孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ブラジル  加速するルセフ大統領弾劾手続き 右派クーデターとの指摘も 

2016-04-07 22:25:06 | ラテンアメリカ

(元左翼ゲリラの闘士、ルセフ大統領(左)とルセフ弾劾後の大統領ポストを狙うテメル副大統領(右)【4月12日号 Newsweek日本版】  どうでもいいことですが、テメル副大統領夫人は歳の差43歳、元モデルでスタイル抜群の美人です。カネと権力の臭いが・・・・)

ルラ前大統領入閣問題で窮地に 連立与党からの離脱も】
ブラジル政治の混乱についてはこれまでも何回か取り上げてきました。

2014年3月に発覚した国営石油会社ペトロブラス(国際石油資本と比較しても遜色のない石油採掘量を誇る南半球最大の石油採掘会社)を巡る、長年政界に不正な資金を流し続けてきた構造的とも言える、かつ、ブラジル史上最大規模の汚職事件が政治混乱の中心にあり、今も捜査は続いています。

事件当時ペトロブラスの経営審議会長だったルセフ大統領は、その立場上この汚職を知っていたのではないか、あるいは関与していたのではないか・・・・ということもあって、多数の与党政治家の汚職関与と長引く経済不況の責任を問う形で昨年夏頃からルセフ大統領の弾劾を求める抗議デモが広がっていき、それにつれ大統領の支持率も一桁台に急落しています。

その後、大統領弾劾手続きは現実のものとなりましたが、その内容は上記汚職事件ではなく、ルセフ大統領が政府会計を不正に操作した疑いがあるというものになっています。

****大統領弾劾審議へ=政府会計の不正操作疑惑―ブラジル****
ブラジルの下院議長は2日、政府会計を不正に操作した疑いがあるとして、ルセフ大統領の弾劾を審議する方針を明らかにした。深刻な経済危機を招いた政治混乱は、さらに先行き不透明な状況となった。

大統領弾劾投票が行われれば、1992年に不正蓄財疑惑に問われ辞任したコロル大統領(当時)以来となる。
ルセフ氏は2日の記者会見で「憤慨を持って受け止めている」と述べ、潔白を主張した。

野党はルセフ氏が大統領選で再選を決めた2014年以降、政府会計の不正操作が続いていると訴え、弾劾手続きを求めていた。連邦会計検査院は10月、14年の政府会計に疑義があるとして、承認を拒否するよう議会に勧告した。

議会が近く設置する特別委員会が支持すれば、弾劾手続きが本格化。上下院のそれぞれ3分の2の賛成で、ルセフ氏は失職する。【2015年12月3日 時事】 
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ただ、2015年12月29日ブログ「ブラジル 政治・経済の混迷スパイラル」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151229で“上下院のそれぞれ3分の2を必要とする弾劾自体は、議会で多数を占める与党の反対でなんとかしのげると思われますが、与党内をまとめるために、与党からも不満の出ていた財務相をすげかえるといった混迷を余儀なくされています。”と書いたように、当時はまだ弾劾そのものについてはなんとか乗り切れると思われていました。

しかし、どうも怪しくなってきています。
3月に入ると、ルセフ大統領の後ろ盾で、絶対的な国民的人気を誇っていたルラ前大統領に、前出の国営石油会社ペトロブラス汚職事件関連で捜査の手が伸びる事態に。

****ブラジル前大統領の身柄拘束 汚職に関与した疑い****
政治家と国営石油会社を巡る大規模な汚職事件を捜査しているブラジル連邦警察は4日朝、歴代大統領で最高の支持率を記録し、退任後も強い影響力を保ってきたルラ前大統領(70)の自宅に家宅捜索に入った。汚職に関与した疑いが持たれており、事情聴取のためその場でルラ氏を拘束した。現政権の支持率低迷や深刻な不況が続くなか、政治の混乱がさらに深まるのは必至だ。

一連の事件は、国営石油会社ペトロブラスを巡る汚職疑惑で、2014年に発覚。同社は取引先業者と水増し契約を繰り返し、政治家にも金が渡っていた。

ブラジル史上最大の汚職スキャンダルとされる。連邦警察と検察の会見によると、一連の事件に絡んでルラ氏側が企業から金を受け取ったり、利益を供与されたりした疑いがあるという。

貧しい農家に生まれたルラ氏は02年、労働者や貧困層への手厚い政策を掲げて当選。10年まで2期にわたり大統領を務め、貧困対策や好調な経済に後押しされて、一時は8割の支持率を誇った。

