孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  増大する飢餓の脅威 身売り・強制結婚も 米に替わってテロの標的となる中国

2021-11-12 23:21:38 | アフガン・パキスタン
(アフガニスタン北西部バードギース州に住むアブドゥル・マリクさん(写真左)一家は8人家族。今年8月にイスラム主義勢力タリバンが同国を制圧してから生活が困窮し、9歳の娘パルワナさん(同右)を売らざるを得ない状況に陥った。娘の買い手はコルバン(同中央)という男で、金額は20万アフガニ(約30万円)。【11月6日 日刊ゲンダイ】)

【干ばつ、タリバン統治の混乱で飢餓の危機が深刻化】
イスラム主義武装勢力タリバンが支配するアフガニスタン、そのアフガニスタンでの「紛争や気候変動、新型コロナウイルス感染症によって飢餓に直面する人の数が増えている」という生活困窮・混乱が改めて注目されています。

****4500万人が飢餓の危機に 国連****
国連の世界食糧計画は8日、世界43か国で飢餓の危機に直面している人が、今年初めの4200万人から4500万人に拡大したと発表した。

WFPによると、アフガニスタンについて食料安全保障面から点検した結果、300万人が飢餓に直面していることが判明。このため全体の人数が押し上げられた。

デービッド・ビーズリー事務局長は「紛争や気候変動、新型コロナウイルス感染症によって飢餓に直面する人の数が増えている」と説明した。

WFPはアフガンで約2300万人を対象に支援を行っている。ビーズリー氏は最近、アフガンを訪問していた。

同氏はまた「燃料価格や食料価格が高騰しているのに加え、肥料の価格も上がっている。こうしたことすべてがアフガニスタンで現在起きているような新たな危機や、イエメンやシリアなどでの長期にわたる危機的状況を招いている」と述べた。(後略)【11月8日 AFP】
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気候変動によるものか、干ばつの被害が深刻になっており、タリバン以上の脅威にもなっています。

****タリバンの攻撃より危機的 干ばつ広がるアフガニスタン****
アフガニスタン辺境のバーラーモルガーブでは、あちこちの畑がからからに乾燥し、干ばつが広がっている。この地域で恐れられているのは、電撃的な攻勢で政権を掌握したイスラム主義組織タリバンよりも気候変動だ。

「最後に雨が降ったのは去年です。それも大した量ではありませんでした」。同地域にあるハジラシドカーン村の首長、ムラー・ファテフ氏は言う。
 
西部バドギス州のこの一角では、緩やかな丘陵がどこまでも広がり、点在する泥れんがの家で暮らす人々は必死に命をつないでいる。仏援助団体「ACTED」によると、州の人口60万人のうち90%は畜産か農業で生計を立てている。

「羊を売って食料を買いました。それ以外の羊は水不足で死んでしまいました」とファテフ氏は語った。前回、干ばつに見舞われた2018年には羊を300頭飼っていたが、今回の日照りで20頭にまで減ったという。
 
村に水が必要になると、ファテフ氏は、少年や大人の男性にロバで丸一日かけて水をくみに行かせる。今年は、この丘陵地帯で若い羊飼い2人が水不足から命を落とした。
 
水不足は、家族の絆にも打撃を与えている。
学校も診療所もないハジラシドカーン村では、今年に入ってから、食べ物を買う金銭を工面するために20世帯が幼い娘を売って結婚させた。
 
7人の子どもを持つビビ・イェレさんは、金銭と引き換えに15歳の娘を結婚させた。じきに7歳の娘も同じ運命をたどるだろう。干ばつが続けば、今は2歳と5歳の娘たちも、後に続くことになるとイェレさんは言う。
 
ドイツの環境シンクタンク、ジャーマンウオッチの調査では、二酸化炭素などの温室効果ガス排出によって気候変動の影響を最も受けている国のランキングでアフガニスタンは6位になっている。
 
世界銀行のデータによると、アフガニスタンでは国民1人当たりの年間CO2排出量は0.2トン。同じデータで米国の平均は15トンだ。
 
国連機関は10月25日、アフガニスタンではこの冬、2200万人以上が「深刻な食糧不足」に陥るおそれがあると発表。情勢が不安定な同国は、世界でも最悪レベルの人道的な危機に直面すると警告した。 【11月4日 AFP】
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もともと存在する絶対的貧困、それに加えての上記のような天候不順による被害、そこに更にタリバン政権の機能不全と外国政府からの援助停止が・・・

