(ポーランド国境沿いのベラルーシ・グロドノ地方でたき火をする移民(2021年11月10日撮影)【11月11日 AFP】)
【移民・難民が「ピンポン玉」のように扱われる「人間を生きた盾とする新たなタイプの戦争」】
2週間ほど前の10月29日ブログ“欧州移民・難民問題 ベラルーシ国境でピンポン球のように扱われる移民 再び壁を作る中東欧”で取り上げた、ベラルーシとポーランドの移民・難民押し付け合いは未だに続いており、寒さも厳しくなる状況で、命に係わる深刻さを増しています。
状況は簡単に言えば、不正選挙を訴える国民を力で抑えつけEUから制裁を受けるベラルーシ・ルカシェンコ大統領が、(おそらく制裁への報復措置ととして)イラクやアフガニスタンからの移民・難民を意図的に自国へ運び、彼らを「人間爆弾」としてポーランドなどへ送り付けている、一方、難民への嫌悪感が強いポーランドは難民流入を一切認めず腕ずくで阻止。 両国国境で難民らはピンポン玉のように両国の軍・警察によって翻弄されている・・・という話です。
****ポーランド国境に移民数千人殺到 EU「ベラルーシが意図的に派遣」****
旧ソ連のベラルーシ西部のポーランド国境付近にイラクなどから来たとみられる数千人規模の移民らが押し寄せ、入国を阻もうとするポーランド当局との緊張が高まっている。
欧州連合(EU)はベラルーシが経済制裁への対抗策として意図的に送り込んでいると非難し、制裁の拡大も検討している。
ベラルーシ西部のフロドナ周辺では8日朝からポーランド国境に向かう大量の移民らの姿が現地メディアなどで伝えられた。移民らの一部は国境の鉄条網を破って侵入を試み、ポーランド当局が催涙ガスを使うなどして対応。
移民らはそのままテントを張って国境近くで夜を明かした。食糧や水の不足も伝えられている。10日には二つの集団が越境し、拘束されたとも伝えられた。ベラルーシ当局も周囲で様子を見守っているが、越境の試みを止めようとしていないという。
タス通信によると、ポーランド政府は9日、移民らが国境付近だけで2000〜4000人に上り、ベラルーシ全体では約1万5000人が滞在しているとの見方を示した。軍や警察も動員して国境警備態勢を約2万人まで増やすという。
ポーランドのモラウィエツキ首相は9日の議会で移民の越境を黙認するベラルーシを「人間を生きた盾とする新たなタイプの戦争」を仕掛けていると批判し、目的を「EUに混乱を生み出すため」と指摘。「黒幕はロシアのプーチン大統領」と後ろ盾のロシアも批判した。隣国リトアニアでも10日、緊急事態が宣言された。
現地の報道によると、移民らの多くはイラクから来たクルド人とみられる。ポーランドが加盟するEUのフォンデアライエン欧州委員長は8日の声明で「ベラルーシが政治的な目的のために移民を利用することは受け入れられない」と述べ、同国に対する制裁拡大を承認するよう加盟国に求めていることを明らかにした。ロイター通信によると、ベラルーシのマケイ外相ら30の個人・団体を対象とした制裁が検討されている。
一方、ベラルーシ政府は移民らの規模を「約2000人」とし、入国を許さないポーランドの対応を「人権侵害」と非難。ルカシェンコ大統領は9日、国境付近のポーランド軍の増強を「(ベラルーシへの)脅し」と批判し、プーチン大統領との電話協議で懸念を伝えたという。
ポーランド政府もベラルーシが国境付近で部隊を増強していると指摘しており、非難の応酬が続いている。
EUはベラルーシのルカシェンコ政権による反体制派への弾圧や、5月にジャーナリストを拘束するために民間機を強制着陸させた事件などを受け、6月に経済制裁を発動した。
この頃からベラルーシを経由して隣国のリトアニアやポーランドに向かう中東やアフリカからの移民や難民の数が急増。タス通信によると、ポーランド国境では今年だけで3万人以上が越境を試み、リトアニアでは4000人以上が拘束されたという。
ベラルーシ政府は関与を否定しているが、EUは制裁への報復として、ルカシェンコ政権が欧州への移住を希望する移民らを集めていると批判している。【11月10日 毎日】
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ポーランド警備隊員らは押し寄せる集団を鎮圧しようと催涙ガスも使っている様子で、一方のベラルーシ側は送り出した難民らがベラルーシへ戻ることを許さない・・・と、まさに「ピンポン玉」状態。
“(移民・難民らの)多くがビザを取得して航空機でベラルーシ入りしており、ポーランドやEUはベラルーシ当局が組織していることを疑わない。”【11月10日 朝日】
“シリア出身の37歳の男性は、ベラルーシからの3度の越境を試みた後、最近ポーランドに入国した。ビャウィストクの難民センターで取材に答えた男性は、4人のグループで国境に到着した時のことを振り返り、警備隊に殴られたと明かした。顔面を負傷し、鼻が折れ、胸にも打撲傷を負ったという。
