孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク  介入するイランへの不満 総選挙では親イラン勢力敗退 そういう状況で起きた首相暗殺未遂

2021-11-07 22:42:09 | 中東情勢
(イラク・バグダッドで、道路に立つ治安部隊のメンバーとごみ箱に捨てられたムスタファ・カディミ首相を描いたプラカード(2021年11月6日撮影)【11月7日 AFP】 プラカードの絵では、カディミ首相は刑務所に入れられているようです。)

【総選挙で親イラン勢力敗退 イラク国内で高まる介入するイランへの不満】
先月10日に行われたイラク総選挙では、周知のように、アメリカ・イラン双方の外国勢力排除を掲げるシーア派サドル師が率いる勢力が勝利し、親イラン勢力は議席を減らしました。

****イラク国会選挙、サドル師派が勢力拡大「外国の介入は許さない」****
イラク国営通信は11日、国会選挙(10日実施)の暫定開票結果として、イスラム教シーア派指導者サドル師率いる政党連合が全329議席中73議席(前回54議席)を獲得し、第1勢力の座を維持したと伝えた。米国とイラン双方の介入排除を訴えるサドル師が影響力を拡大し、今後の連立交渉をリードするとみられる。
 
サドル師派に続き、スンニ派のハルブシ国会議長率いる政党連合が38議席、シーア派のマリキ元首相の連合が37議席を獲得した。

一方、親イランのシーア派民兵組織と関係が深い「征服連合」は失速し、第2勢力の座から転落した。

ロイター通信によると、少数民族のクルド人勢力は合計61議席を確保、政治改革を訴える民主派候補は数議席を獲得したという。
 
サドル師は11日の暫定結果発表後に演説し、「イラクは国民のためのものであり、外国の介入は許さない」と訴えた。イラクでは過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を目的に駐留する米軍の戦闘任務が年内に終了予定で、全面撤退を求める圧力が強まる可能性もある。【10月12日 毎日】
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長年この地で軍事力を行使してきたアメリカへの反発がイラク国内にあるのは当然のことですが、近年はイラク政治に大きな影響力を持つイランに対する批判も高まっています。2年前の反政府デモが広がった際にはイラン領事館も攻撃の標的となって放火されました。

****試練のイラク (上)「イランも米国も出ていけ」****
(中略)「米国はイラクに侵攻して破壊と占領という犯罪を行い、混乱と内戦をもたらした」。首都バグダッドで会ったシーア派民兵組織「カタイブ・ヒズボラ」の報道官、モハメド・モヒ(59)は米国を強く非難した。イラク戦争が起きた03年に創設された組織は反米の最強硬派に属する。

戦争によるサダム・フセイン独裁政権の崩壊は、シーア派とスンニ派の間でテロが相次ぐ宗派抗争を生んだ。14年からはISがイラクの広い地域を支配。イランから資金や兵器など手厚い援助を受けたシーア派民兵組織は、米軍とともに17年にISを壊滅させた。

IS掃討への貢献が評価され、翌18年のイラク国会総選挙では、モヒの組織を含む親イラン民兵組織の連合体「人民動員隊」(PMF)と連携する「征服連合」が48議席で第2勢力に躍進した。だが、今回は議席の大幅減が見込まれる。

イラクで19年、政治腐敗や経済低迷で大規模な反政府デモが起きた際、影響力浸透を図るイランへの批判も噴出。PMFはデモ隊を狙撃して鎮圧したとされ、支持が急落した。

一方、今回の総選挙ではイランや米国など外国勢力の干渉を拒否するシーア派有力指導者、ムクタダ・サドルの政治組織が議席数を前回選の54から73に増やし、国会最大勢力の座を強固にする見通しだ。

背景には、「イランも米国ももうたくさんだ。どっちも出ていってほしい」(バグダッドの大学職員の41歳男性)と願う国民が増加したことがある。

それも無理はない。PMFによる駐留米軍施設への攻撃が相次いだ昨年1月、米軍はイランの周辺国への対外工作を指揮する革命防衛隊の有力司令官ソレイマニと、その盟友のカタイブ・ヒズボラ元幹部ムハンディスをバグダッドで殺害。

イランはイラクの駐留米軍基地に弾道ミサイルを発射して報復し、イラクが米、イランの軍事衝突の現場になった。(後略)【10月17日 産経】
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【選挙結果を認めず抗議行動を続ける親イラン勢力 反イラン姿勢を示す勝利したサドル師】
親イラン勢力はトランプ前大統領と同じように「選挙は盗まれた」と主張して選挙結果を認めず、抗議行動を展開しています。

