孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  相変わらずのタリバンの言行不一致 深刻化する飢餓と資金難 疑問視される統治能力

2021-11-01 22:26:53 | アフガン・パキスタン
(国内各地で住む場所を失い、首都の仮設シェルターに避難したアフガニスタンの子供たち(10月9日、アフガニスタン・カブール)【10月26日 BBC】)
 
【不明確な統治方針 相変わらずの言行不一致も】
アフガニスタンで実権を掌握しているイスラム武装勢力タリバンの統治がどのようにものになるのか、旧タリバン政権時代のようなイスラム原理主義に基づく(と、彼らが主張する)過酷なものになるのか、一定に女性・少数民族などの人権が守られるものになるのか・・・未だによくわかりません。

(国際的な国家承認を求めている)報道官など幹部からは、従来よりは融和的な発言もなされますが、実際に現場でおきていることは旧政権時代を彷彿とさせるようなことも。

実際には変わる気がないのか、末端兵士にまで支持が徹底されないのか、内部に従来と同様な過激な主張に固執する勢力が存在するのか・・・。

たまに、“変化”をうかがわせるような言動も。

****アフガンのクリケット代表が国際試合で勝利…娯楽に否定的なタリバンも祝意****
アフガニスタンの国民的スポーツ、クリケットの男子代表チームが25日、アラブ首長国連邦(UAE)での国際試合で勝利した。本格的な対外試合は、アフガンの親米民主政権が崩壊した8月以降では初めて。アフガン国民にとっては、一筋の希望の光となった。
 
代表チームは、イスラム主義勢力タリバンが首都カブールを制圧した後も、国外で練習を続けていた。25日のスコットランド戦では、国歌斉唱でむせび泣く選手もいた。観客席ではサポーターがアフガンの黒、赤、緑の国旗を懸命に振った。
 
カブールの建築士の男性(39)は、電話取材に自宅で友人とテレビ観戦したと語った。タリバンの実権掌握後は仕事がなく不安な日々を送るなか、「代表チームが幸福をもたらしてくれた」と喜んだ。
 
本紙通信員によると、娯楽に否定的なタリバンを恐れて、路上などで喜びに沸く人の姿は見られなかった。タリバンのザビフラ・ムジャヒド報道官は試合後、ツイッターに「全ての愛国者に祝意を表す」と投稿した。人心をつかもうとの思惑がありそうだ。【10月29日 読売】
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娯楽を禁じていた旧政権時代に比べると、報道官が祝意を表すというのは“変化”です。
でも、国内で練習が出来るような環境があるのでしょうか?
以前幹部から「女性がクリケットをする必要はない」といった発言もありましたが、女性のスポーツは?

一方で、やはり変わっていないのでは・・・と思わせることは多々。

****披露宴で招待客3人射殺、音楽演奏が原因か アフガニスタン***
アフガニスタン東部ナンガハル州で開かれた結婚披露宴で、招待客3人が射殺される事件が起きた。イスラム主義勢力タリバンの31日の記者会見によると、音楽の演奏が原因だったと思われる。

記者会見したタリバンの報道官によると、29日夜にナンガハル州で行われた結婚披露宴で、タリバンのメンバーを名乗る容疑者3人が招待客らを銃撃した。地元のジャーナリストはCNNの取材に対し、少なくとも2人が死亡、10人が負傷したと話している。

タリバンの報道官は、音楽演奏を理由とする殺人は許されることではないと述べ、個人的な争いを原因とする事件だったのかどうかを調べているとした。

報道官のツイッターによれば、容疑者らは銃撃前にタリバンのメンバーを名乗り、音楽を止めるよう要求していた。

ただ、容疑者が実際にタリバンのメンバーだったのかどうかについて、報道官は明らかにしていない。容疑者3人のうち2人は逮捕されたが、もう1人は逃走したという。

タリバンは結婚式など人が集まるイベントで音楽を演奏することは認めていないものの、今年8月に実権を握った後も禁止命令は出していない。

しかし8月下旬にはフォークシンガーの男性が自宅からひきずり出されてタリバンに殺害される事件が発生。同国のミュージシャンは、楽器を演奏しないよう指示されたと証言している。

