孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  徴兵実施、就労国外出国禁止に翻弄される若者 水害で“異例”の国際社会への支援要請

2024-09-17 23:23:59 | ミャンマー

(ミャンマー・ネピドー近郊で物資を運ぶ人たち【9月14日 共同】 首都ネピドーはいいですが、問題は戦闘が続いているような奥地に支援が届くかどうかです)

【徴兵実施、就労国外出国禁止に翻弄される若者】
国軍と少数民族武装勢力及び民主派武装組織との戦闘が続くミャンマーでは、国軍の兵員不足を補うために2月10日に徴兵制の実施が宣言されました。

その内容や時期については二転三転しており、若者たちの人生が翻弄されていますが、同時に就労のための国外出国が禁止になるなどの措置も。

周知のように、ミャンマーでは多くの若者が日本での就労を希望して日本語学校で学んできましたが、彼らの道も閉ざされた形になっています。

****ミャンマー「徴兵宣言」から半年、苦渋の選択を迫られる日本語学習者たち****
2021年にクーデターを起こしたミャンマー軍事政権は、今年2月10日に徴兵制の実施を宣言したが、対象者や実施時期に関する発表が二転三転し混乱を招いている。民主化時代に日本企業への就職を目指して日本語を学び始めた若者たちは、不条理な現実と折り合いをつけながらそれぞれの未来を選択している。(中略)

ミャンマー人は祝日がころころ変わることなど日常茶飯事と笑い飛ばす。実際、徴兵制度という人の一生を左右するほどの重大事でさえ、猫の目のように内容変更が繰り返されている。

▽2024年2月10日に徴兵制の実施を発表。
▽2月20日に女性の徴兵対象外とする⇒現在は徴兵の対象としている。
▽特定技能・育成就労など就労目的の出国禁止令を発令⇒撤回⇒現在は男性にのみ就労目的の出国を禁止。
▽徴兵制は4月下旬からと発表⇒3月末に開始。

現在もいつ実施内容が変更されるかわからない状況だ。国軍メディアと独立系メディアの報道が入り混じり、さらにSNSの無責任情報や町中での噂話が混在している。その中に、それらの情報に振り回される個人の現実が存在する。

「もう日本には行けない」――授業も希望も捨てた生徒
あるヤンゴンの日本語学校の教師が「まるで防空壕の中で震える人を見ているかと思った。戦争経験などないのに」と話してくれたことがある。2月10日、軍が徴兵制の実施を発表した日の話だ。

日本語教師は前日となんら変わらない朝を迎え、いつものように授業に向かったところ、教室の教え子たちがみな土気色をした顔で表情がないことに驚いたという。昨日と何が違うのか? 重い空気だけが教室に淀んでいる。みな平静を装い受講しているものの、休憩時間にはひそひそ話が始まる。

異様な様子に驚いている日本語教師にスタッフが、徴兵制の発表があったのだと説明した。日付が変わった頃からSNSで情報が出回っており、そのスタッフも昨晩は一睡もできなかったという。一方、日本人である教師は、徴兵制がもたらす現実の重みをすぐには理解できなかった。

徴兵の対象は男性18歳〜35歳、女性18歳〜27歳。学生、公務員は猶予するという発表だった。ミャンマー報道の難しさに定義の曖昧さがある。年齢を出生時で1歳とする場合(数え年)と出生後1年目に1歳とする場合(満年齢)があり、場合によってどちらを使用するかもまちまちであるため、発表された年齢を正確に把握することができない。

ミャンマーの徴兵制は2010年に導入されていたが未実施のままであった。民主派や少数民族武装勢力と軍の攻防が激化し、軍が劣勢になり始めたという情報が飛びかう中での実施発表だった。しかし、発表と同時に疑問の声があがった。

投降・脱走などによる兵士不足を補うための徴兵制ということだが、「軍事政権」と「民主派」がもめている状況下、後者の側に立って軍に抵抗する傾向が強い一般の若者たちを徴兵して、軍人にできると考えているのか?
「だから、軍はバカなんですよ」と嬉しそうに耳打ちする人もいる。大声では言えないが言わずにはいられないのだろう。しかし、軍を批判したところで若者が徴兵制に震えていることは事実なのだ。(中略)

それぞれの意見・分析がどうであろうと、現政権(軍)の決めたことに抗うことはできない。国民がいうところの「めちゃくちゃ」な内容変更も続く。

ミャンマーの海外人材派遣協会(MOEAF)は2月13日、海外就労に対する求人の情報更新を停止すると発表。在ミャンマーの日本の送り出し機関には労働局から、徴兵条件に当てはまる若者に対しての送り出し中止の通達が届いた。関係者の話によるとこの通達は電子メールなどで各送り出し機関に伝えられ、軍評議会労働省からの公的な正式発表はなかったという。

それでも、就労目的のミャンマー人が通う日本語学校が次々と休校(時には閉鎖)しているという話が広がった。事実がどうであれ、軍の思惑に従うポーズは必須と考えるのは事業者として当たり前だろう。