一方、今後の組閣・政権運営の中核となるサドル師は、イランと距離を置く姿勢、親イラン民兵組織の排除を目指す姿勢を示しています。

****イラクの「脱イラン」で不穏な情勢****
米国のドナルド・トランプ前大統領は、イランの指導者と同じ穴のムジナだった。こんなジョークが中東各地でささやかれている。
 
十月十日に行われたイラク国民議会(国会)選挙で、予想外の敗北を喫した親イラン派が、昨年の米大統領選を連想させるように、「大規模不正が行われた」と、投票結果無効を訴えているからだ。
 
投票後のイラクでも米国と同様、大きな政治変動が起こりそうだ。第一党の政党連合「サーイルーン」を率いる、イスラム教シーア派指導者ムクタダ・サドル師は、対イラン関係と対米関係の見直しを示唆した。イランは大慌てである。

親イラン派の「抑え込み」を示唆
投票から一週間以上経ても、首都バグダッドなどでは、「選挙は盗まれた」とのデモが、しつこく繰り返されている。
「開票に使われた機械は、事前に仕組まれていた」「手作業での開票をやりなおすべきだ」
 
バグダッド市内に集まった数千人は、トランプ支持派から借りてきたような言いがかりを次々と□にした。トランプ氏と同じく、親イラン派は「自分か負けた選挙は無効」と、駄々つ子のように言い張るばかりだ。
 
イランが失うものは、小さくない。連立交渉は長期化するだろうが、新首相や新しい国民議会議長が親イラン派に渡ることはない。クルド人であるバルハム・サリフ大統領と合わせ、政治権力のトップポストがことごとく、「非イラン」の人物によって占められる可能性が強い。
 
中東担当の大手紙編集委員は、「中東政治では大臣が一人代わると、自分の一族郎党をまるまる引き連れて、その省を乗っ取ってしまう。治安や警察、軍を担当するポストでは、特にその傾向が強い」と言う。
 
新イラクの主役となったサドル師は、「反米」と紹介されるが、これはイラク戦争時に米軍に徹底抗戦を呼びかけたことによる。前出編集委員が「今はだいぶ違うようだ」と言うように、米国やイランに対する姿勢は、イラク戦争時と変化が見られる。(中略)

今の立場は、本人が「イラク人のためのイラク」と言う通り、イラン(または他国)の介入を受けない単純明快な「イラク・ナショナリズム」である。
 
米国に対しては、すでにいくつかのメッセ~ンを送っている。まず対外政策全般について、「イラクの問題に介入しないなら、どの国も歓迎する」と述べたこと。

現在のイラク政治には、イランの関与が強く、米国の影響力は限定的だから、米国のイラク専門家の多くは「米国歓迎」のシグナルと受け取った。
 
また、内政・治安については、国営放送での演説の中で、「武器を持つのは国家に限らなければならない」と明言した。

イラクでは、イランの影響下にある民兵組織(「抵抗運動」などと自称)が、法執行機関のチェックを受けないまま、傍若無人を続けている。
イラク国民にも、米政府にも、この発言は明らかに「民兵の活動規制」の意思表明に聞こえたに違いない。
 
サドル師はまた、「国民はもういいかげんに平和に暮らす時ではないか」と述べ、「占領やテロリズム、民兵や誘拐といったことは、もう無しにしよう」と呼びかけた。
これまた、イラン配下の民兵諸組織に、活動終結を求めたものだ。
 
イランの介人なし、民兵も禁止。親イラン派の「選挙無効」運動加熱を帯びるのも、こんなメッセージが次々と飛び出すからだ。サドル派の議席は、三百二十九議席中の七十三に過ぎないが、在米の中東外交筋は、「スンニ派諸政党、クルド大詰政党が加われば、サドル派主導政権誕生がぐっと現実味を帯びてくる」と言う。

「紫の革命」は広がるか
誰よりもイランが、その危険を感じ始めたようだ。(中略)

イラクと並んでイランの影響が強いレバノンでも、イランにとって嫌な動きが広がっている。極端なエネルギー不足、長時間の停電で、シーア派のイスラム主義組織「ヒズボラ」に対して、国民の不満が高まっているのだ。
 