ルセフ政権に移行後も、大統領選への再出馬の可能性が取りざたされているが、汚職事件や経済の低迷で国民の間には与党・労働党への不満が高まっている。【3月4日 朝日】
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後ろ盾に捜査の手が伸びるだけでもルセフ大統領には打撃でしたが、ルセフ大統領は突如、ルラ前大統領を官房長官に任命。
しかも、あろうことか前大統領を捜査の渦中から救い出すため・・・と思われるような二人の会話が捜査当局に盗聴されており、これが公表される事態に。

****汚職で捜査のルラ氏入閣、大統領との通話公開で抗議デモ ブラジル****
ブラジルのジルマ・ルセフ大統領は16日、汚職疑惑で捜査対象となっているルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ前大統領を官房長官に任命した。

しかし、ルセフ大統領がルラ氏にかけた電話の内容が連邦捜査当局によって公開され、首都ブラジリアと最大都市サンパウロでは怒った市民らによる大規模な抗議デモが起きている。

問題の通話は同日、ルラ氏の電話を盗聴していた警察によって録音されたもので、ルラ氏の捜査を担当するセルジオ・モロ連邦判事が公開した。

通話の中でルセフ大統領は、ルラ氏を官房長官に任命する公式な大統領令を送付するので「もし必要ならば」それを利用してもよいと述べていた。

ブラジルでは閣僚の起訴には最高裁判所の承認が必要となる。そのため、この通話内容については、ルセフ大統領がルラ氏の刑事訴追免責を狙って官房長官に任命した証拠との見方が広がっている。

ブラジリアでは16日夜、約2000人規模のデモが自発的に始まり、ルラ氏の官房長官辞職とルセフ大統領の退陣を要求するとともにモロ連邦判事への支持を表明した。サンパウロでも数千人規模のデモが起き、「辞任しろ」とシュプレヒコールを上げた。【3月17日 AFP】
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ルセフ大統領はルラ氏の官房長官起用について、景気低迷や野党の弾劾請求で機能不全に陥っている議会の運営において、実力者ルラ氏の起用で他党との調整や弾劾回避への根回しが進むことへの期待を表明しています。

連立与党内や野党への対応でルラ氏に辣腕をふるってもらうことでルセフ大統領は弾劾を回避でき、ルラ氏は汚職事件で起訴を免れる・・・両者ともにメリットのある人事ということだったのでしょうが、当然ながら国民の怒りを強め、連立与党内でも批判を呼ぶことになりました。

ただ、ルラ氏の捜査を担当していた判事が盗聴会話(盗聴自体は正規の手続きを踏んだもののようですが)を公表するというのも、相当に政治的な動きのように思われます。

結局、連邦最高裁は3月18日、ルラ氏の官房長官への就任を差し止める仮処分を決定し、審理の日程は決まっておらず、ルラ氏の就任は停止された状態が続いています。

一方、国民のルセフ批判は拡大し、弾劾手続きも加速しました。

****ブラジル下院、大統領の弾劾審議入り 会計の粉飾疑惑****
政府会計の粉飾に関わったとして弾劾(だんがい)を求められているブラジルのルセフ大統領について、同国の連邦下院議会は17日、弾劾の是非を検討する特別委員会を設置した。

ルセフ氏の罷免(ひめん)につながる可能性もある一連の審議が今後、本格化する。低支持率や汚職スキャンダルで苦しむルセフ政権は、さらなる窮地に追い込まれた。

弾劾手続きは憲法に規定された制度で、大統領に違法行為の疑いがある場合に適用される。ルセフ氏は2014年の政府会計をめぐり、貧困層向けの補助金などを銀行に肩代わりさせた不正会計への関与が指摘されている。下院議長が昨年12月、野党などが求めていた弾劾請求を受理していた。

今後は特別委が弾劾を支持するかどうかの意見書を作成し、それに基づき上下院が3分の2以上で賛成するなどの条件が満たされれば、大統領は罷免される。ルセフ氏は弾劾には根拠がないと主張している。【3月18日 朝日】
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数の力で乗り切るつもりだったルセフ大統領ですが、連立与党から最大政党が離脱を決めるなど、次第に追い込まれてきています。

