孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  秘密裏に進むスー・チー氏裁判 西部チン州攻撃でロヒンギャ虐殺の再現の恐れも

2021-11-06 23:23:12 | ミャンマー
(【10月31日 共同】 160戸が焼失したとされる西部チン州タンタラン郡区)

【経済悪化、通貨価値急落 国軍司令官、国民に燃料油や食用油の節約を訴える】
私がミャンマーを始めて旅行したのが2002年、約20年前ですが、首都ヤンゴンに着いて2日目の夜に、ローカルな店で一人夕食を。

メニュー(確か一応英語記載がありました)を見てもよくわからず、「入った以上、何か頼まないと・・・」と迷いに迷ったあげく、魚カレーみたいな説明があった料理を頼みました。
そして出てきた料理は油の海に魚の切り身が浮かんだようなもの。その油に圧倒され思わず唸ってしまいました。

ミャンマー料理は油を多く使うという話は聞いていましたが、これほどとは・・・小さなカルチャーショックでした。
その後、何回かミャンマーへは行きましたが、ミャンマー料理と聞いて思い出すのはこの油の海です。

****「私も好きだ」けど、食用油は節約して ミャンマー国軍トップが演説****
クーデターで権力を握ったミャンマー国軍のミンアウンフライン最高司令官が1日夜にテレビ演説し、国民に燃料油や食用油の節約を訴えた。普段の演説で繰り返す民主派勢力への非難は影を潜め、消費を抑えるよう強調した。

クーデター後に経済は悪化しており、立て直しのために燃料油など輸入を減らす必要に迫られているようだ。
 
ミンアウンフライン氏は1日、軍服ではなく白の民俗衣装で登場した。冒頭で新型コロナウイルス対策の成果を強調した後、「できるだけ燃料油の節約をお願いしたい」と切り出した。燃料油と食用油の輸入が年間約30億ドル(約3400億円)に達するとし、「バスや鉄道での旅行を奨励したい」と公共交通機関の利用を求めた。
 
節約を求める対象は国民の食卓にも及んだ。発酵させた茶葉のサラダ「ラペットゥ」など、油をたっぷり使うミャンマー料理を複数挙げ、「私自身も好きだ」と述べた上で、「食用油の消費をできるだけ少なくすれば輸入を減らせる」と訴えた。
 
演説で、国軍に反発する市民や民主派を「テロリスト」などと糾弾することはなかった。終始穏やかな口調で、演説終盤には米を多く食べるミャンマーの「食生活の変化を促したい」と言及。「米を少し減らす必要がある。必要に応じて肉、魚、野菜を食べると健康につながる」と呼びかけ、食事を変えれば公衆衛生も向上するとした。
 
世界銀行は7月、ミャンマーの2020年10月~21年9月の国内総生産(GDP)は前年から18%減り、100万人が失業すると見込んだ。クーデター後の混乱で通貨チャットが急落し物価が高騰。演説は、景気の悪化に苦しむ国民に理解を求める目的もあったとみられるが、国民の反応は冷ややかだ。
 
ヤンゴンで雑貨屋を営む女性(37)は「演説は市民の厳しい生活に言及しておらず、解決策も示していない」と一蹴した。SNSには「その日の食事に困っている人も多いのに、どうやって肉や魚を食べろというのか」などのコメントも相次いだ。【11月2日 朝日】
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健康のために油は控えた方がいいとは思いますが、もちろんミンアウンフライン最高司令官の狙いは国民健康ではなく、財政危機への対処でしょう。

もともとミャンマーの経済水準は東南アジア諸国の中でも底辺に近いものでしたが、クーデター後の経済混乱で、そこから更に18%減少するということですから、市民生活の苦境は想像できます。まさに「その日の食事に困っている人も多いのに、どうやって肉や魚を食べろというのか」といった状況でしょう。

【外部への情報を遮断した状態で進められるスー・チー氏の裁判】
冒頭に書いた最初のミャンマー観光が2002年4月27日から5月7日でしたが、今確認したところ、当時自宅軟禁状態にあったスー・チー氏がいったん解放されたのが5月6日だったようです。

以来、スー・チー氏は自宅軟禁を繰り返し、ついに政権の座にもつきましたが、今また国軍によって拘束されているのは周知のところ。

****スー・チーさん軍政下で初めて証言台に、国際社会は手出しできず****
謂れのない複数の容疑をかけられ、軍政の影響下にあるミャンマーの特別法廷に立たされているアウン・サン・スー・チーさんが、10月26日に初めて証言台で発言した。
 
当局はスー・チーさんの弁護団に公判の内容に関してメディアなどへの対外発信を禁止していることから、スー・チーさんの証言内容についても一切伝えられていなかったが、27日になって一部メディアが関係者から匿名で得た情報として「スー・チーさんは容疑に関して無罪を主張した」と初めてその発言内容を伝えた。

