孤帆の遠影碧空に尽き

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G7外相会合  広島で資料館訪問・慰霊碑献花 「謝罪」にナーバスなアメリカ ケリー長官は感銘も

2016-04-12 22:50:03 | アメリカ

(広島の平和記念公園を訪れ、原爆死没者慰霊碑に献花したのち写真撮影に臨む松井一實・広島市長、モゲリーニEU外交安全保障上級代表、G7各国外相、湯崎英彦・広島県知事【4月11日 AFP】)

現実世界において微妙な立ち位置にある日本からの「核なき世界」に向けたメッセージ
4月11日、広島市で開かれていた先進7か国(G7)外相会合に参加した、原爆投下国であるアメリカのケリー国務長官のほか、核保有国である英仏外相などG7外相らは岸田外相ともに、平和記念公園内の広島平和記念資料館(原爆資料館)を参観、原爆死没者慰霊碑に献花しました。

****核のない世界へ「広島宣言」採択 G7外相会合が閉幕****
広島市で開かれていた先進7か国(G7)外相会合は11日午後、「核兵器のない世界」の実現を呼び掛ける「広島宣言」を採択し、閉幕した。北朝鮮の挑発行為が実現に向けて重要な課題だとしている。

G7外相らが市内の平和記念公園で原爆死没者慰霊碑に献花したのちに取りまとめた広島宣言は、「国際的な安定を促進できるように、全ての人にとってより安全な世界を目指すこと、核兵器のない世界に向けた条件を整えていくことを再確認する」と強調。「この課題はシリアやウクライナ、とりわけ挑発を繰り返す北朝鮮などの治安状況の悪化によって、より複雑となっている」とも述べた。

一方、共同声明では、米国が主導するイラクとシリアでのイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」との戦いに対する支援を「強化・加速する」ことを確約。「テロリズムは世界の安全保障上の喫緊の脅威であり、国際的な協調と結束した対応が必要だ」と述べ、G7としてテロ対策行動計画を作成する方針を表明した。【4月11日 AFP】
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昨年の国連における核廃絶に向けた取り組みおいて、核禁止決議案に対し「核の傘」入る日本は棄権するとか、指導者らの被爆地訪問なども盛り込んだ日本提案の核兵器廃絶決議に対し米英仏が棄権するなど、核廃絶をめぐる日本の立ち位置がやや不透明になりつつあるなかで、改めて唯一の被爆国として立場から核兵器の悲惨さをアピールする機会となったことは評価すべきと思います。

****核禁止決議案を採択 「核の傘」入る日本は棄権 128カ国が賛成****
国連総会第1委員会(軍縮)は2日、核兵器の使用禁止と廃絶に向けた法的枠組み作りへの努力を呼び掛ける決議案を賛成多数で採択した。日本は被爆国でありながら、米国の「核の傘」の下にあることから、棄権に回った。

採決では128カ国が賛成し、米国、英国、フランス、ロシアを含む29カ国が反対した。中国など18カ国は棄権した。

決議案は、オーストリアなどが提案。いかなる条件下においても核兵器が2度と使われないことが「人類にとって利益だ」と強調し、核保有国に対し、危機を減らすための具合的手段を講じるよう求めている。

日本の佐野利男軍縮大使は棄権の理由について、「(決議は)核兵器の保有国と非保有国が協力し、現実的な核軍縮を進めるべきだという日本の立場とは整合性がとれない」と指摘した。【2015年11月3日 産経】
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****米英仏、一転棄権 日本の核廃絶決議案 国連委採択****
国連総会の第1委員会(軍縮・安全保障)は2日(日本時間3日)、日本が提出した核兵器廃絶決議を156カ国の賛成で採択した。だが、昨年まで共同提案国だった米国、英国に加え、昨年は賛成したフランスも棄権。中国が反対するなど核保有国の賛成は得られなかった。

 ■「非人道」強調に警戒感
日本は被爆70年を機に「核保有国と非核保有国の橋渡し役」(岸田文雄外相)として、核廃絶に向けて国際社会で主導的な役割を果たそうとした。核保有国の棄権や反対は、こうした日本の狙いが行き詰まったことを意味する。

