孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  強い権限の「国家親衛隊」を新設  「第3勢力」としての民族主義勢力の台頭

2016-04-08 22:03:24 | ロシア

(2013年の、民族主義者や右翼団体による示威行動「ルースキイ・マルシ(ロシア行進)」参加者  「ルースキイ・マルシ」は毎年11月4日の国民統一の日にあわせ実施されます。 モスクワ警察報道部の発表では、この年の行進には約8千人が参加、「マスクの着用、軽微な社会秩序紊乱、ナチスのスローガン連呼、鍵十字など禁止されたシンボルの使用といった罪で、およそ30人が拘束された」とのこと。【2013年11月4日 ロシアの声】
警察発表で8千人なら、結構な動員力です。)

新たな治安機関「国家親衛隊」を新設で国内不安定化に備える
ロシア・プーチン大統領の国内支持率の驚異的な高さは依然ゆるぎないものがあります。

****プーチン大統領の3月の支持率は82パーセント****
ロシア大統領としてのプーチン大統領の活動に国民の82パーセントが満足しており、17パーセントが満足していないことが分かった。ロシアの世論調査機関「レヴァダ・センター」が発表した。

また世論調査では、最も信頼している政治家や社会活動家の名前を挙げるよう求められた。
1位は、60パーセントの回答者が名前を挙げたウラジーミル・プーチン大統領(2月に実施された世論調査では55パーセントだった)。

2位は、29パーセントのロシア人が名前を挙げたセルゲイ・ショイグ国防相(2月は26パーセント)。3位は、27パーセントのセルゲイ・ラヴロフ外相(2月は22パーセント)だった。

ロシアの政治家を誰も信じていないと答えた回答者は9パーセントで、11パーセントの回答者が政治には興味がないと答えた。【3月31日 SPUTNIK】
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一方で、プーチン大統領は国内軍や特殊部隊を一体化した新たな治安機関「国家親衛隊」を新設し、国内不安定化に備えるとか。

****露大統領>直属の「国家親衛隊」新設 40万人規模****
ロシアのプーチン大統領は、国内で治安維持やテロ対策にあたる大統領直属の新たな治安機関「国家親衛隊」を新設する。6日に法案が公表された。

内務省傘下にあった国内軍や特殊部隊を一体化させ、40万人規模の武装組織とする。世界的な原油安や米欧の対露制裁で経済が悪化する中、国内の不安定化を阻止する狙いがあるとみられる。

法案によると、親衛隊には容疑者拘束や家宅捜索、広場封鎖などの広範な権限が与えられ、非常時には私有車を接収することも許される。必要があれば妊婦や障害者、子供を除いた相手への発砲も可能だ。

プーチン氏の「忠臣」とされるゾロトフ元大統領保安局長が長官に選ばれ、重要政策を話し合う安全保障会議の常任メンバーにも抜てきされた。

新たな治安機関の狙いについて、プーチン氏は「テロや組織犯罪、違法な麻薬取引への対応力を向上させるため」と説明する。

一方、2011年の下院選後に全国で大規模な不正抗議デモが起きたことが、親衛隊創設につながったとの見方も根強い。隣国ウクライナでは14年に反政府デモが政権崩壊を導いた。今年9月に再び下院選が迫る中でプーチン政権には警戒感がある。【4月8日 毎日】
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「国家親衛隊」新設は、上記記事にもあるように、ウクライナのように反政府勢力でも政権が崩壊するような事態を警戒しての措置と見られています。

****プーチン、新しい親衛隊創設で反政府デモに備え****
逮捕状なしで容疑者を拘束

ロシアでは国内の暴動などに対応する内務省軍に加え、ロシア連邦保安庁(FSB)と国境警備隊が治安維持に当たっている。さらに、チェチェンなど連邦内の共和国や自治州・自治管区の一部も内務省内に重武装の治安部隊を抱えている。

国家親衛隊はこれらすべての機関と連携して治安維持に当たり、特に連邦政府の要人と重要施設の警護を担当する。逮捕状なしで3時間まで容疑者を拘束でき、家宅捜査を行え、公共のスペースや施設を閉鎖できるなど、特例的に多くの権限を持つ。

