孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  労働法改正問題で続く抗議デモ

2016-04-01 22:54:32 | 欧州情勢

【3月10日 AFP】

社会党・オランド政権による労働者に不利な労働法改正案
フランスでは「週35時間労働」を基軸とした現行労働法の改正を巡って抗議デモが続いており、一部では警官隊との衝突も起きています。

****仏 労働法改正案の撤回求めデモ 一部で衝突も****
フランス全土でおよそ39万人が参加して、政府が進める労働法の改正案の撤回を求める抗議デモが行われ、一部で参加者と警官隊が衝突する騒ぎになりました。

フランス政府は、景気の低迷が続くなかで、企業の雇用を促進しようと労働法の改正を目指しています。

これに対して労働組合や学生からは、「解雇の条件を緩和して事実上、解雇を容易にするなど雇用主側に有利な改正だ」などと反発が強まっていて、31日には、フランス国内のおよそ70か所で一斉に抗議デモが行われ、警察の発表でおよそ39万人が参加しました。

このうち首都パリの中心部では、およそ3万人が参加し、警察が警戒にあたるなか、改正案の撤回を求めてシュプレヒコールをあげていました。

地元メディアによりますと、西部のナントや北西部のレンヌでは、一部の若者が暴徒化して警官隊と衝突し、逮捕者も出る騒ぎになりました。

労働法の改正案を巡っては、失業率が10%台で高止まりし、若者の失業率にいたっては25%を超えるなか、大統領選挙を来年に控えて、オランド政権が、最重要課題とする雇用対策の切り札にしたい考えですが、最新の世論調査では58%が改正案に反対しています。

抗議デモに参加した女性は、「政府は失業率を減らすのが目的だと説明していますが、とても信じられません」と話していました。

労働組合側は改正案の撤回まで抗議デモを続ける構えで、政府が事態を収拾できるかどうか注目されます。【4月1日 NHK】
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オランド政権の狙いは、従業員に極めて有利な現行の労働法を調整することで労働市場を弾力化し、企業の労働者雇用を促進して、全体で10%、若者では22%と高止まりした失業率を改善することにあります。

改正内容には、雇用を促進するため解雇や採用における企業側の裁量を拡大すること、また、1990年代に社会党政権が導入した週35時間の法定労働時間を超える労働について、超過勤務手当を削減する改革などが盛り込まれています。【3月10日 AFPより】

当然のように、労働組合及び高校生・大学生などの若者らは自分たちの権利を制約するものとして強く反対しています。

****労働法改定案に取り組む若き女性大臣****
「フランス人は働かない」「労働者天国」などの批判も生んでいる“元凶”が「有給休暇5週間」や「週35時間労働」などを規定した労働法だが、その改定法案が目下のところ国民の最大の関心事になっている。

その改定案を準備中なのが38歳のミリアム・エル=コムリ労働・雇用・職業教育・労使対話相だ。

改定案によると、「週35時間」は基本的に維持されるが、労使の合意によって最長「週46時間労働」まで容認されるほか、解雇する場合の賠償金の上限の規定や異動の拒否の制限など、従業員には不利な条件となっている。

労働法改定案の背景には、恒常的な約10%の高失業率の問題がある。その要因として、従業員に極めて有利な現行の労働法が指摘されていた。

日本でも正規の従業員を解雇するのは難しいが、フランスの場合、「1人を解雇するのに、労働法の専門家3人が弁護士とともに3年がかりでやっと成功する」といわれるくらい難行だ。その結果、正規の従業員の雇用には慎重にならざるをえず、従って失業率が改善されないというわけだ。

現行の労働法では、解雇するためにはまず文書にてどういう理由で解雇するかなどを事前に通告し、それから種々のやり取りが始まる。しかも仮に解雇が決まっても、従業員が解雇を不服として労働裁判所(prud'homme)に訴えれば、まず100%、従業員が勝訴し、企業は多額の賠償金を支払うことになる。(中略)

改定案では、労働裁判所に訴えた場合でも、賠償金の上限は20年以上の勤務者で給料の15カ月分、10~20年の場合は1年分、5~10年は9カ月分と規定される。

オランド政権は社会党が中心の左派政権だが、このところ限りなく右傾化しており、それが左派支持者からの強い反発を買っている。

今回もこの改定案に関しては、通常はオランド政権に批判的なフランス版経団連MEDEF(フランス企業運動)が諸手をあげて賛成する一方、CGT(フランス労働総同盟)やFO(労働者の力)など7大労組は当然ながら大反対という逆転現象が起きている。

7大労組はUNL(全国高校生団体)などにも呼びかけて、まず3月9日にデモを展開。改定法案が修正されない場合は、3月31日に大規模デモを展開する予定だ。反対署名も110万を超えており、国民の70%も反対だ。

