孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  大統領選挙でも話題にならないミンダナオ島の和平交渉 忍び寄るイスラム過激派の影

2016-04-10 21:49:39 | 東南アジア

(フィリピンのジャングルで行われる軍事訓練。 過激派組織ISが戦闘員を養成しているとされる映像です。【3月31日 NHK】)

【「シンデレラガール」vs「ダバオのダーティー・ハリー」】
来月、5月9日に行われるフィリピン大統領選挙については、ひと月ほど前、3月9日ブログ「フィリピン大統領選挙 シンデレラガールにダバオのダーティー・ハリー 副大統領にはマルコス長男も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160309でも取り上げました。

選挙戦は、教会の前に置き去りにされていた孤児から伝説的な映画俳優の養子となり、大統領の座を狙うまでに上り詰めた「シンデレラ・ストーリー」のグレース・ポー上院議員(47)と、噂(たぶん事実)では、犯罪撲滅に努めるダバオ市長として、大型バイクで犯罪組織に殴りこみショットガンをぶっ放したとか、ヘリで犯罪集団の車を追跡して、上空からマシンガンを乱射して車をハチの巣にしたとかで、「処刑人」とも「ダバオのダーティー・ハリー」とも呼ばれるドゥテルテ・ダバオ市長(71)という二人の異色候補を軸とした争いになっています。

****フィリピン大統領候補、多様な背景 投票まで1カ月****
フィリピン大統領選挙(5月9日)まで1カ月。アキノ大統領の後任を巡り、主要4候補が争う。

注目は、生後まもなく教会に放置された境遇から大統領を目指す女性上院議員のグレース・ポー氏(47)と、米不動産王トランプ氏張りの過激発言で知られる南部ダバオ市長ロドリゴ・ドゥテルテ氏(71)だ。

 ■出生後、苦境/元検察、過激な発言
大統領は任期6年で再選はできない。好調な経済を維持しつつ、貧富の格差や汚職、長年続く南部イスラム武装勢力との治安問題の解消、南シナ海の領有権問題に取り組まなければならない。約6千万人の有権者は、経験や実績を誇る古いタイプのリーダーより、新鮮さや強さにひかれつつある。

貧困層が多く暮らす北部カロオカン。4月2日、ポー氏はトレードマークの白シャツ姿でさっそうとバスケットボールコートに現れ、「私は貧しい人たちを見捨てません」と叫んだ。

バラックから集まった聴衆は熱狂。自転車修理業のジョイスさん(42)は「彼女なら政治から見捨てられた私たちの力になってくれる」と期待を寄せた。

ポー氏は中部イロイロ州で生まれてまもなく、教会に放置され、地元の人らに保護された。その後、国民的人気俳優の故フェルナンド・ポー夫妻の養子に迎えられ、米国の大学を卒業後、教員などを経て2013年に上院議員となった。

無所属だが、政治のスタンスはアキノ大統領に近い。クリーンなイメージで、最近の世論調査で34%の支持を集め、首位を走る。

ポー氏を3ポイント差で猛追するのはドゥテルテ氏だ。元検察官で、警察権限を強めて同市の治安を劇的に改善させた。

犯罪撲滅を公約に掲げ、「私が大統領になったら法の範囲内で犯罪者を殺す」「覚醒剤を所持してみろ、頭を撃ち抜いてやる」と公言。昨年のクリスマスには犯罪者に向けてネット動画を配信し、「これが最後のクリスマスだ」と言い放った。

職務遂行のためなら暴力も辞さない米国の刑事映画の主人公になぞらえ「ダバオのダーティーハリー」の異名を持つ。

ローマ法王に対してすら遠慮はなく、同国訪問で大渋滞が起きた際は「二度と来るな」と言って物議を醸した。
放言で人気を集め、米大統領選で共和党の候補者指名を争うトランプ氏のようだとも言われる。(後略)【4月9日 朝日】
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ISに共鳴するイスラム過激派「アブサヤフ」】
異色候補で盛り上がる選挙戦の一方で、フィリピンが抱える根深い問題のひとつである、ミンダナオ島のイスラム過激派をめぐっては下記のような報道も。

****比南部で軍とイスラム武装勢力が交戦、兵士18人と戦闘員5人死亡****
フィリピン南部で9日、同国軍とイスラム原理主義過激派グループ「アブサヤフ(Abu Sayyaf)」が新たに交戦し、軍の兵士18人とアブサヤフの戦闘員5人が死亡した。死亡した戦闘員の1人はモロッコ国籍だったという。軍報道官が10日、明らかにした。

この報道官によると、軍はバシラン島で約100人のアブサヤフ戦闘員と衝突し、少なくとも4人の兵士が斬首されたという。

戦闘は、相次ぐ外国人の誘拐事件を受けて軍が開始した対アブサヤフ作戦のなかで起きた。8日にアブサヤフは、誘拐し人質としていたイタリア人の元キリスト教聖職者を解放したばかりだった。

アブサヤフは小規模な武装グループで、外国人を誘拐し巨額の身代金を要求することで知られている。フィリピンでは他に18人の外国人が人質になっており、アブサヤフは全員または大半の誘拐に関与しているとみられている。