議会に提出された関連法案には、隊員は人命に危険が及ぶと判断した場合、事前の警告なしで銃を発砲できると明記されている。

プーチンは自身の警護を長年務めた側近ウラジーミル・ゾロトフを国家親衛隊の指揮官に任命、併せて国家安全保障会議のメンバーに加えた。

クレムリンは、過激派のテロやロシアに対する軍事的な攻撃を防ぐ強力なツールになると創設の意義を説明しているが、市民の抗議を圧殺する機関と見て警戒する声は多く、ソーシャルメディアではさまざまな憶測が飛び交っている。

反政府派の懸念をさらにかきたてたのは、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官の発言だ。国家親衛隊の任務は「社会秩序の維持」で、必要な場合は「違法な」抗議デモの鎮圧にも当たると、ペスコフは明言した。

反体制ブロガーで、反政府派のシンボル的存在でもあるアレクセイ・ナバリヌイは皮肉なトーンでこうツイートした。「素晴らしい。彼らには捜査権も監督権も監視権も何でも与えよう。どうせなら宇宙全体に目を光らせてもらおう」

かつてプーチンの政敵として知られたミハイル・ホドルコフスキー率いるオープン・ロシア財団(本拠ロンドン)は声明を発表。創設の真の目的は、反政府デモの鎮圧だと指摘した。

テロ対策などには既存の治安機関で十分対応できるはずで、プーチン政権が必要としているのはウクライナの首都キエフで起きたような反政府デモの広がりを封じるツールたというのだ。

ロシアの議会で堂々とプーチンを批判するただ1人の野党議員として、幅広い支持を集めているドミトリー・クドコフ議員は、経済の低迷で国民の不満が噴き出すなか、プーチンは政治的な保身のために強固な軍隊を必要としているとフェイスブック上で分析し、こう結論付けた。「これは国家を守る部隊ではない。プーチン個人の親衛隊だ」【4月7日 Newsweek】
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民族主義勢力 政権と反政府リベラル派に並ぶ「第三勢力」】
確かに、プーチン大統領はウクライナだけでなく、かつての「カラー革命」などを含めた、かつてのソ連圏における政変を、欧米に後押しされた反政府勢力よるクーデターとして捉え、かねてより強く批判・警戒してきました。

今回の「国家親衛隊」新設もそういう流れに沿うものということですが、ただ、昨今のロシア内においては、いわゆる民主派・反プーチン勢力は全く力を失っています。

経済状況の悪化という不安要因を加味しても、これまでもロシア治安機関は強い権限と大きな規模を有しており、新たな治安機関を必要とするような状況にも思えない・・・・という不思議な感もあります。

ただ、「反プーチン」の危険性は民主派・リベラル勢力だけではないとの指摘があります。

****ロシア「民族主義」の危険な台頭****
地下で爪研ぐ反政府「戦闘集団」
「私はテロリスト。ロシア人はこうして絞首刑になる」。モスクワ北西部の地下鉄駅近くで二月末、中央アジア・ウズベキスタン出身のベビーシッターが切断した女児の頭部を振り回しながらこう叫び、自爆を警告しながら徘徊する事件が発生した。その猟奇性もさることながら、奇妙だったのは、主要テレビ局がこの事件について全く報じず、沈黙を貫いたことだった。

クレムリンは「テレビ各社の判断であり、それを支持する」との公式コメントを発表。しかし、ロシアの主要テレビ局はプーチン政権の完全な統制下にあり、これまで暴力や流血を報じることには全く躊躇してこなかった。複数の関係者は「この事件によって民族の問題に関心が集まることを警戒し、クレムリンが報道を禁じたのだ」と明言する。

クレムリンがかくも「民族問題」を恐れるのは、外国人労働者や少数民族を敵視するロシア民族主義者が地下での戦闘準備に力を入れており、その刃が政権に向けられかねないためだ。

ロシア民族主義者は、ウクライナ東部(ドンバス)での政府軍と親露派武装勢力の紛争に熱狂し、親露派側に多くの義勇兵を送り込んだ。しかし、紛争が膠着し、ロシア自身の経済危機が深まる中で、今や実戦経験を積んだ「ドンバス帰り」が政権に批判の矛先を向けている。そうした状況で、民族主義者を勢いづかせるわけにはいかないというわけだ。