****アフガニスタンの小児病院で25人が餓死、医師は無給*****
<タリバン政権の機能不全と外国政府からの援助停止が、飢饉寸前のこの国を「破滅」に追い込もうとしている>

アフガニスタンの首都カブールの中核的な小児病院で亡くなる子どもの数は、この国で急速に進行する栄養失調の深刻さを示している。AP通信が報じた。

国連の世界食糧計画(WFP)は11月8日、ほとんど飢饉に近い食糧不足に苦しむアフガニスタン国民の数は870万人に達し、2021年初頭の数字と比較しても300万人増加していると報告した。この週末にアフガニスタンを訪れたWFPのデイビッド・ビーズリー事務局長は、「破滅的な状況だ」と述べた。
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飢饉寸前の食糧不足によって、カブールのインディラ・ガンディー小児病院に運ばれる栄養失調の子どもの数は増える一方だ。

地方の医療センターでも、世界各国からの資金援助が途絶えた結果、限定的な医療サービスしか提供できず、病院そのものが閉鎖を迫られるケースも出てきている。栄養失調に苦しむ子どもを抱える家族が、支援を受けるのも困難になる。

医師のサラフディン・サラーはAP通信の取材に対し、この2カ月間に病院に運ばれてきた子どものうち、少なくとも25人が死亡したと証言した。「病院の職員の大半は、医師や看護師から清掃スタッフに至るまで、3カ月は給料を受け取っていない」

8月にイスラム主義組織タリバンが全土の実権を掌握した後、アメリカをはじめとする西側諸国がアフガニスタンへの財政援助を打ち切ったため、同国の経済状況は急激に悪化している。アフガニスタン政府の外貨準備も、国外に預けられているためタリバンはアクセスできない。多くの職員は給与ももらえず無給で働いている。(中略)

WFPは8日、飢饉の瀬戸際にある人々の数が、世界43カ国で4500万人に達したと発表した。この数字は直近の調査時の4200万人と比べて上昇している。この増加分の大半はアフガニスタンだ。

アフガニスタンの全人口の60%にあたる2400万人が、飢餓に苦しんでいる。さらに、5歳未満の子ども約320万人が年末までに急性の栄養失調に陥るとの予測もある。

2021年に入ってアフガニスタンで発生した深刻な干ばつも、事態を悪化させた。この国では食料を買う金すらない人が増加している。

厳しい冬が近づく中、WFPはアフガニスタンの人々に食料支援を行うため、物資の供給を急いでいるが、援助活動の費用をまかなうにも資金が必要だ。【11月9日 Newsweek】
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【窮地から逃れるための身売り・強制結婚も タリバン統治が助長】
上記のような苦境から逃れるための手段が、(単なる“時間稼ぎ”に過ぎませんが)、上記記事のもある身売りや強制結婚です。

****タリバンによる強制婚、防ぐ手段は知人との結婚****
イスラム主義組織タリバンが8月にアフガニスタンの権力を掌握した1週間後、アフガン新政府の役人になったあるビジネスマンがアイシャさんの家を訪れた。彼はアイシャさんの家族に対し、アイシャさんと彼女の4人の姉妹を引き渡すよう要求した。彼女の兄弟の借金25万ドル(約2850万円)を返済する代わりに、というのがその名目だった。
 
アイシャさんとその姉妹は、この男と彼の息子たちの妻になると伝えられた。アイシャさんによると、この男は彼女の家族に対し「金がないなら、姉妹で払えばいい」と言ったという。アイシャさんの要望により、彼女の家族の姓は明らかにできない。
 
大学でジャーナリズムを学んでいたアイシャさんは現在、支援団体関係者が用意してくれた安全な場所に家族とともに身を隠している。彼女は「タリバンのメンバーとは絶対に結婚しない。捕まれば私たちの未来はなくなる」と語った。

タリバンの指導者らは、彼らがイスラムの適切な枠組みと考える範囲内で、女性の権利を尊重すると主張している。アフガンのタリバン政権が女性の自由を大幅に制限するような法改定に正式に踏み切っていないのは、国際社会の支援と諸外国政府からの承認を得たいためだ。
 
しかし、女性たちや人権団体によれば、実際には女性の権利は急速に侵害されている。タリバンの個々のメンバーに対して、タリバン中枢部の統制力が限られていることがその一因だ。個々のメンバーは、イスラム教徒の適切な行動や伝統的規範と自らみなすものに基づいた見方を押し付ける。
 