こうした中、本来ならすでに閣議提出済みのはずの改定案が2週間延期され、3月23日に提出されることになったうえ、改正案の提出者であるミリアム・エル=コムリ労働相がラジオ・インタビューを受ける予定の朝、入院により急きょインタビューをキャンセルする事態も発生した。

昨年9月、前任のフランソワ・レブサメン氏がディジョン市長に就任し転出したため、彼女が都市政策担当相から労働相の後任へと昇格を果たした際には、驚きの声が上がった。若いうえ、ほとんど政治家としての経験もなかったからだ。労組との駆け引きやデモやストなどの難関をうまく乗り越えられるのか、大いに危惧された。(中略)

インタビューをドタキャンしたのは浴室で転倒したからだとか。「何があったのか明確にせよ」(リベラシオン紙)などの声も聞かれる。果たして労働改定法案を無事に可決させることができるかどうか。【3月17日 France News Digest】
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“このところ限りなく右傾化”しているオランド大統領としても、労働法に踏み込むというのは相当に覚悟してのことでしょう。

「有給休暇5週間」に「週35時間労働」・・・・日本も以前からすれば時短が進んできたとは言え、やはりうらやましい内容でもあり、「働かずに雇用だけ守れと言われても・・・」といったやっかみ半分の批判もでます。

なお、今回改正は「週35時間労働」の基本は維持するもののようですが、「週35時間労働」そのものについては“(フランス)労働省の調査によれば、1998年から2004年までに週35時間労働制の恩恵で新たに35万人が雇用された”【ウィキペディア】とのことです。

また、“フランスでの出生率は2000年に初めて増加した。7年後の現在もそのブームは継続しており、35時間労働が一つの要因だとされている”【ウィキペディア】という社会的側面もあるようです。

オランド政権の狙いはともかく、条件が不利になる労働者側には切実なものがあります。

****仏全土で労働法改正への抗議デモ 残業手当カットなどに反対****
フランス各地で9日、高校生・大学生や労働者たちが労働法の改正案に抗議する数十万人規模のデモを行い、支持率低下に苦しむフランソワ・オランド大統領と与党・社会党に圧力をかけた。(中略)

政府は若者を支援する法案だと主張しているが、若者らは将来がさらに不安定になりかねないとの懸念から強く反発している。(中略)

フランスでは失業率が10%を超え、若者に限ると25%近くが失業している。パリのデモに参加した情報通信(IT)を専攻する学生(21)は、「ばかげた法案だ。夜間勤務に解雇の乱用…よりによって社会党がこれを提案するなんて」と憤りを口にした。

また、歴史学専攻の別の学生(20)は、「多くの学生と同じく、私も学費のために働いている。法改正が行われると、もっと長い時間働かなくてはならなくなる。いつ勉強したらいいの」と訴えた。

「現実には、週35時間しか働かない人なんていない。生計を立てるには週40時間以上は働く必要がある。この法律ができたら、いったい何時間になることか」

法案に反対するオンライン請願には100万人を超える署名が集まり、世論調査では10人中7人が改正に反対だ。

オランド大統領は8日、「若者らの雇用の安定を高めたい」と改めて述べつつ、企業側に採用を増やす機会を与え、柔軟性を提供することも必要との認識を示した。【3月10日 AFP】
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本筋からはそれますが、抗議デモに対する警官の対応のまずさも、抗議行動を刺激しています。

****警官による少年の暴行動画に非難相次ぐ、若者が警察署を襲撃 フランス****
フランス・パリで25日、学生らによるデモに参加していた少年が警官から暴行を受けている動画が拡散し、非難が相次ぎ、一部の若者が警察署を襲撃するような暴力的な抗議行動をする騒ぎがあった。

動画は、24日にパリで行われた労働法改正案に反対する学生らのデモの最中、参加していた15歳の少年が2人の警官に身体をつかまれ、1人から強く殴られる様子を捉えている。

少年は数人の警官に囲まれて倒れているところを、警官の1人から立ち上がるよう大声で指示され、その後殴られている。

少年は地元メディアに対し、「卵を投げるなどの抗議行動をしていたら、1人の警官に襲われて倒れた。その警官から『立て、立て』と言われれ、それから殴られた。目まいがしていた」と語った。

ベルナール・カズヌーブ内相とパリ警視庁のミシェル・カド総監は、動画について「ショッキング」だとコメントした。

動画の内容に対し、一部の若者はパリ市内の2か所の警察署に投石したり、催涙ガスを噴射するなどして怒りをあらわにした。

AFPの記者によると、うち1か所では窓の強化ガラスを若者らが木材でたたき壊そうとしたり、「警官に死を」と落書きしたりした若者もいた。

労働法改正案に対する学生の抗議デモは24日にフランス全土で行われ、パリ市内では車への放火や、デモ隊と機動隊との衝突があった。機動隊は催涙ガスを噴射し、30人以上を逮捕。警察側も2人が負傷した。【3月27日 AFP】
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農民の反乱も 自己主張の強い“お国柄”はあるものの、経済全体の苦境も
もともとフランスという国は、自らの権利の主張については、日本などと比べて非常に強い印象があります。