箝口令が出される中で漏れてきた証言内容
米政府系ラジオ局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」は27日、前日の26日に特別法廷で「国民を扇動して社会不安を煽った」という刑法505条違反の容疑に問われているスー・チーさんが初めて証言台に立ったことを伝え、スー・チーさんは「無罪を主張した」と伝えた。
 
それよりも早くスー・チーさんが初めて証言したことを伝えたAFP通信などは「証言内容は不明」とし、その理由として弁護団に箝口令が出されているためと説明していた。RFAの報道はそこからさらに一歩踏み込んだ内容だった。
 
スー・チーさんは、各国大使館に書簡を送り「軍事政権を支持しないように要請した」ことから扇動罪に問われているウィン・ミン大統領とともに、これまでの公判で弁護団が「無罪」を主張していたが、スー・チーさん自身が証言台で発言したのは今回が初めてだ。そしてその証言内容も、弁護団のこれまでの主張に沿ったものとなったことがRFAの報道で確認されたことになる。

違法な箝口令の背景
スー・チーさんの弁護に当たる弁護団は、キン・マウン・ゾー弁護士、ミン・ミン・ソー弁護士、キー・ウィン弁護士、サン・マルラ・ニョン弁護士らで構成されている。この弁護団を率いるキン・マウン・ゾー弁護士は、10月13日に地元行政当局から、刑法144条の「公共の安全を脅かす行為」に当たる可能性があるとしてメディアに公判の内容を「口外することを禁止する」との措置を言い渡されているほか、外国メディアとのオンラインでのインタビューも禁止されたと明らかにしていた。
 
またニョン弁護士も8月にヤンゴンの地元行政事務所に呼び出されて「国家機密法違反の容疑がかかる」として、「いかなる対外組織とも接触しない」との誓約書に署名を強要されたことを明らかにしている。
 
弁護団はこうした措置は「弁護士は公判の模様を対外発信する必要が認められており、箝口令は違法であり公平性を欠く」として裁判所に抗議するとともに、箝口令の撤廃を求めている。だが、今も事態は改善されていない。
 
軍政のゾー・ミン・トゥン国軍報道官は「(スー・チーさんの)弁護団の発言や声明は大げさに強調されたり、誤解に基づく内容のものが多く含まれたりして国の安定に寄与しない」としたうえで「我々には地裁レベルでも公判の内容を必要に応じて対外発信するチームがありそこが適切に対応することになる」と述べてスー・チーさん弁護団に対する措置を正当化している。

軍政が箝口令による情報統制に踏み切った背景には、2月1日のクーデター当日にウィン・ミン大統領が拘束される際に「体調不良を理由に退陣を表明するよう脅迫されたがこれを拒否したために拘束された」というなまなましい発言内容が12日に弁護団からメディアに明らかにされたことが影響していると見られている。
 
そうでなくてもこれまで折に触れてスー・チーさんの様子や健康状態、短いコメントなどが弁護団から明らかにされ、それがメディアやSNSから国民に伝わり、反軍政運動に「勇気や共感、弾みをつけている」ことがあり、これに苦々しい思いを軍政が抱いていたことも箝口令を敷くに至った一因とされている。

軍政が企むスー・チーさんの影響力排除
スー・チーさんには今回無罪を主張した「扇動罪」以外にも不法に通信機器を所持していた「通信法違反」、無線機を違法に海外から輸入した「輸出入法違反」、十分なコロナ感染拡大防止対策を怠ったとする「自然災害管理法違反」、支援者から現金や金塊を受け取ったという「汚職防止法違反」など複数の容疑がかけられており、仮にそれぞれの裁判で有罪が確定すれば刑期の合計は最高で禁固75年になると言われている。
 
軍政は民主政権の指導者で民主化のシンボルとしても国民の人気が根強いスー・チーさんを「裁判の被告人」として扱い、最終的に「長期の禁固刑」とすることで社会的、政治的な「影響力を奪い去ろう」と画策しているのは間違いない。

公判日程変更も却下
(中略)軍政が立法、行政、司法の3権を実質的に支配しているミャンマーの現状では裁判所、裁判官、検察官に「中立性や公平性」を求めるのは実質的に困難とされ、スー・チーさんの裁判でも今後の展開に関わらず、禁固刑の有罪判決が予想される状況となっている。

