(原油先物(米WTI)の推移)
【1年半前は20ドル割れ 今年10月には80ドル超え】
周知のように、現在は原油価格が高騰し、ガソリン価格上昇など多くの価格水準を押し上げる要因となっていますが、当然ながら(すべての財・サービスと同様に)原油価格は需給状況を受けて上下します。
つい1年半前の2020年4月頃は、原油先物価格(米WTI)は現在の1バレル76ドルぐらいに対し、4分の1水準の20ドル付近まで落ち込みました。コロナ禍の需要減少が主因でした。
当時は主要産油国のサウジアラビアとロシアの足並みの乱れも目立ちました。
****中東大油田地帯、機能不全の危機 新型コロナ感染拡大で原油再び高騰か****
米WTI原油価格は1バレル=20ドル台半ばという18年振りの安値水準で推移している。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な流行)で世界の原油需要が2割(日量約2000万バレル)以上減少すると見込まれているからだ。
▽三大産油国、協調難しく
このような状態に慌てふためいているのは、世界の三大産油国である米国、ロシア、サウジアラビアである。
トランプ米大統領の呼び掛けで、サウジアラビアは4月2日「OPECプラス(OPEC加盟国とロシアなどの産油国)の緊急のテレビ会議を6日に開催する」と発表。新型コロナウイルス危機前の世界の原油需要の1割に当たる日量1000万バレル以上を減産する取り組みが始まった。
だがロシアのプーチン大統領が3日、原油価格の急落について「サウジアラビアが増産や値引きを発表したことが原因だ」と批判した。これに対し、サウジアラビアのファイサル外相が4日、「まったく真実と異なる」と反論するなど両国の対立は早くも表面化している。
加えて世界最大の原油生産国である米国がこの協調減産に参加することが不可欠だが、米国内では「協力する用意がある」との声が出始めている一方で、「法律上の制約から実現は困難である」との見方が一般的である。
史上最大規模の協調減産の枠組みが成立しなければ、原油価格は1バレル=20ドル割れとなる可能性が高い。このような低油価は今後も続くのだろうか。(後略)【2020年4月7日 47リポーターズ)】
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ついには“マイナス”価格も出て、話題にもなりました。
****NY原油価格、史上初のマイナス 新型ウイルスで供給過剰****
米ニューヨーク商業取引所で20日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う需要の枯渇により、原油価格が史上初めてマイナスとなった。
マイナス価格は、貯蔵施設が5月に満杯になる恐れがある中で、生産者が買い手に代金を払って引き取ってもらう状態になっていることを意味している。
石油会社は余剰原油を貯蔵するためにタンカーのレンタルに頼っている。
アメリカの原油価格を示すウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物はこの日、1バレル当たりマイナス37.63ドルと、史上初のマイナス価格で取り引きを終えた。【2020年4月21日 BBC】
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もちろん、コロナ禍による需要減少が回復に転じれば、当然ながら価格も上昇に転じます。
ただ、最近の欧州における天然ガス価格高騰の影響もあって、一本調子に上げた原油価格は1バレル80ドルを超える水準にまで高騰しました。
****米原油先物、7年ぶり高値 エネルギー需給逼迫に鎮静化見えず****
米国時間の原油先物は、週間で約4%上昇。世界的なエネルギー需給の逼迫を背景に、米WTI原油先物は2014年10月31日以来、約7年ぶりの高水準を付けた。
WTIの清算値は1.05ドル(1.3%)高の79.35ドル。(中略)
バンク・オブ・アメリカのクリストファー・クプレント氏は「天然ガスや石炭など他のエネルギー価格が上昇を続けているため、原油市場でも価格上昇リスクが高まり始めている」と指摘。原油高の背景には、欧州でのガス価格の高騰により、電力会社が石油への切り替えを進めていることがある。
ANZのコモディティーアナリストも「ガスから石油への転換が加速すれば、北半球の冬に向けて発電用の原油需要が増加する可能性がある」との見方を示した。【10月9日 ロイター】
WTIの清算値は1.05ドル(1.3%)高の79.35ドル。(中略)
バンク・オブ・アメリカのクリストファー・クプレント氏は「天然ガスや石炭など他のエネルギー価格が上昇を続けているため、原油市場でも価格上昇リスクが高まり始めている」と指摘。原油高の背景には、欧州でのガス価格の高騰により、電力会社が石油への切り替えを進めていることがある。
