孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  BLMデモ参加者3人を死傷させた10代の被告に無罪評決 抗議と祝福

2021-11-20 22:58:21 | アメリカ
(19日、米ウィスコンシン州ケノーシャで無罪の評決を言い渡された後、弁護人から声をかけられたカイル・リッテンハウス被告(右)【11月20日 朝日】)

【「何も悪いことはしていない」】
アメリカ・ウィスコンシン州で今年8月、BLM(Black Lives Matter 黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える運動)のデモ参加者3人を死傷させた白人男性被告(当時17才 自警団を名乗り半自動ライフルで武装)に対し、陪審員は11月19日、第一級殺人罪を含む5つの容疑全てで無罪評決を言い渡しました。
被告側は、発砲は正当防衛だったと主張していました。

この件は多くのメディアが取り上げていますが、被告が3人を死傷させた状況、および裁判の様子について下記記事が詳しく示していますので引用します。

****BLMデモ参加者3人を死傷させた10代の被告に、無罪評決が言い渡される****
(中略)
事件があったのは、2021年8月。ケノーシャでは、黒人のジェイコブ・ブレイク氏が警察から背中を複数回撃たれたことに対し、人種差別や警察の暴力に反対する抗議デモが起きていた。

当時17歳だったリッテンハウス被告は「建物などを守る自警団」を名乗って、AR-15型の半自動ライフルで武装し、自宅のあるイリノイ州アンティオックからケノーシャに入った。そしてデモ参加者3人に発砲して2人を殺害した。 
裁判では、犠牲者の1人ジョセフ・ローゼンバウム氏が撃たれた時の動画も流された。

ローゼンバウム氏は、武装していない状態でリッテンハウス被告を追いかけていた。しかし、事件があった夜にリッテンハウス被告と一緒にいた元海兵隊員のジェイソン・ラコウスキー氏は「自身も武装していたものの、ローゼンバウム氏を脅威と見なさなかった」と裁判で証言した。

ラコウスキー氏は、ローゼンバウム氏が「撃ってみろ」と何度か挑発したものの「彼に背を向けて無視した」と説明している。

一方、リッテンハウス被告は、「彼は私を追いかけてきました。私は1人で、彼はその前に私を殺すと脅していました」「彼を撃ちたくはありませんでしたが、彼が私を追いかけてきて、私は追いかけられたくなかったので、彼に銃を向けました」と述べ、命の危険を感じて発砲したと主張した。

リッテンハウス被告は、ケノーシャを訪れた目的の一つは医療援助であり、「救急バッグを持参していた」とも述べていたものの、倒れたローゼンバウム氏に応急処置を施さず、救急車も呼ばなかった。

動画には、リッテンハウス被告がローゼンバウム氏を撃った後に友人に電話をかけ、現場から走り去る様子も映っていた。これについて被告は「警察を探すために走っていた」と説明した。

また、リッテンハウス被告は自分を止めようとしてスケートボードで殴りかかってきたアンソニー・フーバー氏に向けて発砲し、殺害した。

さらに、救急救命士のガイジ・グロスクロイツ氏を撃って負傷させている。

グロスクロイツ氏は「自身も銃で武装していたものの、リッテンハウス被告に撃たれた時は両手を上げて降伏を示す状態だった」と証言した。

白人が多数を占めた陪審団
裁判では何度か、緊張が走る場面があった。
11月10日の審理では、採用しないとした証拠を検察が法廷で持ち出したことにブルース・シュローダー判事が怒り、強く批判した。

その後、被告の弁護団は審理を無効にするよう求めたが、受け入れられなかった。

この時の審理では、リッテンハウス被告が証言中に「何も悪いことはしていない」と述べて証言台で嗚咽している。
また裁判中にシュローダー判事の電話が複数回鳴ったが、この時の着信音がドナルド・トランプ前大統領が選挙集会で好んで使う「ゴッド・ブレス・ザ・USA」だったことも話題になった。

さらに、陪審員の選定はたった1日で行われた。このことについてニューヨークタイムズ紙は「異例の迅速さ」であり、その結果「圧倒的に白人」の陪審員になったと指摘している。

その後、陪審員の1人が、ケノーシャ警察に撃たれたブレイク氏について「なぜジェイコブ・ブレイクを7発撃ったのでしょうか」「弾丸を使い果たしたからですよ」と人種差別的な冗談を言ったことで、陪審員から外された。
今回の無罪評決には反発の声が上がっており、抗議運動が起きることも予測されている。

また、ウィスコンシン州トニー・エバーズ知事(民主党)は、暴動を懸念して評決の前に数百人の州兵をケノーシャで待機させた。

ハフポストUS版の記事を翻訳しました。【11月20日 ハフポスト日本版】
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“シュローダー判事の電話が複数回鳴ったが、この時の着信音がドナルド・トランプ前大統領が選挙集会で好んで使う「ゴッド・ブレス・ザ・USA」だった”・・・・まあ、何の意味もない偶然かもしれませんが、この判事の政治信条を想像してしまうのも正直なところです。

陪審員が「圧倒的に白人」・・・・“米メディアによると、陪審は白人女性7人、白人男性4人、ヒスパニック系男性1人で、黒人はいなかった。”【11月20日 毎日】

人種絡みの裁判にしては随分と人種的に偏ったイメージがありますが、ウィスコンシン州の人種構成は“86.2% 白人(ヒスパニックでは83.3%) 6.3% 黒人 2.3% アジア人 1.0% インディアン 1.8% 混血 5.9% 人種によらずヒスパニック系”【ウィキペディア】とのことですから、こうした一般的人種構成を反映したものでしょうか?
(アメリカの陪審員選定基準は知りません)