逆に、できるだけ早く教え子たちを日本に脱出させる必要を唱える人々もいた。ある日本語学校のミャンマー人校長は「軍の決めたことはすぐに変わる。私の学校は休校にしませんでした。就労目的の授業は普通に行っていますよ。でもね、徴兵制の発表直後に“もう日本に行けない”と落胆しきった一人の生徒は、授業を放棄して、つまり今までの努力も希望も放り出して田舎に帰ってしまいました。止めるわけにはいきません。私は田舎までの道のりのほうが危険だとは思いましたが……」 徴兵制の実施が発表された2月はこのような混乱が続いていた。

留学か就労か、それぞれの選択
(中略)このように大きな混乱を呼んだ徴兵発表の日から、半年がたった。ヤンゴンで日本語を学ぶ若者たちは今何を考えているのか。旧知の日本語教師に教え子を紹介してもらい、今後の人生プランについて聞いてみた。

〈介護奨学金で脱出する〉男性・27歳
A君は日本語能力がN3(日常的な会話をある程度理解できるレベル)、通信大学中退(中退の理由はクーデター)の27歳だ。

男性の就労目的の出国は24年8月現在では認められていない。だから、A君は特定技能や育成就労のような申請で日本へ行くことはできない。そうかといって、自費で学生として留学することなど完全に不可能な経済状況だ。「選択肢は介護奨学金留学生の立場での出国一択になります」という。

介護奨学金制度では、介護福祉士の資格を取るための約2年間の学費を介護施設が提供し、その奨学金の返済期間として約5年間の就労が条件となる。7年間の拘束期間が確実となる選択であるが、本人はなるべく早く国を出ることを最優先する選択に迷いはないという。20代後半〜30代半ばという貴重な時期を、自分の意志での進路変更が不可能な環境で過ごすと決めた。

A君の友人は「ふた月前はちょっと長めの黒髪のイケメンでしたが、あっという間に白髪が増えたんですよ」と彼の胸中を察していた。「介護奨学金を受けるには日本語能力N3が絶対に必要。A君はのんびり屋さんの印象でしたが、これだけの短期間に日本語学習をしたことをほめてやりたいです」

〈大卒でも「特定技能」を選ぶしかない〉女性・20代後半
介護奨学金で渡日することができない例も存在する。Bさんは日本語能力N2(上から2番目のレベル)の大卒。面倒見のいい女性であり、介護分野は自分に向いていると思っていたと話す。しかし、介護奨学金ではなく特定技能の在留資格で渡日を目指すこととした。

「私のパスポートはPJなんです」
ミャンマーのパスポートには種類がある。PJとは「パスポート・ジョブ」のことで、就労用パスポートを意味する。コロナ禍前、特に渡航目的を定めずにパスポート申請をしたBさんは、PV(パスポート・ビジット=観光用パスポート。留学も可)より使い勝手が良いかもしれないとPJを選択していた。

ところが人によっては、パスポートがPJであるかPVであるかが、ミャンマー出国の成否を分けることになる。就労目的で出国しようとして、パスポートがPVであったため出国できなかったという事例があった。飛行機にチェックインし、いざ出国というときにはじかれたのである。

(中略)たまたま選んだパスポートの種類によって、人生の選択肢が絞られてしまったのである。

パスポートの新規取得さえ難しくなっている今、PJをPVに変更するのにどれほど時間とお金がかかるかわからない。手持ちの条件の中で少しでもマシな人生を選択することが賢明だ。BさんはPJの有効な使い道は特定技能での渡日と判断。14種ある特定技能のうち、介護ではなく宿泊業を選ぶそうだ。(後略)【9月12日 新潮社 Foresight】
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【軍事政権 台風11号水害で“異例”の国際社会への支援要請】
台風11号は9月6日(金)に中心気圧925hPaの非常に強い勢力で中国の海南島に上陸し、その後7日(土)にはベトナムに上陸しました。この台風は戦闘に疲弊するミャンマーにも大雨を降らし、甚大な洪水被害をもたらしました。

****ミャンマー軍“大雨による洪水などで死者226人、行方不明者77人” 東南アジアで被害拡大 4か国で約500人死亡****
ミャンマー軍事政権は、連日の大雨による洪水や土砂崩れで226人が死亡し、77人が行方不明となっていると発表しました。

ミャンマーでは今月9日以降、大雨による洪水や土砂崩れの被害が各地で相次ぎ、首都・ネピドーでも多くの家屋が浸水しました。

国の実権を握るミャンマー軍は17日、これまでに全土で226人が死亡したほか、77人が行方不明になっていると発表しました。

OCHA=国連人道問題調整事務所は「63万1000人が被災したと推定される」としたうえで、通信の遮断や道路の寸断などに加え、クーデター以降続いている軍と抵抗勢力の武力衝突で救援活動が妨げられているとしています。

