孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ポーランド  大国の狭間で ワレサ氏のことなど

2008-07-19 17:15:53 | 世相

(最近の好々爺然としたワレサ氏 かつては精悍な闘士でした。 “flickr”より By Chance Gardener
http://www.flickr.com/photos/kevinkrejci/2616533438/)

【自主管理労組「連帯」とワレサ氏】
ポーランドから連想するものと言うと、個人的には、三十数年前の若かりし頃、折り畳み椅子を並べた新宿の小さな小屋で見たアンジェイ・ワイダの映画「灰とダイヤモンド」とか「地下水道」でしょうか。
当時すでに“往年の名画”的な存在でしたが、暗い画面から伝わる閉塞感、救いのなさ、やるせなさ・・・そういった雰囲気に妙に引き付けられた記憶があります。

その後、ポーランド民主化運動で自主管理労組「連帯」のワレサ氏の名前をよく見聞きしました。
ウィキペディアなどで確認すると、「連帯」が活動を開始するのは1980年代初頭ですから、すでに今から二十数年前の話になります。
高卒後、グダニスク造船所で電気技師として働き、やがて独立自主管理労働組合「連帯」のリーダーとしてポーランド民主化の先頭に立ち、83年にはノーベル平和賞を受賞、90年には民主化をはたしたポーランドの第2代大統領になった人物です。
当時のワレサ氏は、いかにも無骨な“労働者”という感じで、年齢的にはまだ30歳そこそこだったようです。
後年の姿がダブってしまって、ビール腹の“おっさん”のイメージがありますが、当時の写真などみると随分精悍です。

【グダニスク造船所 破産の危機】
そのワレサ氏に関する記事をふたつ目にしました。
ひとつは、自主管理労組「連帯」発祥の地・グダニスク造船所が破産の危機にあるという記事。

業績不振が続いたグダニスク、グディニア、シチェチンの3造船所に対し、ポーランド政府は04年のEU加盟後も巨額の補助金支給を継続。
これについてEUは、「域内の競争政策に違反する疑いがある」と指摘し、再建策を求めていましたが、16日としていた再生計画案の提出期限を9月12日までに延長するとともに、「これが最後の猶予」とポーランド当局に通告しました。
国からの巨額補助金がEU法規違反と認定され、造船所側が計10億ユーロ(1680億円)もの補助金払い戻しを命じられると破産は避けられないそうで、東欧革命の原点の地が自由競争の下で存続の危機にひんしています。
【7月18日 毎日】

グダニスク造船所はすでに民営化されているそうですが、社会主義時代からの造船所と言えば、おそらく“非効率”の極みでしょうから、“経済”という尺度で見る限りは、今のグローバル経済においての存立は絶望的ではないでしょうか。

【ワレサ氏は秘密スパイ・・・】
もうひとつワレサ氏関連、と言うより、ワレサ氏自身に関する記事。
「70年代、ワレサ元大統領は共産政権の秘密スパイだった」という告発本が出版され論議になっているとか。
ワレサ氏は「連帯」が結成される以前の70~76年に「ボレック」という暗号名で共産政権下の秘密警察に協力した。また、大統領在任中だった92年に、かつての秘密警察の記録から協力の跡を示す証拠の文書を抜き取った・・・と指摘する内容だそうです。

これに対し、ワレサ氏は“事実無根”として、筆者2人の証言をまとめたドキュメンタリー番組を制作したテレビ局についても「提訴する」としているとか。
しかし、以前「連帯」でワレサ氏の側近として活動していたカチンスキ大統領は、「私は事実を知っている。民主社会は事実を知る権利がある」とワレサ氏を非難しています。
ワレサ氏はかつてカチンスキ兄弟の強権的政治に反発して、「連帯」を離脱しています。

一方、昨年10月の総選挙でカチンスキ兄弟(大統領と首相を双子の兄弟で占めていた異色の政権でした。大統領は今も現職。その民族主義的な言動がいろんな波紋を呼び起こしていました。)の率いる「法と正義」を破り、現政権を担う「市民プラットフォーム」のトゥスク首相は「共産党政権時代すべてがソ連の影響下にあった。ワレサ氏の秘密警察への協力を証明したがる政治家がおり、危険な見方だ」と指摘。
「政治の争いに利用しようとする者がいることが心配」と冷静な対応を呼びかけているそうです。
【6月25日 毎日】

中道右派の「法と正義」も、「市民プラットフォーム」も、ともに「連帯」の流れをくむ政治団体です。
ワレサ氏のスパイ疑惑は過去にも取りざたされたことがあるそうですが、トゥスク首相が言うように“共産党政権時代すべてがソ連の影響下にあった”のが現実ですから、“生き残るためには”なにがしらかの関係があったとしても不思議ではないでしょう。

ドイツにおけるナチスとの関連、旧ソ連支配下の国々における共産党権力との関係・・・“みんな大なり小なり、何らかの関係があったじゃないか・・・”で済む問題かどうかは、その関係の内容と、その国の空気によるでしょう。
日本などはおおらかですので、戦前との関係は殆ど問題にされないようです。

【トゥスク首相 MDに難色】
ドイツやロシアといった大国に翻弄された歴史を持つポーランドですが、最近の国際政治においても大国の思惑の狭間にあります。
米国のミサイル防衛(MD)計画に絡み、地上配備型迎撃ミサイル10基の基地建設について、強硬な反ロシア路線のカチンスキ政権はこれに賛成してきましたが、トゥスク首相はロシアとの関係修復も視野にいれて、これに難色を示しています。

今月4日には、トゥスク首相は米側の見返り提案を拒否する考えを明らかにし、代替の配備先としてリトアニアが急浮上しています。
しかし、ロシアにとってバルト3国へのミサイル配備というのは、ますます容認できないのでは・・・。

【カチンスキ大統領 リスボン条約署名に注文】
トゥスク首相のMD計画への慎重姿勢は、大国主導の国際政治への自己主張とも取れますが、アイスランドの批准否決で頓挫したEUのリスボン条約についても、最近ポーランドが注文をつけています。
ポーランド下院は4月に批准案を可決し、政府は12月までに大統領署名を求めていますが、アイルランドの否決を受けてカチンスキ大統領が“署名しない意向”を表明。
その後、「アイルランドが批准するなら署名する」という条件をつける形になっています。
こちらはポーランドの自己主張と言うより、カチンスキ大統領の自己主張のようにも見えますが、ただ、おそらく大国主導で進むEU統合に対する、欧州の“小国”の国民の空気を反映したものでもあるのでしょう。



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