ANZのコモディティーアナリストも「ガスから石油への転換が加速すれば、北半球の冬に向けて発電用の原油需要が増加する可能性がある」との見方を示した。【10月9日 ロイター】
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アメリカや日本などは、産油国に増産を求めていましたが、産油国側は現在の高値水準を維持したいことから増産を見送っています。
****産油国 追加増産見送り OPECプラス閣僚会合****
OPEC(石油輸出国機構)などの産油国は、日本やアメリカが求めていた追加の増産を見送った。
サウジアラビアなどOPEC加盟国と、ロシアなどの産油国は4日、閣僚会合を開き、毎月、日量で40万バレルずつ増やすとしている今の計画を維持し、追加の増産を見送った。
原油価格は、世界的な需要の高まりにより高騰を続けていて、ガソリン価格などが上昇し、生活にも影響が出ていることから、日本などは増産を求めていた。
一方で、産油国側はイギリスなどで新型コロナが再拡大する中、原油の需要が本格的に回復するかが見通せず、追加の増産を見送ることで、現在の高値水準を維持する狙いもあるとみられる。(後略)【11月5日 FNNプライムオンライン】
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長期的な視野に立てば、過度に価格が上昇すれば、ただでさえ強まっている「脱化石燃料」の流れを更に加速させることにもなりますので、産油国にとっても警戒すべきところがありますが、差し当たっては高値維持で利益を確保したいというのも当然のところでしょう。
【アメリカ・バイデン大統領 消費国の協調的石油備蓄放出を主導 ガソリン価格は「間もなく」下落すると確約】
こうした状況で原油価格が上昇し、それに伴ってガソリン価格など諸物価が上昇すると、日本でも大きな問題ですが、自動車社会のアメリカではガソリン価格上昇は死活的に重要な問題で政権基盤を直撃します。
支持率が下落しているバイデン政権としては、何もしない訳にはいかないといころでしょう。
アメリカは主要消費国と協調して石油備蓄の放出に踏み切りました。こうした協調放出は初めての試みとか。
****米、石油備蓄放出を発表 日本などと協調、価格抑制目指す****
ジョー・バイデン米大統領は23日、戦略石油備蓄5000万バレルの放出を指示したと発表した。日本などと協調して行い、高騰する燃料価格の抑制を目指す。
ホワイトハウスは今回の石油備蓄放出について、「中国やインド、日本、韓国、英国などの主要消費国と協調して行われる」と説明した。
ある政権高官は記者団に対し、他国と共にこのような措置を講じるのは今回が初めてと明かした。
新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行と、これに伴うロックダウン(都市封鎖)の影響から世界が回復に向かう中、急増する需要に生産が追いつかず、石油価格が上昇している。
米国では、これに関連するガソリン価格の上昇が、高インフレの主因の一つとなっている。 【11月23日 AFP】******************
バイデン米大統領は23日、高インフレとガソリン価格高騰に対する政権の国内外における取り組みを強調し、ガソリン価格は「間もなく」下落すると確約しました。「長期的にはクリーンエネルギーへの移行に伴い、石油への依存を減らす」とも。
****バイデン氏「取り組みは世界中に」備蓄放出****
世界的な原油価格の高騰を受け、アメリカ政府は、日本や中国などとともに石油備蓄の放出を行うと発表しました。各国が協調しての一斉放出は史上初めてです。
ホワイトハウスは23日、日本、中国、インド、韓国、イギリスなどとともに、石油備蓄の放出を行うと発表しました。市場への供給量を増やし、価格の引き下げを狙ったもので、バイデン政権が各国に働きかけていました。各国一斉の放出は、史上初めてとなります。
バイデン大統領「この取り組みは世界中に広がり、最終的には皆さんの街のガソリンスタンドまで届くだろう」
演説したバイデン大統領は、「ここ数週間、各国首脳らと連絡を取り合ってきた」と明かした上で、「ガソリン価格高騰の問題は、一夜にして解決できないが、中間層、労働者の家庭のために必要なことを行っていく」と強調しました。
備蓄の放出量は、アメリカが5000万バレルで、国内需要の3日分に相当します。日本政府としては、国家備蓄の放出は初めてで、24日、正式発表する予定です。【11月24日 日テレNEWS24】
ホワイトハウスは23日、日本、中国、インド、韓国、イギリスなどとともに、石油備蓄の放出を行うと発表しました。市場への供給量を増やし、価格の引き下げを狙ったもので、バイデン政権が各国に働きかけていました。各国一斉の放出は、史上初めてとなります。
バイデン大統領「この取り組みは世界中に広がり、最終的には皆さんの街のガソリンスタンドまで届くだろう」