最初の越境は失敗に終わったが、ベラルーシの当局者は男性の治療を拒否。ポーランドへ向かうよう再三告げ、ベラルーシの首都ミンスクには戻らないよう指示した。”【11月11日 BBC】
【厳しさを増す寒さ すでに8人死亡とも】
こうした状況で、厳しい寒さの中、一部の移民・難民が低体温症にかかったり骨折したりするなど、状況は深刻さを増しています。すでに8人が死亡しているとの報道も。
****押し寄せる移民を催涙ガスで阻止 ポーランド、ベラルーシ国境に軍も****
(中略)
ポーランド側への越境を阻止された人々と、あとからやって来た人々とで、立ち往生する人の数は増える一方だ。3千~4千人にのぼるとの見方もある。
森林の中でテントを張り、たき火で暖をとる家族連れの映像がさかんに伝えられる。警察発表や報道で、川でおぼれたり、心臓発作を起こしたりしてこれまでに少なくとも8人が死亡したとされる。
すでに夜間の気温は0度を下回り、今後さらに環境が悪化すると犠牲者が増えかねない。
AFP通信によると、ベラルーシの首都ミンスクから来てポーランド当局に押し戻されたあるシリア人一家は「ベラルーシの兵士にポーランドへ行くかここで死ぬか選べ、と言われた」と話したという。
一方、ポーランドも非常事態を理由に国境地帯への立ち入りを厳しく制限。難民支援団体や医師にも人々との接触を認めず、人権団体に懸念が広がる。
ポーランド議会は10月、外国人に関する改正法を可決。不法入国した直後に拘束された外国人に対しては、国境警備隊の判断で難民申請の提出を拒めることになった。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「難民申請者は不法入国を理由に罰せられてはならないとする難民条約に違反する」と指摘する。
ポーランドの現政権は移民・難民の受け入れに対する厳しい姿勢で知られる。ベラルーシは、ポーランドの過剰反応を引き出し、難民問題で意見が割れるEU内に混乱を起こすことを狙ったとの見方も出ている。
ベラルーシを支援するロシアのラブロフ外相は9日、中東に対する北大西洋条約機構(NATO)やEU加盟国の過去の軍事介入をあげ、「前例のない難民の流れを生み出したのは西側諸国だ」と皮肉った。【11月10日 朝日】
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【プーチン大統領が黒幕」との批判にロシア反論】
EUも移民・難民に関しては、人道的対応を求める理念と、大量流入を嫌悪する社会の本音で現実的対応に苦慮し、EU内部においても、難民割り当てなどを求める西欧と、拒否感が強い中東欧の間の対立軸ともなっています。
そうしたEUが対応困難な問題で、特に難民への嫌悪感が強くEU内部でも指導部と対立することが多いポーランドに大量の難民を送り込むというのは、EUの“痛い所を突く”報復措置とも考えられます。
“フォンデアライエン欧州委員長は8日、「ベラルーシがEUに圧力をかけるため、移民を道具にしている」と非難。EUへの「ハイブリッド攻撃」だとみなし、対ベラルーシ制裁を強化する構えを示した。”【11月10日 産経】
この問題でポーランド側は、ロシアのプーチン大統領を「黒幕」として名指し批判、これにロシアが反論する形でロシアも“参戦”。
****ベラルーシ移民「黒幕」名指しロシアが反論****
ポーランド東部の国境地帯に隣国ベラルーシから、中東などの移民が押し寄せる中、問題の「黒幕だ」と名指しされたロシアが10日、反論しました。
ポーランドとベラルーシの国境では現在、ポーランド軍が1万2000人を派遣し、移民の流入を阻止しています。こうした中、9日にはポーランドのモラウィエツキ首相がベラルーシの同盟国であるロシアのプーチン大統領を移民問題の「黒幕だ」と批判しましたが、10日、ロシアのペスコフ大統領報道官はこの発言について「無責任で受け入れられない」と反発しました。
プーチン大統領はこれまでも移民問題はロシアに関係ないと表明していて、10日に行われたドイツのメルケル首相との電話会談では、EUがベラルーシと直接協議するよう提案し、突き放す姿勢を示しました。
一方で、タス通信によりますと、10日、ロシア国防省は、長距離爆撃機2機がベラルーシ上空を巡回飛行したと発表していてロシア側がEUをけん制したものとみられています。【11月11日 日テレNEWS24】
ポーランドとベラルーシの国境では現在、ポーランド軍が1万2000人を派遣し、移民の流入を阻止しています。こうした中、9日にはポーランドのモラウィエツキ首相がベラルーシの同盟国であるロシアのプーチン大統領を移民問題の「黒幕だ」と批判しましたが、10日、ロシアのペスコフ大統領報道官はこの発言について「無責任で受け入れられない」と反発しました。