「破局の際には権力奪取を狙う
ロシア民族主義は、ソ連崩壊後、「諸民族の平等」を建前とした共産主義イデオロギーが衰退し、市場経済化で人の移動が自由になったのに伴って広がった。旧ソ連の中央アジアやロシア南部の北カフカスなど所得水準の低い地域から、モスクワなど大都市へと労働者が流入し、それだけ摩擦や衝突も起きるようになったためだ。

ロシア民族主義の伸長を印象づけ、政権を震え上がらせた事件は二〇一〇年十二月に起きた。あろうことかモスクワのクレムリン前で、民族主義を支持するサッカーファンの若者ら数千人が暴徒化したのだ。若者らは「ロシアはロシア人(民族)のものだ」などと叫び、カフカス地方出身とみられる通行人を襲撃するなどした。

若者らは、サッカーファンの一人がカフカス出身者との乱闘で死亡した事件の捜査に抗議し、民族主義団体の呼びかけで集結した。「当時は反政権のリベラル派がせいぜい数百人のデモしか行えないような時期だった。民族主義者が何千人もの若者を動員したことにクレムリンは大きな衝撃を受けた」と政権に近い筋は振り返る。

大規模衝突は一三年十月にもモスクワで繰り返された。民族主義団体に煽られ、外国人排斥を叫ぶ数千人の住民が、出稼ぎ労働者を多く雇用する青果市場を襲撃し、計一千六百人が拘束された。同年九月のモスクワ市長選では、反政権派指導者のナワリヌイ氏が得票率二七%で二位につける健闘を見せたが、氏の民族主義的な発言が人気を押し上げた一つの要因とみられている。

ロシア民族主義は、一四年二月のウクライナ政変以降は鳴りを潜めた。クレムリンはウクライナで実権を握った親欧米派を「ファシスト」呼ばわりするプロパガンダを展開し、「ロシア系住民の保護・救援」を名目にウクライナに介入。民族主義者の敵意はウクライナの政権や欧米といった「外」に向けられ、出稼ぎ労働者などの問題は二の次になったのだ。

しかし、一五年二月にウクライナ東部紛争の和平合意が結ばれ、戦線が膠着すると状況は再び一変した。ロシアは昨年だけで実質平均月収が約一割も下落する経済低迷にあえいでおり、民族主義者の目が再び「内なる問題」に向けられているのだ。ウクライナ南部クリミア半島の併合と異なり、東部紛争は領土の拡張といった明確な結果をもたらさなかったため、民族主義者には「プーチンに見捨てられた」との感覚も広がっている。

東部紛争で親露派の「国防相」を務めた露民族主義者、ストレルコフ元指揮官は最近、リベラル派だけでなく、プーチン政権をも批判する民族主義運動団体を旗揚げし、「破局の際には権力奪取を狙う」と宣言した。元指揮官らは「政権は自壊のために全てのことをしている」とし、政権と反政権のリベラル派に並ぶ「第三勢力」と自らを位置づけている。著名民族主義者からは、昨年九月以降のロシアによるシリア空爆作戦について、「ドンバスを放棄し、シリアを支援するのは裏切りだ」との強い反発の声も上がっていた。

プーチン政権は民族主義者の脅威を認識し、親政権の立場を明確にしない団体や活動家をあの手この手で立件してきた。動向に詳しい在モスクワの専門家は「治安当局による民族主義者への圧力はかつてなく強まっている」とし、「経済危機で国民の間に抗議機運が高まりつつある中、クレムリンにとっては、リベラル派よりも、暴力志向の強い民族主義者の方が一層危険な存在なのだ」と説明する。

昨年は著名団体「ルースキエ」が過激派と認定されて活動を禁止され、ジョームシュキン指導者が訴追された。また、調査機関の集計によると、排外主義的な発言やインターネット上の書き込み、民族主義イベントへの参加呼びかけなど「言葉」だけで有罪とされた人は二百十一人にのぼり、少なくとも十四人が実刑判決を受けた。

