孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  マクロン大統領はメルケル後のEUを牽引できるか? 台頭する“フランスのトランプ”

2021-11-05 22:57:43 | 欧州情勢
(「フランスのトランプ」とも評されるフランスの政治評論家エリック・ゼムール氏【10月22日 時事】)

【AUKUS問題で、欧州諸国からフランスを支持する声がすぐには出なかった】
これまでドイツのみならず欧州政治を牽引してきた引退するメルケル首相をフランス・マクロン大統領が夕食会に招いて感謝の言葉を贈ったとのこと。

****「若輩者への寛容さに感謝」マクロン氏、政界引退のメルケル氏に****
フランスのマクロン大統領は3日、新政権の発足に伴って政界を引退するドイツのメルケル首相を仏東部ボーヌでの夕食会に招いた。

外国首脳らを前に強気の姿勢を誇示する場面も目立つマクロン氏。だがこの日は、隣国ドイツを16年にわたって率いたメルケル氏に「血の気の多い若輩者の大統領を受け入れてくれた。私への忍耐とその寛容さに感謝します」と謙虚に述べた。
 
メルケル氏は2005年から首相を務め、この間、シラク氏、サルコジ氏、オランド氏、マクロン氏の歴代フランス大統領と良好な関係を保ってきた。マクロン氏は17年、フランス史上最も若い39歳で大統領に就任した。【11月4日 毎日】
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「私への忍耐とその寛容さに感謝します」と謙虚に述べた・・・・とのことですが、マクロン大統領の思いは「これからは自分の時代だ・・・」といったところかも。

ただ、“ロシアからの脅威に向けて欧州が独自の防衛力を整備し、米国への依存を減らすべきだ”【下記記事】と主張する“強気の姿勢を誇示する場面も目立つマクロン氏”【上記記事】で欧州政治がまとまるのかは疑問を示す向きも。

****「メルケル後」のEU、仏大統領が主導か 独走に不安も****
ドイツの首相として16年にわたって欧州連合(EU)のかじ取り役を担ってきたアンゲラ・メルケル氏が政界を去って行く。これによってフランスのマクロン大統領がEUで指導力を発揮し、「より独立した欧州」という自ら掲げる戦略を推進するチャンスが巡ってきた。

ただEU内のどの立場の外交官も、それほど急速な変化は起きないと話す。

「欧州の女王」と呼ばれたメルケル氏の下で策定された欧州戦略は、時折、構想の「明快さ」が欠けていた。この点、マクロン氏が明快な物言いをエネルギッシュに続け、EUもマクロン氏特有の言い回しをしばしば取り入れてきたのは事実だ。

それでも外交関係者は、第2次世界大戦後の欧州の政治体制が合意に基づき成立したという歴史を指摘。マクロン氏が直接的で相手をいらつかせるようなスタイルばかりか、欧州戦略の策定で「独走」したがる点から、同氏がメルケル氏の役回りを果たすのはなかなか難しいだろうとの見方が出ている。

EU創設時からのメンバー国の駐フランス外交官は「マクロン氏が1人で欧州を引っ張っていける状況にはない。彼は慎重になる必要があると自覚しなければならず、彼はフランスの政策に早速に応援団が集まると期待してはならない。メルケル氏は特別な立ち位置を持っており、全員の話に耳を傾け、全員の意見を尊重していた」と述べた。

マクロン氏を巡っては、オーストラリアが先頃フランスの潜水艦導入契約を破棄した際、欧州諸国からフランスを支持する声がすぐには出なかったとのエピソードもある。

こうした「沈黙」からは、ロシアからの脅威に向けて欧州が独自の防衛力を整備し、米国への依存を減らすべきだとのマクロン氏の構想に対し、EU内部や加盟各国に根深い反対論があることがうかがえる。

マクロン氏自身は過去のフランス大統領に比べれば、東欧諸国により親密に接しようとしている。にもかかわらず、米国が加わる北大西洋条約機構(NATO)を同氏が「脳死状態」にあると切り捨て、ロシアとの対話促進の必要を提唱した際には、ロシアに対抗する信頼に足る防衛力を提供してくれるのは米国だけだと考えるバルト諸国や黒海沿岸諸国は、まさに衝撃に打ちのめされた。

