孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サウジアラビア  変わる社会? エジプトとの間で「紅海に橋を建設」で合意 ついでに領土問題も

2016-04-15 23:15:20 | 中東情勢

(不特定多数の男性が集まる集会での選挙運動禁止など、選挙活動が制約されるなかで、スマホを使って女性候補への投票を呼びかけるサウジアラビアの女性たち 【2月26日 NHK】)

変わる?サウジアラビア
イスラム教の戒律が厳しく求められるサウジアラビアは、世界で唯一、女性による車の運転が認められていないなど、女性に権利が著しく制限されている国であることは、これまでもしばしば取り上げてきました。

ただ、さすがに最近では若干は改善の方向にもあることは、2015年12月14日ブログ「サウジアラビア 初の女性参政権行使 20人ほどが当選 しかし、未だ少ない女性の有権者登録」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151214でも取り上げました。

前回ブログの選挙でもそうですが、スマホの普及といった社会変化も女性の活動の可能性を広げているようです。

****サウジアラビア スマホが広げる 女性の可能性****
イスラム教の厳格な解釈に基づく統治が行われている中東のサウジアラビアでは、さまざまな制約から女性の社会進出が遅れてきましたが、スマートフォンの普及で活動や交流の幅が広がり変化が生じています。

サウジアラビアの女性たちは、公の場で肌や髪を露出させないよう黒い衣装などで全身を覆い、車の運転も禁止されるなど行動の自由が大きく制限されています。

しかし通信サービスの広がりで、スマートフォンを含む携帯電話の所有台数は平均で1人当たり2台近くになり、女性の利用者も増えています。

スマートフォンを手にした女性たちは、ブログやソーシャルメディアを通じてパソコン以上に気軽に多くの人と交流する機会を持つようになっています。

写真投稿サイトに情報を発信し、人気を集めている女性は「ファッションショーを見たり、最新の海外ブランドをチェックしたり、スマートフォンなしの生活は誰も想像できません」と話していました。

スマートフォンが普及するなか、首都リヤドには女性客専用のスマートフォンの修理店がオープンしました。これまで修理店の店員は男性ばかりで、女性たちはスマートフォンに保存されている個人的な写真などを家族以外の男性に見られてはならないと、修理に出すのをためらってきました。

それだけに、従業員6人がいずれも女性のこの店には修理の依頼が相次ぎ、1日に100件を超えることもあるということです。

オーナーのマリヤム・スバイさんは「若い女性が仕事に就くチャンスも作りたかった」と話していて、スマートフォンの普及はサウジアラビアの女性の新しい可能性を広げています。【2月27日 NHK】
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戒律違反の取り締まりの中心にあるのが「宗教警察」ですが、その横暴さであまり評判はよくありません。
当局側も、宗教警察の対応の改善にも乗り出したようです。

****サウジアラビア、宗教警察に「優しく親切に」なるよう命じる****
サウジアラビア政府は、批判が相次いでいた同国の宗教警察から逮捕権を剥奪し、イスラム法に基づく取り締まりを「優しく、親切に」行うよう宗教警察官らに求めた。

国営サウジ通信(SPA)が12日夜に伝えたところによると、この変更はすでに閣議決定済みで、宗教警察官は身柄を拘束する権限を奪われ、違反者を警察官または麻薬取締官に報告しなければならなくなる。

サウジ通信によれば、「ハイア(Haia、別名ムタワ)」と呼ばれる宗教警察は、新たな規則のもとでは「善行を奨励するとともに、優しく親切に助言することで悪行を許さないという職務を遂行」しなければならないとされている。

また、新規則では「ハイアの責任者と構成員のどちらも、誰かを呼び止めたり、逮捕、追跡、尾行したり、身分証の提示を要求したりしないことになる。これらは警察官ないし麻薬取締官の管轄とされる」ことになるという。

サウジアラビアの宗教警察は、男女の隔離や、公的な場所で女性が全身を覆うことなど、イスラム法の厳格な解釈が実行に移されるよう取り締まりを行っている。

だが宗教警察が用いる手法はたびたび議論の的となっており、最近では今年2月、首都リヤド(Riyadh)のショッピングモールの外で若い女性に暴行を加えたとして、複数の宗教警察官が逮捕されたと、地元メディアが報じていた。【4月14日 AFP】
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宗教に馴染みのない部外者の目からすれば、結構なことかと思います。

