孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾をめぐるアメリカの「戦略的曖昧さ」政策 欧州は台湾支持強化 台湾では日本の出兵協力へ期待

2021-11-18 23:32:51 | 東アジア
(台湾総統府で会談した蔡英文総統(右)とグリュックスマン欧州議員=4日【11月4日 共同】)

【台湾武力統一への中国社会の声は中国政府を突き上げる】
台湾をめぐっては、米中の政治的駆け引きや台湾海峡での米中双方の牽制活動などを含め、中国・習近平政権の武力統一の可能性を懸念させる台湾への圧力と、そうした中国の圧力に抗する台湾への国際的支援の双方が高まる、一言で言えば“緊張が高まる状況”が続いています。

そうした“緊張”を象徴したのが中国で起きた、生活必需品備蓄指示に対する過剰反応、あるいは中国国民の“深読み”でした。

中国商務省が11月1日夜に、今冬から来春にかけて野菜など生活必需品の供給と価格を安定させるとの内容の通知を発表。その中で「必要に応じて一定量の必需品を備蓄するよう推奨する」と盛り込みました。
これに対し、「今冬に新型コロナウイルス感染が大規模に拡大する可能性があるほか、台湾を武力統一するため、供給制約が生じるということか」という解釈がネット上で広まり、一部のスーパーで買いだめの動きが広がりました。

その後、当局・官製メディアは“火消し”に。

****「台湾を攻撃」のデマ拡散、中国人の「過剰反応」はなぜ起きたのか―独メディア****
中国で最近「台湾を攻撃する」との情報が流れたことについて、ドイツメディアのドイチェ・ヴェレは8日、その原因を分析する記事を掲載した。

中国商務部が1日、国民に対して「突発的状況」に備えて生活必需品を備蓄するよう指示したことを受け、一部で「台湾を攻撃するのではないか」と解釈する人が多数現れ、当局が国営メディアを通じて火消しに走る事態となった。

記事によると、ネット上で「統一後、台湾省で家を買うのはどうするのか?」との書き込みが注目を集めたほか、10月末に国務院台湾事務弁公室の劉軍川(リウ・ジュンチュアン)副主任が台湾統一後の台湾の財政収入を「民生の改善に役立てることができる」と述べたことも手伝い、中国ネットユーザーの間で台湾統一の可能性についての議論が高まっていた。

今回の中国人の「過剰反応」について、シンガポール南洋理工大学ラジャラトナム国際研究院の李明江准教授は「強制や武力で台湾統一を実現しようとする人々の長期的な心理に起因する」と指摘。同氏は「台湾武力統一の声は中国社会の中でずっと目立ってきたもので、こうした主張は政府をも上回る(勢いがある)。武力統一は中国政府にとっては選択肢にすぎず、最後の手段だ」と説明した。

また、「米中の戦略的駆け引きや台湾海峡での中国軍機の頻繁な活動は、中国国民に政府が台湾を統一するための準備をしていると錯覚させ、軍事行動が起こり得ると誤解させている」と指摘。さらに、「中国人にとって台湾独立の実質化がますます顕著になっているため、中国政府の発表を深読みしてしまいがちな状況にある」とした。

台湾国防安全研究院の曽怡碩氏は「中国は武力統一をデマだと明確にした後も、社会でこの問題を議論することを許可している」とし、その背景として「対内的には『ナショナリズム動員』の効果を発揮でき、対外的には台湾や日米などへの牽制の効果がある」と読み解いた。

李氏は今回のデマは純粋に中国人の過剰解釈だとする一方、「台湾武力統一への中国社会の声は政府を突き上げる」とも指摘。「なぜ中国の指導者が台湾問題で譲歩する余地がないのか。それは中国国民の大部分はこの問題で強硬な姿勢を示しているためで、政府はこの民意に逆らうことはできない」との考えを示した。【11月11日 レコードチャイナ】
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「台湾武力統一への中国社会の声は政府を突き上げる」状況が中国国内あり、当局側にも台湾武力統一の議論による「ナショナリズム動員」を利用するような思惑があるようにも見えます。

【アメリカの「戦略的曖昧さ」政策】
一方、アメリカの台湾政策は、バイデン大統領の真意不明な「台湾防衛」発言などがあって注目されていますが、基本的には中国と台湾の関係、台湾有事の際の防衛などについて敢えて玉虫色の曖昧な表現にとどめることで、中国の立場に配慮しつつ、台湾に関する現状を維持するという「戦略的曖昧さ」政策が維持されています。

