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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  未だ遠い目標:貧困解消 揺らぐ基盤:宗教対立・カシミール問題

2008-07-30 19:59:26 | 国際情勢

(“カシミール国境警備隊” “flickr”より By morisius cosmonaut
http://www.flickr.com/photos/22215857@N06/2139944132/)

【印僑パワーと農村】
先日、NHKスペシャル「インドの衝撃 第3回 “世界の頭脳” 印僑パワーを呼び戻せ」を観ました。

“世界130カ国に暮らす印僑の数は合わせて2,500万人、各地でその存在感を高めている。
最も多い250万人が暮らすアメリカでは、印僑の9人に1人が年収1億円以上、人口は0.5%ながら、全米の億万長者の10%を占める。数学や金融に強い特質ともに、彼らの力の源泉となっているのが、世界に張り巡らされた印僑のネットワーク。成功者が若い印僑に、国際ビジネスや起業のノウハウを伝授、成功の連鎖が起きている。
そして今、本国インドが急成長を遂げる中、アメリカの頭脳となってきた印僑たちが、相次いでインドに帰国し、新しい産業の担い手となりつつある。
優秀な起業家を生み出し続ける印僑ネットワークや、印僑のスーパー人材を狙ったヘッドハンティングの動きを追い、世界を揺るがす印僑パワーの核心に迫る。”【NHKホームページより】

正直なところ、観ていて違和感を感じました。
年収1億を越すエリート達のアグレッシブな生き方と、第1回で紹介されていたインドの農村の現実がうまく結びつきません。
お掃除用ロボットを開発して起業しようとする若者、携帯電話の新しいシステムを売り込む若者、それらを審査しアドバイスする成功者達・・・
一方、はシャンプーをこれまで使ったことがなく泥で髪を洗っていた農村の人々、TVが買えて小躍りして喜ぶ人々・・・

番組紹介にあるようなトップ・エリートは別にして、確かに90年代以降の成長によってインドにおいても中間層が育ってきているのは事実です。
仮に“中間層”を20~50万ルピー(2001年度価格年収 日本円で50万円~125万円)で定義すると、2001年度は6200万人(全人口の6.1%)にすぎませんでしたが、2009年度は1.73億人(14.5%)に拡大する見込みだそうです。
(堀本武功「インド グローバル化する巨象」より)
比率にすればまだまだの感はありますが、その絶対数は日本人口をはるかに上回り、インドの成長を支える原動力です。

しかし、インド政府の公式年鑑「インド年鑑2006年版」によれば、農村には1億9300万人の貧困者がいるとされています。貧困者の4分の3が農村に集中しています。
成長する中間層を凌駕する集団ですが、政府発表の数字ですから、実態は押して知るべきものがあります。
マハトマ・ガンジーは「インドの魂は農村に息づいている」と言ったそうですが、“インドの魂”はいまだ貧困に喘いでいるようです。

【経済成長だけでは・・・】
WTOのドーハ・ラウンドではインドのナート商工相がインド農民の生活を守るべく奮戦し、結局交渉は“決裂”したようです。
それはともかく、その“インドの魂”の生活は“お掃除ロボット”や“携帯新システム”で救われるのでしょうか?
番組に登場する起業家・投資家は盛んに「インドのために」という“国益”を強調していましたが。

経済成長が持続すれば、やがてその恩恵は低所得者層にも雫がたれるように伝わる・・・“trickle down effect”の考え方でいけば、“拡大するIT産業が成長を牽引し、やがては・・・”ということでしょうが、それ以上に貧富の経済格差が問題になりそうです。

同じNHKスペシャルで以前、バングラデシュのマイクロクレジットによる農村女性を働き手とする零細な繊維産業起業支援や、女性の小商い支援を紹介していましたが、こちらの方がまだ貧困者の暮らしには直結していそうに見えます。

農民の生活水準引き上げのためには、土地所有制度の改革、農業インフラの整備なども必要です。
中国でも小平の“先富論”から、都市農村・地域格差にも配慮して調和ある社会“和諧社会”を目指す共同富裕論に方針変更がありました。
インドでも“経済成長だけでは貧困が解消できない”という視点からのアプローチが提起されているそうです。

【揺らぐ社会の安定 爆弾テロ】
いずれにしても、経済成長がインド長年の悲願である貧困解消にとって、その推進エンジンとなることには変わりはないでしょう。
そしてその成長を可能にする基礎は、社会の安定です。
国内的にはヒンドゥー教徒とムスリムの長年の対立。
それを反映した国際的なパキスタンとのカシミール紛争。

ここにきて、インド社会の安定を危ぶませるような事件が報じられています。
7月25日午後、カルナタカ州バンガロールで、15分間に市内中心部の8カ所で爆発する連続爆弾テロと見られる爆発がありました。死者は2名、負傷者は7名。
翌26日、グジャラート州アーメダバードでも連続爆発事件が発生し46人が死亡、140人以上が負傷した。
爆発は大きく2度に分けて発生。市内の繁華街で多くの負傷者を出す爆発があった後、負傷者が運び込まれた病院で再度、爆弾が爆発したそうです。
更に、27日には、グジャラート州南部のスーラトでも、警察によって爆弾を積んだ車両が発見されました。

3日間連続の爆弾テロに対し、シン首相は27日声明を発表、国民に対し平静を保つよう訴えています。
今年5月には、ラジャスタン州ジャイプルで連続爆弾テロが発生しており、今回テロ事件の現場となった2州とあわせ、いずれもヒンドゥー至上主義を掲げるインド人民党(BJP)が州政権に就く州で連続してテロ事件が発生しています。
このため、政府はヒンドゥー至上主義を掲げるBJPを狙ったイスラム系過激派の犯行との見方を強めています。

【カシミール 越境・発砲・死者】
インドとパキスタンは7月21日、関係正常化に向けた包括対話の第5ラウンドをニューデリーで開始しました。
両国は04年2月に包括対話を開始し、今回はパキスタンで3月にギラニ内閣が発足して以降で初の包括対話となりました。 
アフガニスタン・カブールのインド大使館前で今月7日、インド人外交官ら約60人が犠牲になった自爆テロ事件について協議がなされました。
インド側代表は対話後の記者会見で「テロの背後にパキスタンがいる」と非難、対話でもパキスタン側にテロ対策強化を求めたとみられています。
当然ながら、パキスタン側代表は会見でテロへの関与を否定しました。

27日には、アーメダバードで起きた連続爆弾テロ事件で、非合法イスラム過激派組織「アーレ・ハディース」所属のアブドゥール・ハリム容疑者が逮捕されました。
この組織については、パキスタン軍統合情報部(ISI)の支援を受けている疑いも取り沙汰されています。

そんなパキスタンとのギクシャクした雰囲気を決定付けるように、カシミール地方の停戦ライン付近で28日、両国軍が16時間にわたり交戦。
パキスタン側4人、インド側1人が死亡する事態となりました。
インド軍側の情報によると、パキスタン軍兵士15人が停戦ラインを越えて侵入し、発砲したと言われています。
インド側が建設中の塹壕のことで口論になったとも言われます。
実効支配線を越境しての戦闘は2003年11月の停戦発効後初めてです。

こうした国内・国際両面での不安定化は、インド経済発展の基盤を揺るがすことにもなりかねない問題です。
中国と並び今後世界を牽引することも予測されるインドですが、社会の安定という基礎的な条件に大きな不安があり、また達成すべき貧困の解消も、カーストなどの社会問題とも絡んで容易な目標ではありません。

コメント (1)
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