女性たちによれば、タリバンのメンバーとの強制「結婚」はしばしば、誘拐と強姦を意味する。そしてそれは、ここ何カ月か、頻繁に起きていることだ。アイシャさんの母親は、娘たちをあのビジネスマンらの妻として差し出すことは、娘たちを「奴隷」として送り出すのと変わりないと語った。

内務省のカリ・サイード・コスティ報道担当者は、女性を自らの意思に反して結婚させることは禁じられていると指摘し、イスラム法によると、脅迫の下でなされたそのような結婚はいかなるものも無効とみなされると述べた。「イスラムでは認められない。そのようなことをすれば、姦通罪に問われる」(後略)【11月4日 WSJ】
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しかし、「女子向けの中等学校の閉鎖や女性の大学での勉学に関する新たな厳しい規制により、タリバンは強制結婚のリスクを著しく高めている」(国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の女性の権利担当アソシエートディレクターのヘザー・バー氏)というのが実情です。

こうしたアフガニスタンから逃れようととしても、そこには危険な罠が。

****アフガニスタンで女性4人殺害される 渡航名目で誘い出されたか****
アフガニスタンを統治するイスラム主義組織タリバンの報道官は6日、北部マザリシャリフで女性4人が殺害されたと発表した。地元の情報筋によると、うち1人は人権活動家だった。
 
タリバン内務省の報道官によると、4人の遺体はマザリシャリフの住宅で見つかり、容疑者2人が拘束された。
 
地元の情報筋はAFPの取材に対し、被害者の一人は女性人権活動家で、大学講師のフロザン・サフィさんだと語った。
 
情報筋によると、女性らは避難便への搭乗を誘う電話を受け、迎えの車に乗り込んだとみられる。
 
匿名を条件に取材に応じた国際機関の女性職員はサフィさんについて、「市内でよく知られた存在だった」と話した。
この女性職員も3週間前、外国へ安全に渡航できるよう手引きすると装った何者かからの電話を受けた。
 
疑わしいと思った女性は発信者を着信拒否に設定したが、今も恐怖感にさいなまれているという。4人が殺害されたと聞いて強い衝撃を受けたと語った。
 
職員は「すぐさま怖くなった」と話し、「最近は精神状態が不安定で、誰かが私を拉致して撃ち殺すのでは、という恐怖に常にさらされている」と不安を口にした。
 
タリバンは米国の支援を受けたアフガニスタン政府との20年に及ぶ対立の末、今年8月に実権を掌握。旧タリバン政権では公の場での女性の行動が厳しく制限されたこともあり、多くの人権活動家は国外に避難した。

残った女性の一部は、首都カブールで女性の権利の尊重を訴えるデモを行っているほか、女子生徒が高校に出席できるよう求める抗議活動を行っている。 【11月7日 AFP】
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【踊る国際会議 目的は自国影響力拡大】
関係国はアフガニスタン情勢に関する協議を重ねていますが、上記のような苦境にある人々を救済するというよりは、いかにして自国の影響力を強めるかが主眼・・・とも思われます。まあ、それが現実政治です。

****アフガン周辺国会議、インドが主催 ロシアやイランに続く動き****
インド政府は10日、首都ニューデリーにアフガニスタン周辺国の外交・安全保障担当幹部を招き、イスラム主義勢力タリバンが権力を掌握したアフガニスタンの情勢を議論する会議を開いた。ロシアやイラン、中央アジア5カ国が出席し、中国とパキスタンは参加を見送った。
 
地域への影響力拡大を狙うロシアやイラン、パキスタンなど各国がアフガニスタンについての会議を主催するなか、インドはいずれにも招かれていない。自ら会議を開くことで、地域大国としてアフガニスタンに関与していく姿勢を国際社会に示す狙いとみられる。
 
会議では、各国が懸念する治安情勢やタリバンによる統治体制、難民や食糧危機といった人道上の問題が話し合われた模様だ。インドのドバル国家安全保障担当補佐官は「議論がアフガニスタン国民への支援や、我々の集団安全保障の強化につながるだろう」と述べた。
 
タジキスタンは、アフガニスタンとの国境で麻薬の密売やテロのリスクが増しているとの認識を示した。
 
インドメディアによると、中国は日程の調整ができなかったとして欠席した。
 
パキスタンは、対立するインドを念頭に「問題を引き起こす国は平和への貢献者たりえない」(ユスフ国家安全保障担当首相補佐官)として、参加を拒否した。インドのアフガニスタンへの影響力拡大を阻止したい考えがある。
 
一方、インドはタリバンを招待しなかった。
これまでインドは、パキスタンが支援しているとされるタリバンとの交渉を拒否してきた。だが、タリバンが復権し、米国を中心に国際社会が対話を始めており、方針を転換せざるを得なくなった。
 