****バイデン政権が続ける台湾への「戦略的曖昧さ」****
10月22日付の英フィナンシャル・タイムズ紙の解説記事が、バイデン米大統領が台湾を中国の軍事攻撃から守ると述べたことについて、これは米国の台湾についての「戦略的曖昧さ」政策に反するものだが、同政権の高官の多くは政策転換に消極的であると報じている。
 
台湾をめぐる中国の軍事的攻勢が強まるなかで、バイデン大統領の発言が注目されている。それは、いざという時に米軍が台湾防衛のために駆けつけてくれるか否かの議論に直結している。
 
バイデンは10月21日、テレビ番組において、台湾が中国に攻撃されたときに「アメリカは台湾を防衛するか否か」と質問された際、“Yes, we have a commitment to do that”と発言した。この発言はたしかに、これまでより一歩踏み込んだものと言える。米国には台湾の「防衛義務」がある、あるいは「防衛の約束」がある、とでも訳すべき発言だ。
 
サキ大統領報道官は、その発言の直後に、これは米国の対台湾政策の変更を意味するものではないとして、米国としては台湾の自衛を引き続き支持し、台湾問題の一方的な現状変更には反対することに変わりはないと、従来通りのラインの説明を行った。(中略)
 
もともと、中国の「一つの中国原則」には極めて曖昧な中国の一方的主張があり、これに対し、米国は米国でこの曖昧な主張を米国なりに同床異夢的に解釈してきたところがある。バイデンの前述の発言もその曖昧さの産物と呼んでも良いだろう。
 
振り返ってみれば、1978年、米中が国交樹立した際の共同声明の中で、米国は「中国はただ一つ、台湾は中国の一部である、という中国の立場を『認識する(acknowledge)』」と述べた。このacknowledgeという言葉は法律上の「合意」とか「承認」を意味するものではない。【11月12日 WEDGE】
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中国側が「承認」と解釈できるような「認識」という言葉で中国側の立場に配慮しつつ、「承認」したわけではないと台湾支援は続ける・・・利害の相反するなかで一定の「妥協」を可能とする外交的曖昧さです。

お互いが都合よく解釈する「戦略的曖昧さ」は、6日に行われた米中首脳のオンライン会談でも。

****バイデン大統領が「台湾独立を支持しない」と発言? 米中発表“食い違い”の理由―独メディア****
米中首脳会談での台湾問題に関するやり取りをめぐり、米中で発表された内容に食い違いがあったことについて、ドイツメディアのドイチェ・ヴェレは16日付の記事で「米国があいまいな部分を残した」との専門家の見方を伝えている。

16日に行われたオンラインによる会談では、台湾問題が一つの大きな焦点となった。記事は、今回の首脳会談で大きな進展はなく、台湾問題についても改めて互いの立場を再確認するにとどまったと説明。しかし、会談後に中国のポータルサイトやSNSでは「バイデン大統領が台湾独立を支持しないことを再確認した」との文言が急速に拡散した。

新華社の報道では、バイデン大統領は「米国側は中国の体制変更を求めておらず、同盟関係の強化を通じた中国への対抗も求めておらず、中国と衝突するつもりはないことを改めて明確に確認したい。米政府は長期的に一貫した『一つの中国』政策を推進することに取り組み、『台湾独立』を支持しておらず、台湾海峡地域の平和と安定を望んでいる」と述べたとされている。

ところが、ホワイトハウスの公式声明によると、バイデン大統領は「米国は依然として『台湾関係法』、三つの共同コミュニケ、六つの保証のもとで『一つの中国』政策を実行することに取り組んでおり、かつ米国は現状を一方的に変更したり、台湾海峡の平和と安定を破壊したりする取り組みに強く反対する」と述べたとされる。

この食い違いはなぜ起きたのか。記事によると、オーストラリア国立大学アジア太平洋学部の宋文笛講師は「中国がバイデン大統領の発言を『再解釈』したのは、中国国内の民衆を満足させるため」と指摘。一方で、バイデン大統領の発言も中国側が独自の解釈ができるように十分な余地を残しているとの見方を示した。

同氏は、今回の米中会談の重点は「意思疎通ルートを円滑に保ち、互いに対する基本的な信頼を維持すること」だとし、その意味から「バイデン大統領は台湾問題を、新疆や香港など他の国内問題と区別しており、『一つの中国』政策に関して十分なあいまいさを残した」と分析。

例として、バイデン大統領が今回の会談で「われわれ(米国)の『一つの中国』政策」という言葉を使わずに「『一つの中国』政策」とだけ述べたことを挙げ、「『われわれの』を外したことは中国側に国内向けに操作してもらうための一つの方法と見ることができる」と読み解いた。