日本の核廃絶決議採択は1994年以来、22年連続。今年は初めて「Hibakushas(被爆者たち)」という表現を使って世界の指導者らに被爆地訪問を促し、核の非人道性を強調した。一方、廃絶時期を示さない穏健な内容で、米国など核保有国の賛同も目指した。

日本外務省が特に衝撃を受けているのは、同盟国・米国の棄権だ。米国は「核なき世界」を提唱するオバマ政権になった2009年以降、毎年、共同提案国に加わっていたためだ。

米国などが棄権に回った背景には、日本の決議案が核の非人道性を強調する内容を含んでいたことがある。
今年5月に核不拡散条約(NPT)再検討会議が決裂した後、一部の非核保有国は核の非人道性の認識をテコに「核兵器禁止条約」の実現に動いている。米国など核保有国には、それに強い警戒感があり、日本の決議案への賛同に消極的になった可能性がある。

一方、中国は原爆被害について「日本が仕掛けた侵略戦争の直接の結果だ」とした。日本の佐野利男軍縮大使は採決後、「(核保有国と非核保有国とに)核軍縮の進め方について立場に大きな隔たりがある」と記者団に語り、目算が外れたことを認めた。

 ■日本の核廃絶決議(骨子
・すべての国が核兵器の全面的廃絶への共同行動をとるとの決意を新たにする
・核保有国に透明性を向上する努力と、核軍縮に関する頻繁で詳細な報告を促す
・指導者らの被爆地訪問など、核の非人道的影響の認識を広げる取り組みを促す【2015年11月4日 朝日】
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【「謝罪」ととられることに神経質なアメリカ
原爆投下国アメリカの現職の国務長官が、被爆地の慰霊の行事に出席するのは、初めてのことになりますが、アメリカ側には今回の慰霊碑献花が「謝罪」ととられるのは国内的に困るということで、微妙な空気もあったようです。

****謝罪なし、日米の思惑 広島初訪問と宣言を優先 G7外相会合****
・・・・(ケリー長官は)慰霊碑への献花に先立って行われた日米外相会談では「今回の訪問は過去についてではなく、現在や未来に対するものだ」と強調。

自らの訪問を日米の「和解」の象徴と位置づけつつ、米政府高官は「ケリー氏の広島訪問は謝罪のためかと言われれば、答えはノーだ」と語り、実際、ケリー氏も献花の際などに頭を下げることはなかった。

米国内では、原爆投下が戦争を終結させ、米国民の命を救ったとの見方が根強い。謝罪には踏み込まず、広島から世界に「核なき世界」の重要性を発信する――。ケリー氏の訪問から、そんな米側の姿勢が浮き彫りになった。

一方の日本側。「核兵器なき世界に向けた国際的機運を再び盛り上げる歴史的な一歩になった」。岸田外相は会見で、外相らによる資料館の見学や献花の実現に胸を張った。

広島市で外相会合が開かれることが決まったのは昨年6月。核保有国の米英仏を含む各国外相と共に平和記念公園を訪問できないか。最初に可能性を探ったのは地元選出の岸田氏で、外務省幹部に調整を指示。

だが、各国との調整で、非核保有国が比較的早期に前向きな姿勢を示したのに対し、「最も神経をとがらせたのが米国だった」と同省幹部は明かす。

献花した慰霊碑には「過ちは繰返しませぬから」とのメッセージが刻まれているが、英訳の際、外務省がその碑文の主語を「『WE=人類』であって、決して特定国を指すものではない」と各国に説明。

資料館訪問では当初、米が国内世論の反発を気にして、熱線で体が焼けただれた人々の写真などとケリー氏が一緒に写りこむことに警戒感を示したが、協議の末、報道機関の館内撮影を制限することで決着した。

米に謝罪を求めるより、原爆投下国と核保有国の閣僚の広島訪問を実現し、被爆の実態を知ってほしい。そんな日本の狙いと、「謝罪」に踏み込みたくない米の思惑が一致。5月末のG7首脳会議(伊勢志摩サミット)で訪日するオバマ米大統領の広島訪問への布石が打たれた。

