孤帆の遠影碧空に尽き

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中米エルサルバドル  ブケレ大統領の超法規的治安対策 成果の一方で冤罪も

2024-09-16 22:54:25 | ラテンアメリカ

(【9月12日 TBS NEWS DIG】)

【ブケレ大統領 治安対策が評価され得票率は83%前後で圧勝】
今年2月、中米エルサルバドルでは現職のブケレ大統領が国民の圧倒的支持を受けて再選されました。

ギャングが横行し、「世界一治安の悪い国」であったエルサルバドルにおいて、徹底したギャング対策を行い治安を大幅に改善させたことが評価された理由です。

しかし一方で、憲法で保障された一部権利を制限した上での強硬なギャング対策、事実上の一党独裁に近い形態については、民主主義の観点からの懸念も強く存在します。

****エルサルバドル大統領選、現職ブケレ氏圧勝で1党独裁の懸念****
エルサルバドルで4日実施された大統領選は、現職のブケレ大統領が地滑り的勝利を収めた。ギャング弾圧による治安改善が支持された形だが、事実上の1党独裁国家になり、民主主義が脅かされるとの懸念も広がっている。

5日時点で開票は続いているが、ブケレ氏の得票率は83%前後に達するもようで、議会選(定員60)でも同氏の与党・新思想党が58議席を制する勢いだ。

人権団体は、権力の集中が進んで公民権がさらに抑圧されると懸念している。中米大学・人権研究所のディレクター、ガブリエラ・サントス氏は「ここまで権力が集中したということは、エルサルバドルに(公民権の)保証はなくなったことを意味する」と述べた。

しかし支持者らは、法的手続きに基づかずに多くの市民を拘束するなどの独裁的手法を意に介さず、むしろギャングによる暴力が減って夜間に外出できるようになったことに感謝している。

一部の中米諸国は、左派ゲリラと、米国を後ろ盾とする右派独裁体制との紛争を経て、持続的な民主主義モデルを立ち上げるのに苦慮してきた。ブケレ氏の人気ぶりは、そうした実情を浮き彫りにしている。

ブケレ氏は大統領の任期制限を撤廃し、隣国ニカラグアのオルテガ大統領のように終身統治を目指すのではないか、との懸念もある。

一方、野党の大統領候補はいずれも得票率が1桁台にとどまる見通しで、支持率回復は遠い道のりだ。ブケレ氏は、インターネット上でジャーナリストや政敵を攻撃してくれる「部隊」を雇ってメディアを巧みに操り、選挙戦で野党を「ギャングの仲間」と位置付けることに成功した。

ここ数年、議会はブケレ氏の提案を右から左へ通すだけで、成立した法律の大半は大統領府の提案によるものだった。【2月6日 ロイター】
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【「例外措置体制」で人口の1%超を逮捕 「世界一治安の悪い国」から米大陸ではカナダに次ぐ2番目の低さへ】
ブケレ大統領の治安対策「成功」は、同様に治安の悪化に直面している中南米のほかの国々からはモデルケースとして注目されています。

*****約7万5000人を拘束 「世界一治安の悪い国」からの脱却****
最も成果を上げているのが治安対策です。

2019年6月に「犯罪地域コントロール計画」を打ち出し、警察と軍の装備を強化してギャングの取締りを進めました。

2022年3月に、取締りに反発したギャング側が1日に62人を殺害すると、議会に要請し、憲法で保障された一部の権利を制限する「例外措置体制」を発動しました。

「例外措置体制」のもとでは逮捕状なしでギャングのメンバーを大量拘束でき、これまでに人口の1%を超えるおよそ7万5000人が拘束されたとされています。

ブケレ大統領は拘束した大量のギャングのメンバーを収容するために4万人を収監できる刑務所を新たに建設し、ギャングのメンバーを厳しい監視下に置きました。

エルサルバドルは長年、「世界一治安の悪い国」とされてきましたが、こうした治安対策で人口10万人あたりの殺人事件の件数はブケレ大統領が就任する前の2018年に世界最悪の51人だったのが、2023年には2.4人にまで減少し、アメリカ大陸ではカナダに次ぐ2番目の低さにまで治安が改善しました。

ブケレ大統領の治安対策は、人権を侵害しているうえ刑務所では拷問も行われているなどとして国際社会や人権団体から批判の対象となっていますが、治安の悪化に直面している中南米のほかの国々からはモデルケースとして注目されています。【2月3日 NHK“エルサルバドル 現職大統領の再選確実視 ギャング対策を徹底”】
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これまでにギャング関係者として逮捕された8万2000人におよび、人口634万人の1.3%に達します。(日本の人口に換算すると約160万人)

