孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国女子プロテニス選手の安否 「証拠」公開でも払拭されない中国政府への疑念 

2021-11-26 22:38:23 | 中国
(女子プロテニス選手の彭帥さん(左、ロイター共同)と張高麗元副首相【11月4日 毎日】)

【中国政府と利害を同じくするIOC 「人権より中国との関係を重んじた」との批判も】
女子テニスのトッププレーヤーである中国の彭帥(ポン・シュアイ)氏(35)が11月2日、中国版ツイッターの微博(ウェイボー)に、中国共産党の元中央政治局常務委員だった張高麗氏に性的関係を強要されて不倫関係の「愛人」となった経緯や、張氏の妻から受けた圧力などを暴露する内容を投稿したこと、その後消息不明となったことは周知のとおりです。

相手の張高麗氏については、“彼女が名指ししたのは張高麗(75)。2012年の第18回中国共産党大会で党中央政治局常務委員に就任。翌13年に習近平(68)が政権を握ると、張は副首相に就いている。それほどの重要人物だ。現在は引退したとされているが、最高幹部のひとりだったことは間違いない。”【11月23日 デイリー新潮】という重要人物。それだけに国際的波紋も大きく、中国政府も対応に苦慮しているようにも見えます。

中国政府の事態鎮静化の思惑を反映したものか、ここ1週間ほど、彼女のメールや写真なども公開されてはいますが、疑惑を深める感も。

****不倫暴露後に消息不明の中国テニス選手、国営メディア“自筆メール”公表も「不審なカーソル」で捏造疑惑が浮上****
(中略)このことが世界的に報じられたことに焦った中国当局は、中国国営英語放送「CGTN」を通じて、彭氏が女子テニス協会(WTA)のスティーブン・サイモン会長とWTA幹部に送ったとされるe-mailのスクショをツイッターに投稿しました。

ところが、その中身は「(微博による告発は)真実ではない」「今は自宅で休んでいる、問題ない」というものでした。この、にわかには信じがたい本人「自筆メール」に、サイモン会長をはじめ、世界中のネットユーザーが疑いの目を向けています。(中略)

さらに、台湾メディア蘋果日報(りんご日報、アップルデイリー)は、CGTNの公表した彭氏のメールスクショ画像に「カーソル」が映り込んだままだったことを指摘。届いたメールにカーソルが映り込むはずはなく、「メール画像に捏造の疑いがある」と報じています。(後略)【11月18日 MAG2NEWS】
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20日に友人との夕食会、21日に北京で開催された子ども向けテニス大会に姿を見せたとする写真や動画を中国国営メディア記者や大会主催者が公開していますが、懸念を払拭するには至っていません。

中国側からすれば鎮静化への切り札とも思われる、IOCバッハ会長と彭氏がテレビ電話で会話したという件も。本人の肉声は公表されておらず、疑念払拭には至っていません。

****IOC 中国選手“無事確認#も...肉声なし 現地放送は強制中断****
中国共産党元最高幹部との不倫関係を告白した、中国の女子テニス選手について、IOC(国際オリンピック委員会)は日本時間の22日未明、バッハ会長とテレビ電話をして、無事を確認したと発表した。

しかし、女子選手の肉声が聞かれないことに対し、アメリカメディアから疑問の声が上がっている。

IOCは21日、女子テニスの彭帥選手とバッハ会長が、およそ30分間にわたり、ビデオ通話をしたと発表し、画像を公開した。

彭選手は、北京の自宅で無事に過ごしているものの、今はプライバシーを尊重してほしいと説明、バッハ会長と2022年1月に、中国で夕食の約束をしたとしている。

中国国内では、彭帥さんがSNS上で、元最高指導部メンバーとの不倫を告白した直後から、ネット上でも情報統制を行っていて、22日朝のNHKの衛星放送も、彭選手のニュースに入ったところで、映像と音声が中断した。

