孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

バングラデシュ  止まないイスラム過激主義者によるテロ事件

2016-04-23 22:45:00 | 南アジア(インド)

(国教としてのイスラム教に反対する世俗主義・少数派グループの人々【http://www.newstime.jp/news/bangladesh-considering-abandoning-islam-as-official-religion-after-extremist-attacks】)

テロの対象となったのは、ヒンズー教徒、キリスト教徒、大学生、大学教授
経済成長に向かって動き出したイスラム教国・バングラデシュで、イスラム過激派による世俗主義的なブロガーや出版関係者などへの暴力事件が頻発していることは、2015年11月28日ブログ“バングラデシュで頻発するテロ 社会不満から過激思想へ 貧困と疎外がもたらす「テロの温床」”で取り上げました。

前回ブログ以降も、こうしたイスラム過激派によるテロが相次いでいます。
その対象は、ヒンズー教徒、キリスト教徒、世俗主義的な人物・・・と、イスラム過激派に批判的な人物なら手あたり次第という感もあります。

****ヒンズー教の僧侶殺害、イスラム過激派を逮捕 バングラデシュ****
バングラデシュの警察当局は26日、ヒンズー教の僧侶を殺害した容疑で、非合法イスラム過激派組織「ジャマートゥル・ムジャヒディン・バングラデシュ(JMB)」の構成員3人を逮捕した。イスラム教徒が大多数を占める同国では最近、少数派に対する襲撃が相次いでいる。

警察当局によると、JMBの構成員3人は事件の起きた北部ポンチョゴル県で逮捕された。3容疑者は逮捕時に武器を所持していたという。

事件は21日にヒンズー教寺院で発生。拳銃と包丁で武装した男2人が僧侶を襲撃した。(中略)

僧侶の殺害をめぐって警察は、今回の逮捕に先立ち、JMB構成員2人と同国最大のイスラム主義政党「イスラム協会」の活動家をすでに逮捕していた。

米テロ組織監視団体「SITEインテリジェンス・グループ」によると、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」がこの事件で犯行声明を出している。
 
バングラデシュでは最近、キリスト教徒やイスラム教シーア派、イスラム神秘主義のスーフィー教徒、イスラム改革派のアフマディー教徒らが、イスラム過激派に襲われる事件が急増している。【2月26日 AFP】
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殺害方法も、拳銃と肉切り包丁で武装した男2人が寺院に押し入り、寺院内の自宅で朝の礼拝の準備をしていた僧侶のジョゲスワル・ロイ師(45)に襲い掛かって首を切り落とし殺害したというように残忍です。

****IS、キリスト教徒殺害と声明=バングラ****
過激派組織「イスラム国」(IS)は23日、バングラデシュ北部クリグラム地区で、イスラム教からキリスト教に改宗した男性(68)を殺害したとの声明を発表した。米テロ組織監視団体SITEが明らかにした。

AFP通信によると、男性は22日、刃物を持った2人組の男に襲われて殺害された。1999年にキリスト教に改宗したといい、ISは「見せしめに殺した」と強調した。【3月23日 時事】 
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****バングラでまた襲撃事件 イスラム過激派批判の学生、なたで殺害****
バングラデシュの首都ダッカで6日、自身のフェイスブックでイスラム過激派を批判した法学生が男らになたで襲撃され、殺害された。バングラデシュでは、世俗派の活動家やブロガーが暗殺される事件が相次いでいる。
 
7日の警察発表などによると、殺害されたのはジャガナート大学で法律を学ぶナジムディン・サマドさん。6日夜、交通量の多い大学前の路上で少なくとも4人の男に頭をなたで斬りつけられた。その後、倒れたところを至近距離から1人に銃撃され、その場で死亡したという。
 