****ブラジル最大政党が連立離脱 大統領弾劾に現実味****
南米ブラジルのルセフ大統領政権の連立与党から最大政党、ブラジル民主運動党(PMDB)が離脱することが29日、明らかになった。PMDBの幹部会が決定した。

上下両院で最多議席を持つ政党の離反はルセフ氏の弾劾を含め、政局に大きな影響を及ぼす可能性がある。五輪を控えた同国の政治混乱は重大局面を迎えつつある。

4月中にもルセフ氏の弾劾に向けた採決が行われる可能性があるが、ルセフ氏の労働党(PT)以上の議席を持つPMDBが連立を解消したことで、弾劾は現実味を帯びてきた。

ルセフ氏は進歩党(PP)や共和国党(PR)、ブラジル社会民主党(PSDB)などの支持を得て、弾劾を回避したい意向だが、これらの政党の動向によっては、政局は一気に流動化する。

世論調査でルセフ氏の支持率は10%前後で推移する中、弾劾を支持する人は68%に上っており、民意を反映した情勢といえそうだ。【3月30日 産経】
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【「いま進められている弾劾手続きは、民主主義に対するクーデターだ。私は絶対に辞めない」】
連立離脱を決めたPMDBは同党に所属する閣僚6人と、政府の役職につく党員の退任を決めたのですが、副大統領を務めるテメルPMDB党首はそのまま。

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大統領が罷免された場合、副大統領が新大統領となる規定だ。現在の副大統領はテメルPMDB党首。連立解消の後もテメル氏は副大統領を続けるとしている。弾劾後を見越しての判断と見られている。

ルセフ氏は自身への弾劾を「クーデター」と批判。地元メディアによると、政治手腕を買われて官房長官に起用されたルラ前大統領が各議員を回り、引き留めの説得をしているという。【3月31日 朝日】
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このあたりが、「弾劾」と言いながらも、政治的駆け引きが行われているように見えるところです。

****現実味増す大統領弾劾は右派のクーデター****
政府予算の違法執行疑惑などで弾劾の危機にさらされているブラジルのルセフ大統領。数週間前まではどうにか
乗り切るとみられていたが、雲行きが怪しくなってきた。

先週、連立政権の一角を占めていた最大政党・ブラジル民主運動党(PMDB)が連立を離脱。議会で弾劾が可決される可能性が次第に高まっている。

弾劾が成立した場合は、PMDB出身のテメル副大統領が大統領に昇格する。政権支持派をはじめとする左派勢
力が恐れているのは、テメル新体制が財政の引き締めに動くことだ。

PMDBは既に、ルセフとルラ前大統領の2代の左派政権下で拡大された莫大な社会保障予算の縮小を計画していると報じられている。

もっとも、そのテメルも汚職の疑いで捜査対象になっている。ルセフの予算違法執行疑惑は、少なくとも私腹を肥やしたというものではない。それに対し、ルセフの追い落としを図る政治家たちの汚職疑惑のほうがもっと悪質だとの声もある。

ジャーナリストのグレン・グリーンワルドらは、ルセフ弾劾騒動を右派による事実上のクーデターと評している。

この夏、ブラジルがリオデジャネイロ五輪を迎えるまであと数か月を切った。オリンピックは無事に開催できるのか。

政治的・経済的な混乱に見舞われてはいても、オリンピックに影響はないと、何人かの専門家は述べている。大混乱に陥っているように見えるかもしれないが、国の根幹に関わるシステムは機能しているというのだ。

しかし、最近の展開を見る限り、ブラジルの政治情勢はまさに一寸先は闇だ。今後どう転ぶかは分からない。それに現在、中央政界の政治家の5人に3人以上が犯罪捜査の対象になっている。オリンピック前に一波乱も二波乱もありそうだ。【4月12日号 Newsweek日本版】
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汚職の疑惑があるテメル副大統領についても、最高裁が弾劾手続き開始を下院議長に命じています。

****副大統領も弾劾を」 ブラジル最高裁が命令****
政府会計の粉飾に関わったとしてブラジルのルセフ大統領が弾劾(だんがい)を請求されている問題に絡み、連邦最高裁は5日、テメル副大統領に対しても弾劾手続きを開始するよう下院議長に命じる仮処分決定を出した。