アメリカのニューヨークタイムズは、「ビデオ通話にあたり、彭選手の友人が英語を手伝ったというが、彼女は語学が堪能なはずだ」として、彭選手の肉声が聞かれなかったことに、疑問を投げかけている。【11月22日 FNNプライムオンライン】
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そもそも北京五輪を控えて、中国当局とIOCは利害を共通する関係にあるとも指摘されており、批判の矛先はIOCにも向けられています。

“通話の場には中国出身のIOC委員も同席しており、彭さんの言動に影響した可能性もある。

テレビ電話がどのような経緯で実現したかは不明だが、中国当局には、彭さんの安否を巡る国際社会の懸念を打ち消す狙いがある。IOCにも、北京冬季五輪開催に影響しかねない不安定要素を取り除いておきたい思惑があったとみられる。
 
ロイター通信によると、女子テニス協会(WTA)の報道担当者は、「彭さんが検閲や強制なしにコミュニケーションできるかどうかという懸念を解消させるものではない」との見解を示した。”【11月22日 読売】

****米下院議員、IOCは「中国共産党の彭帥さん虐待に積極的加担」「選手より経済的関係に関心」****
(中略)米国務省のネッド・プライス報道官は22日の記者会見で、「彭さんを巡る状況を注視している」と述べた。北京冬季五輪への影響については明言を避けた。
 
国際オリンピック委員会(IOC)は21日、トーマス・バッハ会長と彭さんがテレビ電話で会話したと発表した。彭さんの発言が強制されたものだったかどうかについては「公表できる評価はない」と述べた。一般論として性的暴行について訴え、説明責任を求めることを支持するとし、中国における「言論の自由を擁護し続ける」と強調した。
 
一方、下院外交委員会の共和党トップ、マイケル・マコール議員は22日、「中国共産党による彭さんの虐待に積極的に加担した」とIOCを非難する声明を発表した。「IOCは五輪選手を守ることよりも、中国との経済的関係に関心があるのは明白だ」と主張した。【11月23日 読売】
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****「中国のプロパガンダの宣伝をするな」テニスの彭選手を巡り、人権団体がIOCのスポーツウォッシングを批判****
中国の前副首相から性的関係を迫られたなどと告発した女子プロテニスの彭帥(ほう・すい)選手について、「元気で安全だった」と発表した国際オリンピック委員会(IOC)に、批判が起きている。

人権団体ヒューマンライツウォッチ(HRW)は11月22日、「オリンピック:中国のプロパガンダの宣伝をするな」という声明を発表。

IOCに対し、スポーツを利用して人権など不都合な事実から目を背けさせるようとする「スポーツウォッシング」を止めるように求めた。

「人権より中国との関係を重んじた」と批判
IOCは11月21日に、トーマス・バッハ会長らが彭選手とテレビ電話で話したと発表した。
そして「彭選手は安全で元気に北京の自宅で暮らしていたが、今は自分のプライバシーを尊重してほしいと述べ、友人や家族と過ごすことを希望していた」と説明した。

その一方で、IOCはテレビ電話が行われた経緯は明かさなかった。この発表の背景には、2022年2月に北京オリンピックの開幕を控え、国際社会の疑念をいったん沈静化させたいというIOCの思惑があったとみられている。

しかし、このIOCの声明について、HRWは「中国当局と協力して彭選手が無事だと伝えたことで、IOCはアスリートの権利と安全を含む、自身が表明してきた人権への貢献を台無しにした」と述べている。

さらにHRWのシニア中国研究者の王亚秋氏は「IOCはオリンピック選手の人権と安全より、重大な人権侵害者との関係を重んじた」と強く批判した。(後略)【11月24日 HUFFPOST】
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IOCとは異なり中国批判を続ける女子テニス協会(WTA)ですが、そのWTAを“友人男性”が批判しているとも。背後に中国政府の思惑がある何かの陰謀なのか、真実なのかは知りません。

****中国テニス選手のメール、「WTAは無視した」 友人名乗る男性が非難****
中国のテニス選手、彭帥さん(35)の安否が気遣われている問題で、彭さんの関係者だという男性が女子テニス協会(WTA)について、彭さんのメールを無視したと非難した。