サウジアラビアとエジプトを隔てる紅海に橋を建設
そんなサウジアラビア関連で最近目を引いたのが、「紅海に橋をかける」ことでエジプトと合意したという記事でした。

****サウジアラビアとエジプト 紅海に橋建設へ****
サウジアラビアのサルマン国王がエジプトを訪問して、両国を隔てる紅海に橋を建設する事業など、巨額の投資プロジェクトで合意し、対イランの包囲網の強化など、みずからの外交政策への協力をエジプトに促す思惑があるとみられています。

サウジアラビアのサルマン国王は、就任後初めてエジプトを訪問していて、8日、シシ大統領と会談しました。
この中でサルマン国王は、サウジアラビアとエジプトを隔てる紅海に橋を建設することで合意したと発表し、「橋の建設は、両国の貿易を例のないレベルにまで引き上げることだろう」と述べました。

また両国は、発電所の建設をはじめ、エネルギー分野や教育分野など17の案件で投資を促進することでも合意しました。

イスラム教スンニ派の盟主を自任するサウジアラビアは、シーア派のイランとの間で対立が深まって、ことし1月に国交を断絶し、周辺各国に働きかけて、対イランの包囲網を強化しようとしています。

しかし、エジプトについて、サウジアラビアは、シシ政権を支持して経済支援を続けてきたにもかかわらず、協力が不十分だという不満があると言われており、橋の建設など巨額の投資を確約することで、みずからの外交政策への協力を促す思惑があるとみられています。【4月9日 NHK】
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紅海に橋を建設・・・・地図で確認すると、いわゆる紅海は狭い所でも150kmはありそうです。
そんな橋なんて、モーゼに頼んでも「いや、それはちょっと・・・」としり込みされるでしょう。

紅海の奥、シナイ半島とサウジアラビアの間のアカバ湾ならなんとかなりそうだが・・・とも思いつつ、いろいろ確認したところ、やはりアカバ湾入り口のルートのようです。

****紅海に全長50kmの橋が架かる。エジプトとサウジアラビアが合意****
・・・・紅海の上を走る全長50kmの橋はエジプトのラス・ナスラニ(リゾート地、シャルム・エル・シェイクの近く)とサウジアラビア北部のラス・ハミドを両端にして建設される予定で、周辺各国の経済活動を活発にする期待が高まります。

シシ大統領は完成した暁にはサルマン国王の名前を橋につけてはどうかと、今からその時が楽しみな様子。

紅海への架橋だけではなく、南シナイに学校や住宅の建設も予定され、発電所も計画されるようです。借款の総額は20億ドルにものぼるという報道もあります。【4月9日 クローズアップ海外ニュース】
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もっとも、どのくらいの橋なら建設できるものかと思って調べると、現在一番長い橋は中国の「丹陽-昆山特大橋」で、全長はなんと約165kmもあるとか。

瀬戸大橋の6つの主要な橋とそれらを結ぶ高架橋の合計が約12kmですから、桁違いです。
もちろん、海上部分は165kmのうち一部だけのようですが。

水上に架かる世界最長の橋としては、やはり中国の「青島膠州湾大橋」があって、全長約42kmのうち、海上部分が約27kmほどあるとか。

安全性などで、なんだかんだ批判の多い中国の大型建設事業ですが、改めてそのスケールの大きさに驚きました。

閑話休題

サウジアラビア側の狙いは上記【NHK】にもあるイラン包囲網へのエジプト取り込みにあると見られていますが、エジプトの方は“観光客やスエズ運河の使用料、外国資本などの減少により国内資本が細り、経済を維持するためにはペルシャ湾岸周辺国の借款に頼らざるを得ない状況に置かれています”【前出 クローズアップ海外ニュース】

そうした状況でカネを出してくれるサウジアラビアを大歓迎ということで、“シシ大統領は完成した暁にはサルマン国王の名前を橋につけてはどうかと・・・・”といった持ち上げぶりですが、今回のシナイ半島の学校・発電所への投資によって、イスラム過激派が跋扈するシナイ半島の安定化を目論んでいるように思えます。

サウジ-エジプト間の領土問題も解決 日本の北方領土は?】
今回の合意には、橋や学校・発電所の建設だけでなく、領土問題の解決も伴っているようです。

****アカバ湾入り口の2島のサウディ帰属****

左の地図は紅海とアカバ湾、エジプトのシナイ半島及びサウディを示していますが、紅海からアカバ湾に入る入り口にある赤い丸で囲まれた2の島はtiran とsanafir ですが、アカバ湾への入り口を抑える位置にあり、戦略的な要所です
(アカバ湾の奥には、イスラエルのエイラーととヨルダンのアカバの2の港町がある)

