孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  ブルカ、黒いロングスカート、スカーフ、おまけにゲイの話

2016-04-18 22:49:39 | 欧州情勢

(中国通販サイトAliExpress(アリエクスプレス)のイスラムファッション(http://ja.aliexpress.com/w/wholesale-muslim-clothing-women.html
個人的には、こうしたスカーフ(ヒジャブ)には抵抗感はありません。ただ、顔全体を覆うブルカや目だけを出したニカブとなると、誰だか全くわからず、コミュニケーションも取れません。)

【「ブルカ禁止法」制定後も揉め事が
欧州では国内イスラム教徒の増加、テロの脅威及び文化的摩擦の表面化などを受けて、イスラム教徒との共存が大きな社会問題となっていますが、フランス、ベルギー、オランダ、スペインでは、イスラム教徒女性が着用する、顔をベールで覆い隠すような「ブルカ」を公共の場では禁止する法律が制定されています。

****違反者には罰金2万円****
「ブルカ禁止法」は、2010年にニコラ・サルコジ前大統領の中道右派政権が成立させ、翌11年に施行された法律。社会党の現フランソワ・オランド政権も同法を全面的に支持している。

同法では公共の場で顔を全て隠すベールを着用することを禁じており、違反者には最大150ユーロ(約2万円)の罰金が科される。

だが違反者の取り締まりや逮捕をめぐってもめる事例が相次いでおり、パリ郊外でも今年、取り締まりがきっかけで暴動が起きている。【2013年11月28日 AFP】
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フランス人の大学院生の女性が「ブルカ禁止法」は信教の自由、表現の自由、集会の自由を侵害するものであるとして、フランス政府を相手取り欧州人権裁判所に訴えていた案件で2013年11月に裁判が始まり、2014年7月、欧州人権裁判所はブルカ禁止法による顔全体を覆い隠すベールの着用禁止は、欧州人権条約が保護する思想・良心・信教の自由を侵害しないとの判断を下したことについては、2014年7月10日ブログ“欧州人権裁判所 フランスの「ブルカ禁止法」を支持”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140710で取り上げました。

訴えた女性は、男性に強制されてブルカを着用しているわけではなく、女性の自発的な選択であり、治安上の理由で必要なときは脱いでも構わないとしていましたが、欧州人権裁の判事らは、ブルカ禁止法は対象となっている衣服の宗教的意味合いにではなく、こうした衣服が顔面を覆い隠すという事実にのみ基づいていると指摘した上で、同法はさまざまな人が共に生きる社会の一体性の保持を理由に正当化され得るとの判決を下しました。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「国家は人々に何を着るべきか指示すべきでなく、個人の選択の自由を認めるべきだ」と批判しています。

“ブルカ禁止法は対象となっている衣服の宗教的意味合いにではなく・・・”との司法判断ですが、フランスの場合は、歴史的経緯から政教分離の原則が強く意識されており、イスラム教のベールだけでなく、ユダヤ教のキッパ(男性用の帽子)、キリスト教の大きな十字架などを学校で着用することも全面的に禁止されています。「ブルカ禁止法」がフランス国内で支持されたのは、こうした世俗主義的な社会通念も背景にあるものと思われます。

個人的には、フランス政府が主張すように、ブルカで顔を覆い隠す行為は治安維持や、何よりも個人間のつながり・コミュニケーションを基礎とする社会にあって、人々の共生を難しくする恐れがあるという点で、ブルカ禁止はやむを得ないものと考えています。(その流れで、日本では最近大きなマスクで顔を覆う女性が増えていますが、あまり好ましいものには思えません。顔を隠す女性は気楽だろうとは思いますが)

ただ、現実問題としては、こうした禁止法が敢えて各国で持ち出される背景には、イスラム教徒全体への反感・嫌悪があるようにも思え、その点は重大な問題であるようにも思えます。

その後も、こうしたブルカやスカーフをめぐる話題は後を絶ちません。

****仏パリ国立オペラ、ベール着用の観客女性を退席させる****
フランスのパリ国立オペラは(2014年10月)19日、劇場の最前列でベールで頭髪を覆って歌劇を観賞していた女性を退席させたことを明らかにした。

仏政府は2011年、公共の場で顔全体を覆い隠すベールなどの着用を禁じた、いわゆる「ブルカ禁止法」を施行している。

パリ国立オペラのジャンフィリップ・ティエレ氏はAFPに対し、歌劇場オペラ・バスティーユでの歌劇「椿姫」の公演でベール着用していた女性を退席させたことを認め、先の報道内容を事実だと認めた。

ティエレ氏の説明によると、問題の女性は10月3日の公演の際に劇場最前列中央の席に座っていた。頭髪をスカーフで、顔の下半分をベールで覆っており、その様子はモニター画面でも確認できたという。