フランス大統領府は、こうした批判についてのコメント要請に応じていない。もっとも複数のフランス政府高官は非公式の場では、ロシアのプーチン大統領との関係も強化するというマクロン氏の戦略がほとんど成果をもたらしていないと認めている。

東欧諸国のある駐仏大使は「彼の対ロシア政策がどういう結果を招くかマクロン氏に言えるなら言いたい。マクロン氏がロシアとの接触を必要としているのは理解する。メルケル氏もそうだった。しかし彼の場合はやり方が問題だ」と一蹴した。(後略)【10月2日 ロイター】
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【ときに強引・傲慢なマクロン大統領の強気姿勢】
上記記事のある“オーストラリアが先頃フランスの潜水艦導入契約を破棄した”件では、駐豪大使を召還するなど激しく米豪を非難していましたが、一応、バイデン大統領がフランスへの配慮を欠いていたととりなす形に。

****米仏大統領会談 バイデン氏、潜水艦契約問題で「不器用な対応をしてしまった」****
ヴァチカン市国を訪問中のジョー・バイデン米大統領は29日、現地のフランス大使館でエマニュエル・マクロン仏大統領と会談し、オーストラリアとフランス間の潜水艦建造契約の破棄につながった米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」について、「不器用な対応をしてしまった」とマクロン氏に述べた。

(中略)バイデン氏はマクロン氏との会談で、「自分たちの対応は不器用だった。(潜水艦建造契約は)実行されないと、フランスはもうとっくの昔に知らされていると思っていた。神かけて本当だ」と述べ、フランスへの配慮に欠けていたことを認めた。

マクロン氏はこれに対して、「将来を見据える」ことが大事だと答えた。【10月30日 ロイター】
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これで矛を収めたと思われたマクロン大統領ですが、未だ怒りは収まらないようで・・・

****豪首相が「うそをついた」、潜水艦計画撤回に仏大統領が再び不満****
マクロン仏大統領は、オーストラリアが9月にフランスと進めていた潜水艦開発計画を破棄したことについて、モリソン豪首相にうそをつかれたと述べ、両国間の信頼回復に一層の取り組みが必要との認識を示唆した。

(中略)マクロン氏は豪メディアの記者団に対し、豪州には大いに敬意を抱いていると強調し、敬意を抱いている相手には誠実で一貫性のある行動が必要だと説明。モリソン首相にうそをつかれたと思うかとの質問には「そう思うのではなく、そうだと知っている」と回答した。

モリソン氏はその後に開かれた記者会見で、うそはついておらず、マクロン氏には、従来型潜水艦ではもはや豪州のニーズは満たされないと過去に説明していたと語った。関係修復のプロセスは始まったとした。【11月1日 ロイター】
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フランス・マクロン大統領の矛先は漁業問題で揉めるイギリス・ジョンソン首相にも。

****フランスが英漁船を拿捕、漁業権巡る対立が一段と激化****
フランスと、欧州連合(EU)を離脱した英国との漁業権を巡る対立が一段と激しくなっている。28日にはフランス領海でホタテ漁をしていた英国漁船2隻のうち1隻がフランスの巡視船に拿捕され、ルアーブル港に入港させられた。もう1隻は口頭で警告を受けた。

前日にはフランス政府が、問題解決に向けて十分な進展が見られない場合、11月2日に発動する可能性のある制裁措置のリストも公表し、英政府が遺憾の意を示していた。

さらにフランス政府は英漁船に対する強硬措置も打ち出し、漁業権問題で一歩も引かない決意を見せつけた形。ジラルダン海洋相は「これは戦争ではないが、ある種の闘いだ」と地元ラジオに語った。

フランス側は、英国領海内におけるフランス漁船の全面的な操業が保証されているにもかかわらず、英政府が承認しないと主張。英国は一定条件を満たした漁船には免許を交付していると反論している。

こうした中でフランスのボーヌ欧州問題担当相は「われわれは強い口調で話す必要がある。そうでないと英政府が事態を理解できないようだ」と述べた。

一方、英政府は自国漁船の拿捕に強く反発。トラス外相は「連合王国とチャネル諸島への残念かつ不当な脅迫」について、29日に駐英フランス大使を外務省に呼び、説明を求める考えだ。【10月29日 ロイター】
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こちらは、G20サミットでの両首脳の会談で収まるのか・・・とも思われましたが、“逆に亀裂深刻化”とも。