戦闘の長期化で、国内の避難民はすでに200万人を超えており、人道危機のさらなる悪化が懸念されています。

東南アジアでは、台風11号が熱帯低気圧に変わったあとも大雨の被害が拡大していて、ベトナム、タイ、ラオス、ミャンマーの4か国で、死者はあわせておよそ500人に上っています。【9月17日 TBS NEWS DIG】
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この種の災害被害に関し、ミャンマー軍事政権には深刻な“前歴”があります。
2008年5月、サイクロン「ナルギス」によって死者・行方不明者13万人超という甚大な被害を被ったにもかかわらず、軍事政権は大部分の国際支援が入るのを拒否し、新憲法の国民投票実施を強行しました。

国民の生命より政治日程を優先させる軍事政権の姿勢は当時国際社会から強い批難を浴びました。

*****ミャンマー  国民投票強行、進まない救援活動、物資横流しも・・・****
(中略)
被災地を封印
サイクロン被害の救援活動については、外国・国際機関からの人的支援を拒んできましたが、タイ・インドといった近隣の比較的良好な関係を持つ国々からの支援は認めたものの、その他については以前頑なな姿勢を崩していません。

軍政は被災地の封印を図っているとも伝えられます。【5月15日 毎日】
ヤンゴンから被災地に向かう道路に検問所を設け、通過車両を1台ずつチェック。外国人が乗っていると、強制的に引き返させています。

被災地に入る援助関係者には事前に「特別許可」を取得するよう求めていますが、国連関係者によると、許可はわずかしか発行されません。

一般市民が食糧など救援物資を直接持ち込むことも禁止し、政権の翼賛団体に寄付するよう求めています。
 
そんななか、国連事務総長から軍政トップの国家平和発展評議会議長に全面的な支援受け入れを求めた3通目の書簡を託された緊急援助調整官室の事務次長が、18日にミャンマーを訪問する予定です。

援助物資横流しも
現地からは、軍政の救援活動の不十分さ、あるいは物資横流しなどの情報が多数報じられています。

「(被災地で)軍による救援活動を一度も見なかった」「援助なんて何も来ていない」「あれだけ軍隊がいるのに、何をやっているのか」「軍事政権は被災地での被害状況調査も一切行っていない」【5月17日 毎日】

「役人が救援物資の国際援助食糧を質の悪いものにすり替え、被災者に渡しているのを目撃した」
「軍人が小袋の米を1万チャット(約1000円)で売っていた」
ヤンゴン空港に届いた被災地用の発電機が新首都ネピドーに転送されたとの目撃情報もある。【5月16日 読売】

タイが送った援助用食料が同市内の市場で売られているほか、援助物資として届いた防水シートや蚊帳、即席めんなどが市場の内外に立つ露天で販売されている。【5月14日 時事】

海外から届いた援助物資に「○○将軍から○○地区への寄付」と書いた紙が貼られていた。【5月16日 IPS】(後略)【2008年5月17日ブログより再録】
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2023年5月14日にも、猛烈なサイクロン「モカ」が上陸。西部ラカイン州などが大きな被害を受け、500人以上が死亡したと報じられていましたが、国連の支援などを制限、避難民に救援物資を届けようとしたASEAN代表団を乗せた車列が銃撃されるなど、支援活動はうまく進みませんでした。

そうした“前歴”を踏まえてのことでしょうか、今回は“異例”の国際社会への支援要請を行っています。

*****ミャンマー軍政、台風被害で国際社会に異例の支援要請 32万人避難****
ミャンマーで台風による洪水被害が拡大し、軍事政権が国際社会に支援を求める異例の事態になっている。

軍政によると、今月上旬に東南アジアを襲った台風により、国内で少なくとも113人が死亡し、32万人が避難しているという。軍政はこれまで外部の介入を嫌ってきたが、抵抗勢力との戦闘の長期化で疲弊し、支援に頼らざるをえない状況とみられる。

国営メディアは14日、ミンアウンフライン最高司令官が「救助や物資の支援を受けるため、外国と連絡を取る必要がある」と述べたと報じた。

東南アジアとの関係強化を進めるインド政府は15日、ミャンマーに医薬品など10トンの緊急支援物資を送ったと発表。インドのジャイシャンカル外相は同日、X(ツイッター)にミャンマーやベトナム、ラオスに送る物資を軍艦などに積み込む写真を公開した。

ミャンマーでは2023年5月にも大型サイクロンによる甚大な被害が出た。当時、国連などが支援を申し出たが、国軍は軍の関与なしに物資を市民に届けられないように制限。そのため、復興が難航し、国連人権高等弁務官が国軍を非難した経緯がある。

21年にクーデターで全権を掌握した国軍は国際社会から孤立し、内戦の長期化で社会や経済の混乱を招いてきた。国内避難民は既に300万人を超えたとされ、災害が国民生活に追い打ちをかけている。【9月16日 毎日】
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17日発表では死者は226人に。

“独立系地元メディア「イラワジ」によると、16日現在で30万人以上が避難している。国軍のほかミャンマーの民主派勢力が樹立した「国民統一政府(NUG)」なども17日、食料や医薬品など物資の提供を国連などに呼びかけた。”【9月17日 読売】

支援物資は戦闘によって阻害されることなく速やかに被災地に届くことを願います。

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