スー・チーさん側が証人申請を一切しない理由
(中略)こうした裁判の進め方についてスー・チーさんの弁護団は公判では弁護側の証人を一切申請しない方針を固めているという。

これはスー・チーさん自身の強い意向とされ、その理由として①裁判の中立、公正が期待できないこと、②証人によるスー・チーさんに有利となる証言が出てもその内容に関わらず有罪判決となるシナリオができている可能性が高いこと、③スー・チーさんに有利な証言を法廷でした証人へその後に治安当局による監視や脅迫、暴行、収監などの危険が及ぶ可能性が否定できないことなどが挙げられているという。(中略)

10月26日から28日にかけてオンラインで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳会議ではミャンマーが欠席する中、ASEAN特使によるスー・チーさんを含めた「全ての関係者との面会、話し合い」の実現を求める意見が続出し、採択された「議長声明」にもその旨が盛り込まれた。
 
しかし軍政は「裁判の公判中である被告との面会を認める国などはない。ASEAN特使のミャンマー訪問は歓迎するが、法の規定もありできないことはできない」との強い姿勢を崩しておらず、ASEANによるミャンマー問題への仲介・調停工作は膠着状態に陥っているのが現状だ。
 
そうした中で着々と進むスー・チーさんの公判に対して国際社会、地域の連合体であるASEAN、ASEAN特使そしてスー・チーさんの弁護団ですら「実質何もできない」状態が続いているのだ。【11月3日 大塚 智彦氏 JBpress】
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【ASEAN 国軍への圧力継続】
こうしたスー・チー氏との面会を拒否し、反政府勢力との妥協も拒んでいる国軍側の姿勢に、特使派遣を求めるASEANは圧力を継続することを表明しています。

****ASEAN次期議長国カンボジア、ミャンマー軍への圧力継続表明****
カンボジアのソコン外相は28日、2022年に東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国に就任した際には、ミャンマーの軍事政権に対して反対勢力との対話を促すとの方針を表明した。ロイターに述べた。

ソコン外相は、ミャンマーは「内戦の危機に瀕している」と警告した上で、ASEAN議長国就任時に新たなミャンマー特使を任命すると述べた。現在のミャンマー特使は、ASEANの現議長国であるブルネイが指名したエルワン・ユソフ氏が務めている。

ソコン外相はロイターに「われわれは皆、加盟国の内政に干渉しないという原則を尊重しているが、ミャンマーの状況は引き続き深刻な懸念の対象となっている」と強調。「地域全体、ASEANの信頼性、そしてミャンマーの人々にマイナスの影響を及ぼしている」とした。

ASEANは今週、首脳会議など一連の会合を開催したが、2月のクーデターを主導したミャンマー国軍トップのミン・アウン・フライン総司令官の参加を認めなかった。

ソコン外相は、総司令官の排除を支持するとしつつも、排除継続について話すのは「現時点では」不適切とも指摘。「状況が変わるかもしれない。ミャンマー次第だ」などと語った。【10月29日 ロイター】
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これまで同様に圧力継続ということですが、周知のようにカンボジアはASEAN内にあっては中国の代理人的立場で、民主化や人権を重視する国とは一線を画しています。そのカンボジアが議長国ということで、国軍に対する融和的な姿勢が出てくるのでは・・・・とも、個人的には危惧しています。

もっとも、“(ミャンマー国軍が)首脳会議を欠席して抗議の意を示した。これに対し、「内政不干渉」「全会一致」を原則とするASEANとしては「(加盟国10カ国のうち)マイナス1の状況にあるがこれはASEANのせいではなくミャンマーのせいだ」(ASEAN首脳会議に出席したカンボジアのフン・セン首相)とミャンマー側を批判する会議となった。”【11月5日 大塚 智彦氏 JBpress】とのことですので、カンボジアのフン・セン首相も国軍対応を快く思っていないようです。

【西部チン州への国軍の攻撃 ロヒンギャ虐殺の再現の恐れも】
「内戦の危機に瀕している」というミャンマーでは、西部チン州への国軍の攻撃が報じられています。

****ミャンマー西部、数十軒の建物が炎上 国軍が反政権派を非難****
ミャンマーの軍事政権は30日、子どもの権利保護団体「セーブ・ザ・チルドレン」の事務所がある西部チン州のタントランで民家などを破壊したとして、反政権派の戦闘員らを非難した。タントラン周辺では国軍と反政権派の衝突が拡大している。
 