ルセフ氏に対するものと同じ内容の弾劾請求がテメル氏についても出されていたのに、下院議長が受理しなかったことを問題視した。

クニャ下院議長は異議を申し立てる考えを示した。ただ、国のトップ2人が同時に弾劾の対象になりかねない事態となったことで、政治の混乱にさらに拍車が掛かるのは必至だ。

テメル氏は、弱体化する連立与党から離脱したばかりのブラジル民主運動党(PMDB)党首で、ルセフ氏が罷免(ひめん)された場合には新大統領に就く立場。

弾劾請求を受理するかの判断権限は下院議長にあるが、PMDBの有力議員でもあるクニャ氏は「テメル氏に不正はない」と請求の受理を見送っていた。

ルセフ氏の弾劾の理由である不正会計には、テメル氏も署名するなどして関わっていたとされる。最高裁決定はクニャ氏の判断について、「本来の権限を越えて請求内容の検討に踏み込んでいる」と指摘。弾劾の是非を検討すべきだと結論づけた。【4月7日 朝日】
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一方、ルセフ大統領の弾劾手続きの方は、着々と進行しています。

****大統領弾劾の特別委が報告書 「罪を犯した最低限の証拠がある」 17日にも下院採決へ****
ブラジルのルセフ大統領に対する弾劾の是非を審議してきた下院特別委員会は6日、調査責任者の議員が報告書を発表し、政府会計の粉飾に関与したとする大統領が「罪を犯した最低限の証拠がある」として弾劾手続きを前に進めるべきと結論づけた。

これを受け、65人の議員で構成される特別委は11日に、採決を実施。承認される可能性が高く、地元メディアによれば、17日にも、弾劾手続きの節目となる下院本会議(513議席)での投票が行われるという。

一方、弾劾阻止に向け、連立与党の一角である進歩党は6日、ルセフ政権を支持すると発表。今後、さらに与野党の駆け引きが激化しそうだ。【4月7日 産経】
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ルセフ大統領は「いま進められている弾劾手続きは、民主主義に対するクーデターだ。私は絶対に辞めない」「私はいかなる違法行為にも手を染めていない」「確認された犯罪行為がないのに罷免(ひめん)を迫ることこそ、民主主義に対する犯罪だ」(3月22日演説)と徹底抗戦の構えです。【3月23日 朝日より】

ルセフ大統領は、かつては左翼ゲリラ活動に身を投じ、武装集団のメンバーとして偽名を使い分けながら、強奪した現金や武器の輸送役を担ったそうで、22歳で逮捕され拷問を受けた末、2年間投獄されたという経歴の持ち主ですから、そうそう簡単には降参しないでしょう。

踏んだり蹴ったりのブラジル
混乱する政治の一方で、ブラジル経済は絶不調です。

****ロシアに続いてブラジルも 6年ぶりのマイナス成長****
ブラジルの2015年の経済はロシアと同じく6年ぶりのマイナス成長となり、資源安が新興2か国の景気に打撃を与えている実態が鮮明になっています。

ブラジル政府が3日に発表した去年1年間のGDP=国内総生産の伸び率は、前の年と比べてマイナス3.8%で、リーマンショックの影響を受けた2009年以来、6年ぶりのマイナス成長となりました。

背景にはブラジルの主要な輸出品の鉄鉱石などの資源価格が低迷していることがあり、工業全体がマイナス6.2%と落ち込みました。それに伴い、雇用情勢の悪化などで個人消費がマイナス4%と12年ぶりのマイナスとなったほか、先行きの不透明感が増して、企業の設備投資がマイナス14.1%と大幅に悪化しました。(後略)【3月4日 NHK】
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しかも、妊婦の小頭症が問題となっているジカ熱大流行は周知のところですが、豚インフルエンザも流行ということで、まさに踏んだり蹴ったりの最近のブラジルです。

****踏んだり蹴ったりのブラジル ジカ熱に加え豚インフル猛威****
4カ月後にリオデジャネイロ五輪開催を控えるブラジルで、豚インフルエンザウイルスに起因するH1N1型インフルエンザが流行し、3月下旬までに71人が死亡した。同国の保健省が4日、発表した。

昨年1年間の死者数は36人で、今年に入り患者が急増している。政府は幼児や高齢者らを対象にした予防接種の対策を強化する。

ブラジルでH1N1型インフルは例年、気温が下がる5月ごろから感染者が現れるが、今年は真夏の2月ごろから流行が拡大しているという。リオデジャネイロ州での被害はまだ少ないものの、五輪期間中に代表選手を派遣する世界各国にも懸念が広がりそうだ。

蚊を媒体とするジカ熱やデング熱の患者が増加する一方、政府は経済の不振から予算削減を余儀なくされており、対策に頭を悩ませている。【4月5日 産経】

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