「すべての人が広島を訪れるべきだ。いつか米大統領も『すべて』の一人になることを願っている」。会見でこう語ったケリー氏は、断定的な表現を避けながらも、笑みを浮かべた。(後略)【4月12日 朝日】
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「過ちは繰返しませぬから」にしても、「謝罪」にしても、日本国内にも異論は(しかも非常に強固な異論が)多々あるところですが、多くの日本人の素直な捉え方としては、広島・長崎の悲劇は戦争に突き進んだ日本も含めて責任を負うべきものであり、今の段階で敢えてアメリカの謝罪云々にこだわるよりは、今後の核軍縮に向けて広島・長崎の悲劇が少しでも役立つならそれはそれで・・・といったところで、今回のG7外相の広島訪問についても大きな違和感はないのでないでしょうか。

オバマ訪問には高いハードルも ただ、ケリー長官は個人的には深い感銘を
今後の話としては、「核なき世界」を掲げるアメリカ・オバマ大統領にも被爆地訪問を・・・ということになりますが、上記のようなアメリカ国内の雰囲気としては難しいものがあります。

今回のケリー国務長官の広島訪問・慰霊碑献花は、アメリカ国内メディアにあっては、基本的には「スルー」だったようです。
とりあげたメディアも、オバマ大統領の訪問についてはナーバスにもなっているようです。

****ケリー広島献花」を受け止められなかったアメリカ - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代****
今週11日、G7外相会議で広島を訪れたアメリカのケリー国務長官は、G7外相の一員として広島の原爆死没者慰霊碑に献花しました。また前後して、原爆資料館も見学しています。しかしこのニュース、アメリカの各メディアから基本的にスルーされました。

日米の時差を考えても、アメリカの11日朝のニュースや朝刊には間に合わせようと思えばできたはずです。しかし朝の時点での扱いはほぼゼロでした。その代わり、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどは日中になって電子版で論評を出しました。(中略)

ケリー長官は資料館見学について 「gut-wrenching」 つまりこの場合の訳としては「魂がねじれるような」経験だったと述べています。このコメントについては、私は誠実なものだったと思います。

しかしながら現時点では、アメリカはこの「ケリー献花」という「事実」を受け止めきれていません。メディアが取り上げなかったということ、またケリー長官のコメントを補足する形で、国務省から「今回の献花は第二次大戦全体の犠牲者への追悼である」という「見解」が出たということは、要するにそういうことです。

この点についてニューヨーク・タイムズは、興味深い掘り下げ方をしています。

ジョナサン・ソーブル記者は、ケリー長官の献花を、オバマ大統領の広島献花につなげることが「可能か?」という一点にほぼ絞って分析をしています。そこで日米関係の専門家として、東京財団の渡部恒雄さん(ナベツネさんではありません。民主党の政治家だった渡部恒三さんのご子息です)から「日本人の多くはオバマ大統領が広島に来れば、仮に謝罪の言葉がなくても暖かく迎えるであろう」というコメントを取っています。

一部からは批判も出るかもしれませんが、これは渡部さんのグッド・ジョブだと思います。ですが、ソーブル記者の記事の全体は、オバマ大統領が広島に行くことの是非について、何とも神経質に過ぎる書き方をしていて、とても気になります。

一方でワシントン・ポストのキャロル・モレーロ記者の記事は、G7外相会議の位置づけとして「核拡散防止」というテーマがあったことなど、「ケリー献花」がどのような位置づけで行われたのかを正確に説明する記事で好感が持てました。

興味深かったのは、記事がトランプの「アメリカによる韓国と日本の防衛責任を放棄させる代わりに、両国に核武装を認める」という発言を意識して書かれていたということです。

岸田外相がこのG7外相会議の会見で、このトランプ発言を踏まえての質問に対して「日本は核武装の意思なし」ということを明確にしたことを含めて、トランプの発言がこのG7での「核拡散防止」の努力から見て「ズレまくっている」ことを訴えようとしていました。(後略)
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アメリカとしての立場はともかく、ケリー国務長官は個人的には感銘を受けたようで、オバマ大統領にも訪問を働きかけるとしています。【4月12日 Newsweek】