現地メディアと目撃者によれば、タントランでは29日、国軍が現地の防衛部隊と衝突後、砲撃を行った。
 
住民によると、人口7500人余りのタントランの街中で火の手が上がり、セーブ・ザ・チルドレンの事務所を含む数十の民家や建物が燃えた。
 
セーブ・ザ・チルドレンは29日に声明を発表し、砲撃発生時はほとんど人けがなく、これまでの衝突を受けてスタッフはすでに避難していたと説明した。
 
また、現在もタントランにいるとみている20人の子どもの安否を懸念しているとし、今回の衝突は「ミャンマーで危機が深刻化している」兆候だとの見解を示した。 【10月31日 AFP】AFPBB News
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****ミャンマー西部チン州で軍が攻勢 衝突激化、民家100軒超が炎上****
(中略)チン州では5月にも南部のミンダッ地方で軍による軍事作戦が行われ、このときは大規模な砲撃を市街地に加えたうえ、居住地区に通じる水道を遮断して市民生活に打撃を与える手法がとられた。

また、戦闘で拘束した住民に目隠しをした上でロープでつないで並ばせ、戦闘の最前線に配置したり、進撃する兵士らの前方を歩かせて「弾除け」とする「人間の盾」という卑劣な手段も報告されている。

このため今回軍による攻勢が報告されたタントラン郡区でも今後こうした軍による作戦が拡大するに従って、国連が指摘したような大規模な人権侵害が起きる懸念も高まっている。【10月31日 大塚智彦氏 Newsweek】
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仏教国ミャンマーにあって、チン州(ロヒンギャ虐殺の起きたラカイン州の北隣)はキリスト教徒が9割を占めており、ラカイン州のイスラム教徒少数民族ロヒンギャへの「民族浄化」の再現も懸念されます。

****ミャンマー軍、キリスト教徒が多いチン州で砲撃・放火の傍若無人****
ミャンマー情勢が風雲急を告げている。インド国境に位置する西部チン州で10月29日から軍が軍事作戦を開始、武装市民組織「国民防衛隊(PDF)」や少数民族武装勢力に対して銃撃や砲撃を加え、さらに兵士による民家放火などが伝えられ、米政府がミャンマー国軍を非難する事態となっている。(中略)

教会炎上、孤児院が取り残され孤立
反軍政のメディア「ミャンマー・ナウ」や「イラワディ」、「ミッズィマ」、「キッティッ・メディア」などが相次いで伝えたところによると、10月29日午前10時ごろ、無人状態となっていた西部チン州タンタラン郡区で商店に侵入して略奪をしようとした兵士に対して、地元少数民族武装勢力である「チンランド防衛隊(CDF)」が発砲して殺害、これに軍側が大規模な報復を始めた。
 
その中で軍は銃撃に加えて砲撃を開始、同時に民家への放火を始めたという。同日午後8時頃にはタンタラン郡区の複数の場所から火炎が上がっていることが確認され、その数は100戸以上、一部報道では160戸以上とされている。
 
大半の民家では住民がすでに郊外に避難していたものの、チン人権機関(CHRO)は町の中にある孤児院には子供約20人と教師が取り残された状態で安否が気遣われていると指摘している。
 
メディアによるとタンタラン郡区にあるキリスト教プロテスタントの「長老教会」の複数の教会も砲撃を受けて炎上、焼け落ちたという。全人口の9割が仏教徒というミャンマーにおいて、チン州は逆に人口の9割がキリスト教徒という地域。そうした背景もあり、長年、軍から迫害を受けている。

NGO事務所放火、インドへの避難も
(中略)軍がチン州に増派されているとの情報が流れた10月22日以降、タンタラン郡区の住民約1万人の大半は郊外への避難を始めていたため、29日の軍による攻勢で住民の犠牲者はまだ報告されていない。
 
ただし、避難した住民の中には、国境を越えて隣国インドのミゾラム州に逃れるケースも増えているという。
 
タンタラン地区の放火や破壊行為についてゾー・ミン・トゥン国軍報道官は地元メディアに対して、「放火したのは軍ではなく武装市民(PDF)であり、我々は放火や破壊を止めようとしたがPDFが攻撃してきて妨害したためにできなかった」として一連の報道を否定、武装市民らを批判している。(後略)【11月5日 大塚 智彦氏 JBpress】
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放火や破壊行為は反政府武装勢力によるものだ・・・という国軍主張は、ラカイン州ロヒンギャ虐殺でも繰り返されているものです。

ミンアウンフライン最高司令官も「肉、魚、野菜を食べると健康につながる」なんてことではなく、治安も経済も悪化するばかりの今の混乱を収束させるため、クーデターの失敗を認め、すみやかに民政に復帰してもらいたいところですが・・・・。

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