演説したバイデン大統領は、「ここ数週間、各国首脳らと連絡を取り合ってきた」と明かした上で、「ガソリン価格高騰の問題は、一夜にして解決できないが、中間層、労働者の家庭のために必要なことを行っていく」と強調しました。
備蓄の放出量は、アメリカが5000万バレルで、国内需要の3日分に相当します。日本政府としては、国家備蓄の放出は初めてで、24日、正式発表する予定です。【11月24日 日テレNEWS24】
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日本もアメリカとの協調を演出すべく、初めての国家備蓄放出する異例の対応に。量は「数百万バレル」とのこと。
****「最後のとりで」に異例の対応 石油の国家備蓄放出、政府の言い分は****
米バイデン政権が23日、日本や中国、インドなど主な消費国と協調して石油備蓄を放出することを表明した。日本政府も石油の国家備蓄を初めて放出する方針だ。具体的な放出量や時期などを示していない国もあり、原油価格を下げる効果は見通せない。
日本、初の石油備蓄放出へ 米に同調 価格引き下げ効果は不透明
日本の石油備蓄は国が所有する国家備蓄と、石油会社に法律で義務づけている民間備蓄などがある。国家備蓄は全国10カ所の基地などで国内需要の約90日分以上を貯蔵することとし、民間備蓄は70日分以上と定めている。
国家備蓄は9月末時点で145日分と目標を大きく上回っている。貯蔵している絶対量は1990年代後半からほぼ変わっていない。国内の石油消費量は省エネなどで減少傾向にあり、日数換算でみると増えている。政府はこの「余剰分」を放出するとみられる。
政府は国内の需要動向などをみながら、国家備蓄の原油の種類を少しずつ入れ替えている。そのたびに一部をアジアの石油市場で売却しているという。今回放出する場合は、同じように市場に売却できないか詰めている。売却の収入は、ガソリン価格抑制のために石油元売り各社へ出す補助金の財源にする案もある。
ただ、これまで備蓄を放出したのは、紛争や災害時で供給不足が心配されるときだ。レギュラーガソリンの平均価格が1リットルあたり185・1円と史上最高値を記録した2008年にも放出しなかった。
放出する場合でも、まずは民間備蓄で対応し、国家備蓄には手をつけなかった。なにかあれば民間分を先に出し、国家備蓄は「最後のとりで」として温存しておくためだ。民間備蓄は国内の石油元売り会社のタンクに貯蔵されており、放出分を国内のガソリンスタンドなどに届けやすいこともある。
政府は、余剰分の放出は目標量は満たしたままなので問題ないとしている。放出量も国内需要の数日分と限定的だ。米国との協調を演出するため、異例の対応に踏み出す。
だが、これまで国家備蓄量を増やすことはあっても、大きく減らすことはまずなかった。多額の税金を投入し備蓄基地をつくったのに、空きタンクができかねない。10月に閣議決定されたエネルギー基本計画も「引き続き石油備蓄水準を維持する」と明記している。国家備蓄に初めて手をつけるなら、政府には十分な説明が求められる。
各国、対応にばらつきも
米国は協調をアピールするが、各国の対応にはばらつきも出そうだ。英政府の広報担当者は23日、「コロナ禍から立ち直る経済を支えるため国際的パートナーと一緒に出来ることをする」と声明で述べた。日米などと歩調を合わせる姿勢だが、英国は企業備蓄の自発的な放出を促すだけで、政府備蓄を取り崩すことは想定していない。(中略)
放出の効果も疑問視される。日米など各国が放出しても、供給量が増えるのは一時的で、全体の需給に与える影響は限られる。(後略)【11月24日 朝日】
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イギリスは上記のように民間備蓄から150万バレルを放出することを許可。
韓国も、2011年に行った政府の備蓄総量の約4%、韓国内で5〜6日分の使用量に当たる量と同程度の放出を行うと見られています。(量・時期は改めて決定)
世界第3位の石油輸入国インドは、同国の石油消費量1日分に相当する500万バレルの備蓄石油を放出することを明らかにしています。【11月24日 産経より】
中国は微妙です。
****中国、米要請に応じるか明言控える 石油備蓄放出巡り****
中国は24日、戦略石油備蓄の放出について必要に応じて実施すると表明し、米国による協調放出の要請に従うかどうかについて明言を避けた。(中略)
米国は5000万バレルを放出する計画で、当事国では最も多い。ただ、中国との協調が実現しなければ、インパクトは弱まるとみられる。
中国外務省の趙立堅報道官は24日、米主導の備蓄放出に参加しているかコメントを避けた上で、「中国は実際の必要性に応じて国家備蓄からの原油放出を計画するだろう」と述べた。(後略)【11月25日 ロイター】