1996〜2001年のタリバン政権下では、ほとんどの音楽が非イスラム的だとして禁止されていた。【11月1日 CNN】
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明確に音楽を禁止はしていないが、“音楽に関しての見解を示していないが、タリバン幹部は娯楽としての音楽を依然として良しとせず、イスラム法に反するとみている。”【10月31日 AFP】という事情が背景にあるようにも。

“音楽演奏を理由とする殺人は許されることではない”・・・・殺人は許されないが、殴って楽器を没収するぐらいは許されるのか?・・・人権・市民生活を尊重・保証する基本的な考えを明確に示し、それに違反する末端兵士がいれば厳罰に処するという実際の行動が示されない限り、タリバン支配を容認することはできません。

【「世界最悪の人道危機の一つに陥っている」(WFP)】
ただ、政変で経済が混乱し、国際支援は途絶し、干ばつやコロナ禍もあって従来以上に飢餓・食糧難が深刻化する事態に、人道援助は必要になるところが、国際社会の対応の難しいところです。

****アフガニスタン、人口の半分以上が飢餓状態に WFPが報告書で予測****
国連世界食糧計画(WFP)は25日、アフガニスタンで11月以降、人口の半分以上にあたる2280万人が飢餓状態になると予測した報告書を発表した。「世界最悪の人道危機の一つに陥っている」としている。
 
報告書によると、すでに9〜10月、前年同期に比べて30%増となる1900万人が飢餓状態に陥った。干ばつや新型コロナウイルス感染に加え、8月にイスラム主義勢力タリバンが政権を掌握したことで、国際的な支援が滞ったという。
 
11月〜来年3月はさらに食料不足が深刻化し、飢餓に苦しむ人口が前年同期から35%増え、国連が調査を始めて以来最悪の水準になる恐れがあると警告した。特に5歳未満の子どもは年末までに、320万人が栄養失調に陥る可能性があるとみている。
 
今回はまた、失業者の増加や現金不足が原因で、都市部の住人も地方と同じ割合で食料不足にあることが分かった。中流階級だった層も飢餓状態になる可能性があるという。
 
WFPは「支援がなければこの冬、何百万人もの人が移住するか餓死するかの選択を迫られることになる」として国際社会に支援を呼びかけている。【10月25日 朝日】
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これから厳しい冬が訪れます。事態の悪化が懸念されます。

【米中 人道支援で影響力増大を狙う】
アメリカを含めた国際社会も人道支援には同意していますが、現実問題として、タリバン政権の性格が明確にならない状況では、政権を利することにならない形での人道支援というのは効率が悪く、援助国側のモチベーションも上がらないところがあるでしょう。

****タリバン、「アメリカが人道支援で合意」 アフガン撤退後初の対面協議が終了****
2アフガニスタンを支配する武装勢力タリバンと、米政府代表団の、米軍撤退後初の直接協議は10日、2日間の日程を終えた。協議では過激派勢力の封じ込めやアメリカ国民の脱出、人道支援の提供などが話し合われた。

米国務省のネッド・プライス報道官は、タリバンについては行動で判断するとしつつ、協議は「率直でプロフェッショナル」なものだったと述べた。

アメリカは、対面協議を再開したからといって、タリバンをアフガニスタンの正統な政府として承認したわけではないと強調している。
タリバンは10日夜に声明を発表し、アメリカがアフガニスタンへの人道援助の提供を開始することに合意したと主張した。

同組織は、「アメリカ代表団はアフガニスタンの人々に人道支援を行い、ほかの人道支援団体が援助を行うための施設を提供すると表明した」としている。

また、「人道支援を必要としている人々に、透明な形で届けるため、慈善団体と協力し、原則に基づいた外国人の移動を促進する」と付け加えた。

一方でアメリカはこれまでのところ、こうしたタリバンの主張内容を正式に認めてはいない。

米国務省のプライス報道官は、アメリカとタリバンの双方は「アフガニスタンの人々に直接、精力的な人道支援」を提供することについて協議したと述べたものの、詳細は明らかにしなかった。

また、「米代表団は、安全保障やテロに関する懸念、アメリカ国民やそのほかの外国人、アフガン人協力者の安全な移動、そしてアフガン社会のあらゆる側面に女性や少女が有意義な形で参加することなど、人権に焦点を当て」て協議したと話した。

