孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ブラジル  下院で弾劾決議承認 ルセフ大統領は“クーデター”として徹底抗戦の姿勢

2016-04-19 21:29:05 | ラテンアメリカ

(17日の下院の投票結果に喜ぶ大統領弾劾支持者(上)と意気消沈する大統領支持派(下)【4月18日 BBC】)

ルセフ氏「私の人生がいつもそうだったように、私は戦う」】
政治的に追い詰められているブラジル・ルセフ大統領については、4月7日ブログ「ブラジル 加速するルセフ大統領弾劾手続き 右派クーデターとの指摘も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160407でも取り上げたところですが、周知のように、下院で弾劾決議が3分の2以上の賛成で承認され、今後は上院での審議が焦点となっています。

****ブラジル政権、かつてない窮地 下院が大統領弾劾を承認****
政府会計の粉飾に関わったとして批判されているブラジルのルセフ大統領について、同国の連邦下院議会は17日、弾劾(だんがい)すべきだとする決議を全議員の3分の2以上の賛成で承認した。

上院でも賛成意見の可決が有力視されており、ルセフ氏は180日間の職務停止処分に追い込まれる可能性が高い。政権はかつてない窮地に立たされた。

「弾劾はクーデターだ」「大統領は国を危機に陥れた責任がある」。首都ブラジリアの下院では、賛成派と反対派が激しく対立した。全513議席のうち賛成は367で、反対が137。棄権が7人いたほか、欠席も2人いた。怒号が飛び交うなか、法律が定める3分の2以上の可決条件を満たした。

今後、上院の過半数が賛成すれば、ルセフ氏は180日間の職務停止処分となる。地元メディアの調査では、上院は賛成派が過半数に達しており、停職処分に至る可能性が高い。上院の採決は5月初旬の見通し。

上院の通過後は上院に弾劾法廷が設置され、3分の2以上が有罪と判断すればルセフ氏は罷免(ひめん)される。【4月18日 朝日】
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弾劾決議は、ルセフ大統領が再選を目指していた2014年の選挙期間中に、景気後退の影響を隠すために財政赤字を隠し、貧困層への生活保護費や失業保険などを満額給付するため不足分を国営銀行に違法に肩代わりさせたとして、大統領を8年間、公職追放するよう求めています。

ルセフ大統領は、肩代わりは長年の慣習で問題ないと反論しています。

****ルセフ大統領、弾劾決議に憤り 「どの大統領もやった*****
ブラジルの連邦下院議会から弾劾(だんがい)賛成の決議を受けたルセフ大統領は18日、首都ブラジリアで記者会見し、「下院の決議はあまりに不当で憤りを覚える」と語った。

弾劾請求は上院でも可決の見通しだが、「私は負けない。戦い続ける」と述べ、辞任の考えはないと表明。改めて徹底抗戦の構えを明確に示した。

ルセフ氏は政府会計の粉飾に関わったとされ、下院の採決では弾劾に賛成した議員が3分の2を超えた。ルセフ氏は終始落ち着いた様子で会見に臨み、粉飾会計について「これまでの大統領もやってきたことだ」と指摘。「当時は違法な行為とは見なされなかったのに、私にだけは違う扱いがなされている」と反発した。【4月19日 朝日】
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若い頃は左翼ゲリラ活動に身を投じ、拷問も受けたという“革命の闘士”でもあるルセフ大統領は、「私の人生がいつもそうだったように、私は戦う」と対決姿勢を鮮明にしています。

****ルセフ大統領「私は戦う」と対決姿勢 弾劾決議から一夜あけ会見 NY行きキャンセル***
ブラジル下院で大統領に対する弾劾決議が採択されたことを受け、ルセフ大統領は18日、首都ブラジリアで記者会見し、「私は何も悪いことはしていない」と反対派への対決姿勢を鮮明にした。

今後、審議は上院に移るが、ルセフ氏は、同国の軍事政権時代(1964〜85年)に左翼組織に身を投じた元活動家としての過去を引き合いに出して、「私の人生がいつもそうだったように、私は戦う。上院では自分自身を守るための機会が得られることを確信している」とも語った。

