孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  急速に進む高齢化で深刻化する介護と年金

2021-11-13 22:55:07 | 中国
(【10月31日 朝日】)

【伝統的な「家族による介護」】
日本のゴミ捨て場からよく現金が見つかることが中国の人には不思議に思えるようで(日本人の私も不思議ですが)、その背景には現金主義に加えて、日本の高齢化の進展、中国とは異なる親子関係・介護のあり方がある・・・とのユニークな推論。

****日本のゴミ捨て場からよく現金が見つかる、日本ならではの理由=中国メディア****
中国のポータルサイト・網易に10日、「どうして日本のゴミ捨て場にはたくさんの現金が落ちているのか」とする記事が掲載された。
 
記事は、現在中国では現金が携帯電話内の「数字」へと変化し、現金で決済するシーンが少なくなり、日常生活の大部分においてバーコード決済が用いられるようになったと紹介。一方で、外国では中国の現状とは異なりまだまだ「現金主義」の国があるとし、その最たる例が日本だと伝えた。
 
また、中国ではモバイル決済が普及する以前より大量の現金を手元に置いておくことは少なく、多くの人が銀行に預けて利息を得ようとすると指摘。何よりも多額の現金が家にあれば不安だとした上で、日本ではしばしばゴミ捨て場に大金の現金が捨てられているのが発見されるという、中国ではあまり考えられない事象が起きていると紹介し、その理由について考察している。
 
まず、ゴミ捨て場で見つかる大金の多くは、失くしたものではなく「その存在を知らない人が、ゴミだと思って捨てた」ものであると説明。このような現金は大方高齢者が家庭内で貯金していたもので、高齢者が亡くなった後で家の整理をした子どもが現金だと知らずに袋ごと捨ててしまうのだとした。

その背景には「日本の家庭は中国と大きく異なり、年老いた親の面倒を子どもが見るということが少なく、家を出ていった子どもがしばしば実家に親の様子を見に行くことがあまりない」という事情があるのだと解説した。
 
さらに、近年では深刻な高齢化が進んでおり、身寄りがなく一人で生活している高齢者が多いことも要因の一つであると指摘。日本の若い世代は単に親に薄情、ということではなく、仕事が忙しいために年長者の世話をみきれないという側面もあるとした。

そして、高齢者はなんとか自活していけるようにとお金を銀行に預けることなく手元に置いておくことを選ぶのだと伝えている。(後略)【11月13日 Searchina】
*******************

「なるほど・・・・そういう視点があったか」と面白い記事ですが、ゴミ捨て場で現金が見つかる理由かどうかは別として、日本と中国で介護のあり方が異なることは常に指摘されるところです。

****中国、介護の支えは「家族の絆」****
中国は、36年間の「一人っ子政策」の影響で、少子高齢化が急速に進んでいます。経済の発展に伴い、昔のような家族構成が変わり、核家族や一人暮しの高齢者が増えてきています。

そのため、伝統であった家族による介護が段々と物理的に不可能となってきました。介護施設に対してのイメージも変わりつつあり、入居することに徐々に抵抗もなくなってきました。

しかし、家族間の関係密度が日本より強く、家族間の助け合いや家族に依存するなど、いわば自助優先社会はそれほど衰えていないです。(後略)【11月7日 王 青氏 日中福祉プランニング】
**********************

【「家族による介護」の限界 急がれる介護制度の確立 日本の介護事業にもビジネスチャンス】
高齢化の急速な進行、介護問題の顕在化が、日本同様、中国の大きな社会問題となりつつあるのは、多くの者が指摘するところで、一人っ子政策の影響もあって、伝統的な「家族による介護」の限界も表面化しています。

中国政府もことの重大さを認識し、介護事業に力をいれるようになっています。
それに伴い、この分野では一歩先を行く日本の介護事業にも大きなビジネスチャンスがあると言えますが、現実には高い壁もあるようです。

****老いる中国、挑む日本式介護 保険や人材の壁、進出に苦戦も****
高齢化が急速に進む中国で65歳以上の人口が1・9億人となり、日本の総人口を超えた。介護需要はますます高まる見通しだが、課題は未整備の介護保険と人材不足。一足先に日本でノウハウを蓄積した日系企業も進出するが、苦戦している。