一方タリバンは、過激派勢力「イスラム国(IS)」系の地元組織「ISKP(イスラム国ホラサン州)」(あるいはISIS-K、IS-Kなど)の活動対応に、米政府と協力することはないと述べた。

ただ、カタール・ドーハを拠点とするタリバンのスハイル・シャヒーン報道担当はAP通信に対し、タリバン政権が「単独でダーイシュ(ISの別称)に対処できる」と述べた。

アフガニスタンでは8日、米軍撤収以降最悪の自爆攻撃が起きている。北部クンドゥズのモスク(イスラム教寺院)を狙った自爆攻撃で、少なくとも50人が死亡し100人以上が負傷した。アフガニスタンでの少数派、イスラム教シーア派の寺院を標的にしたこの攻撃について、武装派勢力「イスラム国(IS)」が犯行声明を出した。【10月11日 BBC】
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ここでも中国は、人権などを重視する欧米とは一線画した速やかな支援で存在感を強めようとしています。

****中国外相、タリバンに支援申し出る****
中国の王毅国務委員兼外相は25日、訪問先のカタールの首都ドーハで、アフガニスタンのタリバン暫定政権のバラダル第1副首相代行と会談した。

中国外務省の発表によると、王氏は「力の及ぶ限り人道支援物資を提供したい」と述べ、支援を申し出た。王氏は「米欧に(対タリバン)制裁を解除するよう促している」と強調する一方、米欧が懸念を示している女性の権利について「適切に保護することを望む」とくぎを刺した。

新疆ウイグル自治区の独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」のアフガンでの活動を取り締まることも求めた。【10月26日 産経】
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中国としても、新疆ウイグル自治区のイスラム主義を刺激しないように、タリバンのテロ対策が明確に示されない間は国家承認までには至らない状況です。

もっとも、イスラム原理主義を声高に唱えるタリバンは、中国の新疆でのイスラム教徒弾圧には“不干渉”姿勢のようです。このあたりは非常に現実的です。

【懸念される基本的な統治能力の欠如】
深刻な飢餓が懸念される状況で、国家承認がなされず国外資産は凍結されたままで、財政的に枯渇していますが、そもそもタリバンは(ゲリラ戦の能力はあっても)国内統治の能力を有しているのか?という疑問もあります。

****労働の対価は小麦のみ 露呈するタリバンの「無能さ」****
反故にされた「約束」
イスラム過激派組織タリバンがアフガニスタンを実効支配してから2カ月半が経過した。
タリバンは国際社会に対し、自らを「アフガンの正当な代表」としてアピールすべく、「女性の権利はイスラム法の範囲内で保証する」「女性も就労できる」「女子も学校に行くことができる」「誰に対しても報復しない」「全てのアフガニスタン人の安全は保証されている」「包括的政府を作る」などと数々の「約束」をしたが、それらはことごとく反故にされているのが現状だ。

首都カブールの女性公務員はほぼ全員が仕事を奪われ、「女子トイレの清掃」といった女にしかできない仕事のみが許されると市当局は発表した。ほとんどの地域では女子に許されているのは小学校への登校のみで、中学、高校への通学は禁じられたままである。

女性警官や女子スポーツ選手の他、旧政府関係者や同性愛者などが拘束されたり惨殺されたりしているという報告も相次ぎ、アムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウオッチなどの国際人権NGOはタリバンが少数派ハザラ人から家屋や畑を奪い強制移住させていると報告している。タリバンはイスラム教スンニ派であり、ハザラ人はシーア派だ。

統治能力の欠如
問題はこうした人権侵害だけにとどまらない。タリバンにはそもそも、統治能力というものが完全に欠如している現実も明らかになってきている。

タリバンはアフガンを「占領」する米軍に対する憎しみを煽り、米の傀儡政権である旧政府の腐敗・不正を強調し、暴力とテロを武器に「敵」を倒してアフガンの実効支配に至ったものの、今や4000万人のアフガン国民を守り、衣食住を確保し、インフラを整備してその生活を支え、経済を立て直して国を再建しなければならない責任を負う立場に立たされている。