さらに、今後、暫定大統領に昇格する可能性のあるテメル副大統領を改めて非難し、「クーデター」を企てようと裏で手をひいているとも指摘した。

一方、ロイター通信は消息筋の話として、ルセフ大統領は今週、ニューヨークの国連で予定されていた気候変動関連の行事への参加を取りやめたと伝えた。国内にとどまり、弾劾手続きへの対応を取るためとみられる。【4/19日 産経】
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階層間の争い
大統領弾劾は国民を二分する様相も呈していますが、弾劾を支持する反ルセフ勢力は主に白人中間層に、ルセフ大統領を支持する勢力は貧困層に多く、そうした階層間の争いともなっています。

****囚人と泥棒が住む街」と揶揄し、反ルセフ派は弾劾決議に“カーニバル” 二分された国民・・・・首都ブラジリア・ルポ****
ブラジルを代表する建築家、オスカー・ニーマイヤーが設計した首都ブラジリアはいま、「囚人と泥棒が住む街」と、多くの国民の間で揶揄(やゆ)されている。

囚人とは、国営石油会社ペトロブラスをめぐる汚職事件で訴追されたルラ前大統領のことで、泥棒は国会財政に損害を与えたとして弾劾手続きが進むルセフ大統領を指す。
経済不況の中、ブラジルは大衆の政治不信がかつてないほどの高まりを見せている。

17日の下院本会議。ルセフ氏に対する弾劾決議に必要な342人目の議員が「弾劾賛成」を表明した瞬間、首都ブラジリアの議会前に集まった反ルセフ派の人々は大歓声をあげた。

周囲にサンバの音楽が鳴り響き、まるでお祭り騒ぎ。ブラジルの国旗に身を包むなどした人々は踊りながら、弾劾手続きが一歩前に進んだことを大喜びした。

サンパウロから訪れた自営業、レナト・タマイオさん(48)は「ブラジル国民として現在の政治状況はとても恥ずかしい」と漏らした。昨年の経済成長率はマイナス3・7%。タマイオさんは8月のリオデジャネイロ五輪について「国民生活は苦しく、ブラジルは五輪を開催する余裕などない」とも語った。

反ルセフ派は、国家の危機はルラ時代から続く13年間の労働者党(PT)政権の失政が引き起こしたと強く感じている。地元に住むレオナルド・ジオルダーノさん(69)は「彼らは国家の財産に大きな損害を与えた。もうルセフもルラもうんざり。PTを首都から追い出さなくてはならない」と憤った。

一方、ブラジリアの議会前では警察や軍の厳重警戒がしかれ、大統領支持派の人々もデモを行った。レシフェ出身の自営業、イアデ・カリビさん((48)は「ルセフは富裕層と貧困層との格差をなくそうと尽くしてくれた。なぜ弾劾されなければならないのか」と語った。

弾劾をめぐる両派の溝は大きく、ルセフ大統領の問題は、五輪開催を前に国民を分断する事態を引き起こしている。【4月18日 産経】
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弾劾する側には“私腹を肥やした”汚職議員も
今回の大統領弾劾の盛り上がりの背景には、単に“政府会計の粉飾に関わった”ということにとどまらず、長引く不況・上昇する物価という経済状況悪化への責任追及、これまでも何回も取り上げた国営石油会社ペトロブラスを舞台とした巨大汚職に代表される政治への不信感、更には、ルラ前大統領やルセフ大統領の労働者党政権の行ってきた貧困者対策に対する中間層の反発などがあるように見えます。

政府会計の粉飾については、ルセフ大統領の言うように「これまでの大統領もやってきたことだ」としても、責任を免れるものではありません。

また、長年にわたり政界への不正資金ルートとなってきた国営石油会社ペトロブラスを舞台とした巨大汚職についても、事件当時にルセフ大統領は責任者としての立場にあり、これも責任を免れることはできません。

ただ、ルセフ氏自身が私腹を肥やしたというものではなく、政府会計粉飾にしても、汚職にしても、ブラジル政治の構造的な問題であり、ルセフ大統領の責任は、これを改めなかったというものです。

貧困層対策については、タイのタクシン派政権についても同様ですが、立場によって評価が分かれるところです。

一方、ルセフ大統領を糾弾する側の主要議員のなかに、ルセフ氏と同罪、あるいは文字通り私腹を肥やした汚職を問われている者が多く含まれることは、やや奇妙な構図となっています。

*****ルセフ大統領は政敵によるクーデターだと批判****
・・・・大統領が弾劾・罷免されると、テメル副大統領が暫定大統領となるが、テメル氏自身もルセフ氏と同じ国家会計粉飾の疑いで弾劾手続きの渦中にある。またルセフ氏は、テメル氏が「クーデター」の首謀者の一人だと避難している。