ただ、ロシアやイランがアフガニスタンの首都カブールに大使館を残しているのに対し、インドは撤退。ウズベキスタンやトルクメニスタンがタリバンと相互の連結性強化について協議を重ねているなか、インドは資金支援の表明もせず、慎重な姿勢を続けている。【11月10日 朝日】
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インド主催の会議には出席しなかったパキスタンは独自に会議を。
こちらには、中国もタリバンも出席しています。

****パキスタンで米中ロ、タリバンと会談=アフガンで存在感誇示****
イスラム主義組織タリバンが暫定政権を樹立し、混乱が続くアフガニスタンをめぐり、米国、中国、ロシア、パキスタンの代表が11日、パキスタンの首都イスラマバードでタリバン幹部と会談した。人道支援問題などが取り上げられた一方、アフガン駐留米軍撤退を受け、各国が存在感を誇示する場にもなったもようだ。(後略)【11月11日 時事】 
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【アメリカに替わってテロの標的となる中国】
タリバンの人権抑圧的体質から欧米は今後もタリバンとの距離を一定に維持すると思われますが、そうした状況で影響力を増すと予測されるのが、内政不干渉の中国。

ただ、中国としては米軍撤退でアメリカが影響力を失うことを喜んでばかりはいられません。中国のタリバン支援は、ウイグル族関連組織などがアフガニスタン国内で活性化し、中国へのテロを企てるようなことがないように、タリバンが国内過激派を十分に統制することが交換条件になります。

“アフガニスタンからのテロの輸出を防いでいた米軍が撤退した以上、中国は自力で自国民の命と利権を守らなければならなくなっている”【11月12日 藤和彦氏 JBpress】というように見ることももできます。

アフガニスタンには(これまではタリバンと連携していた)ウイグル人過激派が多数存在していますが、タリバンが中国からの要請に従ってウイグル人過激派と絶縁し、追放しようとすれば、ウイグル人過激派はタリバンの敵対組織であるより過激なIS系組織と連携して、中国への攻撃を強めることにも。

結果、アメリカに替わって中国がテロの標的とされるようにもなってきています。

****アフガンで再興するイスラム国が、「中国」を次のテロ標的に定めた必然***
<タリバン政権下で加速するウイグル人の取り込みとシーア派への攻撃は過激派組織からのメッセージだ>

10月8日、アフガニスタン北部クンドゥズ州にあるイスラム教シーア派のモスクで自爆テロが発生、礼拝中の少数民族ハザラ人70人以上が死亡、140人以上が負傷した。

間もなく過激派組織「イスラム国」(IS)傘下のグループ「ISホラサン州(IS-K)」がオンラインの声明で犯行を認めた。実行犯は「ムハンマド・アル・ウイグリ」で、中国の要請に応じてウイグル人をアフガニスタンから追放する「ラーフィダ」(シーア派の蔑称)とイスラム主義勢力タリバンの政権を標的にしたという。

IS-Kが宗教的・民族的少数派を攻撃するのは珍しいことではない。(中略)

しかし、アフガニスタンのハザラ人社会を標的にすることを、中国のウイグル問題を引き合いに出して正当化しようとするのは異様で、理解に苦しむ。

今回の自爆テロの分析結果からうかがえるのは、IS-Kが従来あまり挑発的ではないとみられていた対中国戦略をより強硬路線に転換することを検討している可能性だ。

さらにタリバンがウイグル人民兵を追放する意向を表明したことを、自らをウイグル人の新たな庇護者と位置付け、不満を抱くウイグル人民兵を戦力に迎える好機と捉えているようだ。(後略)【11月2日 Newsweek】
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ISのような過激派にとっては「敵」がいないと困ります。
アメリカが撤退した現在、今まで以上に「一帯一路」で存在感を強める中国が目立つようになり、ISにとっては格好の標的となります。

その際、タリバンから縁切りされたウイグル人戦闘員を巻き込んで中国に対しテロ攻撃を・・・というシナリオです。

“中国政府はアフガニスタンの内政には関与せず、ひたすらテロの侵入阻止に注力する姿勢に終始している。だがタリバンの代表と頻繁に接触しても「新疆ウイグル自治区の安全が保たれる」との確信は持てない。タリバンの失政が続けば続くほど、IS-Kの脅威は強まる。「タリバンによる政権奪取は中国にとってリスク以外の何ものでもない」との認識が募るばかりだろう。”【11月12日 藤和彦氏 JBpress】
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