孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  習主席が党・政府、指導者・幹部への批判を歓迎する旨の発言 その真意は?

2016-04-20 22:41:18 | 中国

(天安門広場近くの土産物屋で毛沢東元主席の隣に置かれた習近平主席の肖像を貼り付けた皿 【3月11日 WSJ】)

【「百花斉放百家争鳴」再現か?】
権力を集中する習近平主席は、一般市民の圧倒的な支持を受けた汚職撲滅工作と同時に、非政府組織(NGO)、ブロガー、地下に潜んだキリスト教信者、人権弁護士、物議を醸すその他の活動家に対する取り締まりも進めてきました。
中国共産党・習近平政権による言論統制・批判封じは今更の話ですが、昨日、目を疑うような記事が。

****党・指導者批判は「歓迎」=ネット言論統制に変化?―中国主席****
新華社電によると、中国の習近平国家主席は19日、インターネット政策を討議する会議を開催し、「ネット上の善意から出た批判は、共産党・政府の活動を取り上げたものでも、指導者・幹部個人に対するものでも、また穏やかな意見でも耳の痛い忠告でも、われわれは歓迎し、真剣に研究して吸収しなければならない」と述べた。

習指導部は最近、党内の穏健な異論にも引き締めを一層強化し、内外で批判が高まっている。今回の習主席の発言はこうした批判を意識した可能性がある。ネット言論統制に変化があるか注目されるが、ネット上では改革派知識人らから「信じることはできない」と否定的な見方が出ている。【4月19日 時事】 
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これまで習近平政権の行ってきた言論統制を踏まえると、改革派知識人ならずとも「信じることはできない」ことです。

特に、中国共産党には“前科”があります。
1956年5月2日、毛沢東は最高国務会議で「共産党への批判を歓迎する」として、「百花斉放百家争鳴」を提唱しましたが、この方針に従って共産党を批判した者は、後に厳しく弾圧されることになりました。

****百花斉放百家争鳴*****
百花斉放百家争鳴(ひゃっかせいほうひゃっかそうめい)とは、1956年から1957年に中華人民共和国で行われた政治運動。中国語では百花運動とも呼ばれる。

「中国共産党に対する批判を歓迎する」という主旨の内容であり、これを受けて国民は様々な意見を発表したものの、百花運動の方針は間もなく撤回され、結局共産党を批判した者はその後の反右派闘争で激しく弾圧された。【ウィキペディア】
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毛沢東がどういう意図で「百花斉放百家争鳴」を提唱したのか、最初から批判者をあぶりだすつもりだったのか・・・については様々な見解があるようですが、結果としては批判者が弾圧されることになっています。

習近平主席もどういう意図で「党・指導者への批判を歓迎する」と言い出したのかは全くわかりませんが、うかつにのっかると、方針が撤回された後にひどい目にあう危険があります。

進む個人崇拝 「習氏は核心」「習主席にならえ」】
最近の中国では、大規模な腐敗・粛清運動によって習近平主席への権力集中が進むなかで、習氏への個人崇拝的な動きも出ています。

****習氏は核心」表現相次ぐ=地方指導者から、権力集中反映か―中国****
中国でこのところ、習近平共産党総書記(国家主席)を「党中央の核心」と位置付ける発言が地方の党指導者から相次いでいる。

胡錦濤前総書記は任期中の10年間、集団指導体制を崩さず、「核心」という表現は使われなかったが、習氏は党トップに就任してから権力集中を進めており、「核心」の表現は党内のこうした現実を反映したものとみられる。

中国共産党では、毛沢東、トウ小平、江沢民の歴代最高指導者は第1〜第3世代の「核心」と位置付けられたが、胡氏の場合は「胡錦濤同志を総書記とする党中央」と呼ばれた。

2012年11月に就任した習総書記もこれを踏襲したが、反腐敗闘争や軍の大規模改革で、党・軍での権力基盤を固めつつあり、昨年12月末の党重要会議では「党全体が中央に倣え」と強く指示した。