しかしタリバンにその能力がほぼ完全に欠落していることは、末端のタリバン兵たちも証言している。彼らは米軍を追放し米の傀儡政府を打倒するための「ジハード」に参加すべくタリバン入りしたものの、タリバンからはほとんど給与をもらえず日々の食料にも事欠く状況に置かれている。役人や教員にも給与が支払われない状況が続き、これもアフガンで教育が滞っている一因となっている。

世界最悪の人道危機
国連の世界食糧計画(WFP)は、4,000万人いるアフガン人の95%が十分な食事を得られておらず、半数以上にあたる2280万人が深刻な食糧不足に直面しており、世界最悪の人道危機に陥っていると警告している。

苦境に立たされたタリバン政府が10月末に発表したのが、「小麦で仕事を」という「失業キャンペーン」だ。これは水路の建設や掘削作業などの肉体労働と引き換えに小麦を渡すというもので、全国の主要都市で展開され、数万人を「雇用」する予定だという。

タリバン政府当局は「失業対策のための重要な一歩」と胸を張るが、「雇用」とは言っても労働者に賃金は一切支払われない。対価は小麦のみである。

治安維持も「無能」
タリバンは治安維持においても「無能」であることを露呈させている。

8月末の米軍撤退直前には首都カブールの空港で自爆テロが発生し、180人以上が死亡した。10月には2週連続でシーア派モスクが自爆テロの標的となり、多数の死傷者が出た。いずれも実行したのはタリバンと反目する「イスラム国」だ。

アフガニスタンでは2015年から「イスラム国」の支部である「ホラサン州」がテロ活動を展開している。戦闘員数は現在4000人ほどと見積もられているが、そのうち約半数はタリバンが政権をとった際に「解放」されたか脱走したメンバーだとされる。タリバンの「おかげ」で勢力を倍増させた「イスラム国」は、8月以降アフガンで既出の自爆テロを含め既に40回近く「作戦」を実行している。

「イスラム国」は「作戦」の犯行声明で、タリバンの検問を容易に突破できたと度々強調しタリバンの「無能」を嘲笑しているだけでなく、タリバンは中国政府の反イスラム政策に協力してウイグル人迫害に手を染めている、タリバンは米軍と協力しているなどと批判し、タリバンのことを「背教者」と非難している。

タリバン政府は「イスラム国」は長続きしない、自分たちだけで十分対処可能でありアメリカと協力するつもりなどないとその脅威を過小評価しているが、治安の悪化は止まらない。10月末に公開された「イスラム国」の週刊誌『ナバア』は、1週間のうちにアフガンだけで215人の「敵」を死傷せしめたと報告している。

食糧難、経済難、そして治安悪化のいずれも、その直撃を受けるのはアフガン国民だ。アフガン国民の窮状を救うには、タリバンが罪のない人々に暴力を働く残虐非道な過激派組織であることだけでなく、その「無能さ」についても、国際社会が理解を共有する必要がある。【11月1日 飯山陽氏 FNNプライムオンライン】
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労働対価が小麦というのは、それだけタリバンが資金的に苦しい状況にある、払いたくても資金がないことを示すものでしょう。

****タリバン、労働対価に小麦支給 飢餓対策で****
アフガニスタンで実権を掌握したイスラム主義組織「タリバン」は24日、飢餓対策として労働の対価に小麦を支給する計画を発表した。
 
タリバンの報道担当者ザビフラ・ムジャヒド氏は首都カブール南部で記者会見し、計画は主要都市で展開する予定で、カブールだけでも男性4万人の雇用につながると説明した。
 
ムジャヒド氏は「失業との闘いにおける重要な一歩となる」とし、労働者は与えられた仕事に励まなければならないと述べた。
 
アフガンはタリバンの実権掌握以前から貧困や干ばつ、電力不足、経済低迷に直面していた。現在、厳しい冬を迎えようとしている。
 
計画の対象は、冬に飢餓に直面する恐れが最も大きい失業者で、金銭は支払われない。実施期間は2か月間。
 
カブールでは小麦1万1600トン、ヘラートやジャララバード、カンダハル、マザリシャリフ、プリフムリーなどで合わせて約5万5000トンが支給される。
 
カブールでの労働は、干ばつ対策の流雪溝や貯水池の敷設工事といったものになる。 【10月25日 AFP】
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小麦支給でも、何もしないよりはましでしょう。
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