孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  中国同様、あるいはそれ以上に深刻な大気汚染、石炭不足・電力不足

2021-11-10 23:14:53 | 南アジア(インド)
(【11月5日 時事】11月5日 ニューデリーの大気汚染)

【大気汚染深刻化 環境対策・衛生観念に優先する宗教的情熱】
北京オリンピックの頃などは中国の大気汚染が冬場になるとよく話題になっていましたが、最近はあまり聞かなくなりました。

ひとつは、(共産党支配を続けていくうえで)住民の不満に敏感な中国政府が環境対策に本腰を入れた成果でしょう。
更に、去年あたりからは新型コロナによる経済活動の低下も、結果的に汚染レベルを改善させる方向に作用したようです。

ただ、大規模な電力不足であきらかになったように、脱石炭を急速に進めることはできない経済体質がありますので、汚染の方も当分は一定に続くことが予想されます。

“北京、スモッグ悪化で幹線道路通行止め 校庭も使用禁止”【11月5日 AFP】

大気汚染で言えば、中国以上に深刻なのがインド。
今年もまた・・・しかも、コロナ対策でもそうでしたが、インドの場合、ヒンズーのお祭りとなると歯止めがきかなくなるというところがあって、中国のように政府の規制で大きく改善するということも期待できないようです。

****花火、爆竹で大気汚染深刻=恒例の「正月」祝い―インド首都****
世界最悪レベルの大気汚染で知られるインドの首都ニューデリーは5日、ヒンズー教徒が新年を祝う「ディワリ」で使用された花火や爆竹によるスモッグに包まれた。

インドは今年5月、最大で1日約40万人の新型コロナウイルス感染者を出したものの、最近は新規感染者が1万人程度に落ち着いており、人々は例年通り祭りを楽しんだようだ。
 
ニューデリーではディワリ当日の4日から大気汚染が急激に深刻化。民放NDTVによれば5日、インド当局の微小粒子状物質PM2.5の観測値が最大の「999」に達した。NDTVは「実際の値はさらに高い可能性がある」と伝えた。
 
大気汚染による呼吸器の負担が新型コロナ感染に影響を及ぼす恐れも指摘されている。首都当局は花火や爆竹の使用を全面的に禁じた。しかし、首都では花火や爆竹の音が響き、室内にいても息苦しくなるほどだった。【11月5日 時事】 
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インドの大気汚染の原因は、農家による野焼きの煙だとされています。
その野焼きが本格化するなかで、「ディワリ」で使用された花火や爆竹が更に状況を悪化させたようです。

そもそもインドの場合、環境汚染に対する意識が宗教的情熱に及ばないところがあります。更に言えば、衛生観念が日本や欧米のそれとは違うところも。

****大量の有毒“泡”発生 包まれ沐浴の信者も****
水面を覆う、大量の白い物体。
産業廃棄物や未処理の下水によって発生した有毒な泡。

インドの首都・ニューデリーを流れるヤムナー川では、上流から流れ込んだ排水で、有毒な泡が大量に発生した。
こうした中でも8日、川ではヒンズー教の太陽に祈りをささげる祭典のため、泡に包まれながら沐浴(もくよく)する信者の姿が見られた。

ヤムナー川は、ガンジス川と並ぶ神聖な川として信仰の対象となっているが、水質改善は進んでおらず、有毒な泡の発生は毎年見られている。【11月10日 FNNプライムオンライン】
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聖なる川・ガンジス川は生焼けの死体がよく流れていますが、そういう川で沐浴することが至上の喜びとされるお国柄ですから・・・。

【中国同様の石炭依存からの電力不足】
そうした衛生観念や環境への意識といった面に加えて、経済体質が石炭に大きく依存しており環境汚染を引き起こしやすいところは中国とよく似ています。

中国が石炭不足で大規模停電に陥ったように、中国ほど大きな話題にはなりませんでしたが、インドも同様の電力不足に見舞われています。

****未曾有の電力危機に瀕するインド 経済回復に大打撃****
欧州や中国などで電力不足が深刻化しているが、実は14億人近い人口を抱え、アジア第3位の経済規模を持つインドでも電力の需給がひっ迫している。原因は火力発電所で使われる石炭の不足だ。

新型コロナの第2波からようやく抜け出したインドでは、経済再開で電力需要が増しており、産業や国民生活への影響が心配されている。

◆発電は石炭メイン 各地で在庫激減
インドは発電の70%を石炭火力に頼っている。政府のデータによれば、10月6日時点でインドの135ある石炭火力発電所の80%で、石炭の在庫が8日分以下になっていたという。そのうち半分以上では、2日分以下しかなかった。

通常であれば、平均18日分はストックされているはずだという。インドの信用格付け機関CRISILのヘタル・ガンディー氏は、ストックが以前の水準に戻るのは来年3月以降だろうとしている。(CNBC)
 
インドは石炭の埋蔵量が多く国内生産が盛んだ。国営のコール・インディア社(CIL)が生産量の80%を占めている。BBCによればこの10年間で石炭の消費量はほぼ2倍になっている。

今後十数ヶ所の新規の炭鉱開発を計画しているが、実は国産だけでは需要を賄えず、輸入も世界第3位の規模となっている。

◆原因はさまざま コロナからの復活に冷や水
石炭不足はさまざまな要因が絡み合って発生した。まず、今年は雨季が長引いたため、石炭の供給が通常のレベルに戻るのが大幅に遅れた。

そして、パンデミックの第2波によって経済活動に影響が出て、石炭の在庫が必要なレベルまで蓄積されなかった。さらに、世界的な需要増のため輸入炭の価格が高騰して購入することができず、これが問題を複雑化させているという。(インディアン・エクスプレス紙)
 