地元紙ダッカ・トリビューンは襲撃犯たちが「アッラー・アクバル」(アラビア語で「神は偉大なり」の意)と叫んでいたと伝えている。
 
警察は暗殺事件とみて、サマドさんのフェイスブックへの書き込みが犯行の動機となった可能性を捜査している。これまでのところ犯行声明は出ていないという。
 
イスラム教徒が国民の大多数を占めるバングラデシュでは昨年、無神論者のブロガー4人と世俗派の出版社経営者1人が刃物で斬りつけられて殺害されており、いずれもイスラム過激派の犯行とみられている。【4月7日 AFP】
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そして今日も。今度は、イスラム過激派活動地域で学校を設立した大学教授です。

****なたでめった切り…バングラ、今度は大学教授が犠牲に****
バングラデシュの警察当局によると、北西部ラジュシャヒで23日、大学教授が何者かになたで襲われて殺害された。同国ではイスラム過激派による世俗派や無神論者の活動家の殺害が相次いでおり、警察は今回も同様の事件とみて捜査を行っている。
 
殺害されたのはラジュシャヒ市の公立大学で英語を教えていたレザウル・カリム・シディーク教授(58)。市内の自宅から徒歩でバス停に向かっていたところ、背後からなたで切り付けられたという。
 
地元警察幹部はAFPの取材に「シディークさんの首は少なくとも3度切り付けられた跡があり、70~80%切断されていた」と説明。襲撃の特徴から判断してイスラム過激派集団の犯行とにらんでいると語った。
 
警察の話では、シディーク教授は音楽などの文化的なプログラムに携わっており、非合法のイスラム過激派組織「ジャマートゥル・ムジャヒディン・バングラデシュ(JMB)」の拠点だったバグマラに学校を設立していた。
 
バングラデシュでは2013年以来、世俗派のブロガーが殺害される事件が多発しており、いずれも国内で生まれ育ったイスラム過激派の仕業とみられている。今月初めにも首都ダッカで同様の事件が起きたばかりだった。【4月23日 AFP】
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しばしば犯行声明などを出している「イスラム国」(IS)が、どれだけ実態ある組織としてバングラデシュに存在しているのかはわかりません。

【“経済成長の結果として過激派とのつながりが発生した”との指摘も
前回ブログでは、こうした過激派テロが相次ぐ背景として、経済活動が活発化して一部にその恩恵を享受する層が出現し始めると、その他の貧困に放置されたままの多くの者の間では社会に対する不満が大きくなること、そして
貧困に留め置かれた者の不満を政治に反映させるチャンネルが不在の場合、不満はテロ・暴力事件として暴発することなどを指摘しました。

また、政権側の弾圧で『野党不在』になりつつあり、代わるはけ口としてイスラム勢力が伸びてきているといった見方もあることなども。

JICA専門家を経てバングラデシュでコンサル業を起業されている田中秀喜氏は、経済成長によって貧困状態から脱し、ある程度の教育水準や経済水準が実現したことがイスラム過激主義の拡散を助けていること、弱体化した野党勢力が、現政権に対抗する手段はもはやテロぐらいしかない・・・という状況に追い込まれていることなどの要因を指摘されています。

****バングラデシュ・ブロガー連続殺人事件 経済成長がイスラム過激派を育てる****
ISIL、アルカイダ、ボコ・ハラム......世界各地で、イスラム過激派との衝突やテロが起きている。

バングラデシュでは、今年に入って5人のブロガーが殺された。彼らはいずれも、「イスラム教に対して批判的」とされる記事を書いていた人物だ。

これまでバングラデシュは、穏健なイスラム主義の国家として認知されていた。しかし、ブロガー連続殺害事件の背景には、イスラム過激派の影が見え隠れしている。

日本を含む先進国のメディアは、イスラム過激派の影響下にある国々を単なる貧しい国々と見てしまいがちで、貧しい国々であるがゆえに起きる過激派事件ととらえる傾向がある。しかし、事実はそうではない。

バングラデシュは経済成長を遂げつつあり、世界最貧国からも既に脱している。
つまり、バングラデシュにおいてはむしろ、経済成長の結果として過激派とのつながりが発生したのではないかと考えられるのだ。