1990年代初めの結成時には、2011年に殺害されたウサマ・ビンラディン容疑者の国際テロ組織「アルカイダ(Al-Qaeda)」から資金提供を受けた。

アブサヤフの指導者らはここ数年、イラクやシリアで支配地域を広げたイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」への忠誠を表明している。【4月10日 AFP】
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停滞する和平交渉
イスラム系住民が多いミンダナオ島では以前からイスラム系武装組織と政府軍の戦闘が続いています。

最大組織のモロ・イスラム解放戦線(MILF)とは2014年3月に和平合意に達しましたが、2015年1月のMILFと警察の衝突があって、その後の手続きが停滞しています。
(2015年2月25日ブログ「フィリピン・ミンダナオ島  1月の“交戦”で、新自治政府発足に向けた法案審議がストップ」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150225

今後の手続きは新大統領に持ち越された形ともなっていますが、大統領選挙であまり触れられることもなく、忘れられたような状況にもあるようです。

****ミンダナオ和平、次期政権に=基本法審議持ち越し―比****
フィリピン最大のイスラム武装勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)と政府間で調印された南部ミンダナオ地方の包括和平に関する基本法案について、同国国会は3日夜、採決しないまま休会した。

5月の大統領、国会議員選挙後まで再開されない見込みで、和平プロセスは次期政権に持ち越されることがほぼ確実となった。

政府とMILFは2014年3月に包括和平合意文書に調印し、当初はアキノ大統領の任期が終了する今年6月までに新自治政府が発足する予定だった。

しかし、15年1月に警察特殊部隊がMILFの支配地域に入り、44人の警官が死亡する事件が発生。これを契機に国会ではMILFへの不信感が渦巻き、法案は違憲だとして修正を求める意見も続出。審議が大幅に遅延していた。【2月3日 時事】
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拡散する過激思想の脅威
こうした和平交渉の停滞を背景に、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」などの影響が「アブサヤフ」などの過激組織に広まりつつあることが懸念されています。

****フィリピンに拡散するISの影****
有馬
「世界中に拡散する過激思想の脅威は、東南アジアにも飛び火しています。」

藤田
「フィリピン南部のミンダナオ島。インドネシアやマレーシアに近いこの島は、500年前にイスラム国家が栄え、現在も住民の4人に1人がイスラム教徒です。ここでは、1970年代から複数のイスラム武装勢力が分離独立を求め、政府軍と激しい戦闘を続けてきました。

このうち最も大きい武装組織が、MILF=モロ・イスラム解放戦線です。
長年の対立を経て、一昨年(2014年)、政府と和平合意。イスラム系住民が自治政府を設立することで一致しました。

しかし、キリスト教徒が大多数を占める議会の承認が得られず、イスラム教徒の夢である自治政府の設立は宙に浮いた形です。」

有馬
「こうした和平の停滞を尻目に、ミンダナオ島で今、ISに忠誠を誓う動きが出てきたのです。」

フィリピン 忍び寄るISの影
今月(3月)、ある人物の発言が大きな波紋を広げました。フィリピン最大のイスラム武装組織MILFの最高幹部、アル・ハジ・ムラド議長です。

MILF最高幹部 アル・ハジ・ムラド議長
「問題はISだ。ミンダナオ島の失望につけこんで広がりを見せようとしている。」

ミンダナオ島に忍び寄る過激派組織ISの存在を明かしたのです。

政府軍とMILFなど武装勢力との間で40年にわたって紛争が続いたミンダナオ島。
これまで6万人以上もの人々が犠牲になり、経済成長からも取り残され、国内で最も貧しい地域になってしまいました。

長きにわたる対立のすえ、一昨年、イスラム系住民による自治政府を設立することなどで政府とMILFが合意。

政府は、最大組織のMILFを味方につけることで、イスラム国家の建設を目論むほかの武装勢力を孤立させ、弱体化させたい考えです。
ところが…。

姫野敬司記者(マニラ支局長)
「このあたりではイスラム系武装勢力が活動を続けていまして、展開している軍との間で交戦が続いています。」

ミンダナオ島中部・マギンダナオ州。
ここではイスラム系過激派が活発に活動し、政府軍との間で1か月以上にわたって戦闘状態に。
多くの市民が戦禍に巻き込まれ、犠牲になっています。

住民
「先月、ここで爆発があって4人が亡くなった。」

MILFとの和平合意から2年たっても、自治政府を設立するメドはたたず、ほかの武装勢力が弱体化する兆しも見えていません。

そうした中、暗い影を落としているのが、ISの影響の広がりです。
去年(2015年)から今年(2016年)にかけて、政府軍が制圧した武装勢力の拠点からは大量の武器とともに、ISの旗が相次いで見つかっています。

さらには武装勢力の1つ「アブ・サヤフ」が、ISへの忠誠を誓い、ミンダナオ島にイスラム国家の建設を主張。
外国人を誘拐しては巨額の身代金を要求し、資金調達を図っています。