各地の党委員会機関紙などによると、四川省の王東明党委書記と天津市の黄興国党委書記代理が主宰した1月11日の会議はそれぞれ「習総書記という核心を断固守る」との姿勢を強調。15日に李鴻忠湖北省党委書記が主宰した会議は「習総書記は党中央の指導の核心だ」とさらに踏み込んだ。

14日には首都・北京市の郭金竜党委書記も「いかなる時より強い指導の核心を必要としている」と述べるなど、地方トップが習氏への「忠誠」を競い合っている状況だ。【2月1日 時事】 
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****習主席にならえ」=進む個人崇拝、異論を封鎖―「文革悲劇忘れるな」と懸念・中国****
(3月)5日に開幕した中国全国人民代表大会(全人代=国会に相当)の冒頭、李克強首相は政府活動報告で「政治意識、大局意識、核心意識、一致意識を強める」よう求めた。

「核心意識」とは習近平共産党総書記(国家主席)が「党中央の核心」、「一致意識」とは「習氏にならえ」という意味だ。

習氏への「個人崇拝」が進み、批判的な異論は封じ込められる。今年は、多くの市民が命を失った文化大革命が始まって50年の節目。改革派知識人は「文化大革命の悲劇を忘れてはいけない」と懸念を強めている。(後略)【3月6日 時事】 
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権力集中・個人崇拝・言論統制への批判も
こうした権力を集中し、批判を封じ込めるような習主席の動きに対する強い不満・警戒も存在します。

3月には、「権力を自らに集中しすぎて、混乱を招いている」と習氏を批判し、辞任を求める公開書簡がネット上に流れ話題となりました。

****習氏の辞任求める書簡、波紋呼ぶ 失踪情報相次ぎ拘束も****
中国で習近平(シーチンピン)国家主席の辞任を求める公開書簡がネットに流れた騒動が波紋を呼んでいる。

中国の政治や社会の改革を促す発信を続けてきたジャーナリストの賈葭(チアチア)氏(35)が失踪後に当局に拘束され、この件にからんでいるとの見方が強まる。他にも複数の失踪情報が報じられ、騒ぎは広がりを見せつつある。

書簡は今月(3月)4日、新疆ウイグル自治区政府系のニュースサイト「無界新聞」に掲載された。「忠実な共産党員」の名前で、「権力を自らに集中しすぎて、混乱を招いている」などと習氏を批判し、辞任を求めた。

すぐに削除されたが、中国で政府系のサイトにこうした内容が載ることは異例。ハッキング説や内部の関係者が意図的に掲載した説などがあり、掲載に至った経緯は不明だが、国会にあたる全国人民代表大会(全人代)の開幕直前だったこともあり、内外で波紋を呼んだ。

一部の香港紙は21日、事態を重く見た当局が100人態勢の調査チームをつくり、無界新聞の関係者ら数人の消息がわからなくなっていると報じた。賈氏と同様、公安当局に拘束されている可能性がある。【3月21日 朝日】
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賈葭氏はその後、無関係だったとして釈放されていますが、“英BBCは、書簡を掲載したニュースサイト「無界新聞」の責任者や編集者、IT関係の職員らこれまでに20人が連行されたと報じた。(中略)さらに、25日には米ニューヨーク在住で、書簡についてネット上で論じた民主活動家の北風(本名・温雲超)氏が、広東省に住む両親と弟が22日に当局に連行されたと公表した。”【3月28日 朝日】とも。

また、習近平主席が2月に国営メディアを視察した際、「メディアは共産党の姓を名乗るべきだ(党を代弁すべきだ)」と発言したことへ抗議して、有力紙の編集者が「あなたたち(共産党)の姓は名乗れない」と抗議の辞任をしています。

****メディア統制に抗議し辞職 中国・広東省の新聞編集者*****
進歩的な論調で知られる中国広東省の新聞「南方都市報」のベテラン編集者が、メディア統制を強める共産党に抗議して辞職したことが分かった。香港紙などが伝えた。

辞職したのは、2000年から同紙の記者やコラムニストとして活躍し、文化部で編集者をしていた余少鐳氏。退職理由に「あなたたち(共産党)の姓は名乗れない」とだけ書いた辞職届を29日にネット上に公開。自身のブログに「長い間ひざまずいてきたが、ひざが耐えられなくなった」などと書き込んだ。