ただ同氏は、バイデン大統領が「三つの共同コミュニケ」や「六つの保証」よりも前に「台湾関係法」に言及していることから、「実際には米国は何も譲歩していない」と指摘。

今回の会談はあくまで双方が競争の中で破滅的な事件にエスカレートしないための確認であり、画期的な議論はそれほどなかったとし、米中の関係は依然として「競争」であり、台湾は米中協力の兆しに過剰反応する必要はなく「慎重かつ楽観的な姿勢でこの結果を見るべき」との考えを示した。【11月17日 レコードチャイナ】
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ただ、「戦略的曖昧さ」が通用するのは、お互いが現状維持を本音としている限りにおいてであり、一方が現状変更を明確にすれば、その虚構は崩壊します。

****中国、台湾侵攻能力を確保 「最小限核抑止」から離脱 米報告書****
米議会の超党派諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」は17日、中国の軍事経済情勢をめぐる年次報告書を発表した。

中国軍が台湾侵攻の初期能力を確保した可能性を示し、米通常戦力による抑止が困難と警告。また、中国が「限定的な核兵器先制使用」という新戦略を進めていく可能性にも言及した。

報告書は台湾情勢をめぐり、「中台間の紛争抑止が危うい不確実性の時期にある」と初めて指摘。2020年を人民解放軍が台湾侵攻の能力を確保する重要な節目と指導層が位置づけてきたとし、同軍は台湾に対する空中・海上の封鎖、サイバー攻撃、ミサイル攻撃に必要な能力をすでに獲得したと分析した。

特に侵攻の初期段階で2万5千人以上の部隊を上陸させる能力、民間船を軍事作戦に動員する能力があるとの見方を示し、軍事侵攻は中国指導層に依然として高リスクの選択肢としつつ「米国の通常戦力だけで台湾への攻撃を思いとどまらせることが不確かになってきた」とした。

米国に軍事介入の能力や政治的な意思がないと中国指導層が確信すれば、米国の「抑止策は破綻する」と警告。台湾も過去数十年の軍事への過小投資のつけで重大な課題に直面しているとし、封鎖に耐えられる重要物資の備蓄が不足していると分析した。

台湾関係法上の義務を果たすため軍事的抑止力の信頼性を強化する緊急措置も提言した。 

報告書は一方、中国の核戦力に関する項を新設。「1960年代に最初に核兵器を保有して以来、核戦力の拡大・近代化・多様化のため最大級の取り組みを実行している」と強調した。(中略)

また、中国指導層は台湾侵攻の際、米国の介入を阻止するなど政治的な目的達成のために核戦力を活用でき、介入を阻止できると確信した場合には米国の同盟国との通常紛争を誘発しかねないと警告した。

国防総省が今月発表した年次報告書でも、中国が約10年後の30年までに少なくとも千発の核弾頭を保有する可能性を指摘しており、中国の核戦略の行方に対する米国政府・議会の危機感は高まりそうだ。【11月18日 産経】
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【欧州で強まる台湾支援の動き】
アメリカ以外の動きとしては、米英とともにAUKUSを構成するオーストラリアが、台湾有事の際にアメリカと共同歩調をとる姿勢を示しています。

****豪州、台湾有事なら米国支援 中国を牽制****
オーストラリアが台湾有事の際、米国と共同歩調をとる姿勢を示した。豪州は米英と安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設するなど、中国を念頭にインド太平洋地域の安定に関与する姿勢を強めている。

国内には対中融和論もある中、台湾への軍事行動を座視しない姿勢を鮮明にし、中国の動きを牽制(けんせい)した形だ。

ダットン国防相は12日付の地元紙オーストラリアン(電子版)のインタビューで、米国が台湾防衛のために軍を投入した場合、同盟国である豪州がその軍事行動に参加しないことは「考えられない」と述べた。(中略)

ダットン氏の発言について、中国共産党系メディア「環球時報」の胡錫進編集長はツイッターで「豪州が台湾海峡で戦うことになれば、中国が激しい攻撃を加えるだろう。豪州は台湾と米国のために犠牲になる覚悟をした方がいい」と強く反発した。【11月18日 産経】
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また、台湾外交部(外務省)はバルト三国のリトアニアの首都ビリニュスに代表機関を開設し、運営を始めたと発表しました。名称を「駐リトアニア台湾代表処」とし、欧州に置く代表機関としては初めて名称に「台湾」を用いています。
 
欧州での新設は、2003年の東欧スロバキア以来、18年ぶり。台湾はリトアニアへの代表機関設置を契機に、バルト3国との関係を一段と強化したい考えです。【11月18日 時事より】