9月上旬の上海市は蒸し暑い。約1カ月ぶりに入浴した兪鳳娟さん(73)は「さっぱりするからお風呂は好き。力がみなぎるような気持ちになる」と笑った。(中略)
 
サービスを提供するのは、日本で介護事業を展開するアースサポート(東京都渋谷区)と、台湾企業が合弁で立ち上げた「アースワン(愛志旺)」だ。
 
中国では、自宅に浴槽がない家が多く、入浴介護は一般的ではなかった。同社のサービスは、入浴介護が発達した日本ならではの気配りやノウハウの蓄積が詰まっている。(中略)
 
夫の胡紹麟さん(74)は「介護の効果もあって、いまは2時間、ソファに座れるようになった。以前に比べてだいぶ良くなった」と喜ぶ。

 ■65歳以上1.9億人、政府も対策急ぐ
5月に発表された中国の人口調査で、総人口は14億人で頭打ちになる一方、65歳以上の人口が1・9億人に達し、高齢化が鮮明になった。
 
国連の人口推計によると、30年代半ばには3億人に達し、50年には3億6千万人まで増える見通しだ。
 
中国政府も事態を重く見ており、習近平(シーチンピン)国家主席は今月13日、日本の敬老の日に当たる重陽節に合わせて重要指示を発表。党や政府の各層に対し、「高齢者関連の仕事を重視し、社会保障制度などの改善を加速すべきだ」と呼びかけた。
 
中国には伝統的に「家族が高齢者の世話をするのが当然」という考えが根強く、社会保障の一環としての介護サービス制度は未発達だった。
 
だが、2010年代以降には「一人っ子世代」の親が高齢になり、子ども1人で両親を支えるケースが急増。今後は、現役世代の負担が重くなることが予想され、介護サービスの需要は高まっている。
 
中国社会科学院は、中国の介護関連市場が30年には13兆元(約230兆円)にまで膨れあがるとみる。
 
高齢化で先を行く日本の企業はこうした中国の事情に着目。10年ごろから、本格的に中国に進出した。
日本貿易振興機構(JETRO)のまとめによると、中国で施設の運営や支援に携わる日本の企業は、少なくとも10社にのぼる。車いすやベッドなど介護用品市場に参入する企業も多い。
 
欧米企業も進出するが、中国では日本式介護のノウハウに期待が高い。アースワンの彭雨・総経理は「介護施設を大規模に開発して利用者が移り住む欧米方式より、地域に根付いた日本のきめ細かいサービスの方が中国には合っている」と指摘する。
 
ただ、苦戦も強いられている。中国の介護事情に詳しい日本の関係者は「最近も数社が撤退した。赤字でも我慢している会社は多い」と話す。
 
日本の介護サービス最大手のニチイ学館も13年に中国に進出した。現地企業と組んで老人ホームや訪問介護などを運営したが、事業を徐々に縮小。いまは介護施設の運営支援などのコンサルティングや介護人材育成の事業に集中している。
 
坂本健執行役員(中国事業担当)は「中国で介護を必要とする人は確かに多いが、費用を自己負担できるのは富裕層に限られる。介護の価値を知ってもらい、顧客層を広げるのが難しく苦労も多い」と話す。

 ■「成熟にあと10年、日本がリードを」
中国では、全国的な介護保険が整備されていないため、自己負担が重いことが市場拡大の壁となっている。
 
中国保険業協会と社会科学院の調査によると、要介護の程度が比較的高い高齢者は、介護サービスの利用額は平均月2千~4500元(約3万5千~8万円)ほど。半数以上の人が、年金などの可処分所得の8~9割超を費やす額にあたる。
 
政府は25年までに全国で介護保険を導入する方針。16年から試験的な運用を始めたが、上海市や天津市、重慶市など49地域にとどまる。
 
財政事情が苦しい地域では、1回のサービスで数十元ほどのわずかな補助しかない場合もあり、自己負担が原則1~3割で済む日本と比べ、気軽にサービスを利用できない。
 
介護人材の確保も急務だ。中国で介護を必要とする高齢者は約4千万人。これに対し、介護の資格を持つ人材はわずか30万人で、資格保有者1人当たり133人の計算になる。人材不足が深刻な日本でも、資格保有者1人当たりに対する高齢者は約4人。中国を取り巻く環境は厳しい。
 