需要面を見ると、経済活動が急回復し、大部分がパンデミック前の水準、またはそれ以上になっており、電力需要が予想外に急増した。

インディア・トゥデイ紙によると、CILは今年の上半期に記録的な量の石炭を生産して対応している。しかし需要の急激な増加に追いつけず、現在の状況を招いている。
 
インドの石炭価格はCILが決めているため、国際価格が上昇しても国内価格にはそれほど影響はないという。電力会社はコスト上昇分をほとんどの一般消費者に転嫁することはできない。よって石炭価格の上昇分は主に産業界の負担となる。(CNBC)
 
政府は石炭不足の懸念を払しょくするため、供給は十分だと発表しているが、現在の危機が続いて高い輸入炭が増えれば、電力コストが急増し、製造業が影響を受ける。

また、電力需要が大幅に増加すれば、電力を大量消費する産業の輸出を制限する措置がとられる可能性もあるとガンディー氏はCNBCに述べる。さらに、企業はコストを消費者に転嫁するため、インフレ懸念が強まっている。

◆石炭がないと生活できない、途上国インドの現実
インドはいまこそ石炭への過剰な依存をやめて再生可能エネルギーへの移行を貪欲に進めるべきだという声もあるが、現実はそんなに簡単ではないとBBCは述べる。

国内では直接的および間接的に400万人の人々が石炭産業に従事しており、貧しいコミュニティのライフラインになっている。炭鉱がなくなればこれらの人々は生活の糧を失うため、再エネシフトにはよく練られた戦略が必須だ。
 
さらにインドにはいまだに電気を使えない人が数千万人いるとされる。炭鉱近くのスラム街では、石炭を使った屋外のかまどで料理をし、夜の明かりも石炭を燃やして確保している。

政府は2030年までに電力の4割をクリーンエネルギーで賄うという目標を掲げているが、石炭のない未来はまだまだ先のことと言えそうだ。(BBC)【10月14日 NewSphere】
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“石炭のない未来はまだまだ先のこと”ということで、COP26でも「脱石炭」の動きには距離を置いています。
日本も同様ですけどね。

****「脱石炭」で温度差、声明に日本不参加 COP26****
国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、二酸化炭素(CO2)の排出量が多い石炭からの脱却に向けた取り組みが加速している。議長国の英国は4日、40カ国以上が石炭火力発電を段階的に廃止することを目指す声明に賛同したと発表した。

ただ、日本や米国、中国、豪州、インドなどは声明に加わっておらず、脱石炭をめぐっては溝も明らかになっている。

声明は、石炭火力が気温上昇の「唯一最大の原因」であり、クリーンエネルギーへの移行を早急に進めるべきだと指摘。先進諸国は2030年代まで、世界全体では40年代までに石炭火力を廃止する方針を盛り込んでいる。

これまでに石炭火力からの撤退を宣言していた英国やフランスなどに加え、石炭火力の建設計画が進むベトナムや石炭産出国のポーランドなど23カ国も声明に加わった。英政府によれば、金融機関や企業なども含めて190の国・機関が賛同しているという。

COP26の議長を務めるシャルマ氏は「石炭の終わりが目前に迫っていると信じている」と強調した。

発電コストの安い石炭火力を主要電源とする中国やインド、石炭産業を擁する豪州、日本などは声明に加わらなかった。

日本は、30年度に総発電量の19%を石炭火力でまかなうとしたエネルギー基本計画を10月に閣議決定した。中国の石炭使用量は世界全体のおよそ半分とされる。【11月5日 産経】
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【中国・インドの石炭不足・電力不足は世界経済への影響も】
中国とインドで石炭不足が深刻化し、電力供給が不安定になっている状況は、世界全体のインフレ圧力を高め、サプライチェーンを混乱させる可能性もあります。

****中国・インドの電力不足によるグローバル・インフレ懸念 ― 冬場にサプライチェーンが混乱する可能性も ****
中国とインドで石炭不足が深刻化し、電力供給が不安定に。新型コロナ対応の活動規制の緩和で内需回復が進む一方、①中国・インド両国で豪雨等により石炭採掘量が減少していること、②中国政府が脱炭素のための急激なエネルギー構造変化を推進し、供給が細ったことが背景。

電力供給の安定化に向けて、中国政府は、電力料金の引き上げなどで電力会社を支援しながら、発電量の増加を目指すことを表明。また、中国・インドともに、石炭や他の一次エネルギーの供給を拡大させる措置。

今後は、暖房需要の高まる冬場にかけて石炭需要がひっ迫する可能性大。両国は、国内での採炭を今後加速させる構えであるが、当面は輸入拡大で対応する方針。すでに大幅に輸入額を増やしている中国にインドも続く見込み。世界の石炭消費1位と2位の両国の石炭輸入増は、世界の石炭価格をさらに押し上げ、世界的にインフレ圧力を高めるおそれ。

さらに、不安定な電力供給が停電などの問題に発展し、生産活動に支障を来せば、世界経済の重しに。

わが国は、電子・電気機器など製造業の多くが中国に依存。ASEANの経済停滞により一部の製造業でサプライチェーンがすでに混乱しているなか、中国・インドの電力不足がこれに拍車をかける可能性に要注意。【10月13日 日本総研】
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インドの石炭不足・電力不足が話題になったのは約ひと月前。
その後どうなったのか・・・よくわかりません。メディアも“その後”をフォローしてくれないので・・・。
発電用石炭の“ストックが以前の水準に戻るのは来年3月以降だろう”という指摘もありましたので、基本構図は変わっていないのでは。

コメント
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