当然中国は強く反発していますが、リトアニアは中国との経済関係は大きくありませんので、中国の脅しにも屈する必要がないのでしょう。
リトアニアに代表されるように、欧州は台湾との関係強化の動きが強まっています。

****中国の怒りを買おうとも...EUの台湾への急接近は、経済的にも合理的な判断だ****
<中国経済に逆らえなかったはずの欧州が「台湾重視」に豹変。民主主義的価値観だけではない2400万人市場の魅力とは>

去る11月3日、欧州議会の公式代表団が史上初めて台湾に足を踏み入れた。欧州議会の「外国の干渉に関する特別委員会」の面々は台湾に3日間滞在し、総統の蔡英文(ツァイ・インウェン)や行政院長(首相)の蘇貞昌(スー・チェンチャン)、立法府(立法院)を代表する游錫堃(ヨウ・シークン)らとの協議に臨んだ。

10月末にも、やはり史上初めて台湾外交部長(外相)の呉釗燮(ウー・チャオシエ)がブリュッセルで、9カ国を代表する欧州議会議員や複数のEU本部当局者(個人名や肩書は公表されていない)と「非政治的レベル」の協議をしている。

こうした相互訪問は前例のないもので、欧州の台湾政策における大きな変化を示唆している。これまで欧州議会や加盟国の一部が主張してきた路線を、欧州委員会や(加盟国全体の外交政策などを調整する)欧州対外行動庁も支持するようになってきた。

その背景には、民主主義の友邦である台湾を支えるためなら政治的にも経済的にも投資を惜しまないという欧州側の意思がある。それは経済的な利益にもなり、台湾海峡の現状を守り平和を保つことにも役立つ。台湾にも欧州にも攻撃的な姿勢を強める中国に対し、ひるまず剛速球を投げ返す姿勢だ。

10月には欧州議会が、台湾との関係を強化し「包括的かつ強化されたパートナーシップ」の確立を求める決議を採択している。(中略)これが580対26の大差で可決された事実は重い。

EUの足並みがそろう
さらに注目すべきは、長年にわたり中国政府の怒りを買うことを懸念して台湾との関係強化に消極的だった欧州委員会や欧州対外行動庁が、この決議に賛同したことだ。(中略)

(欧州議会における親台勢力でドイツ選出の)ビュティコファーらに言わせると、台湾はこの数十年で「開かれた複数政党制の統治形態へと進化し、個人の尊厳を重んじる」民主主義の友邦となった。だから欧州の支持・支援を得るに値する。

経済的、科学的にも双方に利が
実は経済的な理由もある。台湾の人口は2400万、市場として小さくはない。それにハイテク産業の基盤があるから、協力すれば経済的にも科学的にも双方に利がある。

いい例が台湾積体電路製造(TSMC)だ。この会社は半導体の世界生産の半分以上を占めている。だからこそEU幹部のボレルもベステアも、台湾は「欧州半導体法の目標達成にとって重要なパートナー」だと言っている。この法律は半導体の設計から製造に至る全過程(バリューチェーン)で欧州勢のシェア拡大を目指している。

皮肉なもので、欧州の台湾接近を主張するビュティコファー議員に共鳴する仲間が増えたのは中国政府のおかげでもある。中国のこれまでにない攻撃的な姿勢こそが、欧州各国にビュティコファーの望むアプローチを支持させた最大の要因だ。(後略)【11月17日 Newsweek】
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【台湾 日米の台湾軍事支援に対する期待の高さ】
日本でも台湾支援の強化を求める政治家の声が強まっていますが、台湾有事で台湾防衛に自衛隊が動くということになれば、日本は欧州とは異なり、アメリカ以上の「最前線」に立つことになります。
(“「覚悟なき台湾有事支援」で日本が直面するとんでもない事態”【11月11日 北村 淳氏 JBpress】

台湾側の日本への期待も大きいようです。

****台湾「日本が出兵協力」58% 中国の武力攻撃に対して****
台湾の民間シンクタンク、台湾民意基金会が2日発表した世論調査で、中国が台湾に武力攻撃した際に「日本が出兵して台湾防衛に協力すると思うか」との問いに58.0%が「見込みあり」と回答、「見込み無し」は35.2%だった。米軍については「見込みあり」が65.0%だった。
 
日米の台湾軍事支援に対する期待の高さが浮き彫りになった。
 
台湾軍による自衛能力については48.4%が「自信あり」と答えたのに対し、「自信なし」も46.8%。中国による武力攻撃に対する備えは「十分」が43.7%だったが、47.6%が「不十分」と回答した。【11月2日 共同】
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日本が出兵協力・・・・ことの是非は別として、そういう議論が日本国内でなされているようには思えませんが・・・
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