バングラデシュは世俗主義的な国
今年2月以降、バングラデシュで殺された5人のブロガーたち。彼らはいずれも、イスラム過激派から「イスラム教に対して批判的」とされていた。

政府当局の捜査では、国内のイスラミストグループによる犯行との見方が示されている。(中略)

これだけを見れば、バングラデシュではイスラム過激派が猛威を振るっているように見えるが、実際の所、原理主義的思想はマジョリティにはなっていない。
ダッカで暮らしていても、非常に世俗的な社会であることを日々感じている。

では、なぜこのようなイスラム過激派との関わりが想定される事件が立て続けに起きているのだろうか?

外国人銃殺事件とブロガー殺害事件
政府当局は捜査の結果、ブロガー連続殺害事件はイスラミストグループ「アンサルラ・バングラ・チーム」による犯行としている(複数のメンバーが逮捕されている)。

これに対し、前回の記事でお伝えした邦人殺害事件を含む外国人殺害事件については、元野党第一党BNP(中道右派)グループの指示によるヒットマンによる犯行で、政府の社会的信用を失わせる目的があったとしている。

外国人殺害事件はISILが犯行声明を出しているが、与党アワミ・リーグ(中道左派)率いる政府としては、BNPグループが関与していると睨んでいるのだ。

しかし、BNPグループもイスラム過激派と無縁ではない。BNPグループの中には連合政党としてジャマティ・イスラムがあるからだ。

ジャマティ・イスラムはイスラム主義政党で、2001年からの5年間はBNPと連立政権を組んでもいた。彼らは中東のイスラム諸国と太いパイプがあり、多額の資金援助を受けているという情報もある。

ジャマティ・イスラムはもともとイスラム主義ではあるが、原理主義的ではなかった。しかし、近年党内に過激派思想を持つ集団が存在している。つまり、いずれにせよ背景にはイスラム原理主義的勢力がある……という見方だ。

回りくどくなったが、今年バングラデシュを騒がせた殺人事件のいずれもが、背景を辿っていくとイスラム過激派勢力に辿り着く、ということなのだ。

貧困からの脱出が、過激派思想を育てる
通常の殺人事件は、標的の存在を認知しなければ起こらない。

今回のようにブロガーの殺害に至るには、犯人にある程度の教育水準や経済水準が求められる。読み書きができ、コンピューター・リテラシーを持っていなければ、そもそもブロガーたちを認知することが不可能だからだ。

学校に通ったことがなく字が読めない、或いはPCを持とうにも金がないし、それ以前の問題として村に電気が来ていない……というような、以前のバングラデシュのような貧困社会では、なかなか起こりえなかった犯罪だと言えるだろう。

ところが、最近のイスラム主義政党の支持者や活動家は、一般の与野党の支持者たちと同等もしくはそれ位以上の学歴保持者なのだという。

この背景には、国の教育制度が整い、それほど裕福でなくても一定レベル以上の学歴を身につけられる社会が実現していることがある。

また、イスラム過激派の持つ宗教思想はごく偏狭で狂信的な教義である。この教義を能動的に理解し、同調するに至るには一定の教養が必要である。
 
一般に、教育レベルが上がると、宗教の影響力は低くなりやすい。しかし、一定レベル以上の教育を身につけたマス層のなかに、少数だがイスラム教に自らのアイデンティティを見出す者がいる。教育を身につける人々の数が増えれば、過激派思想に染まる若者の数も増える……という現象が起きているのだ。
 
事実、ブロガー殺人事件の容疑者のなかには、イギリス国籍を持つベンガル人も存在している。また、外国人殺害事件が起きてから複数のイスラム過激派のアジ トに当局の捜査が入ったが、拳銃や手製爆弾などを含む武器に加えジハーディストの思想本が見つかっている。書物が過激派思想の浸透に重要なものとなってい るのだ。