書き込みはすでに削除されたが、ネット上で拡散。習近平(シーチンピン)国家主席が2月に国営メディアを視察した際、「メディアは共産党の姓を名乗るべきだ(党を代弁すべきだ)」と発言し、党への忠誠を求めたことへの抗議と受け止められている。

同紙は、習氏の視察の翌日、習氏のこの発言の真下に「魂帰大海(魂が海に帰る)」と一部の地域で見出しをつけた。報道の自由がなくなることを暗に批判したと騒ぎになり、担当編集者が解雇された。(広州=延与光貞)
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辞任ですめばいいのですが。

批判容認発言は、強すぎる指導者に向けられる視線の変化を意識か?】
冒頭の習主席の批判容認発言は、習近平政権へのこうした最近の批判を意識したものとの指摘もあります。

****個人崇拝の動き、不安と反発****
・・・・しかし、指導部内で習氏の力が際立つ現状は、副作用も生む。

3月、文化大革命の時代に毛沢東を賛美するために歌われた「東方紅」の歌詞を変え、習氏をたたえる動画がネットに流出。前後して、習氏と彭麗媛夫人を理想の夫婦像として持ち上げる動画も現れた。

最高指導者を偶像化するこうした現象は、久しく中国になかった動きだ。毛沢東への熱狂的な追従が文革の悲劇を生んだとの反省から、共産党は82年に指導者の個人崇拝を禁じている。

同じ頃、党最高指導部で重きをなす王岐山氏率いる党中央規律検査委の機関紙がコラムを掲げた。
「千人の追従は、1人の忠告にしかず」

指導者への異論が封殺される風潮を戒めたのは明らかだった。

新疆ウイグル自治区政府が運営に関わるニュースサイト「無界新聞」に、行きすぎた権力集中を批判し、習氏の辞任を求める公開書簡が載る事件も発生。ハッキング説や体制内の犯行説が飛び交い真相は不明だが、一連の動きを「個人崇拝の動きに対する社会の不安と反発の現れ」(外交筋)と受け止める人は多い。

強すぎる指導者に向けられる視線の変化を意識してか、習氏は今月19日、インターネット安全・情報化指導小組のメンバーらが集まった会議で、世論をくみ取る手段としてのネットの重要さを指摘し、「善意に基づく批判なら、耳に痛いものでも我々は歓迎し、真剣に検討する」と強調した。

習氏に政策提言した経験もある財界人は話す。
「偏り始めた権力に対する揺り戻しが起きた。力のバランスを探る振り子の中で、党大会までにまだいろいろな動きがあるだろう」【4月20日 朝日】
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【「パナマ文書」問題では依然としてピリピリ
「(批判を)われわれは歓迎し、真剣に研究して吸収しなければならない」とは言いつつも、最近の状況でも、とてもそのような雰囲気は感じられません。

習主席への個人崇拝とも思える動きが進む中で、習主席親族に名前が「パナマ文書」にあがりましたが、ピリピリした雰囲気です。

****<パナマ文書疑惑>中国共産党・政府が情報統制に躍起 ニュース番組、画面真っ暗に****
中国の習近平国家主席らの親族がタックスヘイブン(租税回避地)にある法人を利用していたとされる問題をめぐり、中国共産党・政府が情報統制に躍起になっている。国内メディアの報道は原則認めず、インターネットも規制。反腐敗運動のさなかだけに、神経をとがらせているようだ。

「論評するつもりはない」。中国外務省の陸昊報道局長は7日の記者会見で、海外メディアの質問にそう繰り返した。中国メディアが報じていないことについては「メディアに直接聞いてください」と答えた。

中国では政財界要人による資産の海外移転が問題化。習指導部は監視を強めてきた。「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)が入手した内部文書「パナマ文書」では、習氏に加え、党序列5位の劉雲山・政治局常務委員と同7位の張高麗筆頭副首相らの親族も名前が挙がっており、衝撃は大きい。

中国の検索サイトで「パナマ文書」を調べると、「関係法律と政策に合わないため、表示しない」との一文が出る。ネット上の書き込みも当局が削除しているとみられる。問題を伝えたNHKのニュース番組は7日も数分間中断され、画面が真っ暗になった。