ティエレ氏は、この女性について第2幕に報告を受け、「何人かの出演者から、何かしらの措置が取られない限りは歌いたくないと言われた」という。

仏メトロニュースによれば、この女性と、女性の連れは湾岸諸国からの観光客で、幕あいに劇場スタッフから退席を求められたという。

一方、ティエレ氏は「女性に対し、フランスではベール着用が禁止されていることを説明した上で、ベールを取って顔を見せるか、退席するかを求めた。男性が女性に立つようにうながし、2人は出て行った」と説明。

「退席するよう求めるのはいかなるときでもいいことではない。だが法律についての誤解があった。女性は法を尊重するか、退席するかを選ばなければならなかった」と述べた。

フランスでは2011年に、公共の場で顔全体を覆い隠すベールの着用を禁じ、違反者には最大150ユーロ(約2万円)の罰金を科す法律が施行された。

仏文化省は、劇場や博物館をはじめとする公共施設に対し、ベール着用に関する規則について同省の指示に従うよう通達する法案を起草中だと発表した。【2014年10月20日 AFP】
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日本では先日、某女性タレントが観劇の際に何度も注意されたにもかかわらずキャスケット帽を脱がず、突然客席を後にした・・・という話がありましたが、あれは単なるマナーの問題であり、上記ベール問題とはまったく関係ありません。念のため。

黒いロングスカートは露骨に宗教的?】
先述のように、フランスでは学校においては、ブルカに限らず宗教色を出すことが禁じられています。
黒いロングスカートも問題となっています。

****黒ロングスカートは宗教的?イスラム教女子生徒が出席禁止に、仏****
フランス北東部の学校で、黒いロングスカートを着て登校したイスラム教徒の女子生徒(15)が「宗教性を誇示した服装」だとして授業への出席を2度にわたって禁止され、非難の声が起きている。

この女子生徒は今月、仏北東部シャルルビルメジエールにある学校で、校長から授業への出席を禁止された。女子生徒は体の線を隠したいイスラム教徒の女性が一般的に着用する黒い長いスカートをはいていたが、報道によると、このスカートが校長から「露骨に」宗教的だとみなされたという。

世俗性を厳格に重んじるフランスの法律では、学校内で特定の宗教への信仰が明らかな格好をすることを禁じている。

地元教育当局のパトリス・デュト氏は28日、AFPの取材に「女子生徒は排除されたわけではない。宗教色のない服装に着替えてくるよう言われたが、父親が学校に戻らせなかったようだ」と説明した。この女子生徒は、いつも学校の敷地内に入る前にベールを外していたという。

フランスでは、学校の世俗性を定めた2004年施行の法律により、イスラム教のベールやユダヤ教のキッパ(男性用の帽子)、キリスト教の大きな十字架などを教育施設内で着用することは全面的に禁止されている。ただし「宗教性を控えめに表すもの」は認められる。

女子生徒は仏日刊紙アルデネに対し「ありふれた、とてもシンプルなスカートで、これといって目立つ特徴もない。宗教的な意味なんて全然ない」と語った。

しかし、地元教育当局は声明で、こうしたスカートを着用することが組織的な「挑発」になる可能性もあると指摘。複数の生徒たちによる抗議行動として行われれば、その後に「ベールをかぶるなどのさらに目につく行動」が続きかねないとして、「教育現場における世俗性の枠組みをしっかりと再確認し、確実に行う必要がある」と述べている。【2015年4月30日 AFP】
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黒いロングスカートは「宗教性を控えめに表すもの」の類にも思えますが、学校側は、これを認めると次はベールなどが・・・と警戒しているようです。

イスラム教徒が多いフランスでは、ブランド大手もムスリム女性をターゲットにしたイスラムファッションに乗り出しているようですが、こうした動きを批判した女性閣僚に不適切発言も。

****仏閣僚、ベール着用女性を「奴隷制支持のネグロ」に例え批判****
フランスのローランス・ロシニョル家族担当相が30日、イスラム教のベールを着用する女性たちを「奴隷制を支持していたネグロ(黒人)」に例え、ソーシャルメディア上などで批判を浴びている。

フランスは欧州で最大のイスラム教徒人口を持つ国だが、公共の場所で顔を覆うベールの着用は禁止されている。だが仏高級ブランドグループ、モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)傘下の「DKNY」を筆頭に、仏ファッションブランド大手は近年、イスラム教徒のスタイルを意識したファッションを次々と発表。

