2015年末までに発足する予定だ。

その一方で、扱いの難しい社会問題や安全保障問題に関する協力の試みは、はるかに後れを取っている。
2013年に台風ハイエン(30号)がフィリピンを襲い、甚大な被害をもたらした際も、ASEANの反応は鈍かった。今回の難民問題でも、これまでのところASEANは対応をしくじっている。

今こそ竜になれ
先進諸国が自分たちの難民問題の対応で高い基準を設定できていたなら、もっと批判もしやすかっただろう。先進諸国は、ボート難民を海に押し戻したりはしていない。

だが、地中海で欧州が問ったアプローチは、明らかに不適切だ。海難救助予算を維持していれば、4月に相次いだ難破事故で失われた多くの命を救えたかもしれない。

オーストラリアは、難民船が自国海域に入る前に針路を変えさせている。5月17日には、オーストラリアのトニー・アボット首相が近隣の東南アジア諸国を非難するのを拒んだ。

ASEAN諸国は、こうした他国のまずい対応を理由に、自分たちの失敗も許されると考えたくなるだろう。だが、救出した難民を迅速に受け入れ、ミャンマーにうまく対応すれば、欧米の倫理的なお説教にうんざりしている東南アジア地域は、主導権を握るチャンスを手に入れられるだろう。

東南アジアの多くの人は、ASEANをひどい不正や苦難に対する防波堤ではなく、エリート層を富ませる道具と見なしている。今こそ、そうした考え方を覆すチャンスだ。【英エコノミスト誌 2015年5月23日号】
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この問題で、東南アジア諸国・ASEANの評価が改まるような対応が出てくるとは期待できませんが、とにもかくにも29日の会議が注目されます。

受入拒否のオーストラリア「裏口からではなく表から入ってきてほしい」 日本は?】
なお、関係する国々は東南アジア諸国だけではありません。
ロヒンギャ難民の多くが最終目的地として希望するオーストラリアはすでに難民受け入れを拒否する姿勢を明らかにしており、中継地インドネシアとの押し付け合いになっています。

****オーストラリア ロヒンギャ定住を拒否***
インドネシアから批判受ける
ミャンマー南部のムスリム少数民族、ロヒンギャは仏教徒の多数派国民から迫害を受け、住むところを追われたり、殺されたりもしている。

ロヒンギャの難民の乗った船をタイやマレーシアなどの国々が武力で領海外に追い出すオーストラリア方式を取り入れたが、インドネシアではアチェの漁民が政府から「助けるな」と命令されていたにもかかわらず、難民の惨状に見るに見かねて救助し、インドネシア政府も方針を変えざるを得なかった。

しかし、インドネシアはオーストラリアの「難民船追い返し」政策で大勢の難民希望者が居住しており、経済的な負担に苦しんでいるが、オーストラリアは経済的援助を拒んでおり、また、ロヒンギャのオーストラリア定着も拒んでいることから、インドネシアがオーストラリアを非人道的と批判する事態になっている。
ABC放送(電子版)が伝えた。

インドネシアの批判に対してピーター・ダットン移民相は、「批判は、オーストラリアが難民プログラムを支持していることを無視している」と反論している。

また、トニー・アボット首相も、「難民船を助長するような行為はすべて全く無責任な行為だ」と持論を繰り返した。

しかし、ミャンマーでの会議の途中でアメリカのCNNに、「オーストラリアが難民希望者受け入れを拒否していることをどう思うか」と質問されたレトナ・マースディ・インドネシア外相は、「オーストラリアは難民希望者問題をインドネシアに押しつけており、公正ではない。難民希望者はインドネシアを経過国としてオーストラリアに行こうとしている。難民希望者出身国、経過国、目的国が協力し合わなければならない。我々は打開策を提案し、国際社会の協力が必要だと力説しているのに」と語っている。

一方、ダットン大臣は、「我が国は巨額の援助金をインドネシア国内の国際移住機関(IMO)や国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)に渡している。我が国は地域に貢献している。批判する前に事実関係を見てほしい」と語っている。 【5月23日 NichiGo Press】
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なお、5月20日、オーストラリアのジュリー・ビショップ外務大臣は、ロヒンギャ族難民問題に対し、470万ドルを支援すると発表しています。支援金は、国連とワールド・フード・プログラムを通して、避難所の確保、食料や物資の配布に活用されます。

一方、アボット首相は、ロヒンギャの難民化はミャンマーの責任であり、ミャンマー近隣諸国の問題だと表明。


首相は、オーストラリアがロヒンギャ族の移住を受け入れる可能性はあるかとの質問に対し、「Nope, nope, nope.」と完全に否定し、「ボートピープルを生み出し、事態を悪化させるような手助けはしない。新生活を始めたいなら、裏口からではなく表から入ってきてほしい。」(The Guardianより)と語っています。

「難民船追い返し」政策はオーストラリアがこれまで行ってきた政策です。

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英BBCなどによると、目的地の豪州では、2011年に4565人だった密航者が、今年(2013年)は7月中旬までに1万5千人を超えるまで急増。

この状況にラッド前政権は8月、漂着した全員をパプアニューギニアに移送し、そこで難民認定されても豪州で受け入れずパプアに定住させる政策を導入。

9月に発足したアボット新政権もこれを引き継いだ。ビショップ外相は「我々は事前に認定を受けた難民の受け入れは続ける。豪州に来るならば、正規のルートで来るべきだ。カネを払っての密航は勧めない」と語る。【2013年10月24日 朝日】
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“裏口からではなく表から入ってきてほしい”“豪州に来るならば、正規のルートで来るべきだ”・・・・もっともな言い分ではありますが、一体どれだけの難民が“表から入る”ことができるのでしょうか?

“インドネシアには難民認定希望者が今年(2013年)5月現在で約8千人、認定者は約2千人いる。出身国は約40に上り、多くは豪州やカナダでの定住を望む。だが申請しても認定までに何年もかかり、定住国が決まるまで、さらに時間がかかる。しびれを切らした人々が頼るのが、密航だ。”【2013年10月24日 朝日】

パプアニューギニアの難民収容施設の環境は劣悪との指摘もあり、オーストラリアはカンボジアに難民を移送する計画も打ち出しています。

もし、難民が日本を希望すれば、日本もオーストラリアと同じように苦慮することになります。
しかも、オーストラリアは少なくとも2013年に2万4300人の難民を認定していますが、同じ13年の日本の認定者数は6人に過ぎません。

そういう意味では、ミャンマー周辺国、あるいはASEANだけの問題ではなく、日本・オーストラリアを含めたアジア・オセアニア全体の問題でもあります。
コメント (2)
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