プーチン大統領はこれまでも移民問題はロシアに関係ないと表明していて、10日に行われたドイツのメルケル首相との電話会談では、EUがベラルーシと直接協議するよう提案し、突き放す姿勢を示しました。
一方で、タス通信によりますと、10日、ロシア国防省は、長距離爆撃機2機がベラルーシ上空を巡回飛行したと発表していてロシア側がEUをけん制したものとみられています。【11月11日 日テレNEWS24】
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【プーチン大統領、メルケル首相も加わって、責任ある対応を】
プーチン大統領が直接関与しているとは考えにくいですが、事態を鎮静化させるためにはベラルーシに影響力を持つプーチン大統領に仲介を頼むが現実的ということで・・・
****ベラルーシの移民利用やめさせて メルケル氏、プーチン氏に要請****
ポーランド国境にベラルーシ経由で不法入国を試みる中東などからの移民が押し寄せている問題で、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は10日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話会談し、ベラルーシに「非人道的な」移民の利用をやめさせるよう要請した。
独政府のシュテフェン・ザイベルト報道官は「(メルケル氏は)ベラルーシ政権による移民の利用が非人道的で容認できないことを明確に示し、(これをやめさせるため)プーチン大統領に影響力を行使するよう求めた」とツイッターに投稿した。
ロシア大統領府(クレムリン)の声明によると、プーチン氏は、欧州連合がこの問題についてベラルーシ政府に「直接連絡を取る」べきだと提案。両首脳は「本件について議論を続ける」ことで合意した。(後略)【11月11日 AFP】*****************
プーチン大統領の返答については、前出【テレNEWS24】では“EUがベラルーシと直接協議するよう提案し、突き放す姿勢を示しました”とのことですが、ベラルーシ・ポーランドに加えて、ロシア・プーチン大統領、ドイツ・メルケル首相と“役者が揃ってきた”感も。
国境地帯での緊張の高まり、軍の派遣という事態は、“ポーランドは国境に部隊を追加配備している。同国は、ベラルーシ側が紛争を誘発しようとし、「武力」衝突にエスカレートする可能性があると警告した。”【11月10日 BBC】という状況にも。
一方のベラルーシ・ルカシェンコ大統領は「自分は狂人ではない」とも。
****ベラルーシの主張****
ルカシェンコ氏はベラルーシ国営の通信社のインタビューで、ロシアを紛争に巻き込むことにつながるような、国境での軍事的な事態悪化は避けたいと述べた。
また、自分は「狂人ではなく」、何が危機にひんしているのかは分かっているとした。ただ、「自分たちがひざまずくことはない」と、抵抗する姿勢は崩さなかった。
ベラルーシ国防省は、ポーランドが国境に数千人の部隊を派遣し、協定に違反したとして非難した。
ベラルーシは、移民は合法的にやってきているとし、同国は単に移民を「温かくもてなす国として」行動していると主張している。
ロシアは同盟国の国境問題への「責任ある」対応を称賛し、状況を注視しているとしている。【同上】
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「武力」衝突はともかく、移民・難民らが「ピンポン玉」のように扱われ、寒さのなかで命を落とすような事態は早急に改善する必要があります。プーチン大統領、メルケル首相と“役者が揃ってきた”ところで、何らかの具体策が出ることを期待したいのですが・・・。
追加
11月12日 0時15分
****欧州向けガス停止を警告 ベラルーシ、難民問題で****
ベラルーシ西部のポーランド国境で欧州連合(EU)入りを狙う難民数千人が立ち往生している問題で、ベラルーシのルカシェンコ大統領は11日、EUが同国に新たな制裁を科せば、ロシア産天然ガスを自国経由で欧州に送っているパイプラインを止める可能性があると警告した。インタファクス通信が伝えた。
ルカシェンコ氏は、ポーランドが難民流入阻止を名目に国境に約1万5千人の兵士を展開しているとし「全く不適切だ」と非難した。
この問題を巡っては国連のドゥジャリク事務総長報道官が10日、人道上の原則や国際法に基づく解決を呼び掛けた。【11月11日 22時31分 共同】
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ロシアにとって天然ガスは大切な商品、欧州は大切な顧客であり、こういうガスを露骨に政治目的に使うことは嫌がるのでは。