このため、56年のスエズ戦争の際、および67年の第3次中東戦争の際にはイスラエル軍IDFがtiran を占拠したところです。(もう一つの方はサウディ領海ないとかだったと思うが、確か占領はされていなかったと思う)

この島はサウディとエジプトがそれぞれ領有権を主張してきたようですが、現在はエジプト軍と米を中心とする多国籍軍(エジプトとイスラエルの平和条約締結後シナイ半島に、休戦の維持のために駐屯している)の兵員だけがいるとのことです。

しかるに今回のサウディのサルマン国王の訪問の際に開かれた海上の国境線画定委員会での合意を受け、エジプト政府はこれらの2島がサウディ領であると宣言したとのことです(最終的にはエジプト議会の承認が必要な由)(後略)【4月10日 野口雅昭氏 「中東の窓」】
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野口氏は“皮肉な見方をすれば「サウディの金が島を買った」ということになるのでしょうか?”とも評していますが、それで領土問題が解決して関係が深まるなら、それはそれでいいのではないでしょうか。いつまでも不毛の対立を続けるよりは。

日本の北方領土のように、自分の主張に固執するだけで解決の目途が全くたたないというのは困ります。
今日15日に行われた岸田・ラブロフ外相の会談では“北方領土問題を巡って双方が受け入れ可能な解決策を見いだすため、安倍総理大臣のロシア訪問のあと、できるだけ早期に外務省高官による平和条約締結交渉を行うことで一致しました。”【4月15日 NHK】とのことです。

一方、ロシアのプーチン大統領は14日、“5月の大型連休中に予定されている安倍晋三首相の訪ロを歓迎し、「あらゆる問題を話し合う」と述べた。また、北方領土問題など日本との未解決の懸案について、「いつか妥協点が見つかるだろう」と期待を表明した。テレビ番組の収録後、記者団に話した。”【4月15日 朝日】とのこと。

何か前進があるのでしょうか?ロシア側の『第2次世界大戦の結果を認めなければならない』というガードは堅そうです。

これまでロシアは、多くの領土問題に決着をつけてきています。(クリミア半島では、新たな領土問題を作り出していますが)

ノルウェーとは北極圏に有るバレンツ海と北極海の大陸棚の境界について40年近くに渡り争って来ましたが、 2010年4月27日に均等分割による境界画定で合意。

バルト三国の1つであるラトビアとロシアは、ロシア西部プスコフ州プイタロボ地区の領有について 国境問題となってましたが、EUなど各国の仲介があり、ラトビア側が領有を放棄することで決着を付け 2007年3月27日にロシアと国境画定条約を調印。

同じくバルト三国の1つであるエストニアとロシアは、ロシアのプスコフ州西部ペチョールィ (ペツェリ、ペチョリ)地区の領有について国境問題となってましたが、EUやNATO加盟国の仲介があり、旧ソ連時代の国境線に従って両国国境を画定する事で決着。

中国とは、ソ連時代の1969年3月2日と15日に、アムール川の支流のウスリー川の中州の ダマンスキー島(中国名:珍宝島)を巡って武力紛争も起きましたが、これもアムール川とウスリー川の合流点部分を二等分し、タラバーロフ島と大ウスリー島の西半分を中国側に、 大ウスリー島の東部はロシアの領土とすることで、2008年7月に解決しています。【「ロシアとソビエト連邦(旧ソ連)の領土問題と国境問題の一覧」http://ichiranya.com/society_culture/103-territorial-issue-of-russia.php より】

日本の北方領土だけが遅々として進まない感もありますが、他の領土問題と違って北方領土問題だけが特殊なのでしょうか?
ロシアの対応が、北方領土問題だけ頑ななのでしょうか?

あるいは、日本の対応が頑ななのでしょうか? 国内的にリスクを負う「妥協」よりは、返ってこなくてもいいから、とにかく同じ主張だけしておけばいいとの判断でしょうか?(まあ、それでもロシアとの関係はそこそこですし、これ以上深めるつもりもないし・・・ということであれば、そういう対応もありかも)

通常、利害が対立する領土問題は「妥協」しないことには前進しません。個人的には、適当なところで手を打って、極東開発などに本格的に乗り出すという方向がいいようにも思うのですが。

ただ、昨今は強気なロシアのために「適当なところ」が見つからないのも事実です。原油価格低迷がもう2,3年続いてロシア経済がいよいよ行き詰まれば、また話は違ってくのかも。

話が、サウジアラビアから変な方向にそれてしまいましたので。今日はこれで。
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