中国政府は、訓練施設を増やし、22年までに介護従事者を200万人以上とする計画を策定。また、日本の「特定技能」などの制度を利用して日本式介護を学び、帰国後に国内の介護基盤を支える人材に育てる構想もある。
 
日中の介護制度に詳しい日本女子大の沈潔教授は「中国の介護制度や運用実態は、都市部と農村とで大きく異なる。成熟するには、あと10年はかかるだろう」と話す。「日本には、いち早く高齢化を迎え、苦労したからこそ得られた経験がある。高齢化するアジアをリードする役割を果たすべきだ」と指摘する。

 ■(point of view 記者から)実情に合えばチャンスに
(中略)日中間で共通する課題は多く、高齢化で30年先を行く日本の事例を、中国は熱心に研究している。
 
習近平指導部は「共同富裕」を掲げ、格差是正に本格的に取り組む構えだ。ただ、現状は住む地域によって、老後の保障に格差があることは否定できない。介護政策でしくじれば、高齢者だけでなく、現役世代の不満にもつながりかねないだけに、本腰を入れざるをえない面もあるようだ。
 
日系企業が中国に本格進出して約10年。今後はいかに中国の実情に合わせた形で提案できるかが問われるのではないだろうか。それができれば、巨大な市場は、日本の介護ビジネスにとってさらに大きなチャンスとなる。【10月31日 朝日】 
******************

中国の介護保険制度については、以下のようにも。

****新たに14都市で介護保険開始/王青氏****
新たに14都市で介護保険開始

中国政府機関の「国家医療保障局」と「財政部」は9月、「長期介護保険」の試験都市として新たに14都市を指定すると公表した。2016年に15都市を指定して以来、4年ぶりとなる。

また、介護保険の適用範囲や利用対象者の認定基準、財源確保策などについても見直した。

介護保険の財源は、これまで医療保険から一部を切り分けて確保されていたが、今後は地域の状況に応じて、医療保険以外からの財源を確保するよう要請した。将来的には介護保険の独立運用を目指している。

4年前は上海、蘇州、成都、重慶、広州など経済発展している地域が指定され、今回は、貴州省、甘粛省、内モンゴル、山西省などの内陸地域に拡大された。

前回の規定と異なる点は大きく3つ。
(1)介護保険制度を段階的に独立させる (2)認定システムをより正確・公平なものにする (3)給付対象は介護サービスと一部の医療サービスに限定。これまでの一部の都市で実施されていた現金給付を禁止。

今回の方策修正では、財源確保の拡大と、在宅介護への給付が優先されることとなった。
中国では経済格差が大きいため、日本のように全国統一の制度を整備できないのが現状だ。中央政府は方針を示し、各自治体が地域の実態や財力に合わせてそれを具現化し、独自の制度を創設する。4年前に指定された15都市の介護保険も地域状況を踏まえて整備されている。(中略)

◆ ◆ ◆
中国は現在、60歳以上の高齢者が2億5400万人、要介護高齢者人口が4000万人という深刻な高齢社会を迎えている。国はこの問題を看過できない。かといって、日本のようにサービスを手厚くすることもできない。高齢者の絶対数が多い、介護人材の専門性の低さ、財政逼迫など、課題が山積している。

「一歩ずつ状況を見ながら調整し、細く長く持続させる」という政府関係者らの見解は、制約が多い中での政策実現の難しさを物語っている。【2020年11月3日 王 青氏 高齢者住宅新聞Online】
************************

【日本同様に年金の財源問題も深刻】
介護保険制度はまだまだ“これから”という段階ですが、高齢化の方はまったなしで進行しています。また、並行して少子化も進んでいます。
当然、高齢化加速に中国政府は危機感を強めています。

****中国、3人目の出産も容認 少子高齢化加速に危機感****
中国共産党は31日の政治局会議で、1組の夫婦に3人目の出産を認める方針を示した。2020年の出生数は1949年の中国建国後最大の落ち込みとなった。中国にとって巨大な人口は国際的な影響力の源泉だ。少子高齢化による経済成長鈍化などへの危機感は強く、産児制限の緩和に動く。

国営新華社が報じた。中国は1980年ごろから夫婦に1人の出産しか認めない一人っ子政策を始めた。強制的な出産抑制で出生率は下がり、16年にすべての夫婦に2人目の出産を認めたが、産児制限をさらに緩める。