ヒズボラは何とか不満を和らげようと、九月から禁輸対象のイラン産原油を、シリア経由でレバノンに陸路輸送するという、奥の手を繰り出した。(中略)「イランが助けてくれた」とPRするという、子供だましにもならないような窮余の策である。
 
イランは近年、イラクやシリア、レバノンで影響力を伸ばし、フンーア派の弧」の伸長を誇った。

それがイラク総選挙を契機に、大きく流れが変わりそうな機運である。気の早い中東ウォッチャーからは、「イラク総選挙は、紫の芋命だ」という指摘もあがった。投票の時に、指につけるインクの色にちなんだ命名である。米国が中東関与を減らす中、勢力図の塗り替えが急ピッチで進んでいる。【「選択」 11月号】
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サドル師の「イラク人のためのイラク」は、反米よりは、むしろ反イランの方が強く出そうな状況です。

【ドローン攻撃による首相暗殺未遂 犯行勢力は不明ながら、疑われる親イラン勢力の関与】
イランにとっては由々しき事態・・・ということにもなりますが、そんな政治状況で起きたのが、イラク首相暗殺未遂事件。しかも、ドローンで攻撃と、いかにもイラクらしく派手です。

****イラク首相狙った「暗殺未遂」 住居にドローン攻撃****
イラクの首都バグダッドで7日未明、ムスタファ・カディミ首相の住居がドローンによる攻撃を受けた。カディミ氏にけがはなく、首相府は「暗殺は失敗に終わった」と発表した。
 
カディミ氏もツイッターで無事だとし、国民に「冷静さと自制」を保つよう呼び掛けた。
 
イラクでは先月10日の総選挙以来、政治的緊張が高まっている。
暫定の選挙結果では、親イラン民兵組織の連合体「人民動員隊」を母体とする第2党の「征服連合」が議席を48から14と大幅に減らした。支持者らは選挙に「不正」があったと主張している。
 
5日にはPMFの支持者数百人が、政府の主要機関や議会などがあり厳重な警備が敷かれているグリーンゾーン付近で、選挙結果に抗議するデモを実施。警察と衝突し、治安筋によると負傷したデモ参加者1人が搬送先の病院で死亡した。PMF筋は参加者2人が殺害されたとしている。
 
保健省によると、この衝突で125人が負傷し、その大半が治安部隊のメンバーだった。
 
6日にもグリーンゾーン近くで親イラン団体の支持者ら数百人によるデモが行われ、カディミ氏を「犯罪者」と非難し、肖像画を燃やすなどした。
 
選挙の最終結果は数週間以内に確定する見通し。 【11月7日 AFP】AFPBB News
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犯行声明は出ておらず、どの勢力が行ったものかは不明ですが、多くのメディアは上記【AFP】のように、親イラン勢力の動きを併記する形で、その関与を疑うような論調となっています。

その背景には前出【選択】にあるような政治情勢、【AFP】にあるような選挙結果をめぐる親イラン勢力と治安部隊の衝突があります。

また、親イラン勢力「征服連合」とつながるシーア派民兵組織「人民動員隊(PMF)」はイラン製ドローンを多数所有しているとされています。【11月7日 読売より】

もちろん、真相はわかりません。
選挙結果に不満をもつ政治勢力意外にも、イスラム原理主義勢力ISもテロ活動を行っています。

****イラクで銃撃、26人死傷 ISの犯行か****
イラク中部ディヤラ県で26日、銃撃事件があり住民11人が死亡、15人が負傷した。治安当局によると、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の犯行とみられる。ロイター通信などが伝えた。

イラクのISは2014年に勢力を拡大し、米軍などの攻撃により17年に壊滅状態となった。しかし、ISは今年9月に北部キルクークで警官10人以上を殺害したほか、7月には首都バグダッドで30人以上が死亡した自爆テロで犯行声明を出すなど勢力回復の兆しがみられる。

国連はイラクと隣国のシリアで約1万人のIS残存勢力が活動していると推測している。【10月27日 産経】
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ただ、IS犯行なら「戦果」を誇るような犯行声明が出されるでしょう・・・・犯行声明が出ないときは国内政治勢力の犯行が疑われます。

もし新イラン勢力犯行となれば、イランの関与も問題になります。
イランが首相暗殺といった後先考えない犯行に及ぶとは考えにくいですが・・・・。

いずれにしても、このまま親イラン勢力への疑惑が強まれば、今後の政権づくり・政権運営において、「反イラン」の流れが更に強まることが予測されます。
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