武器も併せて流入
しかし、こうした治安当局による抑圧が、逆に「地下での戦闘準備を活発化させている」と前出の専門家は警鐘を鳴らす。「この二年間で、武器の扱いや戦闘訓練を指導する民族主義団体の『軍事スポーツクラブ』が急増した。もはやほとんどの有力団体がこうした活動を行っている」というのだ。

一例として、西部サンクトペテルブルクを拠点とする「帝国の軍団」は、「ロシアの現代男性にとって、戦士でないことは犯罪的な弱さだ」とし、「戦闘術を身につけることでロシア人(民族)をより強くすることを目的にする」とインターネット上でうたっている。

ロシア軍元将校や旧ソ連のアフガニスタン戦争経験者による指導を掲げ、定期的に森林内での軍事教練を行っている団体も多数あり、新たなシンパが続々と加わっている。「ドンバス帰り」が数万人とされ、武器も併せて流入していることを考えれば、民族主義者の危険性はゆめゆめ過小評価できない。

クレムリンは二〇〇〇年代半ば、政権派の官製青少年団体に民族主義者を引き込むなど、この勢力と連携する姿勢さえ見せていた。近隣のジョージアやウクライナで大規模デモから政権が倒壊するのを目の当たりにし、街頭で反政権派デモに対抗する勢力を必要としたためだ。地下で増殖する〝鬼っ子〟の暴発に怯えるプーチン政権の姿は、この意味で皮肉でもある。【選択 4月号】
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極右・民族主義勢力は「強いロシア」を誇るプーチン政権を支持する勢力かと思っていましたが、そうでもないようです。

確かに、ウクライナ東部において国際協調路線で不拡大方針をとるプーチン大統領に、極右・民族主義勢力が「裏切られた。義勇兵としていいように利用されたあげく見捨てられた」と感じても不思議ではありません。

この勢力が「反プーチン」を明らかにすれば、実戦経験が豊富で、武器も所有しているだけに、政権にとっての危険性は民主派・リベラル派の比ではありません。

プーチン政権が新治安機関創設を考え始めたのは、(外国勢力によって画策されたとプーチン大統領が考える)市民らによるウクライナ政変を目にしてのことでしょうが、現在のプーチン大統領の頭にある「敵」は、上記のような民族主義勢力の暴発かも。

【「パナマ文書」疑惑を否定
折りしも、「パナマ文書」でプーチン大統領周辺も騒がしい状況にあります。

****プーチン大統領「ロシアへの揺さぶり」 疑惑を否定****
各国の首脳などが租税回避地、いわゆるタックスヘイブンにある企業を利用していたことが明らかになった問題で、汚職疑惑が取り沙汰されているロシアのプーチン大統領は疑惑を否定し、「ロシアへの揺さぶりだ」と強く反発しました。

この問題は、いわゆるタックスヘイブンの国の1つ、パナマの法律事務所の文書が流出し、各国の首脳などがタックスヘイブンにある企業を通じて金融取り引きを行っていたことなどが明らかになったものです。

このうち、ロシアのプーチン大統領は、古くからの友人の音楽家がタックスヘイブンにある企業を通じて、およそ2200億円の金融取り引きを行っていたとされ、ロシアでは、大統領への賄賂を工面していたのではないかとして、疑惑の声が上がっています。

プーチン大統領は7日、メディアのフォーラムに出席し、この疑惑について、「いかなる汚職もない」と述べて否定しました。そのうえで、「ロシアを内部から揺さぶる試みだ。政権への不信感を社会に植え付けようとしている」と述べ、欧米が仕掛けた、いわゆる「情報戦」だとして強く反発しました。

一方、友人の音楽家については、保有する株式から得た利益などを外国での楽器の購入に充て、購入した楽器は国に寄付をする手続きを取っていると説明し、「このような友人がいることを誇りに思う」と述べて擁護しました。

ロシアでは、ことし9月に議会選挙を控え、プーチン政権は、大統領の友人を巻き込んだこの問題がどこまで広がるのか神経をとがらせています。【4月8日 NHK】
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相手が民主派・リベラル派だけなら、余裕の対応も可能でしょうが、民族主義勢力が「第3勢力」として反プーチンを明確にするとなると、プーチン大統領も“神経をとがらせる”のかも。
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