【「社会復帰させない」ことを前提にした隔離のための巨大刑務所】
この膨大な逮捕者を収容すべく、定員4万人の巨大刑務所が建設されています。

****“世界一恐ろしい”エルサルバドルの4万人巨大刑務所を日本メディア初取材 「ギャング撲滅作戦」の壮絶さとは…****
(中略)
中米・エルサルバドルの巨大刑務所「テロリスト監禁センター」。定員は4万人。収監されているのは殺人や誘拐など、複数の凶悪犯罪にかかわったギャングの元メンバーとされています。

記者 「このエリアを見下ろすように監視員が立っていて、銃を持っています」

政府はギャングを「テロリスト」と定義し、安全の確保を最優先にしています。

受刑者は誰もが丸刈りで、枕も毛布も使えません。フォークやナイフなどは凶器として使われる可能性があるため、食事は「手づかみ」と決められています。そして、家族はもちろん、外部との接触は一切禁じられています。

殺人や強盗など500以上の犯罪にかかわったという受刑者に、本人の意思を確認したうえで、特別な許可を得て話を聞きました。

ギャンググループの元リーダー
「ここは厳格な規律と厳しい服従を求められる刑務所だ。5つ星のホテルではない。若者はもちろん、『かつての敵』であっても誰もここに収容されてほしくない」

エルサルバドルは30年近くにわたってギャングが縄張り争いを繰り広げ、「世界で最も治安が悪い国」と呼ばれるほど国民生活は荒廃していました。

しかし、近年、政府は非常事態を宣言し、「超法規的な措置」でギャング撲滅作戦を展開しています。例えば、ギャングと関係するタトゥーが体に見つかったり、第三者からの通報があったりすれば、司法手続きを経なくても逮捕が可能となっています。

それにより、2010年代に世界最悪だった殺人事件の発生率は劇的に改善。「中南米で最も安全な国」と言われるまでになりました。

今、街中からギャングの姿は消え、平穏を取り戻した国民の多くは現政権を熱狂的に支持しています。ただ、なりふり構わぬ治安対策の「負の側面」も表面化しています。

ドゥラン・ロドリゲスさん。ギャングとの関係を疑われた22歳の息子が去年、刑務所で死亡しました。

ドゥラン・ロドリゲスさん
「息子はギャングのメンバーではありませんでした。息子に会いたいです。でも、もうそれはできません」

ロドリゲスさんによると、ある晩、匿名の通報を受けた警察が突然、家にやってきて、息子を逮捕したといいます。「拳銃を持っているはずだ」と捜索を受けましたが、結局、銃は見つかりませんでした。

しかし、息子はそのまま刑務所で亡くなり、当局からも詳しい説明などはないということです。

ドゥラン・ロドリゲスさん
「ギャングを捕まえるのは素晴らしいことですが、もう止めてもらいたい。多くの母親たちが私と同じように苦しんでいます」

地元の市民団体などから冤罪や人権侵害を批判する声もあがっていますが、政府は「最後のギャングを逮捕するまで撲滅作戦を継続する」としています。【9月4日 TBS NEWS DIG】
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【超法規的措置による冤罪も多発】
****殺人に誘拐…凶悪犯罪 “世界最恐”ギャング刑務所の実態「世界一治安が悪い国」が“ギャング撲滅作戦”で激変も…えん罪訴える人続出【news23】*****
(中略)
世界で最も治安が悪い国 エルサルバドルの"日常" 80ドル払えずギャングから銃撃
エルサルバドルは30年近くにわたって、ギャングが縄張り争いを繰り広げ「世界で最も治安が悪い国」とも呼ばれました。

最悪だったのは、2015年で10万人あたりの殺人事件は106.3件。単純比較はできませんが、直近の日本(0.7件)の約150倍。エルサルバドルの治安は崩壊状態でした。

当時、人々を苦しめたものの1つが、ギャングの「みかじめ料」でした。露天商として生計を立ててきたホセ・アントニオさん。 

7年前にギャングに銃で撃たれました。商売をするために要求された80ドルのみかじめ料を払えなかったからです。(中略)

アントニオさんは病院に運ばれ一命をとりとめましたが、これがエルサルバドルの「日常」でした。

政府“ギャング撲滅作戦” 殺人事件の発生率は劇的に改善
こうした状況を一変させたのが、2019年に発足した現政権による"ギャング撲滅作戦"です。

大橋記者 「日が暮れたところですが、軍による治安維持のオペレーションが始まりました。一軒一軒家をまわって、不審者がいないかどうか確認するということです」

政府は、治安対策を最優先課題に軍隊や武装した警察官をギャングの取り締まりに投入。 特に成果を挙げているのが、例外的な位置づけで導入された「超法規的措置」です。

ギャングと関係するタトゥーが体に見つかったり、第三者からの通報があったりすれば、司法手続きを経なくても逮捕が可能となっています。

強権的な措置は功を奏したのか、世界最悪だった殺人事件の発生率は劇的に改善。わずか数年のうちに「中南米でもっとも安全な国」と言われるまでになりました。

なりふり構わぬ治安対策 “負の側面”も
いま街からギャングの姿は消え、平穏を取り戻しました。(中略)国民の多くは政府を支持していますが、なりふり構わぬ治安対策の「負の側面」も表面化しています。(中略)