今年1月には伊ブランド「ドルチェ&ガッバーナ」が、欧米大手ブランドとしては初めて、イスラム市場に特化したファッションを立ち上げた。

こうした流れについて、ファッション界の大御所、ピエール・ベルジェ氏(85)は30日、「女性の奴隷化」に貢献していると批判。

ロシニョル家族担当相の発言は、それに続く形で、仏ニュース専門テレビBFMTVおよびラジオ・モンテカルロ(RMC)の取材に対して出された。

女性権利問題も担当するロシニョル氏は自身の発言について、奴隷制廃止論を唱えた仏思想家モンテスキューの論文「ネグロの奴隷化について」を引用したものだと釈明。

AFPの取材に対し、「ネグロ」という言葉を用いたのは誤りだったとして謝罪したものの、発言を撤回する意思はないと語った。【3月31日 AFP】
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イランとの関係改善で表面化したCAのスカーフ問題 更には「ゲイ」はどうする?】
イランとの関係改善が進むなかで、フランス航空会社エールフランスが女性客室乗務員に現地でのスカーフ着用を指示したことが問題に。

****スカーフ着用指示に乗務員反発、イラン便再開のエールフランス****
仏航空大手エールフランスが17日のイラン首都テヘランへの再就航を前に、女性客室乗務員に現地でのスカーフ着用を指示したことを受けて、客室乗務員らの間にこれを拒否する動きが広がっている。SNPNC(フランス全国客室乗務員労働組合)幹部が2日、AFPに語った。

同幹部によると、エールフランスの経営陣は、女性客室乗務員に「飛行中はスラックスにゆったりしたジャケット、機内を離れる際には髪を覆うスカーフ」の着用を求める文書を従業員ら送付。この服装規定に従わなかった場合は「罰則」を科す可能性も指摘したという。

会社側はAFPに対し、全ての乗務員は「他の外国人の乗客と同様に飛行先の国々の法律を守る義務がある」との考えを示した上で、「イランの法律は全ての女性に、公の場所で髪を覆うことを義務づけている」と述べた。

組合側は、スカーフ着用を義務ではなく自主的な措置とするよう求めている。【4月3日 AFP】
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この問題では結局、「スカーフ着用に応じられないCAは乗務を外れてもいい」と会社側がおれたようですが、イランでは死刑にもなりかねない同性死者はどうするんだという別の問題も。

****同性愛の客室乗務員がなぜ、同性愛は死刑のイランに飛ばなければならないのか****
エールフランスは先週末、週3回のパリ−テヘラン便の運航を再開した。イランの核開発に対する制裁として停止した2008年以来。1月の制裁解除で実現した。

だが、誰もがイランに行きたいわけではない。エールフランスのゲイの客室搭乗員(CA)はテヘラン便での勤務を拒否している。イランでは、同性愛は死刑にも値する罪。イランに飛ぶことを拒否する権利をゲイに認めよ、という呼びかけには2万6000件以上の署名が集まっている。

「行けば弾圧されるとわかっている国に行かされるなんて考えられない」と、署名を呼び掛けた自称ミスター・ロウレントは言う。

エールフランスでは今月初め、イランに付いたら頭髪をスカーフで覆わなければならない、などの規定に反発した女性CAがテヘラン行きを拒否。会社側はつい先週、乗務を外れてもいいと発表したばかり。

スカーフが搭乗拒否の理由になるなら、死刑になりかねない同性愛者は当然、飛ばなくてもよさそうだが、乗務員組合が出した結論はそうではない。

イランに行きたくないLGBT(性的少数者)の問題は理解するが、性的傾向や肌の色、宗教によってフライトスケジュールを変えることは受け入れられないと、組合幹部は本誌に語った。

ゲイは女性より恵まれている?
「スカーフ問題で経営側と議論したときは、すべてのクルーに等しくイラン行きを拒否する権利を与えるよう要求した」と、組合専務理事のジャン・マルク・カロッシは言う。「性的志向の問題はこれとはまったく別の話だ」

ゲイはカミングアウトするかしないか考える余地がある分、女性より恵まれているとカロッシは言う。
「女性はテヘランに着けばスカーフを強要される。ゲイの人は、黙っていればわからない」

イランと欧米の関係が改善し、経済制裁は緩和されても、イランの人権状況が改善したわけではない。先週末には5人の死刑囚が絞首刑になったし、昨年は麻薬絡みで66人が絞首刑になっている。うち4人は未成年だった。

エールフランスとKLMオランダ航空の親会社であるエールフランス/KLMのLGBT労働組合も、ミスター・ロウレントの嘆願には異議があるという。

セバスチャン・ギドン幹事長によれば、エールフランス/KLMとその子会社は、LGBTの権利などなく「下手をすると死刑にされかねない」多くの国へも行かなければならない。「イランの人権状況は酷いもので衝撃的だが、それでも組合としては性的志向に基づく乗務員リストは作りたくない」

ミスター・ロウレントはらに多くの署名を集め続けるしかないようだ。【4月18日 Newsweek】
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組合側は、ゲイなど性的志向によって差別されない職場を実現するのが本筋であり、性的志向によって労働条件が変わるような事例はつくりたくない・・・という話でしょうか。

「ゲイの人は、黙っていればわからない」とは言っても、死刑になるかも・・・という話になると大変なストレスです。
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