****英仏、漁業権巡り対立 関係修復目指すも、逆に亀裂深刻化****
フランスのマクロン大統領と英国のジョンソン首相は10月31日、主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の開催地ローマで会談した。

両国は、英水域での仏漁船の漁業権を巡って対立しており、会談で関係修復を目指した。しかし、会談内容に関する両政府関係者の発言が大きく食い違うなど、亀裂は逆に深まる結果となった。
 
フランスは、EU離脱の合意に反し、英国が仏漁船に対する英水域での操業許可を十分に発行していないと反発していた。仏海洋省は同28日、英仏海峡の仏領海で操業していた英国漁船1隻を違法操業などの疑いで拿捕(だほ)。さらに、英国の対応が進展しない場合、11月2日から通関検査を厳格化するなど対抗措置を強めると警告していた。
 
仏政府高官は首脳会談を受けて、両首脳が事態の沈静化に向け近く再協議すると発表。だが、ジョンソン氏の広報官はこうした合意を否定し「まずフランスが(対抗措置の取り下げに)動くべきだ」と指摘した。さらに、G20サミット閉幕後の記者会見ではマクロン氏が「ボールは英国の側にある」と述べた。
 
会談では、仏が排除された米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」に関する問題は話し合っていないという。フランスは、英国が議長を務める国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、合意に向けて協力する姿勢を示している。【11月1日 毎日】
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上記のAUKUAと漁業問題で見えるマクロン大統領の政治姿勢は、良く言えば“ブレない強いリーダーシップ”でしょうが、悪く言えば“妥協しない傲慢な姿勢”というふうにも。あきらかにメルケル首相のような“まとめ役”ではありません。

【穏健路線をとるルペン氏の支持層を侵食する極右ゼムール氏 トランプ前大統領と類似する政治状況】
内政でも、就任以来、労働市場改革、年金問題、黄色いベスト運動、コロナワクチン接種義務化などでも、同様の強気姿勢で、そうした同氏を傲慢と批判する者も少なくありません。

ただ、今のところ来年4月の次期大統領選挙に関しては、おそらく決選投票に進むことが予想されます。問題は、対抗馬が誰にになるのかですが、これまでは、極右政党「国民連合(RN)」を率いるルペン氏と思われていましたが、ここにきて情勢が変わったようです。

****極右ゼムール氏2位=ルペン氏抜く、決選投票視野―仏大統領選調査****
フランス紙ルモンドが22日に報じた来年の大統領選に関する世論調査結果によると、無所属で極右的主張が話題の政治評論家、エリック・ゼムール氏(63)が16%の支持率を獲得し、24%のマクロン大統領に次ぐ2位につけた。
 
大統領選では初回投票で過半数を獲得した候補者がいない場合、上位2人が決選投票に臨む。これまでは、極右政党「国民連合(RN)」を率いるルペン氏がマクロン氏と共に決選投票に進むとみられていた。今回ルペン氏の支持率は15%だった。【10月22日 時事】 
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極右とされるルペン氏は最近穏健な姿勢に転じて支持拡大を図ってきましたが、そのことが支持者離れをおこしているようにも思えます。

“ゼムール氏と主張が似通っていたルペン氏は「責任政党」を目指して極論を封じており、その間隙(かんげき)を突かれた格好だ。ルペン氏は22日、「挑発的な発言は一時関心を集めるかもしれないが、私の考えは変わらない。私が提示するのは真面目で適用可能な政策で、それこそがフランス人が期待していることだ」としてゼムール氏を牽制(けんせい)した。”【10月25日 朝日】

一方の極右ゼムール氏は・・・

****自由・平等・博愛の国フランスで、移民をレイプ犯と呼ぶ極右が大躍進****
<右派のエリック・ゼムールが、移民排斥を唱えて急浮上。決選投票に進むシナリオも現実味を帯びてきた>

彼が本当に大統領になったりしたら「大惨事だ」と、フランスのある政界通は言い放った。彼とは、右派の政治評論家エリック・ゼムール(63)。来年4月に行われるフランス大統領選の有力候補として、急速に支持を広げている。