WTAを批判している男性は、丁力さん。スポーツ大会の開催や選手のマネージメントをする会社の重役だと報じられているが、詳細はわかっていない。彭さんの友人だと自ら説明しているが、そうした関係性も不透明だ。

丁さんは、彭さんがWTAのスティーヴ・サイモン最高経営責任者(CEO)にメールを送っていたと主張。スクリーンショットをツイッターに投稿した。
そのメールには、「現時点では気持ちを乱されたくない。特に、私の個人的なことを大げさにしないでもらいたい。静かに暮らしたい。あなたの気遣いに感謝する」と書いてあった。

丁さんはBBCのメール取材に対して、サイモンCEOは彭さんのメールを受信したのに、彼女を「避けた」と説明した。

また、サイモン氏は彭さんの連絡先を、テニス選手とメディア関係者ら10人以上に知らせたとした。そのため彭さんには電話が次々とかかってくるようになり、「困ってしまった」と主張した。
そしてそのことが、彭さんがサイモン氏と話をしなかった「とても大きな要因」になったと述べた。

国営メディアと同じ説明
(中略)丁さんは彭さんについて、北京におり、「移動の自由」があると説明した。また、「監視や圧力は皆無で、罰もまったくなかった」と主張した。

BBC記者が彭さんと話をしたいと求めると、「彼女は自宅で独りゆっくり休むことだけを希望している」と返答。彭さんが公の場に姿を見せないことについて、国営メディアと同じ言葉で説明した。

ただ、WTAや国連、米政府など多くの機関が、そうした説明を疑問視している。セリーナ・ウィリアムズ、大坂なおみ、ノヴァク・ジョコヴィッチの各トップテニス選手たちも、彭さんの居所に関する情報を出すよう求めている。

「当局は調査していない」
中国で有力政治指導者に対し、性暴力の訴えがなされたのは初めて。中国の#MeToo運動としては、最も注目を集める事案となっている。

しかし丁さんは、彭さんの告発について、当局が調査などの対応を一切していないと述べた。その理由として、彼女がWTAへのメールで「性的暴行はなかった」と書いたからだとした。

だが、彭さんが今月2日にウェイボーに投稿した際には、張前副首相にセックスを強要されたとはっきり書いていた。

中国政府は、彭さんに注目が集まることに反発している。特に、国営メディア側が彼女の無事を表すものとして写真や動画を公表したにもかかわらず、その信ぴょう性を疑われたことに不快感を示している。

WTAは最近公表された動画について、「彼女の健康と、検閲や圧力のない状態で連絡を取り合うことができるのかについて、WTAは懸念を抱いているが、それを和らげも解消もしない」とした。(後略)【11月26日 BBC】
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ワイドショー的には面白い展開ですが、真相はわかりません。
彭氏が外国メディアの前に出てきて自由に語れば、疑問の多くは解消するはずですが・・・。

中国政府は、最高幹部のひとりだった者のスキャンダルということで、政権の権威失墜を恐れているのでしょうか。

そういう閉鎖性がスキャンダル云々よりはるかに中国への国際的信頼感を損ねていると思うのですが。

なお、今回騒動を中国政権細部の権力闘争と結びつける見方もあるようです。

張高麗は、第5代国家主席を務めた江沢民(95)を筆頭とする、いわゆる“上海閥”に属しており、彭氏は習近平一派の後ろ盾を得て告発した・・・といった内容です。 深読みに過ぎるような感がありますが、どうでしょうか。

【女性からのセクハラ告発に大きな壁 党幹部が政治闘争で失脚すると性的不品行も明らかにされ、被害者女性たちは、失脚した人物の悪評の証拠として利用される】
彭氏の件の真相はわかりませんが、中国における「#MeToo」運動は強く抑圧されている現状があります。

****検閲、男性中心社会、原告に不利な司法…中国の「#MeToo」運動の壁****
中国でも広がっているセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)告発運動「#MeToo(私も)」が、つまずきを見せている。インターネットに投稿しても検閲ですぐに削除され、男性中心社会や原告に大きな負担を強いる司法制度も立ちはだかっている。