20年の国勢調査によると、14億人超の人口はなお増加したが、減少への転換は間近だ。中国共産党系メディアの環球時報は人口統計学者の見方として「22年にも総人口は減少に転じる」と伝えた。従来の見通しより5年ほど前倒しになる可能性がある。

少子高齢化は急速に進んでいる。65歳以上の高齢者は20年までの10年間で6割増えた。人口に占める割合も13.5%に達し、国際基準で同14%超と定める「高齢社会」に間もなく突入する。

対照的に、働き手や子どもの数は減少に歯止めがかかっていない。生産年齢人口は13年のピークから4%落ち込んだ。1人の高齢者を支える現役世代の数は減り続ける。

社会保障をめぐる財政へのしわ寄せも拡大している。年金や医療、労災、失業、出産保険の収支を管理する社会保険基金の21年予算は、25.5%を財政支出で補う。15年から3ポイント上昇した。

20年までに携帯電話の出荷台数は4年連続、新車は3年連続で減った。若い世代が減り、習近平(シー・ジンピン)指導部が重視する内需拡大にも影を落とす。

中国人民銀行(中央銀行)は4月のワーキングペーパーで「高齢化の危機を技術進歩や教育水準の向上で補うことは難しい」と結論づけた。人口問題への早急な対応を求めていた。

働き手を確保するため、政治局会議は「法定退職年齢の引き上げを着実に進める」とも強調した。年金支給開始年齢の引き上げや若年雇用も絡み、庶民の反発も強い。年金など社会保障の充実とともに複雑な問題だ。(後略)【5月31日 日経】
*******************

高齢者対策としては、介護と並んで年金も早急な対応を必要としていますが、財源問題で苦慮するのは日本と同じです。

****中国「定年引き上げ」の大問題 年金受給増で財政圧迫、老若ともに怒りの声 ****
国民の急速な高齢化が進む中国は、公的年金の受給資格を得る定年退職年齢を60歳から引き上げようとしている。こうした方針への国民の不満が広がる中で、共産党の改革実行能力が試される。(中略)

老若ともに怒りの声
平均寿命が延びる中で、事務職の男性60歳、女性55歳という中国の定年は40年余り変わっていない。ドイツの保険会社アリアンツが70カ国・地域を対象にまとめた分析によると、定年の世界平均は男性62.7歳、女性61.3歳。
 
共産党の発表後、中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」には数十万人が怒りのコメントを投稿。最も多かったのが、年金の受け取り開始が遅れそうだとの定年に最も近い人々からの不満だった。若年層からは年長者の働き手が増えると就業機会が減るとの憤りが寄せられた。
 
それでも中国は計画を進める方針だ。(中略)
専門家らは定年引き上げが年金制度の持続可能性を確保する上で極めて重要だと指摘する。

中国の政府系シンクタンク、中国社会科学院(CASS)が昨年公表した推計によると、2019年末に4兆3000億元(約68兆円)あった年金積立金は27年の7兆元をピークに急減し、35年に底をつく。
 
定年引き上げは少子化による生産年齢人口の減少の速度を遅らせ、経済成長の維持にも寄与する。中国の60歳以上の人口は昨年末時点で2億5400万人だったが、50年には4億8700万人に達すると当局は予測する。
 
反発で棚上げの過去
中国では1960年代前半にべビーブームが起こり、この時に生まれた2億人以上が今後10年以内に60歳に達する見通しだ。「このため、当局が来年から始まる5カ年計画で定年引き上げを実施することは必然的な趨勢(すうせい)となる」と米カリフォルニア大学アーバイン校の人口統計学者、ワン・フェン教授は指摘する。
 
ワン教授は「次の5年間で大量の人口が60歳になる。いま手を打たなければ、国は巨額の財政負担を強いられることになる」と説明した。(中略)

実は12年にも年金給付開始年齢引き上げを推進する動きがあったが、国民からの強い反発を受けて棚上げになった経緯がある。中国人力資源・社会保障省は16~20年の現行の第13次5カ年計画に定年引き上げ実施の奨励を盛り込んだが、実際には実施されなかった。(後略)【2020年12月10日 ブルームバーグ SankeiBiz】
***********************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする