孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エチオピア  首都攻防の軍事衝突の様相 外国人は退避 現地住民は飢餓と虐殺の脅威に直面

2021-11-30 22:54:12 | アフリカ
(ティグレの兵士たち Photo: Finbarr O'Reilly / The New York Times【7月26日 クーリエ・ジャポン】

【反転攻勢のティグレ人勢力、首都に迫る アビー首相は全面対決の姿勢】
コロナ禍の中、国際的にも、日本国内でも、あまり大きな注目は集めていませんが、アフリカ東部エチオピアの内戦が危険な状況に近づいています。

エチオピアでは、長年権力を牛耳って権益を独占してきた少数民族のティグレ人を排除して、民族単位ではない国家を構築しようとアビー首相(ノーベル平和賞受賞者)が中央集権化を進め、それに反発したティグレ人が昨年11月に反乱。

その反乱を鎮圧する政府軍に加え、旧政権時代のティグレ人に遺恨がある隣国エリトリア軍も介入して、一時は政府軍が反乱を抑え込んだように見えましたが、今年6月頃から情勢は変化。ティグレ人側が反転攻勢をかけ、逆に首都アジスアベバに迫る勢いとなっています。

*****大虐殺と首都戦場化の危機にあるエチオピア*****
昨年11月初め、ティグレ州に対する政府軍による武力討伐が開始され、1カ月足らずで州都を含む大半の地域は制圧され、ティグレ人民解放戦線(TPLF)は山岳部に逃げ込んで抵抗を続けるも、アビィ首相による勝利宣言が出された。

他方、政府は同州全体に対する食料供給などを遮断し続け、また、非人道的な弾圧行為などが行われたことから米国やEUがエチオピアに対し経済制裁を課すような状況であった。
 
ところが、6月末に至り、TPLFが州都メケルを奪還、政府軍がティグレ州から撤退する事態が生じた。これは、スーダンとの国境紛争への対処やティグレ州全体を包囲するための戦略的撤退とも見られていたが、状況はここにきて更にTPLF側に劇的に有利に展開してきた。
 
反政府民族団体9派の同盟が成立し、TPLFは北から、オロモ族のオロモ解放軍(OLA)が南側から進軍し、TPLFは、首都まで250〜300㌔のところまで進出してきているという。OLAは11月初めに、首都アディスアベバが数カ月あるいは数週間以内に陥落する可能性があると述べた。
 
政府は、9派の同盟は宣伝行為に過ぎず、アビィ政権も強気の姿勢を崩していないが、11月2日には、全土に非常事態宣言を布告し、首都のティグレ人を拘束し始め、首都市民に地域ごとの自衛のための組織化を求めるなど、危機感は露わである。(後略)【11月23日 WEDGE】
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「首都陥落」の危機が迫る中で、政府軍の士気を鼓舞すべく、アビー首相は前線に立って指揮をとるとのこと。
政府軍とティグレ人勢力が首都攻防をかけて軍事的に衝突する可能性が更に高まっています。

****エチオピア紛争激化に懸念=ノーベル平和賞の首相、前線から指揮****
エチオピアで政府軍と反政府勢力の紛争が激化している。反政府勢力による首都アディスアベバ進攻が間近との情報も伝えられ、各国政府は相次いで在留自国民の国外脱出を勧告。

2019年に隣国エリトリアとの紛争終結などでノーベル平和賞を受賞したアビー首相は、戦闘指揮のため自ら前線に赴き、戦況の泥沼化とさらなる流血の事態に懸念が強まっている。(中略)

「首都陥落」の可能性が増す中、各国は相次いで自国民の退避を呼び掛け、国連は無条件かつ即時の停戦を要求。米政府も「軍事的解決はない」と双方に自制を訴えているが、反政府勢力は首都に向け進撃を続けているもよう。

政府側も、アビー首相が「国を救う最終段階にある」として自ら前線に赴き、国民にも「殉職」を求めるなど、捨て身の覚悟で反撃を試みる構えだ。【11月26日 時事】 
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【ナイル巨大ダムで対立するスーダンやエジプトが反乱側に何らかの便宜か??】
一時は鎮圧されたかに見えたティグレ人勢力が何故急に反転攻勢にでられたのか? その武器・弾薬・資金はどこからきているのか?

下記記事は“ナイル巨大ダムで対立するスーダンやエジプトが反乱側に何らかの便宜を図っている可能性”も指摘しています。

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同(11月)5日には、米国は自国民にエチオピアからの退去勧告を発出し、国連では、中国、ロシアも加わって停戦と休戦交渉を求める安保理のプレス発表が行われた。中国としても自らが支援するアビィ政権の状況が深刻であるが故に、内政問題であるので安保理は関与すべきでないといった原則論を引っ込めている。
 
アビィ政権は、米国やEUから人権侵害の停止や停戦するよう圧力を受ける一方、国連では、ロシア、中国の支持を得て、イラン、トルコ、中国などからは無人機などの兵器の供給、資金面ではサウジアラビアやアラブ首長国連邦の支援を得ている。

軍事面で有利であるはずのアビィ政府軍がなぜにこのように劣勢となってしまうのか一つの疑問である。
 
アビィ政権は先の総選挙で圧勝し、国民の支持も得たとは言え、ティグレ州は除外され、オロモ族系政党は選挙をボイコットし、事前に有力な政敵を排除するなど、完全に公正で民主的な選挙とは言い難い面もあった。

また、ナイル巨大ダムで対立するスーダンやエジプトが反乱側に何らかの便宜を図っている可能性もあろう。
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スーダンやエジプトの反乱勢力支援の件、真相はわかりませんが、そういう話なら腑に落ちる感も。

なお、ナイル巨大ダムとは、下流国エジプトの反対を押し切る形でアビー首相が国運をかける課勝で建設を進めている大エチオピアルネッサンスダムのことです。

****エチオピアが今年もナイル川のダムに貯水****
7月20日付のロイター通信によれば、エチオピア政府は、国営放送を通じ、青ナイル川に建設中の「大エチオピアルネッサンスダム(the Grand Ethiopian Renaissance Dam: GERD)」への2年目の貯水がほぼ完了し、数ヶ月後には発電を開始する予定だと発表した。

GERDは、2011年に建設が開始され、完成すれば総発電量6000メガワットというアフリカ最大規模のダムとなる。一年目の貯水は昨年の7月から9月までに行われ、ことしは2年目となる。貯水はダムの水面が海抜640メートルの位置に至る2024年まで続けられる計画となっている。

エチオピア政府は、ダムは自国の経済開発に不可欠であると主張するものの、エジプトとスーダンはダム建設により下流に水不足が発生するおそれがあるとして、建設開始当時から反対し続けてきた。

エジプトとスーダンは、国連安全保障理事会を仲介役として、エチオピアに対し、法的拘束力のある合意を締結するように呼びかけてきた。しかし、エチオピアは、ダム建設が下流の水量に影響することはないと主張し、話し合いに応じていない。

7月19日付のAlJazeeraによれば、エチオピア国内では、ダム建設を歴史的な偉業とたたえ、国債の購入をとおしてダムを財政的に支援しようとする人もいる。

一方、エジプトとスーダンは、エチオピアの動きに強い警戒感を示している。GERDをめぐる3つの国の利害対立は解決の糸口が見つかりにくい問題となっている。【7月20日 現代アフリカ地域研究センター】
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“エジプトのアブドルファタハ・シシ大統領は(7月)4月、「我々の水に手を出せば、あらゆる手段を模索することになる」と軍事行動を辞さない構えを示した。”【7月7日 読売】

エジプトが反乱勢力を支援しても“不思議ではない”状況ではあります。真相は知りません。

【各国は自国民の出国退避を進める 日本も】
首都攻防が近づくなかで、米英仏など各国及び国連は自国民・職員家族の退避出国を進めています。

****米、退避支援にらみ特殊部隊や艦船が出動態勢 エチオピア情勢****
政府軍と反政府勢力との軍事衝突が続くアフリカ東部のエチオピア情勢を受け、米軍が隣国ジブチに陸軍のレンジャー部隊を待機させ、状況がさらに悪化した場合、エチオピアの米大使館を支援する特殊作戦を準備していることが25日までにわかった。(中略)

米国防総省当局者は入念な事前対策として、中東地域にいる海軍艦艇3隻が米国民らの退避作業を助ける出動態勢にあるとも指摘。ただ、米国務省当局者は、アフガニスタンで実施したような米軍が主導する大規模な避難作戦に踏み切る計画はないとも述べた。

同省高官は、エチオピア内の空港業務が広範に運用されている現状を受け、出国を望む米国民は利用出来る民間航空便を使って即座に離れるべきだとも語った。

エチオピアでの退避作業計画などを直接知り得る立場にある米国防総省当局者はCNNの取材に、中東内には現在、「ポートランド」などの水陸両用船舶3隻が展開しており、出動命令に応じられる状態にある。大がかりな救出作戦は予期していないとしながらも、少人数であれ空港にたどり着けず、出国が阻まれる事態への懸念が強まっているともした。

国務省は今月初旬、アディスアベバの米大使館で緊急でない業務に従事する政府職員やその家族に退去命令を出していた。同国内の軍事衝突、市民生活の維持への危惧や必需品などの補給不足が生じる可能性に言及していた。また、エチオピエアへの渡航中止なども警告していた。【11月25日 CNN】
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アフガニスタンからの退避“失敗”を経験したばかりですから、余計に神経を使っているのでしょう。

日本政府も法人の出国を呼び掛けています。

****紛争激化のエチオピアに邦人40人滞在、政府が早期出国呼びかけ****
松野官房長官は29日の記者会見で、紛争が激化するエチオピアに、26日時点で約40人の邦人(大使館員を除く)が滞在していることを明らかにした。政府は早期の出国を呼びかけている。被害の情報は今のところ確認されていない。

松野博一官房長官 政府は邦人退避に備え、26日に外務、防衛両省からなる調査チームを隣国のジブチに派遣し、情報収集にあたっている。松野氏は「緊張感を持って邦人の安全確保に万全を期していく」と述べた。【11月29日 読売】
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幸い(と言っていいかわかりませんが)、自衛隊は隣国ジブチにソマリア沖・アデン湾における海賊被害に対応するため、2011年7月に開所された拠点を持っていますので、その点では動きやすいかも。

この自衛隊初の海外拠点は恒久化されていますが、「海賊の成敗は飽くまで名目上の目的であり、実際の目的は海洋進出を目論む中華人民共和国の牽制とシーレーンの防衛である」との指摘もあります。

何かと問題の多い中東・アフリカ対策としては有効な拠点となりうるものですが、こういう海外拠点を持つことに関して国内議論がなされているようにはあまり見えません。

【現地住民に迫る飢餓と虐殺の脅威】
いずれにしても、外国人は出国退避すればすみますが、現地住民は戦乱の中に取り残され、食慮供給も断たれ、飢餓の脅威にもさらされています。

特に、今回の紛争は民族対立の側面が強いので、兵士だけでなく民間人にも虐殺の脅威が及びます。

****戦闘激化のエチオピアで940万人が食糧難に…ヘイト横行、専門家「民族虐殺のリスク高い」****
世界食糧計画(WFP)は、エチオピアで政府軍とティグレ人勢力の戦闘が激化する北部ティグレ州とアムハラ州を中心に、推計940万人が深刻な食糧難に陥っていると発表した。

国連の専門家は、特定民族対象のヘイトスピーチ(憎悪表現)が横行し、「民族虐殺のリスクが高まっている」とも警告している。
 
WFPの26日付の発表によると、ティグレ人勢力が首都アディスアベバに向けて南進し、戦闘地域が広範囲に拡大したことで人道危機はさらに深刻化した。政府軍が各地の道路を封鎖した影響で支援の多くは滞り、両州で調査した乳児を持つ母親と妊婦の半数が栄養不足だったとも報告した。
 
一方、エチオピア政府は25日の声明で、「表現の自由の名を借りてテロリストを支援する者にはしかるべき措置をとる」と警告し、戦闘や戦況に関する自由な報道を禁止した。

政府軍の劣勢が伝えられる中、士気を保つ狙いがあるとみられる。国営放送は連日、アビー・アハメド首相が軍を指揮したとされる地域周辺での政府軍の攻勢のニュースを大々的に伝えている。
 
ロイター通信は、陸上男子1万メートルでアトランタ、シドニーの両五輪で金メダルを獲得し、「皇帝」の呼び名で知られたハイレ・ゲブレシラシエ氏が政府軍に志願したと伝えた。

国連は、人道危機の回避のために繰り返し停戦を呼びかけるが、戦時体制を整えるエチオピア政府とティグレ人勢力が現段階で交渉に応じる可能性は小さいとみられている。【11月29日 読売】
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エチオピアはこれまでも飢餓に苦しめられてきた国ですが、再び飢餓と虐殺の脅威が迫っています。

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