中国テニス界のスター選手、彭帥さんが今月、張高麗副首相から性的関係を強要されたと衝撃的な告発をした。こうした告発が中国共産党の上層部に向けられたのは初めてだった。
 
だが、彭さんの訴えはすぐに中国のネット上から削除された。
 
世界中に広がった「#MeToo」運動が中国でも2018年に芽生えると、大学教授から受けた性的被害を明らかにする女性が相次いだ。
 
すると当局は、運動が大きく発展し制御できなくなることを恐れ、直ちにソーシャルメディア上で関連するハッシュタグやキーワードを検閲対象とした。「#MeToo」というフレーズは、今でも中国では検索できない。
 
著名なフェミニストが警察に嫌がらせを受けたり、勾留されたりするケースも多い。国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」によると、活動家の黄雪琴氏もその一人。今年9月、「国家転覆を扇動」したとして拘束された。
 
習近平国家主席は、女性は「社会の発展と進歩を促す重要な力」とうたうが、党の指導部は男性中心で、トップ25人の中央政治局委員のうち女性は1人しかいない。

■「否定しさえすれば、無実を証明する必要もない」
中国では昨年、セクハラの定義を成文化した新法が可決された。だが、被害を告発する側は今なお大きな障害にぶつかっている。

「自分がうそをついていないことと(中略)訴えが売名行為ではないことを延々と証明し続けなければならないのです」。性的被害を訴えたことのある女性は、嫌がらせを受けることを恐れて匿名でAFPの取材に応じ、こう説明した。
 
だが、告発された男性側は「とても簡単」だ。「自分はやっていないと否定しさえすれば、無実を証明する必要もないのです」と女性は話した。
 
世界自然保護基金の職員、王琪さんは、上司から無理やりキスされ、繰り返し嫌がらせを受けていたとネットで訴えた。だが2018年、相手から報復的に名誉毀損(きそん)で訴えられた。
 
裁判所は、王さんの訴えは証拠不十分だと判断し、「うそを広めた」として男性に謝罪するよう命じた。
 
過去に国営テレビ局でインターンをしていた周暁●(●はおうへんに旋)さんは、司会者の朱軍氏に体を触られるなどの被害を受けたと訴訟を起こしたが、北京の裁判所は今年、証拠不十分として棄却した。逆に周さんは朱氏に名誉毀損(きそん)で訴えられた。
 
米エール大学法科大学院が5月に発表した研究結果によると、裁判所は原告に対して、訴えられた側よりもはるかに強力な証拠を提出するよう求める一方で、友人や同僚など原告に近い人々を証人として認めないことが多い。

■性的不品行が明るみに出るのは政府に都合が良い場合
中国政府は、セクハラの訴えが政府にとって都合が良い場合には、もみ消しを図ることはない。
 
今夏、中国の電子商取引大手アリババ(阿里巴巴)の女性社員が、出張中に上司や取引先相手から性的暴行を受けたと訴えた。この事件は、国内メディアで広く取り上げられた。
 
規制当局から強い圧力を受けていたアリババは、問題の上司を解雇。「あしき」社風を一掃することを約束した。
だが、ほとぼりが冷めると、警察はこの事件を不問とした。
 
汚職で除名処分を受けた共産党幹部は、性的不品行でも告発されることが多い。政治闘争で失脚すると、こうした行為が犯していた罪の一部として初めて明らかにされるのだと、中国のフェミニスト、呂頻氏はエッセーで指摘している。

「その場合、(性的被害を訴えた)女性たちは、失脚した人物の悪評の証拠として利用される」 【11月24日 AFP】******************

新疆ウイグル自治区やチベットの問題しかり、彭氏を初めとする女性問題しかり、こうした中国政府の希薄な人権意識に対し、北京オリンピックの外交的ボイコットも動きも表面化し、中国政府は神経を尖らせていますが、その件は長くなるので、また別機会に。
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