【控訴できないため、評決が確定 大統領は平静を呼び掛ける】
検察側は憲法に基づき無罪の場合は控訴できないため、評決が確定するそうです。

“州法で裁かれた今回の裁判とは別に、司法省が連邦裁判所に被告を起訴することもできる。だが、バイデン大統領は報道陣に「陪審団が結論を出したことを支持する。陪審員制度は機能しており、我々はそれに従う必要がある」と話し、ライト氏も、司法省が行動を起こす可能性は低いとみる。”【11月20日 朝日】

法律論的には、今回判決は意外なものではなかったようです。
“州法に詳しいウィスコンシン大マディソン校のスティーブン・ライト准教授は取材に「有罪とするには陪審団が合理的な疑いを超えて判断する必要があり、こうした事件では検察側が有罪を勝ち取るのは極めて難しい。評決には驚かなかった」と話した。”【11月20日 朝日】

バイデン大統領の陪審団が結論を出したことを支持する」との判断も、そうした事情を反映したものでしょう。
ただし、「評決に怒りと不安を覚えるだろうが」と、心情的には大きな不満があることも明らかにしています。

****デモ隊2人射殺の白人少年無罪=大統領は平静呼び掛け―米中西部****
(中略)事件は反差別運動「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」に関連し、その司法判断に全米が注目していた。

無罪の結果に暴動が広がる恐れが指摘されており、バイデン大統領は19日、声明を発表し「評決に怒りと不安を覚えるだろうが、受け入れなければならない」と述べ、暴力行為を慎むよう呼び掛けた。【11月20日 時事】
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【本来問題とすべきことは・・・】
今回裁判では正当防衛の妥当性が争われましたが、(おそらく被告に批判的立場の)前出ハフポスト記事を読むと、正当防衛との判断にはやや疑問も感じます。

更に言えば、事件当時の状況がどうこうという話以前に、自宅のあるイリノイ州からわざわざAR-15型の半自動ライフルで武装して駆けつけた者の起こした事件が「正当防衛」というのも「いかがなものか・・・」という感はします。

アメリカが(人種問題と併せて)本来問題とすべきは、事件の状況、この被告人の有罪・無罪よりは、17歳の若者が半自動ライフルで武装して「自警団」を名乗って活動する状況、端的に言えば「銃規制」の問題でしょう。
ただ、銃規制はアメリカでは全く進まないのも現実です。

【各地では抗議の声 トランプ前大統領は「祝福」】
今回判決に対し、全米各地で抗議の声はあがっています。

****白人被告無罪、全米で抗議 NY市長「おぞましい」 BLMデモ銃撃****
米中西部ウィスコンシン州で昨夏、「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大事だ、BLM)」デモの参加者3人を銃撃して死傷させたとして、殺人罪などに問われた白人のカイル・リッテンハウス被告(18)の無罪評決を受け、米国各地で抗議デモが相次いだ。
 
AP通信によると、米西部のオレゴン州ポートランド市では19日夜、約200人が中心街の通りを封鎖して抗議デモを行い、一部の参加者が同市関連施設のドアや窓を破壊。駆けつけた警察官にモノを投げつけるなど暴徒化した。
 
カリフォルニア州オークランド市やイリノイ州シカゴ市でも抗議デモがあり、評決への不満を訴える動きが全米に拡大する可能性がある。ニューヨーク市のビル・デブラシオ市長はツイッターで「おぞましい判決だ」と批判した。【11月20日 毎日】
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ただ、懸念される大きな混乱は“今のところ”起きていないようです。

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一部の都市では評決に対する抗議デモがあり、ニューヨークでは約300人が集まって「正義なくして平和なし」と声を張り上げた。教師のナタリー・ランドルさん(34)は「5件のうち、少なくとも1、2件は有罪になると思っていた。米国は少しずつしか変わらない。黙っているだけでなく立ち上がらなければ、また同じことが起きる」と話し、司法制度改革の必要性を訴えた。
 
首都ワシントンでも裁判所の前で抗議集会が開かれ、数十人が参加。黒人のキャメロン・ウィートさん(24)は「間違った評決だが、予想はしていた。同じようなことがいつも起きている」と話した。無罪評決を受け、各地で衝突や暴動が起きることも懸念されたが、20日未明まで大きな混乱は起きていない。【11月20日 朝日】
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一方、保守層は判決を歓迎し、トランプ前大統領も「祝福」しています。

****トランプ氏「祝福」、3人死傷させた白人男性が無罪 BLMデモ銃撃****
(中略)
被告については、政治的な右派が「愛国者」、左派が「白人至上主義者」といった見方をしてきた。人種や銃所持の権利、刑事司法制度、抗議デモと警察のあり方といった国を二分するような問題もからみ、裁判が進むにつれ、政治的な色彩もより強まっていた。
 
保守的な政治家からは評決を歓迎する声が相次いだ。事件時から被告を擁護してきたトランプ前大統領は「全ての罪で無実となったことを祝福する。もしこれが自己防衛でなければ、何も自己防衛にはならない!」と声明を出した。
 
また、共和党のコーソーン連邦下院議員は「カイル、インターンシップをしたいなら連絡をくれ」と記した動画をインスタグラムに公開。動画内では「武装せよ、危険であれ、モラルを持て」と語り、銃所持の権利の正当性を示唆した。(後略)【11月20日 朝日】
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