****オバマ氏、広島訪問を本格検討 ケリー氏「訪れるべき****
広島を初訪問しているケリー国務長官は11日、主要7カ国(G7)外相会合後の会見で「すべての人が広島を訪れるべきだ」と語り、オバマ大統領が広島を訪問することに前向きな姿勢を示した。

オバマ政権は5月のG7首脳会議(伊勢志摩サミット)に合わせたオバマ氏の広島訪問に向け本格的な検討に入っており、ケリー氏訪問後の米国内外の反応を見た上で最終判断する方針だ。

ケリー氏は同日午前11時ごろから約50分間、岸田文雄外相らG7外相とともに、平和記念公園内の広島平和記念資料館(原爆資料館)を参観。原爆死没者慰霊碑に献花した後、自ら提案し、同公園内の原爆ドーム近くにも足を延ばした。その後、自身の公式ツイッターに、「原爆資料館と平和記念公園を訪れた最初の国務長官になって光栄だ」と書き込んだ。

ケリー氏は、資料館の芳名録に「世界のすべての人が記念館の力強さを見て、感じるべきだ」と記載し、ツイッターで写真を公開。

記者会見で、「いつか米大統領もその『すべて』の一人となり、ここに来られることを願っている」と語った。米国に帰国して週内にオバマ氏と会い、「ここで見たこと、そしていつか(オバマ氏が)訪問することがいかに重要かを確実に伝える」とも強調した。

ただ、5月の訪日時に広島を訪問するかは日程調整の問題もあり、「わからない」と述べるにとどめた。【4月12日 朝日】
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なお、核保有国のフランスの外相として各国の外相と共に被爆地・広島を初めて訪問し、原爆資料館などを視察したフランス・エロー外相も、「戦争がもたらす悲惨さを実際に知り、肌で触れて、世界の平和のためにどのような貢献ができるのか改めて考えるよい機会となった」と述べています。単なる外交辞令でないことを願います。

核使用を軽々に扱うような昨今の風潮への歯止めとして
もちろん、現実世界は核兵器があふれ、北朝鮮のように核保有に突き進む国もあります。
日本にしても、アメリカの「核の傘」のもとで安全保障を確保しているのが現実です。

仮に、オバマ大統領が被爆地を訪問したとしても、そうした現実がすぐにどうこうなるものでもありません。

*****進まぬ核軍縮=なお1万5800発が存在****
11日まで広島市で行われた先進7カ国(G7)外相会合は被爆地で初めての開催となる機会を利用し、核軍縮・不拡散に向けた「広島宣言」を発表した。

世界の核軍縮をめぐっては、核拡散防止条約(NPT)上の核保有国である米英仏ロ中の5カ国の核放棄に向けた動きが停滞し、1月には北朝鮮が4回目の核実験を行うなど現状は厳しさを増している。「核なき世界」への道は依然険しい。

世界の核兵器保有国は米英仏中ロにインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮を含めると9カ国。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、2015年1月時点で世界には約1万5800発の核弾頭が存在し、うち90%程度を米ロが保有。中国は14年から10発増えて260発、北朝鮮は6〜8発を保有しているとみられている。

「核なき世界」を唱えるオバマ米政権は10年にロシアとの間で核軍縮条約「新START」に調印。両国は履行を進めているが、ウクライナ情勢をめぐる関係の悪化で、一層の削減に向けた新たな交渉が開始される見通しは立っていない。

1996年に成立した包括的核実験禁止条約(CTBT)は米中やイスラエルなどが未批准のため、発効できていない状態だ。【4月11日 時事】 
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そうした現実はあるにしても、核のボタンを押すということがどういうことを意味しているかを訴える日本からアピールが、「イスラム国」(IS)の掃討作戦について「核兵器が最後の手段だ」と述べ、大統領に就任すれば戦術核兵器の使用も否定するつもりはないと語り、また、「どんな状況であろうと、必要と有れば、たとえ攻撃する場所が欧州であったとしても核を使用する積りだ」と発言、更に、日本・韓国の核保有も容認するような発言を行うアメリカ大統領候補トランプ氏(正直と言えば、正直ですが)に見られるような、核兵器をあまりに軽々に扱うような昨今の風潮へのひとつの歯止めになることは期待されます。 
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