大統領はさらに、継承順位第2位のクニャ下院議長も、クーデターを企てる1人だと非難。クニャ氏も、数百万ドル分の収賄容疑で捜査対象となっている。

継承順位3位のカリェイロス上院議長も、国営石油大手ペトロブラスによるとされる巨額贈収賄事件で捜査されている。

テメル副大統領、クニャ下院議長、カリェイロス上院議長はいずれも、最大議席を持つブラジル民主運動党(PMDB)所属。PMDBは連立政権に参加していたが、弾劾手続きを支持するため3月に連立政権を離脱した。3人はいずれも収賄の疑いを否定している。【4月18日 BBC】
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ルセフ氏が罷免されれば規定によって新大統領に昇格するテメル副大統領ですが、誤ってか、あるいは意図的にか、弾劾手続き中に「勝利演説」の録音内容が流出するといったことも。

****ブラジル副大統領「勝利演説」流出 大統領弾劾手続き中****
ルセフ大統領に対する弾劾(だんがい)手続きが議会で進むブラジルで、副大統領による「勝利演説」の録音内容が流出した。副大統領は、ルセフ氏が罷免(ひめん)されれば規定によって新大統領に昇格する立場。

ルセフ氏は「陰謀を企てるリーダーが採決前に大統領就任を宣言している。陰謀をたくらむ人間の仮面が落ちた」と、いら立ちをあらわにしている。

11日の地元報道によると、流出したのは約14分間の音声。テメル副大統領自身の携帯電話から、弾劾に賛成する議員らに一斉送信された。「ブラジルが直面する深刻な問題に、私は立ち向かわなくてはいけない」などと発言し、貧困層向け支援の継続など「公約」も語っていた。

テメル氏は、連立与党を離脱したばかりのブラジル民主運動党(PMDB)所属。録音内容は下院で弾劾賛成が可決された際に読み上げる原稿だったとされ、テメル氏は「誤送信だった」と釈明した。ただ、下院での採決で弾劾賛成派を増やすために意図的に送ったとの見方もある。(後略)【4月13日 朝日】
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厳しい情勢のなかで、巻き返しをはかるルセフ大統領
上院の状況はルセフ大統領にとって厳しく、弾劾成立は不可避との見方が多いようです。
しかし、ルセフ氏側はルラ前大統領を中心に巻き返しをはかっており、“流動的”との見方も。

また、仮に弾劾が成立してテメル政権となっても、混乱は収まりそうにありません。

****ルセフ大統領、五輪目前に政治生命絶たれる危機 弾劾裁判前倒しも「最後まで戦う****
・・・・地元メディアによれば、すでに上院の過半数が弾劾法廷の設置を支持しており、5月中に弾劾裁判が開始される見通しが高まっている。

しかし、五輪開催を間近に控え、政治の混乱を解消するために、日程スケジュールを前倒しすることが調整されている。

弾劾が成立するためには、上院の3分の2以上の54人の議員の支持が必要だが、現時点では10人前後足りない。

ワグネル大統領府大統領室長は下院裁決後、「民主主義に対する脅威だ」として、上院での否決を目指すことを表明。今後、ルセフ派は、政界に影響力を持つルラ前大統領を中心に、中間派の政党を説得するなどして、巻き返すことが考えられる。

1992年に行われた、コロル元大統領の不正蓄財疑惑をめぐる弾劾裁判をめぐっては、コロル氏は裁判の結果をまたず、自ら辞任した。このときの下院採決は、441票の賛成に対して38票の反対と圧倒的な差が開いており、コロル氏は議会に対して、影響力を失っていた背景がある。

しかし、今回のルセフ氏の弾劾決議では賛成367票に対して、反対は137票。ルセフ氏の政党・労働者党(PT)を中心に、他政党や議員が「(反ルセフ派による)クーデターは許さない」と抵抗した。

各都市で行われたデモ集会でも、ルセフ派の人々が集団で参加。ある支持者は「今後、各方面でストライキをかけるなどして、戦いをしかける」と話した。

テメル政権は支持基盤が弱く、今回、弾劾に賛成した政党でも「テメル政権とは組まない」と表明している党もある。弾劾裁判が終わったとしても、政治的な混乱は2018年に予定されている大統領選挙まで続くとの専門家の指摘すら出ている。【4月18日 産経】
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