教養や経済力を持つ層も、イスラム過激派思想と無縁ではないのだ。

テロ行為に追い込まれる野党勢力
さらに、バングラデシュ国内の政治事情も背景として見逃せない。
 
野党第一党としてかつては国政を担ったこともあるBNPと、その連合相手のジャマティ・イスラムは、どちらも弱体化の一途をたどっている。
 
BNPは2014年初頭の選挙をボイコットしたせいで、国政レベルのプレゼンスを消失した挙句に内部で仲間割れ。ジャマティ・イスラムは1971年の独立戦争時にパキスタン側についた過去があるのだが、その咎を今頃になって戦争犯罪人裁判で指弾され、幹部が軒並み逮捕、処刑されている。
 
両政党とも、現政権に対抗する手段は、もはやテロぐらいしかない……という状況に追い込まれていると言っても過言ではない。
 
追い込まれたジャマティ・イスラムが中東の過激派と連携し、そこに現状に不満があり過激派思想に染まった若者たちが絡み合い、連続して事件を発生させているのではないだろうか。

日本にとっても他人事ではない
一定レベル以上の教養を身につけた青年たちが、中東から発信される過激思想に感化されて犯行に至る……という点において、バングラデシュの事件は、パリ同時多発テロ事件の犯人像と似通っている部分が多い。
 
中東を挟んで西と東で起きた事件であり、イスラム過激派がらみということもあって、多くの日本人にとっては他人事に映るだろう。
 
けれど、実際はもっと身近なものだ。
90年代に、高学歴者層が自らのアイデンティティに疑問を抱え、偏った教義に心酔していった結果、起こったテロ事件がある。そう、オウム真理教事件だ。
 
一定の教養や経済力があったとしても、現状への不満が歪な思想と結合すれば、容易にテロに結びついてしまう。

グローバリズムやインターネットがそれに拍車をかけているのだとすれば、何とも皮肉な話である。【2015年12月21日 ジセダイ総研】
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確かに、その日暮らしで生きるのに精一杯の社会では、思想的背景を持ったテロ事件は起こりにくいのかも。
経済成長によって、ある程度の教育を受け、情報収集手段なども持った者のなかに、成長の実態、格差の拡大などを認識し、過激な思想・行動に走る者も出てくるということでしょうか。

バングラデシュは、まだ成長が今ほど加速していない10年ほど前に、1週間程度観光したことがあるだけですが、社会に対するイスラム教の影響力については、そんなに強くないようなイメージも受けました。あくまでも旅行者の印象ですが。

アジアのイスラム教国、インドネシアやマレーシアも、イスラム教に関しては穏健な国と見られていましたが、近年やはりイスラム過激主義の浸透が危惧されています。

経済成長に伴う不安定な状況、インターネットのよる情報収集・発信の容易さなどが共通の背景にあるのでしょうか。

また、こうしたイスラム過激主義の問題は、一昨日とりあげたミャンマー、スリランカ、タイなどでの過激な仏教ナショナリズムの台頭とも共通の背景を有するのでしょうか。

バングラデシュについて言えば、従前より「ホルタル」と呼ばれる、暴力的な妨害行為を伴う野党勢力主導のゼネストの習慣があったように、政治が暴力に結びつきやすい土壌もあるのかも。

なお、バングラデシュは独立した当初は非宗教的国家を宣言していましたが、1998年の憲法改正によりイスラム教が国教として定められています。

昨今のイスラム教以外の信者を狙ったイスラム過激派によるテロ事件が複数起きたことにより、イスラム教を国教から廃止すべきだという世論が高まっていて、バングラデシュ最高裁判所はこの主張を検討し始めているとの情報もあります。【http://www.newstime.jp/news/bangladesh-considering-abandoning-islam-as-official-religion-after-extremist-attacks

この話がどういう方向に進んでいるのかは知りませんが、この動きが現実味を帯びれば、それに対するイスラム主義からの反動が怖いような気もします。
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