中国メディアではほぼ唯一、党機関紙、人民日報系の環球時報が社説で取り上げている。5日付では「非西側世界の指導者に打撃を与える新しい手段だ」と批判。7日付では、今回の報道に米情報機関の関与を疑うなど警戒心を示した。いずれも、中国の指導者に関する記述は一切ない。【4月8日 西日本】
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情報統制を強める当局に対し、ネット上では“ほめ殺し”的な反応も。

****習氏擁護文章、ネットで拡散=「パナマ文書」遮断の中国****
中国の習近平国家主席(共産党総書記)の親族らがタックスヘイブン(租税回避地)を利用していたと暴露した「パナマ文書」の問題で、中国国内のニュースサイトに「習近平は親族らをきちんとしつけていたのではないか」と擁護する文章が掲載された。

中国当局がパナマ文書に関する報道や情報を遮断する中、習氏擁護の文章をネットで拡散させ、逆に世論を盛り上げる狙いもあるとの見方も出ており、波紋を広げている。

文章は12日夜、上海市共産党委員会・政府系メディアグループの上海報業集団傘下のサイト「界面新聞」に掲載された。数時間後に削除されたが、他の国内サイトにも広まった。

習主席義兄のトウ家貴氏が英領バージン諸島に設立された会社に関与していたことが判明しているが、文章は「義兄の会社と習総書記は無関係だ」と主張。

さらに「習氏は反腐敗の会議で(幹部に)親族をしつけ、権力を使って私利をむさぼるなと指示した」「習氏の2012年の総書記就任前に(義兄の)会社は閉鎖されている」と指摘した。

中国政治に詳しい北京の大学教授は取材に「中国当局がいくら規制しても、中国エリート層の間ではパナマ文書と習氏親族らの問題は知れ渡っている。新たな情報が今後出てくる可能性もあり、党指導部が緊張しているのは確実だ」と解説した。【4月14日 時事】 
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「パナマ文書」には、習主席周辺だけでなく、習氏に対抗する勢力の関係者の名前も上がっていますので、対抗勢力がこれを権力闘争に利用するというのも難しいところがあるのではないでしょうか。
ただ、習主席を含めた政治指導者・党権力者への人々の不満が更に刺激される恐れがあります。

そうした危惧もあって、とても「(批判を)われわれは歓迎し、真剣に研究して吸収しなければならない」といった雰囲気ではありません。

父・習仲勲元副首相は、異論を唱えても保護する法制の必要性を主張
習主席・共産党指導部が本心から「(批判を)われわれは歓迎し、真剣に研究して吸収しなければならない」と考えるようになったら、中国共産党にとっ画期的なことであり、党の未来も開けると思うのですが、なかなか・・・。

ちなみに、文化大革命で政治迫害を受けた習仲勲元副首相(習主席の父親)は、異論を唱えても保護する法制の必要性を訴えたそうです。

****親が目指した法律****
「『異論保護法』制定に関する提案」。
北京理工大学の胡星斗教授は2月13日、インターネット上でこう題した文章を発表した。

習主席の父親で、文革などの中で毛沢東から政治迫害を受けた習仲勲元副首相は、約8年も独房生活を送った。名誉回復されて全人代常務副委員長になった1980年代、「異論保護法」の制定を検討した。

その事実を詳細に報じた改革志向の中国月刊誌「炎黄春秋」(13年12月号)によると、習仲勲氏は当時、「今後、また毛主席のような強人が出現したらどうするのか」と懸念。「党の歴史から見て異論(の弾圧)によってもたらされた(社会の)災禍はとても大きい」と述べ、異論を唱えても保護する法制の必要性を訴えたという。

胡教授は取材に「文革をピークに非常に多くの人が一言で命を落とした。真実を話すことは許されず、暴力手段で人を黙らせた」と話した上で、「現在の中国の言論環境はひどいが、息子の習主席が父親の感じた使命を実現してほしい」と望んだ。【3月6日 時事】 
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当然に習主席は父親のこうした活動を熟知していると思いますが、どのように考えているのでしょうか?
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