去年12月には、ミンダナオ島でISの戦闘員を養成する軍事訓練とみられる動画がネット上に投稿されるなど、ISに共鳴する動きが次々と現れているのです。

フィリピン軍 報道官
「武装勢力は、ISの名前を使って戦闘員を勧誘するとともに、中東のISから支援を受けようとしている。」
そして今、もっとも懸念されているのが、政府と和平に合意したMILFの中にも、ISに傾倒するメンバーが現れることです。

和平プロセスが停滞する中、MILFでは、何が起きているのか。
最高幹部のムラド議長が、私たちの取材に応じました。ムラド議長が語ったのは、和平プロセスが一向に前へ進まないことへのいらだちと強い危機感でした。

MILF最高幹部 アル・ハジ・ムラド議長
「ISの影響は、今のところ我々の組織には及んでいない。
しかし、人々の不満につけこみ、ISにつけいられてしまうことを非常に懸念している。」

そして、MILFのメンバーが暮らす集落を訪れると…。
ISの影響を受けた武装勢力からの襲撃に備え、物々しい雰囲気に包まれていました。

メンバーの1人が、和平合意後も生活が何一つ改善していない現実を私たちに訴えました。
イスマイル・パガシさんです。

イスマイル・パガシさん
「見てくれよ。 土が乾燥してしまっている。」

自宅の裏の畑で米やトウモロコシを作って生計を立てていますが、貧しさから畑を耕す機械もなく、収穫はあがらず、妻と3人の子どもを養うのもギリギリです。
ようやく平和で豊かな生活を送れるようになるという期待も、和平の停滞で失望へと変わり、今は政府への不信感しかないといいます。

イスマイル・パガシさん
「紛争の時よりも生活が厳しい。もう、どうしたらいいかわからない。 ISに影響されてしまう人間が、この地域にも出てくるだろう。」

MILF最高幹部 アル・ハジ・ムラド議長
「ISはいつも不満を持つ人々につけ込んで影響を及ぼす。 和平への希望がないと感じる若者は、特に影響を受けやすい。 暴力の応酬に戻ってしまわないかと強く懸念している。」

ISの脅威に政府は警戒
藤田
「ここからは、マニラ支局の姫野支局長に聞きます。
ISに呼応する動き、フィリピン政府はどう捉えているのでしょうか?」

姫野
「ISに傾倒する動きがさらに加速するおそれもあり、フィリピン政府は、警戒を強めています。
といいますのも、隣国のインドネシアやマレーシアから、ISとつながりのある人物がミンダナオ島に入り、既存の武装勢力と手を結ぼうと画策する動きがあるからなんです。
このため、政府はISに忠誠を誓う武装勢力の掃討作戦を進め、その拡散の食い止めに全力をあげています。」

和平停滞がテロの土壌に
有馬
「気になるのが、インタビューにあったMILFのムラド議長のことばですよね。 最大の武装組織に、ISに傾倒する動きが出てくると、やっかいなことになりますね。」

姫野支局長
「そうですね。ミンダナオ島の不安定化は、フィリピン、そしてASEAN地域がテロの脅威を抱えこむことを意味します。

だからこそ、現職のアキノ大統領は、長年にわたるMILFとの紛争状態を終結させ、和平合意にこぎつけたんです。しかし、大統領の任期はあと3か月で終わります。

次の大統領を選ぶ選挙キャンペーンが始まっていますが、長年の課題の貧困や汚職対策などに声をかき消され、ミンダナオ島の和平プロセスは、ほとんど話題にも上っていないんです。
こうした無関心が、和平はおろか、テロの土壌を生み出しかねない状況を招いているんです。

世界を揺るがす過激派思想の浸透が、ここフィリピンでも現実のものになろうとする今、それを許さないためにも、次の大統領は和平プロセスを一刻も早く前に進める必要があると思います。」【3月31日 NHK】
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なお、ISなどのイスラム過激派のアジア諸国への影響力拡大は、フィリピンだけでなくインドネシアやマレーシアでも見られます。

****過激派組織 フィリピンで「ダーイシュ(IS)」のカリフ制国家樹立を宣言****
フィリピンの過激派組織が、同国の一部地域に「ダーイシュ(IS、イスラム国)」のカリフ制国家を樹立したと宣言した。

フィリピンの過激派組織4つが団結し、同国ミンダナオ島の一部地域に、テロ組織「ダーイシュ」のカリフ制国家を樹立と宣言した。

オーストラリアの新聞の情報によると、フィリピンの4つの過激派組織は、「ダーイシュ」の指導者バグダディ容疑者に忠誠を誓った。フィリピンの組織を率いるのは、テロ組織「アブ・サヤフ」のリーダーの一人、イスニロン・ハピロン。

フィリピンの過激派組織は、今回フィリピンで起こったことについて、この出来事は「ダーイシュ」の戦略が変わったことを物語っていると指摘している。「ダーイシュ」は、シリアおよびイラクを迅速に支配下に置くことができなかったため、自分たちの活動のために、シリアやイラクの代わりとなる地域を探すことにしたという。

オーストラリアの新聞は、フィリピンにおける「ダーイシュ」のカリフ制国家の拡大は、フィリピンや地域の他の国々、またオーストラリアにとって非常に危険であると強調している。【1月11日 SPUTNIK】
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