ゼムールは、パリ郊外のアルジェリア系ユダヤ人家庭に生まれた。移民とイスラム教の流入によってフランスが壊滅すると主張する著書が、ベストセラーになってもいる。

ゼムールはニュース専門局CNewsで人気のトーク番組を持ち、メディアでも派手に取り上げられている。CNewsは、右派系として知られる米FOXニュースのフランス版とも言える局。今年5月には、フランスのニュース専門局で初めて視聴率トップになった。

彼は「大置換」と称する陰謀説を公然と主張する。ヨーロッパ出身ではない非白人の移民が、白人に取って代わりつつあるというものだ。

昨年は番組の中で、移民の子供を「泥棒」「人殺し」「レイプ犯」と決め付けるような発言をした。同性愛者への嫌悪を口にして批判されたこともある。(中略)

トランプと様々な共通点が
そのFOXに愛されたドナルド・トランプ前米大統領と類似点があることから、ゼムールは「フランス版トランプ」とも呼ばれている。

「トランプとの共通点は多い。テレビで知名度を高めたことや、女性に対する態度などだ」と、調査機関カンター・パブリックの国際世論調査部門を率いるエマニュエル・リビエールは言う。

「年配の保守層や富裕層と、いら立ちと不安を抱える白人労働者層の両方に受けがいいという類似点もある。フランスではこの15年で自民族中心主義の感情はおおむね衰えたが、ゼムールはあえて過激な主張を打ち出して支持を集めている」(中略)

支持率は現職マクロンにも肉薄
(中略)「ゼムールはルペンの支持層に食い込んでいる」と、リビエールは分析する。「彼は中道右派と右派の票を獲得できるだろう。国民戦線とルペンの名に反感を抱く年配の保守派は、ゼムールのほうに好印象を持っている」

前回の大統領選では、選挙を経て公職に就いたことのないマクロンが勝利した(アメリカのトランプもそうだった)。次の大統領選でゼムールが勝てば、フランスに本格的な「アウトサイダーの時代」が訪れるのではないかと危惧する声もある。

しかしリビエールによれば、ゼムールが大統領になる道のりはまだまだ険しい。
カンター・パブリックが1976年からフィガロ紙(ゼムールは同紙の元コラムニスト)のために行っている月間調査を見ると、いま政治的に重要な役割を果たしてほしい人物は誰かという設問で、ゼムールは19%の支持しか得られず、全体で12位だった。「10月にこの程度の人気で、翌年大統領になった人物はいない」と、リビエールは言う。(中略)

16年アメリカ大統領選との類似
ゼムールは、「既成の枠組みに立ち向かうイメージのある新顔」を好むメディアの習性から恩恵を受けていると、コルキュフは指摘する。「彼は10年ほど前から極右運動の重要人物の1人だった」ため、選挙を経て公職に就いた経験はないが「立候補しても全くおかしくない」とする。

さらにコルキュフは、今のフランスでは「既成政治家への不信と不満が一触即発の状態にまで高まっている。ゼムールの超保守的なスタンスが国民にアピールする可能性はある」と分析する。

「左派は危機に瀕している。彼らは長いこと自分たちが知的な面で上回っていると考え、傲慢になっていた。そして今、ゼムールに勝利の可能性があることを信じたがらない。16年にトランプが勝つ前のアメリカの左派と全く同じだ」

世論調査での支持率の高さから、ゼムールのメディア露出はさらに増えると、コルキュフは予測する。それによって「彼が大統領選に出馬するという見通しに信憑性を与え、つい最近まであり得ないと思われていたことが現実になる」という「雪だるま効果」を生み出すとみている。

その効果の行き着く先は、22年4月24日に行われる決選投票でのゼムールの勝利だ。

(中略)フランソワ・オランド前大統領の顧問だったガスパール・ガンツァーは、右派の弱点に乗じて支持を集めるゼムールの能力を認める。「マクロンはいい政治家だが、彼の政党の人々は自信過剰になっている」と、彼は言う。

「ゼムールは問題をやさしくかみ砕いて分析する。どうしたらメディアに注目してもらえるかを知り尽くしている」と、ガンツァーは付け加えた。「確かに大惨事かもしれないが、彼の勝利はあり得ないことではない」【11月3日 Newsweek】
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また、○○のトランプが席巻するのでしょうか・・・・アメリカでは本家トランプが復活を狙っており、バイデン・民主党は支持率低下に苦しんでいます。
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