労働組合や学生だけでなく、農民・酪農家もしばしば抗議行動を起こしており、それも単にデモるだけでなく、腐った野菜をばらまいたり、豚を走らせたり、あるいは道路を封鎖するなど過激なものが報じられています。

****仏パリで農家が大規模デモ、トラクター1500台で道路封鎖****
フランスの首都パリで(2015年9月)3日、全国から集まった農家数千人が1500台以上のトラクターで道路を封鎖し、農作物の価格下落や経費急増が生活を苦しめているとして、政府に新たな支援を求めた。

農家らはここ数か月にわたり、主要都市を封鎖したり、肥料や腐った野菜を道路に遺棄したり、豚をスーパーマーケットの通路に走らせたりする抗議活動を展開してきた。

政府は7月、税金免除など6億ユーロ(約800億円)の金融支援策を発表したが、農家らは不十分と反発していた。

今回の抗議活動を受け、マニュエル・バルス首相は3日、環境保護のための規制における「配慮」や、経営不振農家に対する債務返済免除など8500万ユーロ(約114億円)の緊急追加支援策を約束した。

フランス人のアイデンティティーは、農地をめぐる地域性「テロワール」や、その土地で生産される高品質の農作物に密接に結びついており、世論調査によるとこうした抗議活動は一般から強く支持されている。【2015年09月04日 AFP】
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クリミア問題での対ロシア制裁の報復として、ロシアが輸入禁止措置をとったことで農産物価格低下が加速されている事情もあり、ロシアメディアなど「それみたことか・・・」といった感じです。

世論はこうした抗議運動には比較的寛容で、労働法改正についても、前出【3月10日 AFP】では約7割が政府案に反対しているとのことです。

ただ、【4月1日 NHK】では、“最新の世論調査では58%が改正案に反対”ということですから、やや世論も政府案容認が増えているというようにも見えます。

組合・学生にしても、農民にしても、抗議行動が強烈なのは権利主張が強い“お国柄”でもありますが、基本にはフランス経済が置かれている苦境があるのでしょう。

オランド大統領としては、テロ関連の罪で有罪となった者からフランス国籍を剥奪する内容を含む憲法改正を断念する事態に追い込まれたばかりで、更に労働法改正でも躓く事態となると、もともと低支持率のオランド政権ですが、いよいよ求心力を失うことになります。

地球規模で眺めると・・・
東欧などから多くの移民を呼び込むほどに、フランスよりは経済好調なイギリスですが、そのイギリスでも大きな雇用問題が報じられています。

****タタ撤退計画で英鉄鋼業界に激震、EUの規制も影響****
インドの鉄鋼大手タタ・スティールがイギリスからの全面撤退を検討していることが明らかになり、衝撃が広がっている。何千人もの従業員の解雇が予想され、イギリスの鉄鋼業界全体が大打撃を受けかねない。

タタの発表によると、サウスウェールズ地方にあるイギリス最大の製鋼所ポート・タルボット工場の再建計画は、インド・ムンバイで行われた取締役会で「コストがかかりすぎる」として却下された。

世界的な鉄鋼需要の減少で鉄鋼業界では過当競争が激化している。鉄鋼需要はますます低下の一途をたどる見通しだ。

全面撤退なら1万5000人規模の雇用喪失
ポート・タルボットの再建断念は、ロザラム、コービー、ショットンなどイギリス各地にあるタタのプラントにも影響を及ぼすだろう。タタが全面撤退すれば、ざっと1万5000人分の雇用が失われ、工場のあった町の景気も冷え込みかねない。昨秋にはタイの鉄鋼大手サハウィリアがイギリス北東部ティーズサイドのプラントを閉鎖、2200人分の雇用が失われたばかりだ。(後略)【3月31日 Newsweek】
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タタのイギリス撤退は、中国からの安い鋼材流入が直接の原因とされています。

フランスに限らず、欧州全体、あるいは日本も含めて、経済が飽和状態に達したような先進的な国々で、これまでに築き上げてきた豊かさを維持するのが次第に困難にもなってきています。

話を一気に飛躍させて地球規模で眺めるなら、豊かさが特定地域に偏っている状態から、労働力の移動(移民)や、生産拠点の移動、貿易自由化による生産地域の変動によって、富が平均化していくこと自体は自然な流れに思えます。

問題は、その流れの中で調整を余儀なくされる国や人々の負担をいかに軽減していくか・・・という話になりますが、そこは各国政府の力量と国民の意識の問題でしょう。

セミ・リタイアして、労働市場で自分を叩き売る必要もなくなった気楽さからの言い様ではありますが。
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