ドゥラン・ロドリゲスさん。 ギャングとの関係を疑われた22歳の息子が2023年、刑務所で死亡しました。(中略)

こうした“冤罪”を訴える人がエルサルバドル全土で続出していて、国際社会からも非難の声があがっています。
例外的な「超法規的措置」はいつまで続くのか?政府の責任者は…

地元の専門家は、政府がギャング対策の名のもとに人権侵害を正当化していると指摘します。

セントロアメリカ大学 ガブリエラ・サントス教授
「安全の確保のため人権を犠牲にするのは、本来あってはいけないことです。 『超法規的措置』は一時的なものだったはずですが、もはや恒久的な政策です」

国民の安全を守るためには、一定の人権侵害はやむを得ないのか。
例外的な「超法規的措置」はいつまで続くのか?

私たちは政府の責任者を訪ねました。

ビジャトロ司法公共治安大臣 「私たちエルサルバドル政府は、国内でギャングのメンバーの最後の1人とすべての連続殺人犯を捕まえるまでは現在の”緊急態勢”を維持し続けるつもりだと公言してきました。これ以外の方法はあり得ません」

政府は「法律は順守していく」とする一方、国民からの支持を背景に“ギャング撲滅作戦に変更はない”という方針で、巨大刑務所の受刑者は当分増え続ける見通しです。【9月12日 TBS NEWS DIG】
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****「無実の被害者」解放を ギャング取り締まりのエルサルバドル****
エルサルバドルで15日、ナジブ・ブケレ大統領が推し進める犯罪組織対策で拘束された「無実の被害者」を解放するよう訴えるデモ行進が行われた。

息子が拘束されたという母親は、「私の息子は無実。私の息子は犯罪者ではない」と訴えた。息子のエデニルソンさんは2022年5月、ザカテコルカ市の職場で、正当な理由もなく身柄を拘束されたという。

ブケレ大統領は2022年3月、ギャングを取り締まるための「戦争」を開始し、非常事態を宣言。逮捕状が不要になるなど、憲法で保障された権利の一時制限措置を発令した。

ブケレ氏の手法は人権団体らに批判されているが、暴力に疲弊していた市民の大半は、殺人事件の発生率低下を歓迎している。

人権団体らは、これまでにギャング関係者として逮捕された8万2000人のうち、約30%は無実と推定されるとしている。 【9月16日 AFP】AFPBB News
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エルサルバドル同様の超法規的治安対策で圧倒的成果を収め、高い国民支持を獲得したのがフィリピン・ドゥテルテ前大統領も麻薬対策でした。

フィリピン・ドゥテルテ前大統領の場合は、“超法規的”殺人が横行し、警察だけでなく、謎の集団が麻薬取引関係者と見られる者を大量に殺害しました。

その中にはもちろん無実の罪で殺害されるケースもありましたし、警察(こういう国では大抵犯罪組織と癒着しています)に都合の悪い者を“抵抗した”という理由をつけて“口封じ”的に殺害することも。

おそらく、エルサルバドル・ブケレ大統領はフィリピン・ドゥテルテ前大統領の取組を参考にしたのではないでしょうか。(ブケレ大統領の場合は、殺害するのではなく、逮捕して巨大刑務所に隔離して外に出さない・・・ということで、ドゥテルテ比大統領に比べたら穏健かも)

ドゥテルテ前大統領が教える教訓は、”どんなに強引な方法であっても、治安改善という結果を出せば、多くの国民はこれを支持する”ということでしょうか。

超法規的対策の被害が及ばない圧倒的多数の一般国民にとっては、犯罪者がどいう扱いを受けようが知ったことではなく、治安が改善すれば「大成功」と評価します。

国民の多くがそういう観点で投票すれば、超法規的対策が選挙で民主的に支持されます。

民主主義というものは、有権者が自分にとっての利害だけでなく、ある特定の者が負わされる不当な状況に関して思いを寄せる想像力を有するのでなければ、単なる“数”によるポピュリズムに堕します。

もちろん、ギャング・麻薬組織が横行する状況では、従来のような生ぬるい対応では治安は改善せず、多くの国民がその被害を被る・・・というのもわかります。どこまでが許されて、どこからが許されないのか、一概に言うのは難しいところですが、バランスの問題でしょう。

“超法規的”殺人はレッドカードだと思いますが、“超法規的”逮捕となると・・・その中身でしょう。
“超法規的”が(もしどうしても必要ということであれば)許されるのは危機的状況のなかでの一時的なことで、速やかに明確なルールが定められるべきで、併せて警察以外の第三者によるチェックが必要でしょう。

また、犯罪組織と癒着した権力内部・警察の改革断行も必要でしょう。
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