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中国外務省の趙立堅報道官は24日、米主導の備蓄放出に参加しているかコメントを避けた上で、「中国は実際の必要性に応じて国家備蓄からの原油放出を計画するだろう」と述べた。(後略)【11月25日 ロイター】
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【産油国側は大規模増産には消極姿勢】
消費国側のこうした動きに産油国側は「冷ややか」で、OPECプラスは次回の閣僚会合を12月2日に開く予定ですが、夏に決めた小幅増産ペースを維持したい意向と見られています。
消費国の石油備蓄放出は小規模にとどまったとの印象が広がっているとも。
****石油備蓄放出、産油国は冷ややか 来月2日に対応協議****
サウジアラビアなど石油輸出国機構(OPEC)加盟国およびロシアなど非加盟の産油国の連合体「OPECプラス」は、バイデン米政権による再三の増産要求にもかかわらず、大規模な増産を避けてきた。
OPECプラスは新型コロナウイルス感染拡大による石油需要の急減を受け、昨年5月に協調減産を開始しており、世界経済が本格的に回復するかを見極める狙いがうかがえる。
OPECプラスは12月2日、閣僚級会合を開いて石油需給の見通しを協議するが、協調減産幅を毎月日量40万バレルずつ縮小する現在の枠組みに大きな変化はないとの見方が多い。
欧州ではコロナ感染が拡大する気配をみせ、収束は見通せない。エネルギー需要が高まる冬場に入り、現在の高値を維持したい思惑があるとも指摘される。
ロイター通信は、OPECプラス当局者や専門家の間で、米中やインド、日本など消費国の石油備蓄放出は小規模にとどまったとの印象が広がっていると報じた。
アラブ首長国連邦(UAE)のエネルギー相は、来年第1四半期は余剰供給になるとのデータがあるとし、「増産する道理はない」と述べた。
備蓄の協調放出は産油国に対する警告のメッセージであり、政治的緊張が高まる恐れがあるとの見方もある。英BBC放送(電子版)は、消費国の動きを受けてOPECプラスが生産を抑制するようなら、備蓄の協調放出は「裏目に出るかもしれない」という識者の見方を伝えた。【11月24日 産経】
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【「脱化石燃料」の流れ中で増えないシェールオイル投資】
バイデン政権のお膝元、アメリカ国内のシェールオイルの増産も政府の要請どおりにはいかない様子です。
****米シェール業界の再投資鈍化、ガソリン値下げ目指す政権と足並みそろわず****
バイデン米政権がガソリン価格押し下げを狙って日本や中国などと共同で石油備蓄放出に踏み切った一方、シェール企業による増産に向けた再投資の動きは鈍化している。政府と米石油業界の溝が深まっていることが改めて示された格好だ。
ライスタッド・エナジーのデータによると、米シェール企業が事業で得た現金を原油・天然ガス掘削のために振り向ける比率は第3・四半期に46%と、長期平均の130%を大幅に下回って過去最低を記録した。これらの企業が配当や自社株買いを通じて株主への現金還元を優先している様子が見て取れる。専門家の話では、この再投資率は今後さらに低下する可能性もある。(中略)
米国石油協会(API)も、バイデン氏が新規パイプライン設置を認めず、連邦用地のリースを停止していることが、業界の投資抑制の原因だと批判。APIのチーフエコノミスト、ディーン・フォアマン氏は、政権が予見可能な将来に化石燃料の全廃を望んでいる以上、業界の資金繰りがより厳しくなると再投資に消極的な事情を説明した。【11月24日 ロイター】
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従来は原油価格が上昇するとアメリカのシェールオイルが増産され、原油価格上昇が抑制されるメカニズムが働いていましたが、「脱化石燃料」の流れのなかで、価格上昇でもシェールオイル増産への投資があまり増えない形になっているようです。
【結局は需給バランス次第】
オイルショック以前は、原油価格は少数の石油大手企業(国際石油資本 石油メジャー)が牛耳っていると見られていました。
オイルショックで価格決定権はOPEC石油産油国へ。
その後、ロシアやアメリカシェールオイルの比重が増大。
基本的には、他の商品同様に需給バランスで決まるものでしょう。
今回のアメリカ主導の協調備蓄放出がどの程度の効果をもたらすのか?
直接の放出量は「大海の1滴」に過ぎないでしょう。消費国側の強い姿勢を見せることで、それ以上のアナウンスメント効果的なものを期待できるか・・・・?
22日76ドル付近だった原油先物WTIは、24,25日は78ドル付近で推移しています。
「より大きな状況は石油製品需要が引き続き堅調で、タイト化する市場にさらなる圧力となっていることだ」(市場関係者)